【111話目】 ウォルノン家での戦闘
デイ達の前に出て堂々と啖呵を切った。
目の前にいるのは小柄な老人、けれどもその実力は相当高い。
あまり戦闘は避けたいのだが、ヴァーリンがいるであろう場所にはこの老人の後ろにある通路へと行かなければならない。
戦闘は確実におこるであろう。
全員でかかれば確実に勝てるだろうが、時間がかかればかかる程こちらが不利になる。
ならここは俺が引き受けよう、それにデイはヴァーリンに何かを伝えたいようだ。
なら俺はそのデイを手助けする為にここでこの爺さんを相手取ろう。
「だけど……ユート」
「はやく行けデイ、ここで長居するのは不味いってわかってるんだろ?
多分この人は俺が抑えていた方がいい」
俺の事を気にかけるデイに対して先に進むようにと進言する。
それでもデイは納得のいかない表情をする。
「わかった、ユート気を付けてね?」
俺の気持ちを察してくれたレイナは俺の言葉に了承した。
「ぼ、僕もはやく行った方が良いと思います……」
パートリーもレイナの意見に賛同した。
それでも何か言いたそうな表情をするデイ。
そんなデイに俺は頼み事をする事にした。
「デイ……ヴァーリンを頼んだ、お前にしか任せられねぇ」
「あ、あぁ……わかった」
まだな納得は出来ていはいない様子だ。
それでもデイは前へと進む事を決意する。
「頑張れよ、さぁ行くぞ!」
そうデイにひとまずの別れの言葉として激励の言葉を送りながら俺は老人に向かって攻撃を仕掛けに行った。
俺の攻撃に合わせるようにデイ達も俺とは少し感覚を開けて老人の後ろにある通路へと走る。
「誰も通すわけにはいかんぞ!!」
老人は俺の事を無視して通路に向かおうとしてきたデイ達へと攻撃を仕掛けようと凄まじい跳躍を魅せてデイの頭上に迫る。
老人の手にはおそらく人器であろう木刀が握られていた。
「させるかぁ!!」
デイの間近まで迫り振り下ろされる木刀、しかし寸前のところで俺が短剣一本で老人を止めることに成功した。
デイの方を集中的に狙おうとしているのか、さっと俺から身を引こうとする老人に俺は側面に老人の攻撃を止める前に放っておいた短剣を飛ばしていた。
この短刀3つはそれぞれ俺の意志で宙を舞う事が可能である。
ただ精密な動作をしようとすると脳の処理が追いつかない、だが今は老人の攻撃からデイ達を守れればそれで充分だ。
「無事でいろよ!ユート!!」
俺と俺の短剣の時間稼ぎもあり、デイ達は俺に対してそう言い放ち前へと進んでいった。
「チッ……取り逃したか……」
舌打ちをしながら老人は不服そうにする。
少しの間鍔迫り合いをした後、俺たちは一旦距離を取った。
「まぁ良い、ワシ1人でお前たちの中で1番強いであろうお主を止めれたわけだ」
「それはお互い様だろ?」
間合いを図りながら互いに軽口を叩き合う。
奇しくもウォルノン家とデイ達の2つの陣営、その陣営の最強同志の戦いである。
その事をあの短い攻防の中で互いに理解しあっていた。
だからこそ……
「ウォルノン家、元当主ジーリッチ・ウォルノン」
「……ユウト・シンドウ」
互いに名乗りを上げる。
「「いくぞ!!」」
こうして2人の戦いが本格的に始まったのだ。
───
ユートを1人残して俺たちは前へと進む。
後ろからは戦闘の音が聞こえてきていた。
立ち止まり加勢に向かうのが一番早いのであろう……
だがユート自身が「任せてくれ」と自ら言い残ったのだ、俺達がその意志を汚すわけにはいかない。
それにしても本当にこの先にヴァーリンはいるのだろうか?
もしかしたらまた別の部屋にいる可能性も別の屋敷に移されている可能性だってある。
もしそうだとしたら……
「……待ってください!前に人です!!」
考え事をしている最中パートリーが前方の異変を魔法で察知して俺達に伝えた。
その言葉に即座に戦闘体制へと移る。
「待ってくださいませ、皆さま」
だがそんな敵意を察知したのか前にいた男は姿が見える前に俺達に声をかけてきた。
そしてその男が俺達の目の前に現れる。
その人物は……ヴァーリンの執事であるセバスだった。
「お前も……俺達を止めにきたのか?」
今のところこの男に敵意は感じられない、それでもこのタイミングで姿を現すのは怪しいところではある。
俺は一応セバスの目的を聞いた。
「……本当に貴方達はお嬢様を助けにきたのですか?」
セバスは俺達に対してそう問いかけてきた。
その答えはすぐに出た。
「あぁ!もちろんだ!!」
俺のその言葉を聞いた瞬間、なぜかセバスの表情が明るくなったのを感じた。
「そうですか、わかりました……お嬢様ならこの通路を真っ直ぐに行った部屋にいます」
そしてセバスは俺達にヴァーリンの居場所話してくれたのだ。
しかし何故?あまりにも都合の良い情報すぎる。
「なんで俺達に教えてくれるんだ?」
セバスの真意を聞くために今度はこっちから問いかける。
「初めてだったんですよ……お嬢様がこの家にきてから見せたあのような悲しそうな表情……」
セバスは悔しそうな表情をし答える。
この表情ですら俺達を騙すためのものだとしたら大したものだというほどだった。
「お願い致します……どうかお嬢様を救ってください」
セバスは俺達に対して深く頭をさげて、ヴァーリンの事を頼んできた。
「あぁ、最初っからそのつもりで来たんだ。
今更誰に何を言われようが俺はヴァーリンを助けるよ」
頭を上げたセバスの目を真っ直ぐに見ながら俺は答えた。
「わかりました……ですがお気を付けを、お嬢様の部屋の前にはウォルノン家現当主アベーレス様がいます。
貴方達にこれ以上の手助けは出来ません」
セバスから重要な話を聞かせてもらった。
今の当主、つまるところヴァーリンの父親である。
色んな理由が重なり心臓の鼓動が速くなっいるのがわかる。
「わかった、みんな行こう!!」
それでも俺達は進み続ける。
今もこうして時間を稼いでくれているみんなの為にも!!
俺はセバスの隣を駆け抜けてそのままヴァーリンがいると言われた場所まで向かう。
そして少し通路を走った後、先程の老人がいた広場より一回りは広い場所にたどり着いた。
その場所には一つの部屋があった。
ここがおそらくセバスの言っていたヴァーリンがいる部屋だ。
そう思って俺はその部屋に向かおうとしたその時だった。
「待て……お前ら」
太い声がした後に1人の男が姿を見せた。
「お前ら俺の娘に何かようか?」
おそらくこの男こそ、現ウォルノン家当主にしてヴァーリンの父親……
アベーレスその人だ。