EpisodeⅢ「近くの街にて」
カメ達が状況確認を行なっている間、森近くの都市『カンザス』の領主屋敷内は慌ただしかった。
執事やメイドたちが駆け足で廊下を行き来していた。
その先にある執務室で一人の白髪の男が書類を見て険しい顔をしていた。
彼の名前はロカード・クルスト。
この街の領主だ。
「全く…最近忙しいにもほどがあるぞ」
最近、この都市近くの森で異常な魔力反応が確認され始めた。
もしかすると、魔物が大量発生しているかもしれないと危惧した領主はすぐに王都に報告をし、応援の要請をした。
その要請はすぐに受理され、王女自らが率いる月華騎士団が派遣される事になっている。
今はその到着を持っている所という訳だ。
ロカードが書類を整理していると、扉がノックされ、一人の執事が入ってきた。
「失礼します。月華騎士団が到着されました」
「そうか…。通してくれ」
ロカードは書類に目を向けたまま答えた。
執事は「かしこまりました」と一礼をして部屋から出ていった。
しばらくして、少女が2人、部屋に入ってきた。
ロカードはそれを確認するが、書類から目は離さない。
「すみません、王女殿下。このような状況で…」
「気にしないでください。貴方が忙しいのは聞いておりますので…」
「ありがとうございます。もう少々、お持ちください」
「わかりました」
王女がそう言うと2人は執務室のソファーに腰かけた。
王女の名前はシリカ・ローレン。
長い金髪と赤眼の少女で、月華騎士団団長でもある。
隣にいるのは月華騎士団の副団長のクルス・マーカ。
茶髪のショートヘアをした少女。
ロカードは書類整理が一区切りついた辺りで切り上げ、王女の向かい側に座った。
「まず、来てくださり感謝します」
「挨拶はいりません。それより、今の状況を聞かせてください」
ロカードは驚いていた。
王女、シリカは仕事熱心と聞いていた。
国民の事を思い、自ら騎士団を創立させ、国民の平和を守る。
この事から、彼女は国民から多くの支持を得ていた。
その彼女は聞いていた以上に国民を思っていると、今の発言で理解できた。
「それでは、話させてもらいます。…1か月ほど前です。ここから一番近くの森『カイナの深森』で不可解な魔力反応を観測するようになりました。その魔力反応を解析した結果、時空が歪む時の現象によく似ていたのです」
「それは、大掛かりな転移魔法が行使されようとしている…と言う事でしょうか?」
転移魔法は時空を歪めて、現在の位置と目的地を繋げる魔法だ。
その際に生じる魔力反応は特有な物だった。
「分かりません…。我々が観測した魔力反応は今まで見た事のない反応でした。正確に言うと転移魔法行使時の魔力反応に似ているという物です。さらに、もっと不可解な事に学者によると、何かが生成されているような魔力反応も検出されているという事でした」
「どういうことですか?」
それは時空が歪む時の魔力反応とは別の魔力反応が混ざっていると言う事だった。
その魔力反応は何か大きなものが魔力によって生成されているということ以外にはわからないかった。
これは今までに類を見ない現象だったのだ。
あえて、近い例を挙げるなら、それは魔物が出現するときの反応によく似ていた。
故に、ロカードは魔物の大量発生を危惧したのだ。
「状況は分かりました。やはり一度、調査に向かった方がよさそうね」
「わかりました。こちらでも、騎士団を小数ですが同行させます。道案内は彼らに任せていますので」
「助かります。それで、準備の方はどれくらいかかりますか?」
「もう済ませてあります」
「そうですか」
その時、執務室の扉が勢いよく開いた。
「失礼しますっ…」
入ってきたのは白衣を着た若い男。
男は息を整えながら報告する。
「たった今、とてつもない大きさの魔力反応を観測しました!反応の大きさは今までの比ではありません!」
「何ですって!?」
シリカは男の発言を聞いて飛び上がった。
そして、ロカードに強く言った。
「今すぐ、向かいます」
「…分かりました。お気をつけて」
シリカとクルスは慌てて執務室を出て行った。
ロカードはその少女2人の背中を心配そうな目で見つめていた。
「…無事に帰ってきて下さればいいのだが」
その声は一人の執務室に残った。
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