挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

幽霊姫は勇者と恋をする

作者:モコショコ
残酷は描写は念の為

主人公はお姫様の方なので異世界転移のキーワードは設定していません

 私こと、リーゼル・フォンデルは幽霊なのです。享年は6歳。病死と発表されていますが、普通に毒殺です。私、リーゼルはフォンデル王国の一番末っ子の姫でした。正直王位継承権なんて上に兄や姉が居すぎてあってないものでしたが、殺されました。まぁ、ただ邪魔だったのでしょう。そんなこんなで殺されたわけですから当然のように未練だってあります。だって、6歳!! 6歳ですよ!? まだまだ遊びたいし甘えたい盛りなのに、何で私が殺されるんです!? ……すぅ、はぁ……少し落ち着きました。

 さて、私の国フォンデル王国ですが。私が死んで約10年。現在世界に危機に瀕しております。どうやら魔王と呼ばれる魔物や魔族の王が生まれたようで、各国各地で魔物、魔族の暴走が起こっているようなのです。それはフォンデル王国も例外ではなく、国は魔物や魔族による被害に疲弊しているようです。

 と、言う訳でして。フォンデル王国は異世界から勇者を召喚することを決定したということです。いや、まぁ国家予算とか色々面倒らしいんですけど。それでも、異世界の勇者でなければ魔王を倒せないと世界有数の占い師による占いが出てしまったのです。しょうがないと重い腰を上げて準備をフォンデル王国は始めました。

 他の国も同じように準備を始めています。え? 他の国も召喚するのかって? そりゃそうですよ、世界の危機ですよ? 自国が召喚した勇者が魔王を倒したとなれば周りの国々に恩を売れるというものですよ。協力? ナニソレオイシイノ状態ですよ。

 さてさて、フォンデル王国は予算だかなんだかの関係で異世界から呼べるのは一人が限界のようですね。まぁ、子沢山ですからね。そりゃあお金が掛かりますよね。まだ幼い王子王女が多い訳ですからね。はっ! まっまさか私はお金を節約するために殺されたのですか!? え、そんな理由だったら本当に死んでも死にきれないんですけど。え、誰か真実教えて!!

 本当に数人しかいない国の優秀な魔術師達を使って触媒やら何やらを準備しています。ろくに勉強もさせて貰えずに死んだ私にはよく分からない物ばかりですね。どうやら相当高価なものらしく魔術師達の手はガタガタと震えていました。いや、それ逆に落とすやつ。そんな高価な物をそれだけ買ってお金は大丈夫なんですかね。暫くは可愛い可愛いお姫様達のオネダリをきけませんね。私はオネダリなんか1回も出来てないですけどね!!!

 さてさて、魔術師達がなにか呪文のようなものを詠唱し始めましたよ。あっ、ちなみにここはお城の地下です。地下の広い空間に魔法陣を何日も掛けて徹夜で描き続けた魔術師達の顔はゾンビでした。そんなゾンビの状態で呂律もろくに回らないような状態で魔術師達は必死に呪文を詠唱し続けます。こんなブラックなお城の魔術師なんて止めて、他の国で就職したらどうです?

 魔法陣から光が溢れだします。暖かな太陽のような、広い海のような……海なんて本でしか見たこと無いですけどー。まぁ、ともかくそんな不思議な色合いの光が溢れたんですよ。もう、魔術師達の顔は晴れ晴れとしていましたね。そうだよね! 失敗したら首はね飛ばされるよね! 多分ね!

 ところがそこで異変が、突然光が揺らいでとても暗い闇の様な黒い光が混ざり始めます。魔術師達もサッと顔色を青ざめさせました。それでももう中断するわけにもいかないので、必死の形相で更に呪文を唱えました。その顔はゾンビだったので凄い迫力でしたよ。

 やがて、光は収まります。私は幽霊なので特に関係ありませんがその場の雰囲気に合わせて目を瞑っておきました。目の開けると、男性がいました。いえ、男性と言うにはまだその顔立ちは幼く、よく分からない服を着ています。少し癖があり毛先が傷んだ黒髪。パチクリと見開いた瞳の色は焦げ茶。特にこれといって特徴はありません。あっ、いや……この国の人達より目の辺りの彫りが浅いですし、鼻も低いですね。驚愕をその顔に表しているはずなのに、その顔はどこか無表情にも見えます。

