プロローグ
とある公園―――
制服姿の男子と女子が、俯き気味で、ベンチに隣同士で座っている。2人の顔は林檎の様に赤く、遠目からでも認識できるほどだった。
「……」
「……」
2人は俯き気味の姿勢を保ったまま一言も喋らず、ただ時間だけが流れていく……
「……サトウさん」
沈黙を破ったのは、隣の女子に聞こえるかどうか分からないほどか細い、しかし確かな決意を感じる男子の声。
そして、一度大きく息を吸い込み―――
「……っ!好きです!僕の彼女になってください!」
叫んだ。自分の素直な気持ちを。
男子は、おそるおそる女子を見つめる。
『サトウさん』と思しき女子は、赤かった顔をさらに濃い赤にさせ、誰にも見られたくないのか両手で顔を覆い、さらに俯いた。
そして、少しの沈黙の後……
女子は両手で顔を覆ったままコクン、と小さく頷いた。
それに気づいた男子は、おそらく彼史上最大の笑顔と、力強いガッツポーズで、喜びを強く表現した。
そして、女子は身体を起こし、顔を赤くしたまま顔から両手を離すと、男子に抱きつき、
チュッ
頬にキスをした。
男子は何が起こったのか分からなかったのか、しばし固まった後、顔をぼっ!と赤くさせ、ゆっくりと女子に抱きつき、
チュッ
お返しと言わんばかりに頬にキスをした。
両想い。一方通行だと思っていたお互いの恋が今、結ばれたのである。
2人は抱きつきあったまま、お互いの温もりを存分に確かめ合っている。ここに流れている時間は、2人だけを包んだ時間だ。2人以外の誰かが介入する余地はなく、2人の身体や心は今、お互いのことだけで満たされているのである。
そんな2人が、
(はああああっっっっ!!!!!ああああああっっっ!!!!!尊っ!!!尊いっっっ!!!!!甘酸っぱい青春の告白!!!ベタだけど王道!!!!!御馳走様ですっっっっっ!!!!!!!!!!!)
満面の笑顔で、電柱の陰から一部始終を凝視していた女子高生に気付くはずもなかった……