カレーハント
すっかり迷宮の『コスメモンスター』と化した五人の手から俺が解放されたのは十三時過ぎのことだった。
結局俺達は二時間以上もの間、この迷宮を彷徨ったことになる。
恐るべし『騎士キホーテのラビリンス』
まあ、とりあえず当座の買い物も済んだし、『女子会に向けた俺のスタンス』も決まったから良しとしよう。
次の目的地までは千里が運転。で、なぜか助手席にはリザが座りたがった。ここはやはり乗り物同士のシンパシーが働くのであろうか。
ということで、セカンドシートにエミリアと小町、サードシートに俺とアリスという、珍しい席割りとなったんだ。
まあ、目的地もナビに登録してあるし、途中の観光についても打ち合わせ済みだから、俺も気楽なもんだ。
ということで、温泉地に向かう前に昼食を食べたい。さて、どーすっかな。
すると、ワゴン車を運転していた千里が、突然駐車場に入りやがった。
「ゲンボクちゃん、お昼はここにしようよ!」
そこはしゃちほことB級グルメの都市が生んだ、『ナンバーワン』を店舗名に冠するカレーの全国チェーン。
またカレーかよ……。
「夕食は船盛りですから、お昼はカレーでも問題ないですわ」
「人気店の研究をしたいの」
「あたしゃ何でもいいよ」
「私はまだ食べたことがないな」
意外なことにアリス、小町、エミリア、リザの反応は悪くない。
「だってさ、いいよねゲンボクちゃん!」
皆がいいなら構わないよ。それじゃあ、さっとカレーを食べて温泉地の観光に行こうぜ。
……。
「『カツカレー』と『メンチカツカレー』と『海老カツカレー』をいただきますわ」
やめろアリスいい加減に学習しろ。
「『ハーフポーク』と『ハーフビーフ』と『ハーフハッシュドビーフ』を大至急なの!」
味見をしたい気持ちはわかるが小町も無茶すんな。
「とりあえずビールを持っておいで」
エミリアお前ここで飲んだら夕食は酒抜きだからな。
「では、この『ナン』と『フライドポテト』をいただこう」
リザはサイドメニューに気を取られないでカレー食え。
四人とも泣きそうな顔をするんじゃないよ。相変わらずだなこいつらは。こんな注文できるかど阿呆どもが。
って、何だ千里、お前は頼まないのか?
「ここは『カレーマイスター』のボクに注文を任せてよ!」
おお! 自らマイスターを名乗るか!
「『ビーフカツカレー』『ポークメンチカツカレー』『海老カツハッシュドビーフ』カレーは全部大盛りだよ! それに『ビーフカレーソース辛口』『ナン』『フライドポテト』『アルコールフリー二つ』をお願いするよ! それに取り皿三つね!」
「ご注文はお揃いですか?」
「お揃いだよ!」
俺達の目の前に注文品が全部並ぶと、千里はおもむろに仕分けを始めたんだ。
アリスには『ハッシュドビーフ』に、カツとメンチカツと海老カツを二切れづつ乗せ。
小町には少しずつ取り皿に取り分けたポークカレー、ビーフカレー、ハッシュドビーフにそれぞれカツとメンチカツと海老カツ一切れづつ乗せ。
エミリアとリザには『アルコールフリー』が一缶ずつにナンとフライドポテトのビーフカレーソース辛口トッピング。つまみ用にそれぞれのカツ半きれずつが二人の前に置かれている。
で、千里と俺の前にはビーフカレーとポークカレーが並んだ。当然三種のカツは全部乗っている。
「揚げ物がカリカリして幸せですわ」
「ソースが三種類とも味が違って楽しいの」
「辛口カレーソースがおつまみにいいねえ」
「カレーにナンとフライドポテトの組み合わせは癖になるな」
幸せそうでよかったな四人とも。
まあ、一番幸せなのは俺の横で美味しそうにビーフカレーとポークカレーを交互に頬張っている千里なんだろうけどな。ちゃっかり三種のカツもせしめているし。
「ゲンボクちゃんも食べてね!」
ああ、いただくとするよ。
と、久しぶりに平和な昼食を楽しんだわけだ。少なくとも俺はな。
それじゃあ、温泉地に向かうぞ。
「ゲンボクちゃん……、こうなるのをご存じだったのですか……」
知るか阿呆。
「ゲンボクちゃん……、お口が痛いの……」
そりゃそうだろうな。
「ゲンボクちゃん……、唇が腫れたようだよ……」
そうか大変だな。
「ゲンボクちゃん……、これは何かの拷問なのか……」
そうかもしれないな。
「ゲンボクちゃん……、ボクもうだめかも……・」
お前が元凶なんだからな。
実は、千里にそそのかされた身の程知らずの娘共が『辛さ十倍カレー』を追加注文しやがったんだ。
で、一皿を五人で一斉に食べ始めたのさ。
「楽勝ですわ」
「辛くないの」
「何だい普通だね」
「これがどうかしたのか?」
「あれえ?」
という反応は、最初の二口まで。そう、カレーの辛さはワンテンポ遅れて襲ってくるのだ。
その後の五人は悲鳴とともにピッチャーが空になるまで水を飲み続け、全身汗だくのセクシーギャルとなってお店を出たのであった。
これでしばらくカレーショップに行くことはないだろう。
辛さにやられて脱力している五人娘を後ろに乗せて、俺は街道を心地よく走る。こころなしか潮の香りもしてきたようだ。
うお!
突然前を走っていた車が急停止しやがった。
当然俺も慌てて急ブレーキを踏み、間一髪でおカマを掘るのは避けることができた。
あーびっくりした。後続車両がいなくて助かったぜ。
後ろの娘どもも驚いたようだが、シートベルトのお陰で難を逃れている。交通法規の遵守は大事だぜ。
よく見ると前の車はその前の車にぶつかってしまったようだ。
仕方がないので、俺はゆっくりと右車線に出て、おカマ掘り車とおカマ掘られ車を避けて追い抜こうとした。
すると、掘られた方からタチの悪そうな兄さん達が数人降りてきたんだ。片やおカマ掘り車の方は中年の上品そうな女性が一人。
あー、こりゃあやばいかも。
「ゲンボクちゃん、このまま通り過ぎちゃいますの?」
そう言うなよアリス。面倒なことになってもつまらないし。
「多勢に無勢なの」
そう思うか小町……。
「目立たず無力化でいいだろ?」
そっか。その手があったかエミリア。
「ボクの能力も行かせるかも」
あー、それもあったな千里。
「私は何をすればいいのだ?」
リザはとりあえず周辺に注意しておいてくれ。
それじゃ、作戦はこうするか。頼むよアリス。
「わかりましたわ。それじゃあエミリアもお願いね」
「はいよ」
Construct the primary core, 'the Strong Man' by Genboku.
Construct the basic surface, 'the Analyzer Maiden' by Alice.
Construct the advanced surface, 'the Chemical Lady' by Emilia.
「姿はゲンボクちゃんのまま『光学反射ビジブル・ノーマルスタイル』としますね」
了解したアリス。それじゃあ行くか。