「えっ……」

 それ程低くも高くもない声は、私の姉のキィキィ高い声よりも兄の唸るような低い声よりもとても耳に優しいです。

「此処は……」

 キョロキョロと辺りを見渡し、自身を取り囲むのゾンビ顔の魔術師達に気がついた男性……いや、少年ですかね? は怯えて後ずさりました。あまり表情には出ていませんがその瞳には恐怖の色が見えます。

「おっ……」

「おお……」

「おぉぉぉおおおおお!!!」

 暫く実感の無かった魔術師達はやっと意識が現実世界に帰ってきたようで、雄叫びを上げました。その顔は喜びの色に染まっていました。そして、その顔は物語っています。やっと寝られる、と。

「あっ……あのー……」

 少年の事はガッツリと無視して、魔術師達は誰が王様に報告するかを押し付けあっています。そりゃそうですよね、ここ暫くはろくに睡眠を取れていないですもん。結果的に立場が1番偉い魔術師が少年を連れて行くことになったようです。すっごく不機嫌顔。ゾンビ顔と相まって凄く恐ろしい顔です。少年もひぃって言いながら怯えてます。私よりずっと年上のはずなのに、何故かその人の事を少しだけ……ほんの少しだけ可愛いと思ってしまいました。

 その後、勇者認定された少年はあれよあれよと言う間に客人用の部屋に押し込まれています。少年はベットに腰を掛けて頭を抱えていました。あら、きゃっ! 私ったら勝手に男性の部屋に入っているわ。なんて恥じらいはもう捨てました。もう10年も幽霊やってるんです。それくらい慣れましたわ。

 さてさて、この少年の名はナオトというらしいです。さっき王様……一応私のお父様に聞かれて答えていたのを耳にしました。あのクソみたいな王様の所の勇者として召喚されちゃうなんて可哀想に。ヨシヨシと触れられもしないのに私はナオトの頭を撫でるように手を動かしました。私の姿はどうせ見えない。誰にも気づかれない。誰も見てくれない。生まれた時からずっとずっと。

「可哀想に……。ごめんなさい」

 聞こえもしない声を吐きます。届きもしない想いを出します。私の国がごめんなさいって。なんて、私もう死んじゃって関係ないんですけどね。

「この国はね、王族はクソみたいな人達ばっかりなんですけど、国民は優しい人達なんですよ。普通の日常を普通に過ごしているんです。って言っても私だって死んでから知ったんですけどねー」

 何故か、何とかしてあげたかったんですよ。少しでも楽になるように何かをしてあげたかったんです。聞こえもしない声を出して、沢山この国のことを話しました。頑張れば誰もいない部屋でなら物を動かす事が出来る私はお城の書庫にこもっていた時期がありました。そこで蓄えた知識を沢山話しました。ナオトはずっと頭を抱えていて反応は見れなかったんですけどね。

「それで、この国のお花はとーっても綺麗でしてねー。私いつもあのお花を見るのが好きなんですよー。ナオトの世界にはどんなお花があるんですかねー」

 ナオトの隣に腰掛けて、笑って笑って話し続けました。

「私、6歳で殺されたんですよ。何のためかは分からないんですけどね。私がこの国の1番末っ子の王女様だったんですよ。でも、6歳って遊びたいし甘えたい盛りですよね? 死にきれなくて幽霊になっちゃったんだと思うんですよ」

 私の生い立ちも話しました。ナオトが泣いているように見えました。そりゃそうですよね、いきなり別の世界に連れてこられて、勇者だとなんだとか言われて。怖いですよね、重いですよね。

「ごめんね。でも、大丈夫ですよ。この国以外の国も勇者の召喚してるみたいですし、その人達の誰かが魔王を倒してくれるかもしれないですよ? ナオトが戦う必要ないかもしれないです」

