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エミリアさんは洗濯お姉さん

 それはちょっと考えればすぐに気づくはずの事態だった。

 この事態に気づかなかった俺の失態といえよう。

 俺の目の前には洗濯物の山。男心をくすぐる女性フェロモンをまき散らしている洗濯物の山。


 ……。


 ねえキミ達、明日からどうするの?

「着るものがなくなってしまいました、ゲンボクちゃん……」

 アリスはこの事態がどれくらいやばいのかは飲み込めているようだね。

 で、そこの全裸ロリ、何か言ってみなさい。

「着るものがないので着ていないの。ゲンボクちゃん怖いの」

 あのね小町、お前、その格好で明日役場に行くつもりなの?

「エプロン……」

 裸エプロンはお兄さんが許しません!

 

 ところで、お前らは何で洗濯をしようと思わなかったの?

「洗濯は苦手なんです……」

 またそういうふうに言い訳するのねアリスは。

「動いている洗濯機は怖いの」

 小町もいい加減、一般社会と料理道具以外の機械に慣れなさい。

 畜生、これを洗って無理やり乾かしてアイロンかけてで今日は徹夜だな。 

 

「ねえねえ、ゲンボクちゃん、お掃除とお洗濯ができる付喪つくもって欲しくない?」

 アリス、お前は小町の時もそうだったけれど、自分の欲求を俺に代償させてはダメですよ。

「小町もお掃除とお洗濯ができるお友達が欲しい」

 小町もね、もう少し自分で何とかしようとは思わなければいけませんよ。


 ……。


 まあ、アリスと小町の言うことにも一理あるか。でもな、付喪を増やしたら、家族も増えちゃうけれどいいの?

「私は毎晩ゲンボクちゃんからお情けをいただければそれだけで……」

 毎晩が当然なんだアリス。

「小町は三日に一回でいいかもなの」

 燃費がいいのも寂しいぞ小町よ。

 

 わかった。三人目の付喪を招くとしよう。その代りお前らも協力するんだぞ。

 

 しかし、冷静に掃除用具を探してみると、なかなか穴の開いたものが見つからない。

 こりゃ結構大変かな。


 と、なんだい小町?

「ゲンボクちゃん、これなの!」

 小町が自慢げにオレに突き出しているのは、洗濯機の排水チューブ。

「大きな穴だし、ゲンボクちゃんのキノコもすっぽり入るの!」

 そうか、よく探したな小町。

 でもな、洗濯機を付喪にしてしまったら、何を使って洗濯をさせるつもりなんだ?

「あ……」

 べそをかかなくていい、お前はよくやった、小町よ。

 ほら、お前が敬愛するお姉さまが、何かをもって息せき切って走ってきたぞ。もう俺は嫌な予感しかしないけれどな。


「ゲンボクちゃん、この穴はどうかしら!」

 ……。

 お前ね、俺に苦行を求めているの?

「そんなことないですわ、これは棒状のものを輪にした、まさしく穴ですわ!」

 そう言いながらアリスが自慢げに俺に突き出したもの。それは、

 

『亀の子たわし』


 で、俺はこのたわしに向かって、何をすればよろしいのでしょうか。

「まあ、ゲンボクちゃんったら、わかっているくせに」

 アリス、口調が変わっているよ。あとな、小町は飽きて既に半分寝ているよ。

「ここは大人の刺激ですわ! ゲンボクちゃん」

 これはまた露骨なことを言うねアリスは。さすが大人のお人形さん出身だよ。

 でもね、たわしでイクのって、やかん以上にありえないんですけど。


「そんなこともあろうかと、これをとっておきましたわゲンボクちゃん!」

 そう言いながら、アリスが自慢げにオレに差し出したのは、量販衣料店のチラシ。ああ、買い物に行った時にもらってきたのを大切にとっておいたんだな。

 ちなみにこの村では、新聞は第三種郵便扱いで来るので、チラシなんぞない。まあそもそも、誰も新聞契約なぞしていないのだけれどな。


「この方とか、いかがでしょう!」

 アリスが指さしたのは、秋冬物の服をお召しになっている中年女性モデルさん。

 お前はこれでイケというのね。これって少年週刊誌のアイドル水着よりハードル高いよ。


「私も手伝いますから!」

 ん?

 そしたらアリスはこんなろくでもないことを、俺の耳元で囁きやがった。


「おばさんが、し・て・あ・げ・る」


 う、おばさんシチュエーションだと! これはまたニッチなところを攻めてくるなアリス!

 よし、頑張るか。 引き続き頼むぞアリス!

 うー。

 ううー。

 

 どどーん。

 

「お前があたしのご主人様かい?」

 え?

