胡蝶の夢
夢を見ていた。
俺は殴られていた。
いつものように……。
俺の人生は『暴力』に支配されていた。
物心ついた時には、俺は父親に殴られていた。
目つきが悪い、メシの食い方が汚い、顔が気に入らない。
理由は様々だった。
謝っても殴られた。
我慢しても殴られた。
殴り返そうとしたら余計に殴られた。
母親はかばってくれなかった。
そもそも、かばってくれる母親がいなかった。
母親はとうに父親に見切りをつけ、家を出て行ってしまっていた。
父親はいわゆるチンピラ。ヤクザから血を吸い上げられる運命の半端モノだった。
保育園で食事をし、家に帰り殴られる。
小学校で食事をし、家に帰り殴られる。
中学校で食事をし、家に帰る殴られる。
家で殴られた分、俺は保育園で殴った。
家で殴られた分、俺は小学校で殴った。
家で殴られた分、俺は中学校で殴った。
殴れば殴るほど、俺の居場所は消えた。
そうしてある日、俺は糞親父を殴った。
殴られた親父は、そこで心臓を止めた。
あっけないほど、簡単に親父は死んだ。
俺は農道を歩いた。遠足で歩いた道を。
俺はいらない人間。そう納得しながら。
俺は死ぬべき人間。だから死にに行く。
最後くらいは俺の好きなようにしたい。
せめて最後はだれにも迷惑をかけずに。
空腹に責められながら朽ちるとしよう。
目を開くと目の前にばーさんがいたんだ。
俺はそのばーさんに名前を聞かれたんだ。
なぜか俺はついばーさんに名乗ったんだ。
するとばーさんが名前を繰り返したんだ。
ばーさんは俺を見つめて話しかけたんだ。
ゲンボクお前はまずはお勤めしておいで。
そしてお勤めがすんだらこの道においで。
道を進んでワシたちの村を訪ねておいで。
お前に目的をくれてやるからゲンボクや。
夢を見ていた。
経験なのかフィクションなのか思い出せない夢を。
悲しいだけだった日々に光が差し込んだ時の事を。