 私は私の緩やかにウェーブする薄茶色の髪を弄りながら笑いました。

「何で……俺なの……?」

 か細い声が聞こえました。弱々しいその声は私よりは年上ですけど、やっぱりまだ子供の声でした。不意に漏れた独り言だとは分かっていても返事を返さずにはいられません。

「さぁ? 私には分かりません。たまたま召喚されたのがナオトだったんですよ。……はい。怖いですよね、驚きましたよね。自分が知らない世界に拉致同然で連れて」

 見えもしないのに笑ってどうするのか考えながら、私はまた笑いました。この世界のこの国の人達ではないナオトは生き物ではなくなった私にどこか似ている気がしました。そんな失礼なことを考えて笑ってしまいます。

「さっきも言いましたけど、この国以外も勇者を召喚しているんですよ。大丈夫、ナオトが必ず戦わないといけない訳じゃないんですよ」

 ナオトがベットに倒れ込みました。顔を覗き込むと涙で潤んだ焦げ茶の瞳と目が合った気がします。そんな訳あるはずがないのに。私は幽霊で、ナオトは人間です。普通の人間に私の姿が見れる訳がないんです。いや、魔術師達ですら私の姿は見えないんですよ。そんなの存在しないのとそう変わりないですよね。もしかしたら、私は幽霊ですらないのかもしれません。そう思うと少しだけ怖いのです。幽霊では無いのだとしたら、ここでこうやって思考を続ける私はいったい何なのでしょうか?

「俺は……どうしたらいい」

 またナオトが言葉を吐き出しました。その目元は痛々しく赤くなっています。涙は今も絶えず頬を伝い落ちます。ぐっと引き結ばれた唇はワナワナと震えていました。そんな顔をして欲しくありませんでした。

「どうもこうも、ナオトの好きにしたらいいですよ。君はこの国に呼ばれた勇者なんです。その権利があるんですよ」

 触れないのに手を伸ばして、ナオトの目元に触れようとしました。するとそれに合わせるようにナオトは目を閉じます。偶然なのに胸が暖かくなるのが分かりました。

「もしもナオトに魔王を倒す意思があるなら、褒美に何を望んでもいいと思いますよ。例えば、この国のお姫様と結婚させてくださいって」

 まだ私が生きていた頃に1度だけ読んでもらった事がある勇者とお姫様の物語を思い出してそんな事を言いました。私だって夢を見たいお年頃なんですよ。いや、幽霊になってからは嫌というほど現実がどんなものかを知っているんですけどね。

「ナオトの顔は地味ですけど、私はナオトの顔が好きですよ。この世界では珍しいからとかではなくて、こう……無表情に見えるけれど優しいさが滲み出ている。そんなナオトの顔が凄く好きです」

 あーあ、と言って私もベットに倒れました。

「もしも、私が生きていたのなら。私がナオトのお嫁さんに立候補したんですけどね……。私こう見えて幽霊になって10年なんですよ。ですから、生きてたら16歳なんです」

 多分、一目惚れですね。ナオトを一目見た時から心臓がドクドクと激しく脈打っている気がするんですよ。私の心臓はもう動かないですけどね。今もこうやって隣にいてドキドキが止まらないんです。好きだなぁって思いました。まだナオトの事全然知らないのに、むしろ見えてないから無関係ですのに。無駄と分かってて話しかけるのもナオトだからなんですよ……。

 久しぶりに泣きそうです。幽霊になったばかりの頃はわんわん泣いていました。あの時ほど人から見えないのは辛くないですけど、ナオトに見てもらえないのは胸が張り裂けそうなほど辛いのです。

 私はナオトの隣から起き上がり、ゆっくりと部屋の外へ向かいました。

「大丈夫ですよ、ナオト。もしも、もしもこのお城の人達がナオトの敵でも。私はナオトの味方ですからね」

 そう言って、笑って、私は部屋から出ました。そして、中庭の片隅で涙を流しました。この世界の誰にも見えなくたって構いません。けれど、ナオト……君に私を見てもらえないのはとてもとても悲しいのです。

