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お客様をお出迎え

 それはある土曜日の早朝。二人の若者が街で待ち合わせをしていた。

 一人はおとなしそうな風貌のスリムな若者。名前は『赤井ユウ(あかいゆう)

 彼の職業は『郵便局員』

 もう一人は快活そうな風貌の細マッチョな若者。名前は『御百々家大和(おとどけやまと)

 彼の職業は『猫の宅配便』

 

「お待たせしました」

 軽自動車から顔を出したユウが大和に声を掛けた。

「悪いね車を出させちゃって」

「仕方がないですよ。じゃんけんの結果ですから」

「ガソリン代は俺が持つよ」

「折半で結構ですよ。それより、ゲンボクさん達に手土産を買って行かないと」

「小町ちゃんは『果汁入り炭酸飲料』と言ってよな」

「『何とかジーナ』シリーズが好きだそうです。小町ちゃんがオレンジ、千里ちゃんがレモンだったかな」

「あんた、リサーチすげえな」

「ユウで結構ですよ」

「それじゃあ俺も大和と呼んでくれ」


 こうして若者二人の三時間ドライブが始まる。

 今日は山奥のド田舎村に麻雀を打ちに行く日。だが彼らのお目当ては麻雀ではなく麻雀を打つ相手。

「正直、大和はどの娘が好みなのですか?」

「ユウはどうなんだよ?」


 そんな掛け合いをしながら、二人は村役場に出入りするようになったころを思い出し、どちらからともなく自己紹介を始めていった。


 ユウは元々特定郵便局の息子として生まれ、将来は郵便局長を世襲するはずだったのだが、郵政民営化で特定郵便局が廃止されてしまった。

 国営の時は採算度外視で『ユニバーサルサービス』を標榜しつつわが世の春を謳歌していた特定郵便局長たちは、この改革で一気に環境が変わってしまった。 

 具体的には、ユウの父親は何とか郵便局長に収まったのだが、ユウは父の後を継げなくなってしまったのである。

 そんな環境へのせめてもの反骨心なのだろうか。ユウは『採算度外視』で村役場への郵便配達を率先して行うようになっていた。


 大和は大学卒業後、『グローバルな仕事をしたい』と、グローバルな名前の会社に就職したのだが、そこが実はとんでもないブラック企業だった。

 毎日電話帳順に見知らぬ相手に『コールドコール』を掛け、サギまがいの勧誘を行う。給与は歩合制で契約が取れなければ家賃も払えないような賃金で働かされた。

 大和の心と体はすさみ、ついに彼は過労で倒れた。そこで解雇。ブラック企業は最後まで彼に冷たかった。

 退院後、ネクタイにこりごりした大和は、多少自信のあった体力を生かすべく猫の宅配便に再就職した。

 ここでもやたら働かされたが、とりあえず人を騙すことはしなくていい。

 そんな彼の働きっぷりを評価した所長は、彼を正社員に推薦してくれた。現在の彼はセールスドライバー。そして今に至る。

 彼がコストにうるさいのは所長に恩義があるから。


「郵政民営化もいいことばかりじゃなかったんだな」

「大和が勤めたブラック企業に比べればまだマシですよ」


 何となく互いに共感を覚えた二人は、どちらともなく互いに確認し合う。

「『抜け駆け』はアリですからね」

「『自由恋愛』が当然だよな。で、ユウは小町ちゃんなの?千里ちゃんなの?」

「だから大和はどうなんですか? エミリアさんやリザさんもいらっしゃるじゃないですか」


 これまで村役場で二人が相対していたのは、灰色の風景にたたずむ愛想のない若者一人だった。

 ただ、同年代ということもあって、ユウも大和も村役場を訪れるたびに彼と会話を交わしてた。

 ユウは世間話。大和は『密林』の愚痴。

 ところがある日、村役場の受付が一転して華やかなものになった。それはアリスが受付に座るようになってから。

 二人とも最初に会話をしたのはアリス。そしてその美しさに驚いたのもアリスに対して。

 驚くことに、その後村役場は徐々に娘たちが増えて行った。まるで様々なタイプの女性を取りそろえて行くかのように。

 正直、どの女性が一番だと決めることはできない。変な話だが、誰か一人でも自分を気に入ってくれれば、そのままお付き合いさせていただきたいというほど、彼女達はそれぞれが魅力的なのだ。

