岐阜への道<イラスト付き!>
「滅びの国の王子と魔獣」の結城さんよりいただきました燐ちゃんのイラスト付きです!!
イラストがあるとなんだか、作品の出来がアップした気が!!
えっ? イラストよくても、作品はいつもの出来ですか?? それはそうですよね。
イラストに負けないように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
私を襲った謎の忍びたちの正体は、分からずじまいだった。
そして、サルの方はと言うと、退却が消耗戦に陥り、兵力が圧倒的に不利なサルは限界を迎えそうになっていた。そこで、師が亡き信長の父 信秀を名乗った声分身の術で、先行して退却していた佐々を惑わし、その軍勢の一部をサルの援軍に回させた。
その効果もあって、命からがらではあったけど、サルは殿の任務を果たした。私たちの手助けがありはしたけど、ねねの言うとおり、サルは殿を無事勤め上げたのだ。この子の言う策の通り物事をすすめれば、全てはうまくいくのかも知れない。不思議な子だ。
真っ先駆けて、越前から退却した信長も無事、京にたどり着ていた。忍びが狙ったのは、信長の命。師はそう考えていたし、私もそれ以外は考えられないと思っていた。
正面から力でぶつかって来る大名なんかよりも、忍びが敵に回るとなると、気を読むことができる信長とは言え、かなり厄介な相手のはず。忍びの中に、師のように完全に気を封じる事ができる者がいてもおかしくはない。そんな相手だと、なおさらだ。
そんな事を警戒してか、師は私に信長の警護を命じると共に、越前で私たちの前に現れた忍びの正体を探るために、旅に出た。
信長の警護を命じられた私は、信長がいる書院に接する庭園の片隅で、ひっそりと身を潜めて、辺りに注意を払う。信長が私の存在に気づいているのかどうかは分からないけど、とりあえず、信長は私に近づいてきたりはしていない。そして、怪しげな者も近づいては来ていない。京の町中の寺院、それも信長の周囲には私のような者ではなく、信長自身の直臣の警護の者が張り付いているので、手を出してこないのかも知れなかった。
だけど、信長はいつまでも京に留まる訳にはいかない。
一か月ほどすると、信長は岐阜を目指して京を発った。
信長の軍勢は、浅井の勢力圏を迂回するため、伊勢に抜ける経路を進んでいた。
当然、私は信長の警護のため、足軽の装束に身を包み、軍勢の中に紛れ込んでいた。
賑やかさを取り戻した京の町を離れるにつれ、辺りの景色は鄙びていく。やがて、道を両側から木々が挟み込むように立ち並ぶ細い街道に軍勢は足を踏み入れた。
太陽の日差しが生い茂る木々により遮られると、軍勢を包み込む空気はほんの少し涼し気になった。小鳥のさえずりを耳にしながら、歩を進めていく。
どれほど歩いただろうか。信長の軍勢以外の道行く人の姿を見かけなくなった頃だった。私は、その先に何人もの人の気を感じた。それは左右に分かれており、放つ気に緊張と敵意を混じらせているところから言って、明らかに信長の軍勢に敵意を抱いた者たちである。
元々信長からそう遠くないところに陣取っていたけど、信長に告げるため、隊列を離れ、足早に信長の下に向かう。
「何をしておる!」
軍列を乱す私の行動に、足軽たちを率いる名も知れぬ男は、私に向けて怒声を上げると、私の前に立ちはだかろうとした。
「かまわぬ」
男の行動に制止をかけたのは、信長だった。
馬上から、ちらりとだけ顔を向け、男にそう言い終えると、私に向かって言葉を続けた。
「わっぱ。何事じゃ」
少し離れた先にいる馬上の信長からは、陣笠を被っている私の顔をはっきりと視認できないはずだと言うのに、私だと見抜いていると言う事は、やはり私の気を感じ取っていたのだろう。まだ、私は未熟と言うことらしい。
「はい。
この先に、不穏な輩が潜んでいます」
