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食券販売機に並ぶ

 千里が学科試験会場に入っていくのを見届けてから、俺とアリス、そしてリザの三人は運転免許センターの近所にある『普通のショッピングモール』に出かけたんだ。

 ちっ。ここのショッピングモールは『ド田舎のショッピングモール』よりちょっとだけ格上の外資系量販衣料店しか入っていねえ。

「ここは我が国発祥の店だな」

 自慢げに言わなくても知っているよ、リザ。

 まあ、多少のコストアップは仕方ねえか。それじゃあリザはここで一式揃えな。


 って、迷彩服はやめろリザ。お前がそれ着ると見た目が本職でマジ怖いから。というか、今の戦闘服姿が既に怖いから。もっとベーシックなデザインのにしなさいな。

「何だと?」

 文句言うと虐めるぞリザ。

「文句を言うと今晩虐めていただけるのか?」

 そう言う意味じゃねえ。いいからさっさと買い物を進めろよ。 

 ほらアリス、お前もリザのブラウスやらパンツやらスカートやらを選んでやれ!

 リザもそんなにこだわるなら、下着だけは迷彩でも許してやるよ。俺もちょっと興味あるし。

 そうか、そんなにうれしいか、迷彩カラーのスポーツブラとショーツがよ。俺も夜が楽しみだよ。そいつを脱がすのがな。

 それじゃあとりあえず、買い込んだ『普通の服』に着替えてこようなリザ。

 で、数分後の試着室前

「ちょっと照れ臭いな」

 十分素敵だリザ。


 そしたら今度はアリス。

 へえ、スカートのバリエーションかあ。

「これはエミリアに似合いそうですね」

 そいつはふわりとしたミディ丈の山吹色がベースのフレアスカート。へえ、秋っぽくていい感じだな。

「これは小町、こっちは千里かしら」

 小町にはひらひらが可愛いホワイトフレアミニ、千里にはキュッとしまったブラックタイトか。でもこれってちょっと短すぎねえか?

「これを合わせるのですよ」

 あー。レギンスな。そりゃあいいかも。

「ところで、これはいかがでしょうか?」

 アリスがおずおずと差し出したのは膝丈のネイビーペンシルスカート。

 いいんじゃねえか。アリスに似合うと思うよ。村役場で着ていても違和感ないしな。

「ありがとうございます……。それで、あの……」

 はいはい。みんなのスカートもお土産に買っていこうな。オータムニットのトップスも何枚かカゴにそっと入れたのには気づかないでいてやるよ。

 それじゃあ支払いを済ませて一旦運転免許センターに戻ろう。


 俺たちが運転免許センターに戻るころには、前回と同じベンチに千里が上機嫌そうな表情で座っていた。あの表情なら学科は大丈夫そうだな。

「あ、ゲンボクちゃん、アリス、リザ、おかえり」

 おう。で、試験はどうだった?

「楽勝だったよ!」

 そうかそうか。千里はいつも楽しそうに笑うなあ。

「技能試験の申し込みも済ませてきたからさ。次は十三時の集合だよ」

 時計を見ると十一時半。ファミレスに行って帰ってくるには微妙な時間だな。

「ボクはまたカレーを食べたい!」

 ホント千里は安く済む良い娘だね。


 ということで俺達は今、免許センター併設の食堂にある食券売り場にいる。

 千里は光の速さで『カレー』を選択。それじゃあ俺はカツカレーにするかな。と、ここまで三十秒。

 で、ここからが長かった……。

 

「日替わり定食と言うのは何かしら。ねえゲンボクちゃんお分かりになります?」

 アリスよ、そこにサンプルが置いてあるじゃねえか。今日は焼き魚だとよ。ちなみにご飯とみそ汁とお漬物付きだ。

「日替わり丼と言うのは何ですか?」 

 アリスよ、お前の目は節穴か? 焼き魚の隣に何が見える?

「ソースチキンかつ丼ですわ」

 そうだ、それが日替わり丼だ。

「ところでゲンボクちゃん、ひとつ教えてほしいのだが」

 何だよリザ。

「ここにな『ミニカレー』というメニューと『ミニ炒飯』というメニューがある。ところがだ、『普通のカレー』はあるのに、『普通の炒飯』がメニューにないのだ。これはもしかしたら人種差別か何かの影響なのか? そうだとしたら、私には許し難いことなのだが」

 話が長げえよリザ。大体誰と誰を差別してんだよ。単に需要の問題だろ?

