表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

信長と光秀

 官兵衛の話から言って、光秀謀反の時も迫っている。私の監視は必然的に光秀だけに向けられるようになった。

 その光秀はと言うと、彼の持ち場は近畿であり、もはや敵対勢力が無い事から、安土にやって来る家康の饗応役を担っていた。

 光秀の邸宅に運び込まれる贅を凝らした数多の食材。

 多くの人々がその準備に追われていて、光秀も自らその場で指図をする熱心さだ。

  

 そんな光秀の奮闘もあり、安土にやって来た徳川家康と穴山梅雪への饗応の初日は、何事もなく終了した。

 この真面目に、そして熱心に働く光秀が、主である信長を討つと言う考えを密かに抱いているとなると、人と言う者は上辺の働きだけでは信じる事などできそうにない。


 そして、もう一つの疑問が私の頭に浮かんだ。

 そもそも、どうして饗応役をやっている光秀が中国に向かう事になるのか?

 その答えはすぐに出た。


 新鮮な魚で御馳走をと光秀は考えたのかも知れなかったけど、今は気温は高く、魚のいたみも早い時期であり、光秀の邸宅に立ち込める魚の臭いにはすさまじいものがあった。

 信長の所まで届くとは思えなかったけど、風向きだろうか? 信長が急遽見分にやって来た。その顔つきには怒りが浮かんでいて、今すぐにでも癇癪を起しそうだった。


「上様、これは」


 慌てて、光秀が飛んでやって来た。その表情には怯えた感があり、信長に怒鳴られる気配を感じ取っているらしかった。


「光秀ぇぇ。これは何事じゃ」

「はっ! 魚料理などを用意する所存で」

「腐っておるのではないのか?

 このような物を我が弟に食べさす訳にはいかぬ。

 おぬしはもうよい。

 饗応役は他の者に任せる故、おぬしは今すぐ国元に戻り、軍勢を整え、サルの援軍として中国へ迎え。

 分かったか!」

「し、し、しかし」

「わが命に従えぬのかぁ。

 蘭丸、こやつの頭を叩いてやれ!」

「はっ!」


 信長の背後に控えていた森蘭丸が進み出て、光秀の頭を懐に差していた扇子で叩き始めた。信長からではなく、小姓の蘭丸に頭を叩かれると言う恥辱。これで、光秀の気持ちは固まったに違いない。そう私は感じ取っていた。


「上様、申し訳ありません。

 申し訳ありません」

「分かったなら、さっさとここを立ち去れ!」


 慌てて屋敷の奥に引き下がって行く光秀を見定めると、信長は踵を返し立ち去って行った。



 信長が去った後、光秀は怒りを抑えきれなかったのか、用意していた食材全てを屋敷の中にあった池に捨てさせた。暑い時期だけに、それらが腐臭を放つのに時間は要さなかった。周囲に広がるその異様な臭いが、安土で何かが起こった事を周囲に知らしめていた。


 

 私は光秀の動きをそのまま探り続けていた。

 家臣たちに国元に引き上げる指示を出したかと思うと、その慌ただしさの中を一人抜け出し、安土の天守に向かい始めた。

 なぜに天守?

 私は自分の気を殺しながら、光秀の後をつけた。

 光秀がやって来た場所は、五層天守の安土城の一室で、そこには信長が一人で待っていた。


 安土に立ち込める魚の臭い。これを失態として、先ほど折檻した信長の前に、同じく一人でやって来た光秀。

 何を考えているのか?

 万が一の時には、光秀を斬る。そんな思いを抱きながら、私は気を殺し、天井裏で様子を探った。


「苦労であったな」

「はっ。これも上様のため」


 二人の意外な会話に、私の思考はその答えを見つけられずにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