【107話目】 ササレ隊での任務
第4中隊・ササレ隊に配属された俺とヴァーリンは今日パゼーレ近辺にて出没して行商人を襲っている獣の猪の討伐の任務を行っていた。
獣は人々を襲う害獣だ。
その中でも猪は人に突撃して死なせたり、物を破壊したりする危険な生物だ。
けれども猪程度なら魔法使いならば恐るるに足らない生物である。
実際にも俺達の隊は既に相当数の猪を討伐していた。
しかし数が多く若干の知性も併せ持つようで猪達はバラバラに散ってすぐ近くの森へと逃げていったのだ。
俺たちも猪達を追ってバラけてしまう、その時偶然にもヴァーリンと2人っきりになってしまうのであった。
「…………っと、これで終わりか?」
逃げていた猪の最後の一頭にトドメを刺した俺は辺りを見渡す。
そこには猪はおらず、俺とヴァーリンだけしかいなかった。
「か、片付いたな……」
猪等の毛皮やら肉は都市に持ち帰り有効活用するらしいため死骸は持って帰る事になっている。そして俺は猪の死骸を集めながらヴァーリンに話しかけた。
「そうですわね、それでは私は隊長達に報告しにいきますね」
ヴァーリンは隊長達と合流して、状況の報告の為、俺から背を向けて離れていく……
「ま、待って……!」
ヴァーリンが俺から離れて行くのがどこか寂しく感じてしまい、俺はヴァーリンを引き止めてしまった。
「なんで──」
ヴァーリンは振り返って止めた理由を聞こうとした次の瞬間だった、ヴァーリン前方の木々が何かしらの衝撃によって一瞬にして吹き飛ばされた。
あと一歩ヴァーリンが前に進んでいたらこの衝撃でとんでもない事になっていたかもしれなかった。
けれど今はそんな事を考えている場合ではない。
この衝撃は誰が出したものなのか、今重要なのはそこだった。
薙ぎ倒された木々の奥から出てきたのは先ほどまで俺たちが倒していた猪の数倍大きい巨大な猪だった。
しかもその猪は魔力を纏っていたのだ。
獣の中にも魔力を扱う存在がいると聞いた事がある、その名は魔獣。
そう俺たちは今、魔獣と対峙してしまったのだ。
魔獣が真っ先に狙ったのはすぐ目の前にいたヴァーリン、彼女に向かって魔力が込められた突進を魔獣は繰り出した。
「──避けろっ!!」
咄嗟にヴァーリンに魔獣の攻撃を避けるように叫んだ。
ヴァーリンはすぐに魔獣の攻撃を避けようと即座に横方向へと飛んだ。
魔獣の攻撃自体はギリギリで避けられたのだが、魔獣の放つ魔力がヴァーリンを襲う。
吹き飛ばされ木に背中から衝突する。
魔獣はさらにヴァーリンに追撃を加えようとしていた。
ヴァーリンは先の衝突による衝撃のせいで魔獣の追撃を避ける事がままならない様子だった。
俺の足はすぐに動いた、魔獣を止めてヴァーリンを助けるために。
魔力を足に流し、通常よりも速く動けるようにして俺はヴァーリンと魔獣の間に入る事が出来た。
後はこの魔獣からヴァーリンを守る事だ。
俺が魔法ブッパしたら辺りに飛び散って被害を出す可能性がある、ならどうするかというと。
魔力を一点に集中させるのが1番だ。
俺は両手を前に突き出してくっ付ける。そして自身の魔力をくっ付けた手に合わせる。
攻撃の矛先を魔獣に向ける。
この瞬間、俺は今まで放った魔法の中で1番の威力を出す。
「──レールガン」
両手の間から放たれた稲妻は一直線上に魔獣の頭部を貫き、魔獣の後方にあった木々をも貫いていった。
大きな音を立て倒れ絶命する魔獣。
とりあえず俺は魔獣を討伐し、ヴァーリンを助けた事に安堵して腰を下ろす。
「あ、ありがとうございました」
後ろから助けてくれた事に対しての感謝の言葉をかけてくれるヴァーリン。
その言葉を聞けるだけでも魔獣を倒した甲斐があったものだ。
今なら……行けるだろうか?
魔獣を倒した事で少し興奮状態に陥っている俺はヴァーリンの方を振り返って……
「よ、よければ今度の休み街に行かないか?」
休日にヴァーリンをデートに誘おうと提案をした。
ヴァーリンの表情は驚いていた、それはそうか。ついさっきまで魔獣と戦っていて倒したらすぐに休日にデートに誘うとか正気ではないな。
「ええっ!いいですわ!!」
しかしヴァーリンの返答は快く承諾だった。
マジか!?OK貰えた!!と内心で俺は喜んだ。
そしてヴァーリンは嬉しそうに……
「それじゃあ私から他のみんなに伝えておきますね!!」
と俺に向かって話した。
……アレ?おかしいな??
「えっっと……みんなって?」
俺はヴァーリンに言葉の意味を聞く。
「ユウトやパートリー、ヘルメンとラードフ……後は一応レイナさんですけど……?」
ヴァーリンはさも不思議そうに学園時代の同期の名前を出した。
デイは知らなかったのだ。ヴァーリンが箱入り娘であり、そういった誘いをデートとして認識出来ないという事に。
「それじゃあ、楽しみにしてますね!!」
笑顔でデイに笑いかけるヴァーリン。
その表情にデイはどこか違和感を感じた。
ヴァーリンは笑っているはずなのに……どこか悲しそうな顔に見えたのだ。