お泊りの準備
「トータル六万円の勝利なの」
「ケツの毛抜いたよ!」
小町と千里は遊びに来た郵便局員のユウと猫のセールスドライバー大和から、きっちりと三万円ずつかっぱいだ。
こいつら、ユウと大和に対して、ありとあらゆる『技』を使いやがったんだ。
まず大前提として、こいつらは事前に『通し』というイカサマを用意していた。
『通し』と言うのは、暗号みたいなもので、自分が必要な牌などを仲間に知らせる符牒のこと。
まずは第一回戦東一局。ここで小町は、わざと悪手の『南家役なし即リーチ』を仕掛けたんだ。で、同時に千里に自身の当たり牌を通しで教える。
そしたら当たり牌を千里は一発で小町に振り込む。
さらに二人は第一回戦を捨て、あえてユウと大和に振り込んでいった。
その結果、ユウと大和は小町と千里を、二人の可愛らしさと相まって『ど素人』だと舐めてしまうことになる。
そこでまずはアリスがお茶とおしぼりを持って登場。
油断したユウと大和は、ついアリスの美しさと仕草に見とれて『洗牌』つまり牌をよく混ぜる行為を怠った。
なので小町と千里は牌を選んで自山に『積込』放題。しかも用心深い二人は利用価値の高い牌は積み込まず、積みこまれていると知らなきゃツモ切りするような牌を対子になるように仕込んだ。
結果二人の手元には対子や暗刻が集まり、がぜん有利な状況でアガリを連発することになる。
さらにエミリアとリザのお色気攻撃でユウと大和はすっかり集中力を崩された。こうなると『手なり』すなわち何の小細工もせずに打っても、カモ二人から当たり牌は出てくる。事実ユウは千里に数え役満を放銃した。
アリスが小町の代わりに座った時は、小町と千里のJCJKコンビの可愛さにやっと慣れたユウと大和が改めてアリスに釘づけになってしまった。さらにアリスのスローペースに二人は巻き込まれ、横で千里が積込し放題なのに全く気付かない。
時折『かちり』と牌が触れる音が聞こえたのは、千里が『ぶっこ抜き』つまり自分の山から必要な牌を持ってきて、その分不要牌を山に戻すというイカサマを堂々とやっていたから。
その後エミリアとリザがユウと大和の後ろについた時点で、勝敗はほぼ決した。なぜなら彼女たち二人は彼ら二人の『必要牌』を、『通し』で小町と千里に知らせていたから。JCJKコンビが一切振り込まなくなったのはこれが理由。
最後に大技。『明日は雨』の符牒は『二の二の天和』を仕掛ける合図。
常識的に考えて、そんな大技が小町と千里にできるわけがない。が、二人はエミリアとリザのチョコレート攻撃およびアリスの『悶え声』によるサポートにより、それを可能にした。
まずはチョコレート攻撃。これでユウと大和は山を積むのが遅れた上、卓から目を離してしまう。
その間に小町と千里は自分の山に積込を終了。
そしてサイコロ。
ここでアリスの『ゲンボクちゃん、ダメ!』攻撃が決まる。
黄色い嬌声に野郎どもの視線が動かぬはずはない。しかも小町とアリスは『置きサイ』を行った。これはサイコロを振る『振り』をするだけ。
こうして『二の二の天和』が見事完成。ワレメの千里は当然ぶっ飛ぶが、ここはコンビ打ちなので問題なし。
で、楽しかったかお前ら?