「ふーん。わかってそうな表情をしてるじゃないか。よろしくな」

 目の前に立っているのは、上半身は黒のタンクトップで、下半身は腰で白ツナギを止めているぼんきゅっぼんのお姉さん。


 ちなみに今現在は、白ツナギと淡いピンクのショーツは膝まで落ちている。

「ゲンボクちゃんのおばさん像って、こういうイメージでしたのね、ちょっと予想外でしたわ。特にショーツの色が」

 言うなアリス。

「新しい付喪? あなたは三番目、私は二番目、お姉さまなの……」

 小町よ、寝ぼけていないで、もう少し相手をはっきり確認してからそういうセリフを吐こうな。

 

「よしご主人さま、それじゃあ早速もう一回戦ヤるとするか! で、ご主人様の名前は?」

 俺は『キノコ ゲンボク』だ。

「ほう、キラキラな名前だね、あたしゃ……あたしゃ……、あれ?」

 いくらでも悩んでいいから、とりあえずショーツを上げろ。


「あなたは今生まれたばかりの付喪ですよ。わかりますか?」

 アリスの言葉に神妙になる、たわしの付喪。

「でもあたしはずっと、そこのご主人様と一緒にいたんだよ」

 ああ、そうだった。このたわしはこの家に来た時から毎日愛用していたんだった。

 そう思うと、何か愛着がわくなあ。

 よし、お前の名前は『たわし子』だ!

 ……。

 だめ? アリス? 小町? ぼんきゅっぼんのたわしお姉さん?

「ゲンボクちゃんは決定的に名づけのセンスがないですね」

 そんなに怒るなよアリス。

 

 うーんと、ぼんきゅっぼんのタンクトップだものね。それじゃあね、『サラ』はどうかな。ほら、世界的に有名な、『あいるびーばっく』とか口走っちゃうロボットに追っかけられちゃう映画のヒロインで、バイオレントなお姉さんかつお母さんの名前なんだけどさ。それか、お口の中からさらにお口が出てくる異星人に、年がら年中追いかけられている『エレン』でもいいけど。


「それなら『エミリア』でいかが?」


 アリス、それはロボットに追っかけられているサラお姉さんの本名だよ。しかも最近の役者さんの方だし。

「気に入った。『白物家電しろものかでん』っぽい響きもあたしの好みだ」

 いいのそれで? 白物家電で? 白物家電って洗濯機とか冷蔵庫とかエアコンとかだよ?


「それでは改めまして、ようこそゲンボクハウスへ。私はアリスよ、よろしくねエミリア!」

「エミリア、私がお姉ちゃんの小町です」

「おう、よろしくな」

 お前らうまくまとまったな。ところでアリス、『ゲンボクハウス』ってなんだよ。

 

「で、これを洗っておけばいいんだな。さっきゲンボクちゃんから胞子力エネルギーを注いでもらったばかりだから体力はばっちりだよ。明日の朝までにはアイロンがけまで済ませておいてやるから、お前らは明日に備えて寝なさいな。まあ、あたしに任せとけ」

 なんとまあ力強いお言葉。胞子力エネルギーってそんなにパワフルなんだ。


 そうだな、明日は御用聞き、明後日は一日調達業務だから、エミリアの服もその時買ってやればいいか。

 それじゃエミリア、頼むよ。

「わかった、その代わりあたしの寝床も用意しておいとくれよ!」

 だってよアリス。それはお前に任せた。

 

 そして翌朝。早朝にはオレたちの枕元にはきれいに洗濯物がたたまれていたんだ。

 で、俺は寝苦しさに目を覚ましたんだ。


 目を開けるとそこには、切れ長の目線と厚めの唇がセクシーな男勝りのお姉さんが、甘い吐息を俺に吹きかけている。ああ、ブラウンのウェービーヘアがセクシーだぜ。ちなみに俺の胸とキノコあたりにぼんきゅっぼんの、二つの『ぼん』がまる当たり。


「ゲンボクちゃん、お仕事を済ませたんだから、ご褒美をちょうだいね」

 さすがお姉さんは遠慮がねえ。両脇のアリスも小町も、エミリアに徹夜で洗濯をしてもらった以上、ここは寝たふりをするしかねえよな。

 よっしゃ。来い! エミリア!

「ああ、すごいよゲンボクちゃん!」

 

 どどーん。

 

「ゲンボクちゃん、私も……」

「ねえ、小町も……」

 やっぱりお前ら、寝たふりをしていたな。

 よし、任せとけ。

 その後それぞれ一回戦ずつノータイムで合計三回戦。

 

 太陽が黄色くならない自身の体力に自信を持った朝でした。

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