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ファーストコ・ンタクト ねねと燐

 信長が尾張の中の反乱分子の中核とも言える弟 信行を殺害し、反乱の根を取り除くと、信行の家臣たちも、あっさりと信長の下にまとまった。師はそんな信行の家臣たちの態度が気に入らないらしく、「信行がいた時は、信行を担ぎ上げていたくせに、信行が殺されると、反抗の気概も見せず、責任も取らずとは、男としてあるまじき振る舞い。信長の力が衰えれば、同じ事を繰り返すに違いない。

 これでは、今川との戦いはやはり、今川の勝利に終わるであろう」と、吐き捨てるように言っていた。


 そして、その現実がすぐそこまで迫って来ていた。

 今川が軍を進めてくると言う話は、尾張中に広まり、町の人々を動揺させていた。


「あのうつけ殿では勝てまい」

「数が違い過ぎる。うつけ殿どころか、将軍様であったとして、これでは勝てまい」


と言った声が聞こえて来て、人々には悲壮感が漂っている。

 まあ、中には少しにんまり顔で、「まこと、尾張も終わりじゃのう」と、自分でうまい事言ったと思っている呑気な男もいたけど。


 そして、勝てない戦。信長は籠城するに違いないと言うのが町の声であって、それを裏付けるかのように、サルが町の中を駆けずり回り、米やら味噌やらを買いまくり、城の中に運び込んでいる。


「どけ、どけ、どけぇ。

 わしは忙しいんじゃ。できるだけ多くの米や味噌を城に運び込まねば、ならんのじゃ。

 道を開けろ!」


 きっと、今川の間者もそのサルの姿を見て、籠城と確信しているはず。


「サルから放たれる気に、偽りの色は見えず、籠城で決まりでしょうか?」


 サルから放たれる気に、偽りの色を感じない私が、師にたずねた。


「分からぬ。

 籠城では勝てぬ。あの信長が、そのような凡庸な考えを抱くであろうか?

 それとも、藤吉郎は何も真実を聞かされておらぬだけやも知れぬ。

 いや、あの男、不思議な気を纏っておるところから言って、もしやすると、我々をも欺けるのやも知れぬ」

「そう言えば、あのねねは、尾張も終わりだと言う者たちに、この戦、信長の勝利と言い返し続けているらしいですね」

「ただの願望ともとれるが、あの娘も妙な気を纏っている。

 燐はねねと接触してみてくれぬか。

 私は今川の動きを探ってくる」


 師はそう言って、駿府に向かい、今、私はねねを視界に捉える場所で、彼女の様子を観察している。



 ねねは浅野と言うあまり大した事のない家の養女で、薄そうな板で造られたちょっと古めかしい彼女の家の前を行ったり来たりと、不安なのか、落ち着きのない行動を取っている。まあ、行きかうこの辺りの住民であるそう身分が高くない信長の家臣たち、みなそんな風なのだから、子供も敏感にそれを感じ取っていても、不思議ではない。


 そんな不安げな態度の少女と親しくなるために、用意したものが私の腕の中にある。

 それに目を向けると、それも不安げな瞳で私を見て、声を上げた。


「にゃぁぁぁ」


 そう、その辺りで捕まえた猫ちゃんだ。大丈夫だよ。と言う意味で、微笑みを向けると、地面に下ろした。


「行きな!」


 私の言葉を理解したかのように、速足で駆け出して、ねねの方に向かい始めた。


「くぅちゃん、待って」


 そう言って、手放した猫ちゃんを少し遅れてから追いかけ始めた。その声にねねの視線が、私に向いたのを確認した私は、ねねに叫んだ。


「お願い、くぅちゃんを、その猫を捕まえて!!」


 私の願いに、ねねが素直に反応し、くぅちゃんの前に立ちはだかろうとした。でも、俊敏な猫ちゃんを前に立ちはだかったくらいで、一人の少女に捕まえられる訳がない。

 スッと進路を変えて、ねねの横を猫ちゃんはすり抜けると、さらに速度を上げて遠ざかっていく。それをねねが追って行くけど、距離は開くばかりで、やがてねねは諦めて立ち止まった。

 そんなねねの横をすり抜けて、猫ちゃんを追うふりをしながら、私もねねの少し先で立ち止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 大きく息をして、体力の限界を装っていると、ねねが横にやって来た。


