【115話目】 進行
我々パゼーレ魔法騎士団第1第4第5中隊+αの部隊は北東の荒野にて足を進めていた。
魔獣が大量に出現したとの通報を聞きそれらの対処へと向かっていたのだが……
「妙だな」
この部隊の指揮をとっているディーオンは違和感に気付きそう呟く。
魔獣が大量に出現しているというならもう既に何体か発見出来ている筈だ、それなのに魔獣の気配すら感じない。
そしてディーオンはこの状況である事を察する、その事を全体に伝えようとした時……
地面から多くの男が飛び出してこちらへと攻撃を加えようとしてきていたのだ。
どうやら地面に穴を掘り、そこに隠れその場に擬態するかのように布を隠して我々を待ち伏せていたのだ。
予想に反しての敵に団員達は戸惑いながらも人器を取り戦闘を開始した。
前衛の団員達が向かってくる敵を倒すのを観ながら自陣にいるディーオンは襲ってきた男達に心当たりを浮かべていた。
「ディーオン大隊長、コイツらは……」
ディーオンの傍にいたゼンもコイツらの正体に気付きディーオンに確認をとる。
「あぁ、凶震戒の奴らだ」
ディーオンはそう断言する。
そしてコイツらが俺達を誘い出してここで待ち伏せしてあえて戦闘する事についても思考を巡らせる。
確かに数が多い、だが今ここにいる凶震戒の連中は……
「どうだチャーチス」
俺はすぐ近くにいる第2中隊から一時借りたチャーチスに聞く。
「少し強いの……恐らく十戒士候補が2人いるだけでそこまで"危険"は感じない雑魚達だ」
こちらを振り返りながらチャーチスは話す。
チャーチスの言う通りハッキリ言ってそこまでの脅威ではないのである。
ならなんのための戦闘?
そんな事はわかっている。
「ゼン、ここの指揮は任せていいか?」
俺は今実力と指揮能力のあるゼンにこの部隊の指揮をするように指示を出した。
「わかった……ディーオン大隊長は?」
「恐らくコイツらの目的は俺達の足止め」
俺達を足止めしてでも奴等がしたい事それは……
「……だとすると、パゼーレがヤバい」
パゼーレへの侵攻、それがコイツらの目的だろう。だからこそ俺達をパゼーレから引き剥がした。
だとしたらコイツらの本陣が今まさにパゼーレへと攻めてきている。
「了解、ご武運を」
「行ってくる」
俺はゼンにこの部隊を任せてパゼーレの方へと向き、地面を蹴りパゼーレへと向かった。
ディーオンが立っていた地面は破壊されたように抉れており、ディーオンはたった一瞬で姿が見えなくなった。
「なんで俺に任せてくれないんだよ……」
指揮権を貰えない事に納得のいってない様子のチャーチスが不貞腐れながら文句を言った。
「まっ今回は俺って事だ、チャーチスさんはここで活躍して中隊長に戻る方が先だな」
不機嫌そうなチャーチスを少し煽るかのように発言をする。
「はいはい、わかったよ行ってくる」
チャーチスはゼンの挑発には乗らずに凶震戒達への攻撃を開始したのだった。
そしてディーオンが睨んだ通りにパゼーレは今現在、凶震戒によって襲撃を受けている真っ最中だった。
逃げ惑い、泣き叫び、そして命を落とす。
昨日まで平和に暮らしていた人達にとっては考えもしなかった状況が今まさに行われているのだ。
そしてここはウォルノン家正面玄関に続く門、そこにはウォルノン家に警備として仕える男達とそれと相対するラードフとヘルメン。
状況は互いに拮抗している状況だった。
しかし街の方から聞こえてくる悲鳴や爆音により戦闘は中断されていた。
「なんなんだよ……これ」
遠くで見える爆煙を見ながらラードフは呟く。
「ど、どうする?」
その場にいる全員は異常を察知して動きを止め困惑していた。
不安を感じて焦っているヘルメンはラードフに聞く。
「そんなの……と、とりあえずユウト達と合流だ!」
ラードフもヘルメンと同様に焦っていたがすぐに合流という判断を下した。
そして2人は屋敷内へと足を進める。