「楽しかったけれどもういいの」
「今度は違うゲームもしたいね」
まあそうだろうな。別に麻雀のバイニンを目指すわけでもないし、ゲームは楽しんだ方が結局は勝ちだからな。
それじゃ次からはイカサマはやめとけ。
「そうするの。手なりでもユウと大和くらいなら十分カモなの」
「後は『九蓮宝燈』をアガってひっくり返るだけだものね!」
よくわかんねえが、二人とも納得しているならそれでいい。
そして夕食後。
明日は温泉に一泊旅行のため、それぞれが様々な準備をしている。
とはいっても、必要なものは初日に買い足していくので、各自の荷物はそんなに多くはならないはず。
なのだが、ちょっと油断をするとおかしなことを始めるのが我が家の連中だという事を俺は忘れてはならない。
まずは小町、麻雀マットと牌は置いていけ。
「宿でやるの!」
やるの! じゃねえ。家でも麻雀はできるだろう?せっかくの温泉なんだからいろいろ楽しもうよ。
次に千里、お前は何で果物と小町のチョコの前で悩んでいるんだ?
「ぐぐったらさ、『おやつは三百円まで』らしいんだよ……。しかも一説によると果物も『おやつ』らしいんだ。困ったなあ」
心配するな。明日は『遠足』じゃなくて『旅行』だ。お菓子も果物も好きなだけ持っていけ。
で、エミリア。何でお前は俺愛飲のウイスキーをお前のバッグに入れようとしているんだ?
「いやちょっと、ゲンボクちゃんと一緒に旅のお供に嗜もうと思ってさ……」
気持ちは嬉しいが車中でのアルコールはご遠慮しような。お巡りさんが怖いし。あとな、飲みたきゃ自分で買おうな。
ところでリザは自動小銃をボディバッグから外せよ。なんでわざわざ皆さんの注目を集めるような服装をするんだお前は。
「賊に襲われたらどうするつもりなのだ!」
お前は賊に襲われたらモデルガンで対処するつもりかど阿呆。
で、アリス。
お前、俺の鞄に何を詰めているんだ?
「ゲンボクちゃんが女子会セットにお泊りできるよう、私の下着をお貸ししようかと……」
気持ちは嬉しいがそれはやめとこう。せめて手を加えるのは外見だけにしようよ、な……。
などとドタバタしながらも、それぞれの準備も無事終了。
ん、どうした小町、千里。
「六万円をみんなで分けるの」
「一人一万円のお小遣いだよ!」
……。
お前らはやさしいな。それじゃあ五人で分けなさい。
「ゲンボクちゃんはいらないの?」
「そんなこと言わずに受け取ってよ!」
……。
仕方がねえ。お前らの一味になってやるか。
それじゃあありがたく頂いておくよ。
そして夜。いつものように就寝前の小部屋巡り。
なお、今日の主役はこの二人。
「今日は身体が火照ったの! だから小町が上になるの!」
さいですか。『女性上位』ってやつですね。こらお前、首筋を甘噛みすんな気持ちいいから!
「あーん!」
どどーん。
「やっぱりゲンボクちゃんと遊ぶのが一番楽しいよ。もっときつく抱いてね……」
さいですか。『座位』ってやつですね。うへえ、耳元の甘い喘ぎが可愛すぎるぜ!
「あふぅ……」
どどーん。
よし、それじゃあ寝るか。
ん?
「あたしも火照っちまったよゲンボクちゃん……」
「嫌でなかったらその……。私にもお情けをいただけるだろうか」
今日はやけにいじらしいじゃないかエミリア、リザ
それじゃあ順番な。
エミリアには『騎乗位』
「ひっ!」
どどーん。
リザには『後背位』
「んあ……」
どどーん。
それじゃあ今度こそお休み。
って、尻が痛い。まあ、誰がつねっているのかは丸わかりなのだが。ちょっと不自然でしたかね。
「わざとらしすぎますわ、ゲンボクちゃん。私はリザと違って焦らしプレイなどには興味ありませんの」
なんだよその余裕の微笑みは。
それじゃあもう一度風呂に行こうかアリス。
「うふふ」
アリスはシャワーを浴びながらの『立位』
「あっ……」
どどーん。
ということで久しぶりの五連発。すごいぞ俺。
風呂から出てくると、四人もそれぞれ布団を敷いて俺を待っていた。
へえ、いつのまにかリザも皆と同じように布団を並べているな。さすがに慣れてくれたか。
それじゃあ皆さんお休み。明日は早いからな。