表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/52

ひみつのゲンボクちゃん

「それじゃあ残りの授業を受けてくるねー!」

 あんなことがあったにも関わらず、千里は何事もなかったかのように元気よく自動車学校の教室に突入して行った。

 俺とアリスは午前中と同じようにロビーで千里を待つことにする。

 ところでアリス、さっきのは一体何なんだ?

「それはですね……」

 アリスの説明は突拍子もないものであったが、ある意味覚悟していたものでもあった。


 俺が身につけた能力は、やはり三つ目のきんたまに起因するものだった。アリスが『マスター』と呼ぶこの三つ目のきんたまは、やはり地球外生命体だとのこと。

『マスター』の種族は鈍い金色を帯びた小さな球状の姿をしている。

 で、彼ら自身は『星間移動』の能力しか持たず、他の生命体に寄生もしくは共生して、生命活動を行っている。


 通常彼らは生命体の『意志』を司る器官、人間で言うところの『脳』と同化する。

 次に彼らが持つ無限にも近い『胞子力エネルギー』によってとりついた生命体をその種族の支配者とし、そこから選りすぐった優れた個体を『苗床』として繁殖する。

 そして成体となった彼らの子孫は再び宇宙に飛び出していく。

 これが彼らのライフサイクル。

 

『マスター』は『地球』を発見し、まずは取り付くべき種族の調査を行う計画だった。が、彼の誤算は、彼以外にも『地球』を発見した同族が存在したこと。

 理由はわからないが、『マスター』は同族に調査を妨害され、急激に飛行軌道を変更させられた。

 その結果、ゲンボクの足元に墜落することになるのである。

 地球についての調査を終えていなかった『マスター』は、ゲンボクとの一体化を恐れ、彼に退避するようにテレパシーを送り、それは成功した。

 ゲンボクは頭上に『マスター』が衝突するのは確かに避けた。

 

 が、その後に『マスター』は最悪の結果を迎えてしまう。

 それは、生命体の『生殖器』と同化してしまうこと。

 彼らにとってそれは、本来取り付くべき生命体にその能力を逆に乗っ取られてしまうことを意味する。

 瞬時にそれを理解した『マスター』は、己の運命を悟り、せめて次の世代をと祈りながらゲンボクの精液に己の核を移した。それが異性に放出され、その体内で成長を始めるように。

 が、ここでもまさかの誤算。

 まさかゲンボクが非生命体である『大人のお人形さん』に射精するとは想定していなかったから。

 こうして『マスター』は、永遠に覚めない眠りについた。今後、彼はゲンボクの『器官』として生命活動を行うことになる。


「ここまでよろしいですか?」


 よろしくないです。なら、アリスの中には『マスター』の核が存在しているのかい?

「いえ、既に核は私の『知識』として吸収されております」

 そうなんだ。なんだか不憫な奴だな、『マスター』とやらも。

「そんなことはありませんわ。価値観はそれぞれですもの。それに『マスター』は亡くなってしまったのはなく、ゲンボクちゃんと同化されたのですから、ゲンボクちゃんのエンジョイが『マスター』のエンジョイですわ」

 可愛いことを言ってくれるなあ。


 で、ここからは特殊能力の話。

 本来『胞子力エネルギー』は純粋なエネルギー源として『マスター』の意思により行使されるものであるが、『マスター』がゲンボクの生殖器と一体化してしまったため、『胞子力エネルギー』はゲンボクの『生命エネルギー』と反応を起こし、『特殊胞子力』ともいえるオリジナルの力を持った。

 その一つが無生物へ命を与える『付喪つくも』と、命を与えた無生物に特殊能力を与えるもの。

 古来『付喪』は『付喪神』としてその存在は知られていた。人々に長年愛用された道具はいつしか命を持つと。

 これを『特殊胞子力』の力で瞬時に行うのが『付喪』の力。

 さらに『特殊胞子力』は、ゲンボクの思い入れに応じて付喪に様々な特殊能力を与えていた。リザの『衛星眼サテライトアイ』などは、わかりやすい一例と言える。


 そして『コア』と『サーフェス』

 