「ま、まて!」
「お前達をここへ通す訳には……」
ラードフ達が屋敷へと向かおうとすると警備の男達が彼等を通さない様に道を塞いだ。
「今そんな事言っている場合じゃないだろ!?」
前に塞がった男に対してラードフは怒鳴りつける。
今この都市パゼーレには異変が起こっているそんな悠長な事を言っている場合では無いのだ。
警備の男はラードフの剣幕に怯み、塞いでいた道を開ける。
そのままラードフとヘルメンはガラ空きになった門を通る。
「お、俺達は……どうすれば……」
門を通り過ぎたラードフとヘルメンの後ろから警備の奴等の焦りの声が聞こえた。
その情けない言動にラードフは……
「そんなの自分達で考えて動け!」
そう喝を入れ、ユウト達と合流するために屋敷内へと入った。
「あれは……凶震戒!?」
「なっ……凶震戒がなんで……?」
ウォルノン家の奥にて戦闘を繰り広げていたデイとアベーレスだったが突如発生した爆発によりその戦闘を中断していた。
アベーレスが破壊された壁から見える少し離れた場所を見て凶震戒が襲撃してきたと理解し、それを聞きデイは凶震戒が攻めてきた事に対して驚きを隠せないでいた。
「ど、どうするの……?」
突如として現れた凶震戒に怯えるレイナとパートリー。
「ひとまず、俺たちはみんなと合流して住民の避難にあたろう!」
何故凶震戒が攻めてきたかはわからない。
それでも彼等は騎士団の団員だ、今やるべき事はここで立ち止まっている事ではない。
1人でも多く住民を助ける事だ。
「わかった!」
「えぇ〜……わかりました……」
すぐに返事をしたレイナ、少し行く事に抵抗を見せるもデイに着いてくると決心したパートリー、後は……
「ヴァーリン、来い!!」
デイはヴァーリンを一緒に来るように誘った。
ただ立ち尽くす彼女に向かって手を差し伸べた。
「待て!お前ら……!!」
それを見ていたアベーレスは叫ぶ、親としては当然の行為だ。
自分の娘を危険な場所には送りたくない、そんな事はわかっている。
けれどそれを決めるのは……
「ごめんなさい、お父様。もう少しだけわがままをさせてください」
ヴァーリンはそう自分の父親に言い、デイ達へと歩みを進めた。
ヴァーリンが通り過ぎるのをアベーレスはただ手を伸ばして見ていることしか出来なかった。
娘からの拒絶、そして凶震戒に対しての恐れが彼の足を止めてしまったのだ。
そして娘はデイ達と共にアベーレスの元を離れていったのだ。
「くっ……!!」
屋敷内のとある一室、そこには決着がついているユウトとジーリッチがいた。
遠くで悲鳴が聞こえてくる。
俺は屋敷に開いた壁から外へ出ようとする。
「待てお主、奴等はおそらく凶震戒!お主1人行ったところで!!」
先程の戦闘よダメージにより立てず壁にもたれかかっているジーリッチは俺を止めるように叫んだ。
凶震戒、話には聞いている連中だ。
確かに危険だとは聞いていた、けれど……
「このまま人を見殺しに出来るか!」
そうジーリッチに吐き捨てて、優斗はそのままたった1人でこの屋敷から出て住民の救助に向かってしまったのだ。
そしてここは都市パゼーレの一地区
そこには夥しい数の兵士の亡骸が無造作に横たわっていた。
その中で1人だけ、まだ息があり地面を這いつくばった進んでいる男がいた。
「誰か……誰かいないのか……?」
その男の眼はすでに潰されており、彼が這った地面は赤黒い液体により変色していた。
その大量の赤黒い液体の量を見ると彼がもう長くはない事が伺える。
「あぁ……クソッ、なんで……だよっ……なんで結界が反応しなかったんだよ……1人、そうだ……たった1人に俺たち第3中隊が"壊滅"させられたんだ……ヒルゲン中隊長も……あんな強さ……来てる……この都市に、十戒士の1人……が…………」
彼は人知れずに事切れた。
こうして第3中隊はたった1人の十戒によって全滅させられたのだった。