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価値観の問題

「うわ、美味しい!」

 何の気なく茶巾寿司を口に放り込んだユウが驚きの声を上げる。

「美味い!」

 大和も心底驚いた。つま楊枝に刺さった『一口から揚げ』の味の深さに。

「喜んでもらえてうれしいの。あ、大和、それ当たりなの」


 次の一戦はユウと大和が小町謹製の昼食に気を取られているうちに終了してしまった。

 

 と、そこにシャワーで上気したエミリアとリザが再登場。

 まさかのホワイトTシャツにホワイトハーフパンツという二人のいで立ちに、ユウと大和は本日何回目かの心臓握り潰し攻撃を食らった。

 具体的には、シャツとパンツから透ける二人の下着のラインにだが。


「エミリアとリザの分はキッチンに用意してありますからね」

「はいよ」

「了解した」

 アリスの指示に従い、二人は一旦キッチンに姿を消す。

 

 次の対戦。

 いつの間にか負けが込んできたユウと大和は、ここで改めて気を引き締めようとする。も、次に彼らの耳に飛び込んできたのは彼らの心をかき乱す台詞。

 

「はい、ゲンボクちゃん、あーん」

「よせやいアリス、ユウと大和がこっちを見ているぜ」

「そんなの知りませんわ。それよりこのウインナーさんも絶品ですよ。さすが小町ですわ」

「仕方がねえなあ、あーん。うん、美味しいよアリス。小町もな」

 ……。

「リーチだよ。ユウ、早く切ってよ」

「あ、はい。じゃあこれ」

 いきなり始まったゲンボクとアリスのラブラブシーンにユウは気を取られ、普段なら絶対に切らない危険牌を、つい切ってしまう。

「ロンだよ! メンタンピン一発三色一盃口ドラ四、数え役満だよ!」

 まさかのユウ、東一局で千里に大物手をぶっこんで『ぶっ飛び』

「ユウはもっとまじめにやってほしいの」

「さすがにそれは切らないよなあ」

 小町のイラつきはともかく、一緒になってゲンボクとアリスのラブシーンに気を取られていた大和にそんなことを言われると、さすがの温厚なユウもカチンと来てしまう。

 

 続けて場所決めが終わったところで次の一戦。


 大和の捨牌にユウが手牌を倒す。

「悪いな大和、それ当たりだ」

「え?」

 ユウがダマテンで大和を直撃したのは親の倍満。しかも大和は『ワレメ』なので、支払いが倍付となる。

 ということで三万六千点のお支払いで今度は大和がぶっ飛び。

 この結果、ユウと大和は、互いは仲間などではなく、互いの獲物であると再認識したのである。


 が、状況はさらに変化する。

「なんだいユウ、お前もあーんをしてもらいたいのかい? ほら、あーん」

 次の席順が決まった直後に、エミリアが自分の昼食を手に、ユウの左隣に座った。そしてユウの口元に一口から揚げを差し出す。

「大和は寿司は好きか。そうか、それじゃあ、あーん」

 いつの間にか大和の左に陣取ったリザも、茶巾寿司を大和の口元に運んだ。


「美味しいです!」

「美味いっす!」


 こうなると二人はがぜんやる気が出てくる。

「ロンだユウ」

「大和はさすがだな。ほら、から揚げも旨いぞ」

 感心したような表情でリザが大和の口元にからあげを運び、やっとリザのおっぱい攻撃を冷静に堪能できるようになった大和はそれをあーんしながら実力を発揮し始める。

「悪いねみんな、ツモだよ」

「見事な引きだねえ。ほら、カボチャの素揚げも体にいいからお食べよ」

 一方のユウも、エミリアの大人接待を楽しむ余裕が出てきたのか、少なくともエミリアにカボチャの素揚げを食べさせてもらいつつ自分の手牌には目が行くようになった。

 

 そうして頑張るとお姉さまたちからご褒美がもらえると気づいたユウと大和だったが、初戦のど素人のような振り込みっぷりから一転してまったく振り込まなくなった小町と千里に対しては、何ら疑問を持つこともなく、男二人で互いの点棒を取り合いながら、ジリ貧で局を進めていったのである。