 ナオトは召喚された直後の様子が嘘のように変わりました。剣を振り、魔法を操り、向かってくる騎士団の方々を倒していきます。頼りなかった細い体は少し筋肉がついて逞しくなっています。そんなナオトを姉達がほっておくはずがありませんでした。

「きゃあ! ナオトさまー」

「ナオトさま! 私、軽食を作ってきたんです」

「喉は乾いていませんか? とても美味しいお茶が入ったんですわ」

 毎日毎日、入れ代わり立ち代わり、多くの姉達がナオトの元を訪れます。そんな様子を私は空に浮いて眺めていました。

 胸がもやもやとします。姉のゴテゴテと飾りの付いた爪でナオトに触れないでほしいのです。まるで誘うように赤い口紅を塗った唇でナオトに話しかけないでほしいのです。私はナオトの何でもないのに。いえ、何にもなれないのに。それなのに嫉妬心ばかりが育っていくのです。

「すみません」

 ナオトはそんな姉達の誘いをいつも困ったような顔で断るのです。細い眉を下げて、焦げ茶の瞳を揺らして、ナオトはいつも断るのです。それが私の心を救いました。もしも、ナオトが姉達の誘いに乗ってしまったら。きっとその時私は嫉妬に心を奪われ、悪霊となってしまいます。

 ふよふよと空からナオトを眺めます。ふと、ナオトが顔を上げました。すぐに顔を赤らめて地面に視線を戻してしまいましたが……。ナオトは空が好きなのでしょうか。よく、空を見上げるのです。ナオトが空を見上げる時は大抵私が空にいるので少し嬉しくなります。

 ドキドキともう動かない心臓が飛び跳ねて動くのです。顔に熱が集まって、恥ずかしくて嬉しくて、幸せなんです。これが叶わない恋だと誰よりも1番私がわかっています。それでも、願ってしまうのですよ。ナオトと結ばれる未来を。幽霊なのに馬鹿ですよね。

 今日は騎士団の人達とナオトで王国の外の魔物退治に行くようなのです。残念ながら私はこの国の外に出ることが出来ないので、ギリギリまで見送ることにします。城下町と外を区切る大きな大きな門がゆっくりと開きます。
 ナオトは騎士団長の隣で灰色の馬に乗っています。その姿はどんな煌びやかな王子様より魅力的に私の瞳に写りました。幽霊だから他の王子は知らないんじゃないかって? いやいやいや、幽霊だからこそ知ってるんですよ。なんて言ってただ単に姉達の為に異国の王子様が来る事は多かったからなんですよね。

「私はこの国に縛られている幽霊ですから此処で待ってますね」

 聞こえないと分かっていても、声をかけずにはいられないのです。ナオトがこちらを見た様な気がしました。気のせいだって分かってますけどね。

 パッパーとトランペットの音がして、騎士団が動きます。それに合わせてナオトも馬を動かしました。

 お日様が殆ど沈んでしまった頃、騎士団とナオトが帰ってきました。目立った傷はありませんでした。しかし、ナオトのその目はどこか虚ろでした。

「流石は勇者様でしたね」

「えぇ、とても素晴らしかったです」

 騎士団の人達が口々にナオトを褒めますが、ナオトは虚ろな目のままコクリコクリと頷くだけです。一体どうしたと言うのでしょうか? 心配で私はナオトの傍に浮いていました。ナオトの体は緑や青の液体で汚れています。私はその液体を知っていました。魔物の血です。ナオトは震える手を上げて青に緑に染まった腕を見ました。その姿は召喚された当初のような弱々しい姿でした。

 私はあの日のようにナオトの部屋に行きました。あの日以来近づかなかったのですが、今日はどうもナオトが心配でしょうがないのです。部屋の中に入ると体を洗って軽装に着替えたナオトがベットに倒れていました。その体は小刻みに震えています。

