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一件落着

 さて困った。

 いきなり小町に『夫婦ふうふになりたいの?』と尋ねられても返事のしようがない。

 大体、『めおと』にはなりたいけれど『ふうふ』にはなりたくないってどういう意味だよ。

 エミリアは何か知っているのかい?

「実はお昼の番組でさ……」


 はい、理解できました。

 今日の特集は『仮面夫婦かめんふうふ』だったそうだ。

 さらには『セックスレス夫婦』までご丁寧に放送してくれたらしい。

 で、その後家に帰ってきた小町は、俺のパソコンでいろいろ検索したらしいんだ。

 

小町、ちょっと来い。

 俺の呼び出しに、小町はおずおずと小部屋からリビングに出てきて、食卓に座っている俺の隣にペタリと座り込み、そのまま俺の脇に顔をうずめたんだ。ああ、可愛いなあ。

「小町はお嫁さんにはなりたいけど、夫婦ふうふにはなりたくないの。でも、夫婦めおとはいいかもなの……」

 それはわかったから、何でそう思ったのか最初から話してみな。


「小町はいいお嫁さんになれるって言われたの」

 そうか。俺もそう思うよ。

「お嫁さんってなあになの?」

 ここで皆は回答を間違えたわけだな

 小町、『お嫁さん』とはな、男の人と女の人が二人で家庭を築くときの、女の人のことだよ。

「二人なの?」

 ああ、二人だ。

「二人だけなの?」

 日本ではな。

「日本以外では違うの?」

 他の国には一夫多妻制とかあるな。

「その女の人たちもお嫁さんなの?」

 ああそうだ。

「ならアリスもエミリアも千里も小町もゲンボクちゃんのお嫁さんになれるの! リザは知らないけど」

 国内法的には難しいが、世の中には『事実婚』というのもあるしな。まあ問題ないだろ。

 そんなにうれしそうな顔をするなよ。お兄さん照れちゃうよ。

「仮面もセックスレスもないの?」

 いいか小町、『仮面』というのは、法で縛られた『男女』が嫌々『夫婦』をやっているものだ。『セックスレス』はその一部の場合もあるし、単にセックスが必要ない関係になった、仲の良い夫婦も世の中には存在するんだ。

 どうだ、納得したか?

 

 ……。

 

 おい小町、どこを見ている?

「千里、もしかしてそれってアレなの?」

「アレだよ小町! 漫画の続刊もお土産に買ってきたんだよ!」

 おーい小町、お嫁さんの話はどうするんだい? って、あっさり俺の隣から離れたな小町よ。

 ソファの横にあるローテーブルに箱から出したマットを敷き、その上に麻雀牌と点棒のお店を開きだした千里の前に座ると、小町は興奮したような表情で千里にせがんだんだ。

「千里、早速『二の二の天和(にのにのてんほう)』ごっこをするの!」

「小町、それよりボクはお腹がすいちゃったよ」

「すぐに夕食の支度をするの! その代わり最初は千里がおヒキなの!」

 そう言い残し、いそいそとキッチンに向かって行った小町。

 わかったと素直に返事をした後、楽しそうに麻雀牌を表向きで並べだす千里。

「やっぱり最初は天和字一色大三元四暗刻だよね!」

 お前ら、『お嫁さん』より『麻雀で放浪する人』の方が気になるのね。


 それは我が家に平和が戻った瞬間であった。


 で、デレているのがもう一人。


 ソファの裏で、細長い箱から取り出した物騒なものを抱え、一人ニヤニヤとしている銀髪青瞳のねーちゃん。

 こいつも見ていて飽きねえな。

 お、何か横の小箱から取り出したぞ。先っちょにコンセントプラグが見えるが、何か悩んでいるみたいだな。

 そこに興味を持ったのがエミリア。

「どうしたんだい? リザ」

「実は、『バッテリーの充電』が必要なのだが、コンセントをお借りしてもよろしいだろうか?」

「バッテリーだって! もしかしたらそいつは『電動』なのかい?」

 そういやエミリアは家電大好きだったな。早速電源に反応しやがったか。

「ああ、ここにバッテリーが装着されるのだ。造形の美しさを全く損なわずバッテリーを格納するとは、見事なものだ」 

 そう呟きながらリザが銃床にバッテリーを格納して見せると、エミリアが感嘆の声をあげたんだ。

「これは見事なもんだね! で、充電したいのかい?」

「ああ、構わないだろうか」

「あたしからも頼んであげるよ。いいわよねゲンボクちゃん!」

 好きなようにしてくれ……。

 

