プロローグ
「ディーネなんて、そんな人……そんな死んだ人なんて、どうでもいいじゃないですか!」
彼女がそう叫んだ瞬間、俺の視界は真っ赤に染まった。
拳が飛ぶ。無意識の内に振るわれたそれは、軽い彼女の身体を数メートルも吹き飛ばし、地面へと叩きつけた。
視界が戻る。
知らず、俺の息は上がっていた。ここで追撃を食らわせるほど我を忘れてはいないが、激しい怒りを感じていることには違いなかった。
「……お前に、何がわかる」
唸るような声。感情が抑えきれない。地べたで涙を流すアミカを、それでも俺は睨みつけずにはいられなかった。
「ロゼさん、だっ、て……、なにも、なんにも、わかってない、です……」
しゃくりあげながら、アミカは話す。
「ロゼさん。私じゃ……私じゃだめですか? ずっとお傍にいます。なんだってします。強くだってなります。今は無理でも、がんばったらディーネさんより強くなれるかもしれないでしょう? ロゼさんがしたいこと、ぜんぶできるように、私、がんばりますから。だから、だから……」
「俺がしたいことは、ディーネを生き返らせることだ」
「どうして……?」
「ディーネは、俺の……俺にとっての、大切な存在なんだ」
この九年間、いつもディーネが傍にいた。どちらかが媚びるわけでもなく、従えるでもなく、ただお互いがお互いを必要とする形で、俺たちはずっと一緒だった。
「あいつがいない人生なんて、俺には考えられない」
「そんなの、嘘です! ロゼさんはロゼさんです! ディーネさんがいなくても、ロゼさんは大丈夫です!」
「それなら尚更、俺は前に進む」
ディーネがいなくても生きていける自分なんて、そんなのは悲しすぎる。そうなるぐらいなら死にたいとさえ、俺は思う。
「ロゼさん……」
アミカが立ち上がった。
ゆっくりと歩き、俺に近づいてくる。
二歩の距離をおいて立ち止まると、彼女はその両腕を広げた。
「私を、見てください」
その顔は、悲しみと、切なさで満ちていた。
「ロゼさん……」
その濡れた瞳を、俺に向けて。
彼女は、言う。
「ロゼさんは、私のことをどう思いますか?」