 時計の針はまもなく十六時。

 場は親が小町、続けて大和、ユウ、千里の順。

「明日は雨が降るかもなの」

 突然小町が天気の話題を振り始めた。 

「傘を用意しなきゃね」

 千里も小町に同調するかのように言葉を重ねる。

 続けて洗牌。

「これもどうだい?」

「いただきます」

 エミリアがユウの口元に、三時のおやつ代わりにアリスが用意した一口チョコを差し出す。

「大和もどうぞ」

「あ、どうもです」

 同時にリザも大和の口元にチョコレートを差し出してやった。

 この間、ユウと大和の視線は卓から離れてしまう。

 続けてサイコロ。

 ここでユウと大和の耳にとんでもない呻きが届いてしまった。


「ゲンボクちゃん、ダメ!」


 反射的にユウと大和はゲンボクとアリスに視線を送ってしまう。


「二なの」


 などという小町のさいころの目よりも、今はそっちの方が大事だから。

 二人の目に飛び込んだのは、ブラックタイトで正座したアリスが、膝枕をしたゲンボクの耳掃除をしているところ。「動いちゃだめですよゲンボクちゃん」

「だって痛かったんだもん。もっと優しくしてよアリス」

 二人の会話に唖然とするユウと大和。

 なので当然、

 

「二だよ」


 などという千里の声は耳に届かなかった。

 

 そして配牌。

 

「あれ?」


 小首をかしげる小町。

 

「どうしたの小町ちゃん」

「なんだい、アガっているのかい?」

 ゲンボクとアリスのイチャイチャに気を取られてしまったユウと大和は、その場を取り繕うかのように冗談を飛ばす。も、それは冗談ではなかった。

 

「あがっているの。『天和テンホウ』なの」


 それはこの日の勝負終了を告げる一言だった。


「それじゃ帰ります」

「今日はありがとう」

 ユウと大和は玄関に向かう。

「おう、また遊んでやってくれよな」

「こんな格好で失礼しますね」

 ゲンボクは膝枕のまま。アリスもゲンボクを膝の上に乗せたまま。

 だが、その方がユウと大和にはありがたい。

 なぜなら玄関でエミリアとリザに見送られた後、小町と千里が車まで二人の手を引きながら送ってくれたから。

 二人はゲンボクの視線を気にすることなく、最後にJCとJKの手の感触を楽しんだ。

「また遊んでほしいの。あ、ジュースありがとうなの!」

「また来てよね! 今度は違うゲームもしようよ!」

 

 二人のお見送りはユウと大和を満足させるには十分すぎるものであった。


 それは帰りの軽自動車の中でのユウと大和の会話。

「麻雀、負けちゃったね」

「ああ、ケツの毛を抜かれたな」

 結局ユウと大和は仲良く三万円ずつ負けた。

「最後の天和、まさかとは思うけれど『二の二の天和』じゃないよね」

「まさか」

 大和の否定に当のユウも同意する。ど素人の小町と千里が、そんなコンビ打ち最高峰の積み込み技を使いこなせるわけがないのだ。漫画の世界じゃあるまいし。

 

 しばらく無言の車内。

 

「なあ、ユウ」

「なんだい大和」

「実は俺、今日は負けた気にはなっていないんだ」

「なんだ、大和もそうなのか。実は俺もなんだ」


 確かに二人は麻雀には負けた。そして三万円ずつ置いてきた。

 ただし、物は考えよう。

 今日は朝十時から夕方四時まで六時間、ニューゲンボクハウスで過ごすことができた。

 いきなりの目の保養から始まり、小町と千里の喜怒哀楽を堪能し、アリスの手の感触を堪能し、エミリアとリザのお色気を堪能しながら。

 昼食もこれまで食べたことがないような美味しいものだった。

 ユウと大和は考える。

 六時間で三万円。これは時間あたりにすると五千円。

 女性は五名、どの女性も個性たっぷりの粒ぞろい達。

 しかもロリ系二人の美女はチラリズムと楽しい会話付き。セクシー系の美女二人は胸と太腿の接触サービス付き。正統派美女も他人の彼女にサービスされるような背徳感がたまらなかった。

 これって、その辺のキャバクラに出かけるよりもよっぽどお得ではないだろうか。

 

「なあユウ」

「なんだい大和」

「今度は泊りで来たいなあ」

「そうだね。お酒も飲みたいしね」

「ゲンボクさんに宿を借りる必要があるかな」

「テントを持って行ったらどうだろう」

「ところでユウはだれが良いか決めたか?」

「大和こそどうなんだい?」

「難しいなあ」

「難しいよね」


 二人の会話はいつのまにか弾んでいる。そう、考えようによっては、彼ら二人は『勝ち組』なのである。


「また来ような」

「そうだね大和」

「ただし、このことは他の連中には内緒だぞ」

「僕だって美味しい思いは独占したいさ」


 こうして二人は真っ暗な農道を走り、夜の街に帰っていったのである。


 おそろいの満足げな表情を浮かべながら。

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