【110話目】 ウォルノン家突撃
早朝、朝日が昇り3中隊が作戦の為パゼーレを離れた後俺達同期組は集まった。
目的はウォルノン家へと行き、ヴァーリンの本音を確かめもしもの時は奪還する事だ。
その事を俺達以外、知る人は1人しかいない。
ウォルノン家の場所はかなり有名であり、俺達はその周辺に待機していた。
俺は不安で胸の鼓動速くなる、こんな事をしてタダで済むとは思っていない。
兄が「責任は俺が取る」と言ってくれてはいるが、兄に責任を背負わす気はない。
本来なら俺達が責任を取るべき事だ。だからこそ、このウォルノン家への侵入作戦でなんの成果も出せないなんて事にはしない。
それにもし……もし仮にヴァーリンが自分の意思で家に戻ったら……
とよくない方向にばっかり思考がいってしまう。
「大丈夫か?震えてるぞデイ」
そんな時、ユートが背後から声をかけてくれた。
「そんなに心配するな、俺達がついてる」
ユートは自身ありそうな表情で俺を励ましてくれた。
やっぱりユートは凄いな……強くてやさしい、俺もユートみたいな男になりたい。
いや、その感情は今は必要無い。
今必要なのは、どうやってウォルノン家に入り込むかという事だった。
屋敷はウォルノン家の家柄の大きさを表しているかのように広く、周りを塀で囲まれている。
そしてその屋敷の門の前には2人の大柄の男達が警備として立っているのも伺えた。
その男達をどうするか……ここで全員が見つかってしまえばヴァーリンに合う事が困難になってしまう……
「俺達が囮になる。その間にお前達は屋敷の中に入れ」
「あぁ、俺達に任せとけ」
その時声を上げたのはラードフだった。
ラードフの声にヘルメンも同意する様に俺の方を見る。
確かに……ここで2人が騒ぎを起こしてくれれば俺達が屋敷に入りやすくはなる。
だが……
ここで2人を囮にするということは、2人を危険な目に遭わせるという事だ。
確かにこの2人はヴァーリンのためについて来てくれた奴らだ、もちろん危険も承知の上だろう。
しかし、たった2人で何人いるかもわからないウォルノン家の人達の相手をさせるのはあまりにも無謀な提案だった。
「わかった気を付けてくれ」
俺が2人の提案で悩んでいる時、ユートがキッパリと2人に囮を任せた。
「なっ……」
ユートの判断に動揺する。
「任せろ!」 「お前達こそ気を付けろよ」
ユートの言葉に軽くで返す、ヘルメンとラードフ。
「そ、それじゃぁ僕もここでぇ待ってますねぇ……」
「おいこら待て、お前は屋敷での捜索に必要だ。来い」
ヘルメンとラードフと共に残ろうとしていたパートリだったが、ユートに首根っこを掴まれて逃げられないようになっていた。
確かにパートリーの魔法の索敵は屋敷内の人の動きがわかる為、必要な人材だ。
俺が戸惑いながらもウォルノン家への侵入作戦は進んでいく。
ラードフとヘルメンが堂々とウォルノン家の門の前まで歩く。
俺達はその様子を隠れて見守っていた。
そして2人は門につき、そして……
2人は開幕で門番2人に攻撃を仕掛けた。
門番の2人は攻撃を受けながらも、ラードフとヘルメンに対応して「敵襲!」と門番の1人が大声で言い放つ。
そのすぐ後には数人程の男達が屋敷から出てきて門へと集合していった。
「今だ、いくぞ!」
ユートの合図により、俺たちは屋敷の門から少し離れた塀まで走る。
「それで、これからどうする?」
とりあえず4人全員が塀に張り付いたところで俺はユートにこの塀の突破法を聞いた。
「俺が魔法で塀の上まで飛ばすから、俺の手に乗っかって乗り越えてくれ」
ユートは腰を下ろし、両手を合わせ受け皿のようにする。
「まずはデイから!手に乗っかれ!!」
ユートは俺に向かって手に乗れと言う。
少しアレな作戦ではあるが、今はユートの作戦に乗るしかない!
そうして俺はユートの手に乗った。
「……おらっ!」
ユートは思いっきり腰を上げて手を上へと振り上げた。
その瞬間、ユートの風の魔法が発動する。
俺の体が軽くなったように宙を舞い塀から少し上へと到達する。
そのままの流れで塀の中へと入り込んだ。
その後はパートリー、レイナの順で塀の内側へと転ぶように入ってきた。
「ごめん、大丈夫だった?」
遅れてユートも塀を登り内側へと入ってくる。
「だ、大丈夫ですぅ……」 「私は大丈夫」
「まぁ無事だ」
俺達3人はとりあえず無事だということを伝えて屋敷の中へと入る。
侵入方法へ至って簡単、先頭に立ったユートが近くの屋敷のガラスを壊しながら入り、周りに人がいない事を確認した後俺達も屋敷への侵入に成功する。
「よしっ走るぞ!!」
全員が屋敷内に入ってから、俺達は元々決めていたフォーメーションで屋敷内を走る。
先頭に先兵のユート、その次に防御を備えるレイナ、魔法の探索で敵などを感知するパートリー、そして殿の俺デイ。
その4人が屋敷の廊下を走る。
「そこの右の通路から2人来ます!!」
パートリーが先頭を走るユートに指示を出す。
それを聞いたユートは即座に構えて、角に着いた途端
「──風撃!!」
有無を言わさず魔法をパートリーの言った通路に向けて放った。
男達の悲鳴が通路から聞こえる。
通り過ぎる時その通路を見たが、男達は吹き飛ばされただけでそこまでの重傷ではなかった。
「──!!正面の広場に誰か待ち構えてます!!」
パートリーが強く警戒をする。
そのまま俺達は正面の広場に出る、そしてそこにいたのは……
「おいおい、またお前さん達か。全く儂野孫娘を奪いに来たか?」
そこにいたのは昨日、ヴァーリンを迎えに来たとにいたヴァーリンの祖父だった。
どうする?ここでの戦闘は不可避、だからといって全員でかかって時間をかければ増援が来る可能性もある……ここは誰が……
そう言っても誰が?パートリーとレイナは戦闘を行うタイプではない、俺かユートしか……
それなら……
「ここは俺に任せてお前らは行け」
戦闘力的にユートに劣る俺が出た方がいい、それにユートの方がヴァーリンも喜ぶだろう。
「デイ……」
不安そうな声で俺を見つめるユート。
「……でもその代わり、ヴァーリンに伝えて欲しい事がっっ!!」
ヴァーリンへの気持ちをユートに代弁してもらおうとした時、俺の頭部にユートからの手刀が直撃する。
「な、何するんだよ!!」
痛みが走る頭部を抑えながら、俺はユートに怒鳴った。
「ヴァーリンに言いたい事があるなら自分で言え、他人に頼るな」
ユートも少し怒り口調で俺達の前に出た。
「先に行け、この爺さんには昨日のお礼をしないと行けないからな」
ユートはジン器を構えてそう言い放った。