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信長 銃撃事件!

 岐阜に戻る信長を待ち伏せして暗殺しようとした者たちと信長の配下の者たちの戦いは始まった。とは言え、所詮は多勢に無勢。少数による暗殺は発見されないからこそ成功する訳であって、発見された時点で彼らの敗北は決まっている。それだけに、馬上の信長は、私との話を止めはしたものの、緊張する事も無く、状況を見定めようと、馬を止める訳でもなく、先で起こっている戦いなど無いかのように、悠然と歩を進めている。

 やがて、戦い合っている男たちの喧騒は終わった。

 が、その事に私は危機を感じた。まだ、敵らしき敵意を放つ気が残っているのだ。

 身を潜めている者たちを征伐しに向かった男たちは、その者を見逃していると言う事だ。


「終わったようじゃな」

「いえ。まだ一人」


 信長にそう返しながら、先の木々に目を向けた。

 太陽の光を背にした木々の幹の先。眩しい木漏れ日と、葉っぱが作り出す影が織りなす強烈なまでの白と黒だけの世界。そこに人が潜んでいると知っていなければ、その姿を見つけ出す事はできやしない条件。いえ、知っていても、その姿を視認するのは容易ではない。

 きっと、信長の配下の者たちが倒した者たちは、地上で信長の軍勢の気を引き付けるための囮であって、樹上の男が本命。としたら、その得物は種子島。

 信長がさっき名付けた、ちょっと不気味な名前の忍術 玉袋の発動に備え、陣笠に手をかける。


「信長様、まだ一人樹上で種子島を構えた者が、どこかに潜んでおります」

「ふん!」


 私の言葉を聞いた信長は、なぜだか鼻で笑うような仕草を見せた。

 バン!

 信長が鼻で笑ったのとほぼ同時に私は、樹上の男の姿を捉える事ができた。そして、その時、男も種子島の引き鉄を引いた。陣笠を取ると、種子島が放った鉛玉と信長の軸線上に差し出した。幾重にも折りたたんでいた特別な紙が広がり何重もの紙の壁を作り出す。

 一枚目の紙に鉛玉が当たり、取り付けていた陣笠から紙が外れ、そのまま二枚目の紙に向かう。

 二枚目も鉛玉が当たると陣笠から外れ、一枚目の紙と一緒に三枚目に向かう。

 一瞬の出来事のはずなのに、なぜだかその光景は私の視界の中で、ゆっくりと進んで行った。

 止めれるはず。その鉛玉は最後の紙に命中すると、最後の紙も陣笠から外し、多くの紙を引き連れながら、信長を目指し続けた。

 コン!

 そんな音を立て、何重もの紙に包まれた鉛玉は信長の甲冑に当たると、地上に落下した。


「信長様!」


 私の術は中途半端だったのか、種子島の鉛玉を完全に止める事はできなかったらしい。信長の怪我は?

 心配で少し慌て気味の私に対し、信長は落ち着いた口調で答えた。


「このわしが、種子島ごときでやられる訳はあるまい」

「捕らえてまいります」


 この失態を挽回すべく、男を捉えようとする私を信長は制止した。


「わっぱ、待て」


 私は立ち止まり、振り返って、続く言葉を待った。


「捕まえずともよい。

 奴が何者か、そして背後にいるのは何者かを調べてまいれ」

「はい!」


 そう言うと、信長を守ろうと周りに集まって来た配下の者たちの輪をくぐり抜け、種子島を放った男の後を追った。




 暗殺を謀り失敗した場合に備えて、何重ものわなを張りめぐらしていなかったのか、それとも信長の警戒が高まり、手出しできなかったのかは知らないけど、あれから無事信長は岐阜に帰着した。

 そして、私は信長を狙撃した男の正体を掴み、その報告のため、師と共に岐阜城の広間で信長と対面していた。


「わっぱ。

 分かった事を申せ」


 私たちの前に現れ、一段高い場所に腰を据えるなり、私たちに向けた信長の第一声はそれだった。家臣でもない私たちに労いも無ければ、挨拶すらもない。話は用件だけでいいと言う事なんだろう。効率重視の信長らしいとしか言いようがない。


「はい。

 あの者は杉谷善重坊なる甲賀者で、六角の依頼を受けての事のようです」

「六角めは甲賀に移りおったからのう。

 して、その善重坊とやらは、今はどこに潜んでおる?」

「近江に身を潜めております」

「ふむ。どうしてやろうか?」


 そう言って、顎のあたりをさする信長は、善重坊の処罰に思いをはせているらしかったが、すぐに私に視線を向けなおした。


「まあ、そんな素破一人、いつでもひねり潰せるが、此度の事は六角の下、甲賀衆としての行動か?」

「それにつきましては」


 信長の言葉に、横にいた師が言葉を挟んできた。


「甲賀だけでなく、伊賀者も信長様を狙っておるようです。

 こちらの背後にいる者まだつかめていませんが」


 越前で遭遇した謎の忍びは、師の調査の結果、伊賀者だと分かったらしかった。


「うーむ。

 伊賀衆と甲賀衆を敵に回して、ひねり潰す余裕は無いのぅ」


 信長は悩まし気な顔で、そう言った。周辺に敵が控えているだけでなく、北近江に浅井がいる状況から言って、伊賀侵攻に回せる兵力は無いのは、私でも理解できる。


「そこで、ですが。

 我々に伊賀と甲賀に信長様の命の下、信長様に付くよう交渉をさせていただけませんでしょうか?」

「ほう」


 それだけ言って、再び信長が思案気な顔をした。けど、それもほんの一瞬だった。すくっと立ち上がった。


「その方たちに任せる」


 その一言を言い終えると、私たちに背を向け、信長は去って行った。



 その日から、師と私は伊賀衆、甲賀衆と交渉に当たった。しかし、二つの勢力とも、自分たちの力を信じ切っていて、私たちの言葉に耳を貸さなかった。


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