「ナオト……」

 私が声を掛けるとナオトの体が跳ねたような気がしました。そんな事あるはずありません。だって、ナオトには私の姿も声を見えも届きもしないのですから。

「怖い……。命を奪うのが……怖い」

 あぁ、君は泣いているのですね。私にはどうやっても君の気持ちは分かりません。でも、その傷ついた心に寄り添いたいのです。

「私は何かの命を奪った事はありません。命は奪われてしまいましたけどね。だから、君の気持ちが分かるとは言えません。けど、それでも……私は君を支えたいのですよ……」

 倒れるナオトの隣に座って、私は触れない手をナオトの頭に乗せました。

「ごめんなさい……」

 ナオトが何に謝ったのかはすぐに察する事が出来ました。あぁ、あぁ……君はとても優しい人なのですね。

「俺の手は汚れちゃったのかな……」

 その声に私の方が泣きそうになりました。そんな事ないです、そんな事があるはずがありません。私は両手で触れないナオトの手を包みました。分かってます。これがどれだけ無駄な行為なのかは私が1番分かっています。それでも言わずにいられないのです。

「そんな事無いです! 君の手はとても優しい手です。触れられない私でも分かります! どうか……どうか自分を責めないでください。君の手は優しい救いの手なのですっ! 汚れたなんて……言わないでくださいっ……」

 勝手に涙が溢れました。頬を伝い落ちる涙はなにかに当たる前に消えていきます。いつの間にか起き上がっていたナオトが私が両手で包む自身の手を見ていました。見えてないと分かっていても恥ずかしくなった私は手を離して、部屋を出ようとしました。

「待って! 行かないでくれ!」

 そんな私を彼の声が引き止めました。私の姿は見えてないはずなのに。私は立ち止まってしまいました。その時でした。

「勿論ですわっ! 勇者様!」

 私の横を通り過ぎるのは私の一つ上の姉でした。キラキラとした金髪、クリクリとした大きな青い目、とてもとても綺麗な姉です。あぁ、ナオトはこの姉を呼び止めたのですか、そうですか。そうですよね、私はナオトには見えませんもんね。勝手に期待したのは私。自業自得なのに、とても胸が痛いのです。

 ナオトと姉が話す姿なんて見たくなくて、私は耳を塞ぎます。そして、静かにその場から居なくなりました。

 あれからナオトの所に行っていません。ナオトと姉が仲睦まじく話す姿なんて見たら、私が壊れてしまうから。見たくなくて怖くて私はナオトから逃げました。なんて身勝手な女なんでしょうね。

 ナオトが魔王討伐の旅に出たと聞きました。その道中を思って、祈りました。けして楽な道ではないのに、この世界を救うために旅立ってくださったナオトの無事を祈りました。結局、あの優しい少年を魔王討伐に出した国を王を自身を恨みました。

 この国に縛られ、幽霊となりながらも国から出られない私にはナオトの無事を祈るしかありません。あぁ、神様。どうかお願いです。あの優しく逞しい少年お守り下さい。その為に何か必要なら、私はこの魂を捧げても惜しくはありません。青白い肌の手を組み合わせ、国の教会で祈りました。ずっとずっと祈ってました。

 どれだけ日にちが経ったのでしょうか。時間感覚のない私には分かりません。それでも、ずっと祈ってました。その時でした。バタンと教会のドアが開く音がしたのです。私は後ろを見ました。その先にあった姿を見て私は動けなくなったのです。

 ゼェハァと必死に酸素を取り込む少年……いえ、もうその姿は立派な青年です。短く切られた黒髪、穏やかな光を宿す焦げ茶の瞳。細かった体は程よく筋肉がついています。

「ナオト……」

 聞こえるはずないのに見えるはずないのに、何で君は真っ直ぐと私を見つめているの。いつ帰ってきたの。君に怪我はないの。無事なの。どこも痛くないの。言いたい事は沢山ありました。でも、私の口はワナワナと震えて声を出させてくれません。

「やっと、見つけた」

 目の前のナオトが嬉しそうに笑いました。真っ直ぐと私を見て笑いました。何で、嘘ですよね。私は幽霊。君に私は見えないのに。

「ごめん。ずっと言えなかったけど、俺は元々変な力があったんだ。霊感って言われる変な力」

 真っ直ぐとナオトは私に歩み寄ってきます。れいかん……とはなんでしょうか?

