昼食バトル
よっしゃ、三人の買い物も殆ど終わった。
後はこまごまとしたものを百円ショップでまとめて買えばいいな。
あいつらを連れて行くと煩そうだし、先に昼食に行っていてもらおうか
それに、あいつらに内緒の買い物もしたいし。
ということでキミ達、一人千円づつ渡しますから、『フードコート』で先に好きなものを食べてらっしゃい。
おうおう、仲良く三人で歩いていくなあ。正統派美少女と合法ロリとセクシー美女、お客の少ない田舎のショッピングモールでもあの三人は映えるぜ。
全員年齢を二十歳にしたのは失敗だったかな。
とりあえず百円ショップでタオルやらふきんやら、それに三人に持たせる筆記用具など、これから必要となるであろうこまごまとしたものをまとめて買う。
で、一通りそろえたら、今度はあらかじめ目星をつけておいた食器店へ。
アリスはこれ、小町はこれ、エミリアはこれだな。
そして次の店。
小町が両手に荷物を抱えているのをみて、思いついたお店。
さすがにこの辺の商品は田舎のショッピングモールでも結構いいお値段になっている。
うは、貯金が湯水のように消えて行くぜ。
そんなこんなで最後の買い物も終了。
三人にばれないように、こそこそっと車に荷物を積んでおく。
さてっと、彼女たちの様子はどうかな。まだ食べ終わってはいないと思うけど、最悪の場合も三人にソフトクリームでも奢って、俺が昼食を食べ終わるのを待っててもらえばいいしな。
ん？
何やってんだあいつら？ 何で少ないお客さん達の注目を集めているのよ。
「フードコートと言えば『ハンバーガー』に決まっていますわ。そして『ご一緒にポテトもいかがですか？』と訪ねてくる店員さんに笑顔で『結構です』とお断りするまでが様式美ですわ！」
アリス、それを様式美とまで言っちゃいけないよ。 まあ、俺もポテトは食べないけどさ。
「日本人ならここは『さぬきうどん』なの。一番安い『かけうどん』を注文して、周りが呆れるほどの『おねぎ』と『天かす』を乗っけて、ぽろぽろとトレイにおねぎと天かすがこぼれるのも気にしないで、席に持ってくるまでが様式美なの！」
小町は恥ずかしいことを恥ずかしげもなく堂々と宣言しているなあ。まあ俺もネギはたっぷり入れる派だけどさ。
「お前ら青いねえ。ここは『牛丼』に決まっているだろ！ それで店員さんに『つゆだく』をお願いしてから、七味唐辛子をこれでもかとかけて、最後に紅ショウガをたっぷり乗せて、丼を紅に染め上げるまでが様式美だよ！」
店員さんもあんなセクシー美女が『つゆだく』とか囁いてきたら、だくだくしちまうな。確かに牛丼はつゆだくに限るけどさ。
「ハンバーガーです！」
「おうどんですの！」
「牛丼に決まっているだろ！」
何熱くなってんだあいつら。
「小町、エミリア、たまには年長者の言うことを聞きなさい！」
「そうやって年齢を楯にするのは横暴だと思うの。ここは子供の意見を採用すべきだと思うの！」
「黙らっしゃい合法ロリが！ アリスもスリーサイズがあたしを上回ってからそう言う口をききな！」
……。
そろそろやばいかな。しかしあいつら、俺がいないとこんなに攻撃的なのね。
さて、それじゃあ、しらじらしく登場してみるか。
「ようお前ら、昼食はもうすんだのか」
まずは満面の笑顔でアリス。
「お待ちしておりましたわゲンボクちゃん。すぐにハンバーガーを注文してまいりますわね！」
次にかしげる小首があざとい小町。
「ゲンボクちゃん、おうどんを取ってきてあげるの。おねぎと天かす沢山だよね！」
最後はうっふんあっはんなエミリア。
「ちょっと待っていてくれるかいゲンボクちゃん、今おつゆたっぷりの牛丼を持ってきてあげるからさ！」
……。
「ハンバーガーですっ！」
「おうどんなのっ！」
「牛丼だよっ！」
……。