 

「アリスさんは特別みたいですからね」

「アリスさんだけは駄目だろうな」

 二人はアリスという美少女がゲンボクと付き合っていると都合のいい思い込みを行い、ならば必然的にフリーであるだろう他の四人の女性に積極的にアプローチして行こうと心に決めたのである。




「いらっしゃい! ちゃんと十時前に来てくれたね!」

 村に到着したユウと大和を、まずは千里が出迎えてくれた。

 え?

 千里の姿は可愛らしい若草色のワンピース。

 その中性的な魅力に二人は虜になってしまう。

 

 何とか落ち着き、彼女の誘導で車を停めた二人は、各々両手にいっぱいの手土産を抱えて、千里の先導でニューゲンボクハウスを訪れた。

「ゲンボクちゃん、郵便屋さんと猫さんが着いたよ」

「おう、遠慮しないで上がってくれ」

 ゲンボクの声が奥から響くのに合わせ、アリスが二人をリビングに案内してくれる。

 ふわりとした長袖のオータムニットとセミロングのスカートがよく似合う彼女のいでたちに、二人はいっとき目線を奪われてしまう。

 ああ、やっぱりアリスさんは美しいなあ。

 これが二人の心の声。

 こんなに美しい女性とお付き合いしているゲンボクさんはうらやましいなあ。

 これも二人の心の声。

 だから俺達も他の誰かとお付き合いしてもいいよね。

 そう上手くいくかどうかは分からないのである。

 

 二人がリビングに案内されると、そこにはローテーブルに既に麻雀マットと牌が用意されていた。そして少し離れたところで、この家の主であるゲンボクが、一辺に二人は並べそうな正方形の大きな食卓で胡坐をかいて湯呑をすすっている。

「今日は小町と千里の我がままにつきあってもらって悪いな。まあ夕方まで遊んでいってくれ」

 ゲンボクの勧めで二人も一旦食卓に並んで座り、アリスが用意したお茶をいただく。と、奥のキッチンから小町が顔を出した。

「もうすぐご飯の準備ができるの。できたら戦闘開始なの」

 すると千里がタブレットを抱えてユウと大和の間に遠慮なく割り込んできた。

 思わぬJKのボディランゲージに二人は緊張してしまう。『やべえ、久しぶりに女の子に触れたよ』と。

 ワンピースの胸元からは、可愛らしいイエローのブラがのぞいている。これはうれし恥ずかしい。

 そんな彼らの表情を知ってか知らずか、千里はタブレットを食卓の上に置いた。

「料理ができるまで、『次は何を切る』を三人でやるんだよ!」


 こうして二人は、間にボーイッシュなワンピJKを挟んで、若草の香りに取り込まれる。

 二人は気づかない。ゲンボクの歪んだ笑みに。


 時計の針はぴったり十時。 

「お昼の準備ができたから、早速麻雀するの」

 と、キッチンから姿を現した小町の姿に、ユウと大和は心臓を鷲掴みにされる。

「おい、あれって……」

「まさか……」

 そう、二人の角度から見えた小町の姿は、まさに『裸エプロン』

 ロリの裸エプロンなんか、現在では持っていただけで逮捕されちゃう光景である。

「エプロン外すの忘れたの」

 え?

 既に二人の心臓はばっくんばっくん。

 そしてエプロンを外した小町の姿によって、再度心臓にダメージを受けたのである。

 小町の姿は白のチューブトップに白のフレアミニ。今日もロリは花満開。


「それじゃ始めるの。まずは場所決めからなの」

「ルールはありありぶっ飛びワレメヤキトリ有りの東風戦だよ!」

 若草色のJKが口走った『ワレメ』の響きにユウと大和の息は一旦止まってしまう。

 

 何とか息を吹き返したユウと大和は、可愛らしい座布団が置かれたマージャン卓に座り、まずは場所決め。

 

 東家ユウ、南家小町、西家大和、北家千里でまずはスタートです。

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