 ゲンボクは『マスター』に直接意思を働き掛けることにより『プライマリコア=初期核』を起動する。これによりゲンボクの肉体は強化される。これが『ストロングマン=肉体強化』

 次にアリスの『ベーシックサーフェス=基本表装』

 ゲンボクの『プライマリコア』はアリスの魂を纏うことができる。このとき、同時にアリスの『アナライザーメイデン=真理を司る乙女』も発動する。

『アナライザーメイデン』は『状況分析』に特化した能力。アリスはゲンボクと同化することによりまさしくゲンボクにとっての『秘書セクレタリー』能力をいかんなく発揮することになる。

 さらに『ベーシックサーフェス』にはもう一つの能力がある。それは『プライマリコア』と『アドバンスドサーフェス=拡張表装』をつなぐ『オペレーションシステム』としての能力。

 小町、エミリア、千里の能力は『アドバンスドサーフェス』のため、直接ゲンボクの『プライマリコア』と同化できない。

 アリスがいつもゲンボクと一緒にいたがるのは、こうしたことも理由の一つになっていると思われる。

 

『アドバンスドサーフェス』の能力

 それは小町たちの特殊能力を限界まで発動させるもの。


 小町の『サーマルロリータ=物理を司る幼女』は無生物の温度を自由にコントロールする、『運動』を司る能力。ブラックホークの墜落時にはヘリコプターを瞬時に冷却して見せた。


 エミリアの『ケミカルレディ=化学を司る淑女』は周辺の物質から別の物質を合成する、『化学変化』を司る能力。ヘリコプター消火時に使用した『トリフルオロメタン』は、水素、炭素、フッ素を合成したフロンガスの一種である。

 

 千里の『スピードスターガール=生物を司る少女』はまさしくゲンボクの身体速度を向上させる、『生体』を司る能力。いわゆる『加速機能』である。

 

 ちなみに通り魔への対策として、小町がいたならば『サーマルロリータ』で包丁を熱して無力化を図り、エミリアがいたのならば『ケミカルレディ』で大気中の不活性ガス『キセノン』を集約して『麻酔』により無力化するのがベストだとアリスは判断していた。

ところでリザは?

「リザの能力も把握はしておりますが、実際に使用することはないと思いますわ」

 何となくリザの特殊能力は想像がつくな。

 

「いかがですかゲンボクちゃん」


 いかがですかと言われましても……。ちょっと考えられませんね。

「別に他の方に自慢するようなものでもございませんし、今まで通りでよいと思うのです」

 そうだなアリス。色々と面倒くさそうだし、早く帰りたいな。


「終わったよー!」

 もうそんな時間か。それじゃあ帰るとするか。




 というわけなんだ。

「テレビにちょっと映っただけだったからねえ」

「私は感動したぞ。特に容赦なく通り魔の太腿に包丁を突き立てたのは恥ずかしいが濡れてしまったぞ」

「私もゲンボクちゃんの雄姿を見たかったの」

 そんな大したもんじゃないよ。って、なんでもつ焼きが消えているんだ?

 おいアリス、お前食いすぎだ。千里があっけにとられているじゃないか!

「脂が美味しゅうございますわ。これはいくらでも食べられますわ」

 マジかよ。もうもつ焼きは終わりかよ。

「こんなこともあろうかと、もう少し残してあるの。ゲンボクちゃん、食べる?」

「食べたいー!」

 そうだな千里、俺ももっと食べたい。


「ところでゲンボクちゃん、皆にあれをお配りしたらいかがですか?」

 おう、そうだったな。小町もちょっとこっちにおいで。


 俺が前回街を訪れたときに予約していたのは、全員分のタブレット。リザにはアリスの指定でアリスと同系の薄型ノートパソコンも用意してある。

 一応ネット通話はインストールしてあるから、何かの時は使え。それから、まとめて『密林』オーダーをするから、そのときまでにカバーやケースも選んでおけよ。


 早速タブレットの電源を入れて画面とにらめっこをしている小町。

 アリスの隣で使い方を習い始めているエミリア。

 とりあえず子供のように喜びの舞を披露している千里。

 タブレットとノートパソコンと俺の顔に、戸惑ったような表情で順番に目線を送っているリザ。


 うん、いい買い物をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