【108話目】 休日の遊び
魔法騎士団の個室でヴァーリンは自分宛に届いた手紙を読んでいた。
あぁ……やっぱりそうなるか……。
この内容はヴァーリンにとっても予想が出来ていた内容だった。
今まで自分は勝手に行動をしていた……
だからコレは仕方ないのだと自分に言い聞かせて、ヴァーリンは魔法学園の同期達と"最後の思い出“を作りに行くのだった。
今日はヴァーリンに誘われて、魔法学園の同期と一緒に遊びに来ていた。
なんだか普通に遊ぶなんて元いた世界ぶりで俺は少しテンションが上がっていた。
ここ最近、任務漬けでまともに休んだ記憶がなくこうして休日らしい休日を味わえるのは久々だった。
まあヴァーリンとデイとヘルメンの3人は明日から合同中隊による作戦に参加するらしく、今日しか休める機会がなかったらしい。
なので今日だけはめいっぱい遊ぼうとなったのが今回の経緯だ。
「んー!なんか清々しいな!!」
俺は日光を浴びるように体を大きく伸ばしながら、この休日を楽しもう!という気分になりなって発言をした。
今日はとりあえずそこら辺をブラつこう、というかんじで俺を含めた7人で歩いて店に立ち寄ったりとごく普通な感じだった。
それでもみんなは楽しく色んな話をしながら歩いていた。
やれ任務の事だとか、同じ隊の先輩達の事について話し合っていたのだ。
ヘルメンは自分の隊の先輩2人が付き合っており毎回イチャイチャを見せつけられて困っているだとか。
パートリーのところ研究所ではそこの所長が少しボケ始めてパートリーの名前をよく間違えたりとさまざまな事を聞いた。
しばらく色んな店に行ったり歩いていた俺達はとある展望台まで来ていた。
この展望台は7層に別れているもので、高さは1番上ならパゼーレの都市を見渡せる程高く俺たちは1番上まで行こうということになった。
この展望台の1番上に行くためには階段か魔法で動くエレベーターのようなものに乗る事が必要だった。
昼過ぎでエレベーターに乗る一般の人がかなり多かったために俺達は階段で上がる事を選んだ。
その際パートリーは最後まで待ってエレベーターに乗ろうと駄々をこねてきた。
パートリーには体力があまりなく、動くことを嫌がっていた……がそれをスルーして階段を上がっていった。
数十分ほど歩いて、ようやく頂上に辿り着いた。
何階層かに一回はパートリーが疲れたと言って少し休憩をとる場面もあった。
そんなこんなありようやく辿りついた頂上の景色は……実に綺麗だった。
綺麗な街並みもそうだが、それはそれとして街を歩く人達の賑わいが見える。
誰もが安心して楽しく暮らせている風景が俺にとっては物凄く綺麗なんだ。
「あの……あなたは……」
そんな景色に見惚れていると背後から声をかけられた。
俺は振り返ってその声の主を見る。
そこにいたのは1人の女性、金色の髪にそれに膨れている腹部……この人は……
「もしかして……あの時の?」
少し自信は無かったが、俺はこの女性にそう尋ねる。
「はい!あの時助けてもらった者です!!」
喜びながらその女性は俺に近づく。
この人はこの前街でひったくりにあっていた女性だった。
まさかこんなところで再び会えるとは。
「あの時はありがとうございました」
妊婦の人は何度も俺に対してお礼のお辞儀をしていた。
「いえいえ、それより大丈夫なんですか?この状況でこんなところにきて……」
俺はお礼してくる女性のそのお腹にいるであろう子供を気にかけた。
妊婦さんが一人でこんなところまで出かけても大丈夫なのだろうか……と心配になったのだ。
「えぇ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
女性は膨れたお腹をさすりながら、俺を安心させるように話してくれた。
「私ね、この子には貴方のように誰かを助ける立派な人になってもらいたいの」
優しい声でこの人は自分の子供が俺のような人になって欲しいと話す。
少し照れる。けれども……
「俺なんかそんな立派じゃないですよ」
それと反面的に申し訳なさも感じてしまう。
こんな自分なんかが、この人の大切な子供に影響を与えていいのだろうか?
「ううん貴方は立派よ。私はそう思うわ……だから貴方は胸を張っていいのよ」
この人はそう諭して、俺の頭を撫でた。
俺の頭を撫でる手は優しくて暖かかった。
「それじゃあ私はもう帰るね、貴方も頑張ってね!」
「……はいっ!!」
妊婦の彼女は俺に激励の言葉を残しながらエレベーターの方へと足を進めていった。
彼女の後ろ姿を見て、少しは自分に自信を持てるように頑張ろうと思った。
「さっきの人は?」
俺とあの人の会話を聞いていたのかレイナが俺に尋ねてきた。
「あぁ、あの人は前に知り合った人だよ」
俺はレイナにあの人のことをそう説明した。
「そ、そうなんだ」
一緒に来た同期の奴らとは少し離れて俺とレイナは一緒に展望台から見える風景を見た。
少し心臓の鼓動が速くなっているのが理解出来る。レイナが隣にいるのが緊張するのと同時に少し嬉しいと思った。
もう少しだけこのままいたいと、時が止まってほしいと考えながらレイナの横顔を見た。
「綺麗……だね」
顔をレイナから外に向けながら、俺はレイナに風景についての感想を話す。
その際レイナから視線を感じた気がした。
「そうだね」
レイナは俺の感想を肯定する様に話す。
このレイナと見た風景がいつまでも変わらずにいればいいのに。
「俺は……この景色を守れるようになりたいな……」
風景を見て無意識に出た言葉。
俺は何を!?とすぐに我に帰る。
何か恥ずかしい言葉を言ってしまった……と思いレイナの方を恐る恐る見る。
「ユートなら……出来ると思うよ」
レイナは笑う様子もなく、ただ真剣に俺の方を見つめてその言葉を俺にかけてきてくれた。
…………!?顔が熱くなるのを感じた、どうしよう顔赤くなったりはしていないだろうか。
レイナのたった一言だけで俺はここまでなってしまう、恋愛慣れしてない影響なのだろう。
この雰囲気に流されて……俺は口走ってしまいそうになった。
「レイナ、俺は──」
「何やってるんですか?もう降りますよ」
俺の言葉を止めたのはヴァーリンだった、どうやらもうこの展望台から降りるようだ。
「わ、わかった……」
俺はヴァーリンにそう答える。
「それでは行きますよ……」
ヴァーリンは俺に背を向けて歩き出す。
でも何故だろう?今一瞬、ヴァーリンの顔がとても悲しそうに見えた……
俺たちは展望台から降りていく、もちろん階段でだ。
パートリーは嫌がったが男達全員で無理矢理にでも下へと連れて行った。
地上へとやっと降りてきた。
しかし俺達の目の前に何人か黒服……執事服を着た男たちが立っていたのだ。
なんだ?と俺たちが困惑しているとヴァーリンがその男達へと歩いた。
そしてヴァーリンは……
「ごめんなさい、貴方達とはもうお別れです」
背を向けて俺達にそう言ったのだ。