「ごめんね。捕まえられなくて」

「ううん。ありがとう。

 でも、猫も不安で、尾張から逃げたいのかな?」


 遠回しに、今川侵攻の話題を振ってみると、ねねから私に向けられた気は、蔑みの色を帯びていた。猫にそんな事分かる訳もないのに、あんた、ばかぁ? 的な風だ。


「そんな訳ないか」


 ねねの気に押された訳じゃないけど、そう言って繕ってみる。


「そう言えば、木下殿がお米や味噌を買いまくってて、籠城らしいですね。

 籠る場所がある人はいいんだけど」


 心配げな表情で、ねねに話を振ってみる。


「籠城で勝てる訳ないじゃない」


 私より年下のはずなので、どっちが年下なのか分からないような口調だ。


「でもね。

 兵の数が違い過ぎるし」

「いい!」


 私の言葉に、きつい顔つきと、きつい口調で、そう言いながら、人差し指で私をさした。


「何も、今川の兵を全滅させる必要はないのよ。

 義元の首さえとれば、勝てるのっ!」


 そう言いながら、私に向けていた腕をぶんぶん振った。威張りん坊のお子ちゃまなのか? そんな風だけど、言っている事は間違ってはいない。


「どうやって?」

「そんな事、言える訳ないじゃない」

「言えないだけ?

 考えはあるの?」

「あるわよ」


 これも確かだ。策が本当にあったとしても、得体の知れない相手に言ったのでは、手の内を敵に明かすようなもの。そんな警戒をしているねねから、その策を吐かせるとしたら、挑発くらいだろう。


「そうかなぁ。

 だって、あのうつけの殿が義元にの首を取れる訳ないと思うんだけどなぁ」

「信長様はうつけじゃないっ!」


 私の挑発に乗ったかのように強い口調で言った割には、ちょっと不安げな気をねねが放っているところから言って、信じ切れていないらしい。多くの人は本心を突かれると、逆上する。逆上して、冷静な判断力を失わせれば、こちらのもの。


「でも、あなたも、本心ではそう思ってないんでしょ?

 最近ではまともな格好しているけど、道三と会う前は、全くの大うつけだったんだもんね」


 ねねが小さくぷるぷると震えているところから言って、かなり冷静さを失っているはず。もうひと押し。そんな気分で、信長の致命的に愚かな部分を指摘する事にした。


「そうそう。あの頃って、男の人のお○んち○んを描いた柄の服を着てるし、しかも、上下逆にしてるし」


 私の言葉にねねが固まっている事に気づいた。一番痛いところを突いたのかと思った瞬間、ねねは意外な事に、ぷっと噴出した。


「逆?

 逆? 逆なのかぁ。ははははは」


 ねねのそれは完全に私をばかにしたような笑いだ。そうだった。思い出した。あの図柄には深い意味があると師から言われたのだった。いまだに私はその意味を理解し得ていないと言うのに、私よりもかなり年下のねねは、理解しているらしい。


「ぎゃ、ぎゃ、逆の意味知ってるの?」


 私の方が動揺激しく、どもってしまった。


「当たり前じゃない。

 あなた、本当に知らないの?」


 年下のねねに、そう言われて癪だと言うのに、うろたえ気味になってしまっていた私はついつい頷き返してしまっていた。


「教えて!」


 この際だ。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。そんな気分で、ねねに教えを乞う事にした。


「あなた、女の子ね!」


 ねねはちょっと胸を逸らして威張り気味だ。年下の子供に、女の子呼ばわりはちょっと癪だ。もう私は大人なんだから。とは言え、ねねの機嫌を損ねないよう、黙っていると、ねねが続けた。


「じゃあ、なぞなぞで、教えてあげる。

 胎児が赤ちゃんになるのに、十月十日かかるけど、女の子が女になるのはなんつきかかるでしょうか?」

「はい?」


 ちょっと、ふふん的な顔つきで、しばらく私を見つめていたかと思うと、体を反転させて、立ち去って行った。



と言う訳で、結局、あの上下が逆の謎は解けず、新たな謎をもらってしまったと、師に報告すると、師は大笑いしただけで、その答えは教えてはくれなかった。


 そして、ついに今川の軍勢は隣国の三河に到達した。

ねねが出したなぞなぞの答え。

もし、気になられたなら、答えはここにあります。

私の作品「小悪魔な妹は最強剣士……かも」 26話「あかね、女の勘?」

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