【100話目】 ユウトとシノン
俺とあいつが出会ったのは2年ほど前。
俺が第5中隊にいた時にあいつは現れた。
「はじめまして!自分はニーンって言います!よろしくお願いします!!」
当時、魔法学園を卒業してそのまま魔法騎士団の俺がいた部隊に配属になったニーンは俺に何故か懐いた。
「シノンさん!稽古つけてくださいよ!!」
「うるせぇ、あっち行ってろ新人」
いつも明るく俺に話しかけてくるニーン、最初は鬱陶しいと思っていた。
こんな話を当時の俺の隊の隊長から聞かされるまでは。
「アイツにはな、兄がいたんだ……何年前に盗賊からアイツを守って死んじまったけどな。
そしてその兄にお前がにてるんだとよ。」
俺には身内が誰かにこれされたなんてそんな過去はない。
けれどもその話を聞いてから、なんだかニーンの事が気になってきた。
「行くぞ、ニーン」
「……!はい!!」
少しずつだが、俺はニーンと打ち解けるようになった。
その頃からかこっちの方でも"キョウシンカイ"の動きが活発になっていった。
そんな中だった……
「ニーン危ねぇ!!」
キョウシンカイの下っ端達との戦闘中、ニーンが死角から攻撃を受けかけていて俺は咄嗟にニーンを突き飛ばして攻撃から逸らさせた。
「シノンさんっ!!」
ニーンが無事だった代わりに俺はキョウシンカイの下っ端からの攻撃を受けて負傷してしまった。
幸いにもこの戦いではそれ以上の被害は出ずに終わった。
俺は怪我が治るまで、騎士団の医務室で大人しくしているように言われた。
「シノンさん……俺のせいでっ!!」
自分の失敗で俺に怪我させたと思ったニーンは泣きながらに俺に何度も謝罪をしてきた。
「別に軽い怪我だ、お前が気にやむ必要はない」
俺はニーンを励まそうと声をかける。
「やっぱり、俺はまだ弱いですね。同期のサギヌマも俺より結果を残しちまいやがって……」
ニーンが発したサギヌマという人物。
コイツはユウトと同じく異世界から来たという青年だ。
学園に行く気がなかったらしく、騎士団で一年間戦い抜いた男だ。
サギヌマはかなり強かったらしく、最大魔力量だけならばあのディーオンすら超えたという声すらあった。
「大丈夫だ、お前はもっと強くなれるさ」
落ち込んでいるニーンの頭に手を乗せて元気付ける。
「本当ですか?」
「あぁ!俺が保証してやる!!」
しかし俺のその言葉は間違っていたのだ。
この数日後、俺がまだ医務室で大人しくしている時にキョウシンカイの十戒士が動き出したのだ。
10人の十戒士のうちの3人がパゼーレに攻撃を仕掛けてきてそれに騎士団も立ち向かい戦いが起こった。
結果としては十戒士のうちの1人はディーオン1人で殺し、もう1人にはかなりの戦力で臨み最後は異世界から来たサギヌマの手で殺された。
あとの1人はゼン中隊長、チャーチス中隊長の2人でなんとか迎撃に成功した。
そしてその戦いでニーンは死体となって帰って来たのだ。
あんなに勇敢で明るくて未来があったニーンが若くして死ぬ事に俺は……憤りを感じていたのだ。
だから俺はガキが前線に出て死んでいくのが嫌なんだ。
───
「まぁそんなところだ、つまりお前みたいなガキはすぐ死ぬから嫌なんだ」
シノンさんの話が終わる。
聞きたい事もあった、しかし俺は口を挟まず、ずっと静かにシノンさんの話を聞く事にした。
「……優しいんですね、シノンさんは」
話を聞き終わった俺が初めて口に出した言葉がそれだった。
「なんでだ?」
シノンさんは不思議そうな顔で俺を見る。
「だってシノンさんが今まで俺に厳しくしてたのは俺を思ってくれてたって事ですよね」
シノンの顔を見ながら俺はそう答えた。
「ケッ、好きに言ってろ……言っておくが俺は──」
「俺は死にませんよ」
シノンさんの言葉を遮るように俺は話す。
「あ?」
「俺は死にません、だから安心してください」
念を押すようにシノンさんを安心させるように言った。
「……俺を安心させたければ、それなりに成果を残す事だな」
ため息混じりでシノンさんはそう答えた。
「そうですね……でもまずは」
「わかってる、この崖から出ないとな。俺の魔法を使う」