【99話目】 崖下におちて
「やっぱりシノンさんはすごいです!」
1人の青年が俺の前に立っていた。
俺の後輩で相棒だった青年は俺のことをいつも尊敬していた。
「そういえばすごいんですよ!俺の同期のサギヌマ!あっという間に成果を上げまくってるそうですよ!!」
彼は楽しげに俺に話しかける。
場面は変わり、俺は怪我からベッドの上から動けずに彼を見ている。
「大丈夫ですよ!僕だってシノンさんの相棒なんですから!!」
彼は笑顔で俺の元から離れて行く。
ダメだ!お前……その先は……!!
俺は彼に手を伸ばす、けれどもその手はもう彼には届かない。
手を伸ばす俺に光が差し込む。
「……いてぇ、ここは?」
目が覚め状況を確認する。
確かさっきは……盗賊団の討伐の任務が下されて、それで隊長に俺とこの前入った新人のガキと一緒に探すよう命じられて、そしてそのあと言い争いになって盗賊団に見つかって攻撃を受けて崖から落ちてそれで……
周りを見るとどうやら川に流されて崖下にある小さな岩場に流されたようだ。
高く聳え立つ崖……けれど俺の魔法なら難なく出られるか。
そして俺から少し離れた場所にもう1人、男が倒れていた。
コイツは新人のユウト、さっき俺を盗賊団の攻撃から庇い気絶しているようだ。
よく見ると右腕を負傷しているのか出血してるのが見える。
俺を庇って負傷するなんて、ただの自業自得だろう。
けれども、俺はコイツを放っておけなくて立ち上がり倒れているユウトに近づいた。
あいにく治療できるような物は俺は持ってなく、ユウトの持ち物から治療出来る物がないか探った。
一応非常事態なためこの行為は許されるだろう。
ユウトの体を探ると赤く細長い布が出てきた。
何か文字が縫ってあるのが見えたが、何と書いてあるのかは分からずとりあえず、この布でユウトの負傷した腕を縛っておいて血を止めておこう。
「んっ……」
おっと、どうやらユウトの目が覚めるようだ。
「ここは……?」
目が覚めたユウトは辺りを見渡して俺がいることに気が付いてそう聞いた。
「さあ?とりあえずここが崖の下だって事くらいしかわからん」
俺は今わかる状況を端的にユウトに伝える。
「そうですか……ッッ!」
ユウトは体を起こそうとして痛がる様子を見せた。
右腕を押さえているからさっき俺が治療したところがまだ痛むのだろう。
「……これは?」
ユウトは右腕に巻かれていた、赤細い布を見て不思議そうにしていた。
「怪我してたんでな、一応応急処置くらいはしといた。
その布……勝手に使ったが問題は無いよな?」
一応の受け答えをして、ユウトの持っていた布を使った事を言う。
「あっいえ、ありがとうございます」
少しばかり残念そうな表情をするユウト。
助けてもらった手前、何かあったとしても言えないのだろう。
その赤い布切れはそれほど大切な物だったのだろうか?
「その布……大切な物だったのか?」
思わず聞いてしまう。
「それほどでは無いですよ……ただ母親が俺に作ってくれた鉢巻ってだけです。」
「それにまだ洗えば使えますよ」
彼は無理をする様に笑う。
「ふんっ!まぁ無事なら問題ないな、全くこれだから……」
俺は嫌味たらしくユウトを罵る。
「……やっぱり、教えてくれませんか?」
ユウトが口を開く。
「なんで俺のことを嫌ってるんですか?」
ユウトはさっきと同じような質問を俺にしてくる。
「いや、それは……」
「教えてください、納得がいかないんです」
俺の言葉を遮りながら、ユウトは俺と面と向かって話す。
その瞳は真っ直ぐで……何故か話してもいいかなってなってしまったのだ。
「はぁ……わかった、話すよ」
だから俺は話すことにした、俺と相棒の話を。