「知ってたんだ、分かってたんだ。見えてたし聞こえてたんだよ。君の声が姿が」

 嘘、嘘です。だって、誰も私を見てくれない、聞いてくれないんです。私は私は幽霊だから。

「本当はお礼が言いたかった。でも、お化けに騙された事があって君を信じていいのか分からなかった」

 逃げる事も出来ず、私の足は地面に縫い止められたように動きません。

「でも、でもね。君が俺のそばに来なくなって寂しかった悲しかった。そばにいて欲しかった。だから、分かったんだよ」

 手を伸ばせば届く距離にナオトがいます。触れる事は叶わないのに、私は手を伸ばしていました。

「君になら、騙されたって構わない」

 ナオトの手が、私に、私の手に絡められます。体温の無い冷たい私の手にナオトの温かな手が絡みます。

「俺の魂を持っててくれても、俺を殺しても良い」

 ナオトの手が私の手を引いて、私はナオトの腕の中に捕えられました。何で、触れるの。温かな体温が私を包むのです。それがあまりに幸せで。

「俺は」

 もうこれ以上の幸せは無いのです。私はこれ以上幸せにならなくて構いません。

「君が好きだ」

 あぁ、あぁ。何で君はそんな事を言ってくれるんですか。これ以上私を幸せにしてどうするつもりですか。成仏しちゃいますよ。

「俺が魔王を倒したんだよ。君は俺に言ったよね。魔王を倒したら褒美に何を望んでもいいって」

 私の体に回った強い腕に少しだけ力がこもりました。

「俺は君が欲しい。君だけが欲しい」

 焦げ茶の瞳の中に戸惑いの表情を浮かべる私がいます。

「わ……」

 包み込まれているのに、真っ直ぐと見つめられているのに、私はそれでも問いたくなりました。

「私が……見えているのですか?」

 ナオトが穏やかに微笑みます。

「うん、ずっとずっと見えていたよ」

 それは私の望んだ答えでした。それは私が求めた答えでした。良いんですか。私は幸せになって良いんですか。君に答えて良いんですか。だって、私は幽霊で。でも、それでも。

「私も……私も……一目見た時から……ずっと、ずっとっ! ……ナオトをお慕いしておりました」

 涙が溢れて、止まらないのです。幸せが溢れて、しょうがないのです。私は幽霊でナオトの何にもなれないのに、私はナオトが好きで好きでしょうがないのです。

 今まで何度も生きていればと思いました。生きたかったと思いました。でも、今に勝る思いはないでしょう。今この時ほど生きていればと生きたかったと思った事は無いでしょう。

「君と生きたかったっ!!」

 私がそう叫ぶと、ナオトは強く強く私を抱きしめました。私はそれに応えるようにナオトに腕を回しました。今まで触れることが出来なかったナオトに触れることが出来ました。冷たい手のひらでナオトの体温を感じました。

 その温かさにまた涙が溢れました。

「俺も……俺も君と生きたい」

 コツンとナオトが額を合わせてきました。涙で歪んだ焦げ茶の瞳がキラキラとしていてとても綺麗です。

「君の名前を教えて」

 そこで私はナオトに名乗っていない事に気が付きました。自身がこのフォンデルの王女とは名乗りましたが、名前自体は名乗ってません。もう呼ばれる事なんて無いと思っていましたから。

「リーゼル……リーゼルよ」

「リーゼル……」

 彼に名前を呼ばれると体の奥が熱くなります。好きという想いが溢れて溢れて……もう、どうしようもないのです。

「リーゼル、俺が君をこの国から連出すから……だから、俺と一緒に来てくれ」

 真っ直ぐと見つめられて、真剣な声でそう言われて、誰が断れると言うのでしょうか。

「勿論です!」

 幸せです。私は幸せです。もうこの世に未練がない位幸せです。いえ、まだ未練はあります。叶うなら……もしまだ私の願いが叶うなら……ずっとずっとこの先もナオトと共に居たい。
幸せなお話(`・ω・´)

この後は二人仲良く仲睦まじく過ごすんじゃないですかね
場所は現実世界でもいいし、このまま異世界でもいいなぁ……

珍しく文字数が一万字近くまでいきました(´∀`)

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