互いに睨みあうなよお前ら。ちょっと怖いよ。他のお客さんもドン引きだよ。
いいじゃん、それぞれが好きなものを食べればさ。
「私はゲンボクちゃんと同じメニューがいいのです！」
「ゲンボクちゃんと同じものを小町も食べるの！」
「当然ゲンボクちゃんと同じものを選ぶに決まっているだろ！」
……。
じゃあ、君達は何でもいいの？
頷く三人。
そっか。
君達、それぞれ俺に気を使ってくれていたのね。
俺が今日何を食べるのだろうと予想してくれていたのね。
……。
よしわかった。それじゃあ今日は、みんなであれを食べよう。
ということで、今日の昼食は、『先割れスプーンで食べる和風とんこつラーメン』となりました。
当然デザート付だ。
「私はベリークリームにしておこうかな」
「小町はチョコクリームなの」
「それじゃあ、あたしはメロンクリームだね」
そこは違ってもいいのかお前ら。じゃあ俺はクリームぜんざいにしておこうか。
そして食後。
「小町のチョコクリームもおいしかったですね」
「エミリアのメロンクリームもおいしかったの」
「アリスのベリークリームもおいしかったね」
……。
俺のクリームぜんざいへの感想がなかったことになっているのは、まだこいつらが『お子ちゃま舌』だということにしておこう。
それじゃあ帰ろうか。爺さん婆さんも待っているだろうし。
って、あれ？
「どうしたのゲンボクちゃん？」
いえね、ちょっと愛車の調子が悪いんだ。
何とかエンジンはかかったけれど、バッテリーかプラグか、どこかに不具合が出ているようだな。
いつもならショッピングモール近くのガソリンスタンド兼整備工場で見てもらうんだが、爺さん婆さんのことを考えると、ここは無理してでも一回村に帰るべきか……。
ん？ どうしたアリス。
「なら、この車を『付喪』になさったらいかがですか？」
どういうこと？
「この車を付喪にすれば、分身を用意させることができますよ。私たちはそれに乗って帰ればいいのです」
分身って、『大人のお人形』や、『やかん』や、『亀の子たわし』ならわかるけれど、自動車も可能なの？
「何を当たり前のことをおっしゃっているのですかゲンボクちゃん。ちなみに分身は胞子力エネルギーで動きますから、ガソリン代もかかりませんよ」
なんだよその至れり尽くせりは。
それじゃさっそくトライしてみるか。
「あ、待ってください。荷物や小町の冷凍庫などは、積み替えが必要ですから、一旦全部降ろしてください」
わかったアリス。それじゃ小町、エミリア、急いで荷物を下ろすぞ！
よし、準備完了。
「そうしましたら、次は穴とイメージです」
自動車の穴といえばここに決まっている。そう、給油口。うへえ、ガソリンタンクを相手にちんこを突っ込むのか。いろいろと危なそうだな。
それからイメージか。
うーん。
美少女、合法ロリ、セクシー美女……。
そうきたら次はこれだ！
今回はアリスの助けを借りずに、自力で行くぜ！
どどーん。
「あ、よろしく、ご主人様……」
目の前にはプールの塩素で色が抜けたかのような赤毛をショートに切りそろえ、きりっとした瞳に通った鼻筋、中性的な魅力を持つ唇。
ざっくりとしたホワイトシャツに同じく白のミニスカート。さらにはスパッツ。足元はスニーカー。
ちなみにスパッツと白のスポーツショーツは膝まで降りている。
「ところでボクは何者なの？」
よっしゃ！ ボクっこキター！
「自動車の付喪よ、詳しい話は後です。まずは分身を生みなさい」
「わかったよきれいなお姉さん！」
ぽん！
こうして目の前に愛車が現れる。って、これ新車同様だぞ。
「それじゃゲンボクちゃん、小町、エミリア、荷物を積み込んでくださいね」
頼りになるなアリスは。
ところでボクっこちゃんは、とりあえずショーツとスパッツを上げなさい。