進み続ける信長の下に駆け寄ると、私はそう告げた。
「ほう。
このわしを狙うか」
馬上の信長は、悠然としたままだ。
「して、人数と得物は分かるか?」
「道の両側に、それぞれ十名ほど。
放つ気からして、忍と思われ、その武具はおそらく苦無。
ただ、種子島を持つ者もいるやも知れませぬ」
「なるほどのぅ。
正面切っての戦いではなく、暗殺を謀ろうと言う訳か」
さっきまでほぼ無色だった信長の気に、怒りの色が混じり始めたのを私は感じた。
待ち伏せする敵に怯えの色や警戒の色を全く見せず、怒りの色だけを見せる信長とは、どう言う者なのだろうかと、未だにこの男には疑問を抱かずにはいられない。
「今の話、聞いておったであろう。
行け!」
信長がそう言うと、近くに控えていた男が、何人もの男たちを率いて駆け出して行った。この先で、信長を待ち伏せしている男たちを倒しに行ったのであろう。
男たちの後ろ姿を見ながら、信長が私に言った。
「奴らの中に種子島を持った者がおるやもと言っておったが、その方、種子島を防ぐ技は持っておるのか?」
「一発だけなら」
「ほう。鉄さえ貫くあの種子島を防ぐとは、面白い事を言うのぅ。
さすが、日ノ本一と自ら豪語するだけの事はある」
そう言いながら、にんまり顔を向ける信長は、きっとその技の説明を私に求めているに違いなかった。
「種子島が放つ鉛玉の勢いを弱めればよいのです。
粗めの布を芯にして作り上げた丈夫な、そして大きな紙を幾重にも備えます。
その紙を固定していたならば、容易に鉛玉は貫通するでしょうけど、ただ一点でぶら下げた状態にしておくと、その紙は鉛玉の勢いで、止めていた一点から外れ、玉を包み込んだ状態で進んで行こうとします。すると紙は空気の抵抗にあい、その中に捉えた鉛玉の速度を弱めます。これを何重にも備える事で、鉛玉の威力を奪います」
「そのようなもので、まことに種子島を防ぐことができるのか?」
「剛に剛で立ち向かうには、より強力な剛が必要となります。
されど、性質的に全く逆の柔を用いれば、剛の力を相殺できると言うものです」
「なるほどのう。
して、その技の名は何という?」
信長の質問に、私はたじろいでしまった。それは、種子島が海の向こうにある異国より伝来してから、師が編み出した技であって、師はそれに名をつけていなかった。いや、付けているのかもしれないけど、私は聞かされていなかった。
「名も無いのか?
ならば、わたしが付けてやろう。
忍術 玉袋。どうじゃ?」
にんまり顔で信長が言った。ちょっと口元が不自然で、何やら意味ありげだけど、よく分からない。
「ぷっ!」
近くの男たちが、吹き出したところから言って、やはり何か裏に意味があるのかも知れないけど、私には意味が分からず、小首を傾げてしまった。
「玉袋を知らぬのか?」
はい。と本当の事を答えていいのか、知ったかぶりをした方がよいのか分からず、答えられずにいると、信長が言葉を続けた。
「見たことはあるであろう?
おぬしの師の股間にもついておるであろう」
よく裸で部屋の中を歩いている師の股間には、長いものがぶらぶらしている。それと一緒にたしかにぶらさがっている袋のようなものがあるのは知っていたけど……。
「あの中に玉が?」
自然と出てしまった言葉に、信長が吹きだした。
「ぷっ!
わっはっはっは。おぬしはそのような事も知らなかったのか?
もしやすると、わっぱは女ではなく、女の子であったか」
ずっと、その謎を解こうとして、忘れてしまっていた。そう女の子と女の違いはなんなのか?
「女の子と女は何が違うのですかっ?」
相手が信長だと言うのに、衝動的にたずねてしまった。
「それはのぅ」
信長がそこまで言った時、軍列の先の方で男の悲鳴が聞こえ始めてきたため、信長は言葉を終えて、視線を軍列の前に戻した。
潜んでいた男たちと、信長の部下の間で戦いが始まったらしかった。