「はい、お疲れ様」

 いつの間にかアリスが冷えたビールと小町謹製のおつまみを俺のところに持ってきてくれた。

 お前もお疲れさんだったな。ほら、お気に入りのワインをグラスに注いであげるよ。

「乾杯」

 乾杯、お疲れ。


 こうして我が家の夜は平和に過ぎて行く。


 はずだったのだが、なぜか過ぎない。お前ら、順番に風呂に入っちゃえよ。

 で、麻雀牌を前にした二人の反応。

「もう少し盲牌の練習をしたいの」

「山を積むのが難しいなあ」

 一方、自動小銃を前にした二人の反応。

「へえ、おもちゃとは思えないほどの精巧なもんだねえ」

「このフォルムには洗練された美というものを感じるな」

 全然進まねえ……。

 

「いいではないですか。今日は私がご一緒させていただきますから」

 そうだな。今日は久しぶりにアリスと二人っきりで湯につかるとしようか。


 今日はしっとりどどーん。

 

 風呂も気持ちよかったし、久しぶりに落ち着いてのどどーんも心地よかったし、今日は寝るかな。

 って、お前ら何やっているの?

 風呂から出てきたら、なぜか小町、千里、エミリア、リザが麻雀の卓を囲んでいたんだ。

「みんなで練習なの」

「エミリアとリザに教えてあげているんだよ」

「これは野球盤やババ抜きより奥が深いねえ」

「なかなか頭を使うゲームだな」

 はいはい。明日も仕事だからね。適当に切り上げてお風呂に入って寝るんだよ。リザは住民登録もしなきゃならないしね。

 ん、アリスは興味ないのか?

 何だいその小悪魔ちっくな微笑みは。

「明日も早いですから、私たちは先に休みましょう」

 それじゃあそうするか。

 

 がらがらがらがら

 リビングでは麻雀牌をかき混ぜる音が響き渡る。

「山を崩したらチョンボなの」

「チョンボはマンガン払いだからね、気を付けてね」

「この『ヤキトリ』っていうルールはなんだい?」

「すごいな、日本では戦闘機やミサイルを賭けの対象にして麻雀を打つのだな」

 隣の部屋からは牌の音とともに四人の声も順番に聞こえてくる。

 しっかし、美女四人で麻雀とか、どこのマニアックなテレビ番組だよ。

 これで『脱衣』とかあったらたまんねえな……。それじゃ企画モノAVになっちまうか。

 今度は俺も混ぜてもらおうっと。


 ん、どうしたアリス。

 アリスが自分の布団から俺の布団にもぐりこんできた。

 で、俺の左腕を伸ばしてちゃっかりと枕代わりにしている。

「今日は二人で『特殊な四十八手』を進めてみませんか?」

 何を言っているのこの娘は。

「どどーん以外のを二人で試してみませんか?」


 口でするやつとかか?

 ちょっと露骨だったか。さすがのアリスもちょっとだけビクリとしたな。

 

「そちらも興味ございますけど、せっかくの二人きりなのですから……」


 アリスが恥ずかしそうにつぶやいたのは『寄り添い』

 そうだな。秋の夜長に麻雀牌の音を聞きながら、二人の時間を楽しむのもいいかもしれないな。

 それじゃあゆっくりと可愛がってあげよう。

 

 ……。

 

「あ……、愛し……て……、ます……」

 

 ……。

 

 いつの間にかのアリスの寝息。

 麻雀牌の音もいつの間にか静かになっている。

 そっと隣を覗くと、四人で仲良く寝落ちしている。仕方ねえなあ。

 俺は彼女たちを起こさないように細心の注意を払いながら、それぞれの布団に寝かせてやる。

 リザはどうしようかなあ。

 まあいいか。離れたところに布団を敷いときゃ大丈夫だろ。

 よっこらせっと。


 それじゃ改めて寝るかな。

 って、いつの間にかアリスが目を開けているし。起こしちゃったかな。

 ん? なんだよその頭を浮かせるようなしぐさは。はいはい左腕ね。わかりましたよ。

 これで満足ですか? そうですか、満足ですか。それではお休み。


 たまにはこんな夜もいいもんだ。


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