「『普通のラーメン』があるのに『ミニラーメン』がないのも解せぬ」

 いいからリザもアリスも一旦券売機から離れろ。俺は後ろに並んでいるおっさんたちの視線が痛いよ。

「あら、これは失礼いたしました」

「これは済まなかった。さあ、先に買ってくれ」 

 ……。

 お前ら自分たちが場の雰囲気から浮きまくっているのがわかっているのか?

 どうすんだよ、声かけられたおっさんどもが動揺しまくっているじゃねえかよ!

 すまんおっさん達。何とか落ち着きを取り戻して午後の試験に挑んでくれ。

 で、決まったのかアリス、リザ。

「私は日替わり定食と日替わり丼にいたしますわ」

 アリス、お前はこないだのハンバーグセットでの反省が全く生きていないな。頼むからどちらか一つにしておけよ。 

「私は『ミニカレー』と『ミニ炒飯』にしよう」

 リザもサイドメニューだけだとか、妙な注文をするんじゃないよ。後で腹が減っても知らねえからな。

「ボクもミニ炒飯を頼もうかな」

 わかった千里。お前はさんざん待たせたからな。お前が気に済むなら頼んでいいぞ。


 四人がけのテーブルに届いた食事は、俺の前にカツカレー。千里の前にはカレーとミニ炒飯。で、アリスの前には焼き魚とソースチキンかつ丼とみそ汁と漬物。

「日替わり定食のご飯は遠慮させていただいたのですよ」

 ああそうかい。そこだけは反省が生きているな。結局両方頼みやがって。

「ゲンボクちゃん、この店は私をバカにしているのか?」

 知らねえよリザ。注文したのはお前だろ。黙って食え。

 リザの前には一口サイズのカレーと炒飯。ということでリザはまさしく二口で食事終了。


 ところで千里、カツ一切れ食べるか?

「食べる!」

 美味いか?

「美味しいよ!」

 そりゃよかった。それじゃあ午後の試験も頑張れよ。

 ……。

 何だよリザ、そのもの欲しそうな顔は。仕方ねえな。お前もカツを一切れ食べるか?

「いただこう」

 何を格好つけてんだよ。でな、一口で食べ終わるなよ。って、どう見てもまだ食い足りないよなお前は。

「私にはくださらないのですか?」

 アリスよ、お前は焼き魚とチキンカツで口の周りをべたべたにさせながらヒイヒイ言っているのにそうくるか。

 やめろそんな恨めしそうな目で俺を見るな。わかった一切れやるから!

「それでは私からはこれを差し上げますわ」

 そう言ってアリスが俺に差し出したのは食べかけの焼き魚。

 お前、俺に『焼き魚カレー』を食えというのか?

「身が柔らかくて脂が乗っていて美味しいですわよ」

 違うな。その顔は明らかに油過多で胸やけを起こしている顔だよな。大体どこに焼き魚とソースチキンかつ丼を一緒にかっ込む少女がいるんだよ。って、最近は大食いとかでそういう女性も多いか。

 ……。

 リザ、食べ残しで悪いが、このカツカレー、お前が食べるか?

「ぜひともいただこう!」

 素直に喜んでもらえてうれしいよ。

 

 その後、俺は食堂のおばちゃんに、一旦アリスがキャンセルしたご飯をもらいに行って来たんだ。


 さて、気を取り直して試験前の腹休めだ。

 ちょうど自販機もあることだし、お前ら何か飲むか?

「それでは緑茶をいただきます」

「ミルクコーヒーにしようかな」

「ドクターペッパーだ」

 リザよ、残念ながら日本では『ドクターペッパー』はマイナーなんだよ。よく見ろ、ここにないだろ?

 だからいちいち驚いたような表情になるんじゃないよ。

「ならばコークだ」

 最初からそうしておけ。俺は炭酸にしておこう。


 ということで、千里の技能試験が無事スタート。

 で、彼女の試験中、アリスとリザの二人を連れた俺は、周りのおっさんどもから放たれる視線に突き刺し続けられたんだ。そりゃそうだよな。千里はともかくこの二人は明らかに場違いだし。

 実際免停やら取り消しやらで免許再取得の兄ちゃんやおっさんも多いし、ガラが悪い連中が一定数いるのは仕方がない。

 よかったぜここが警察施設で。


 お、終わったようだな。

 あの笑顔なら間違いなく合格だろう。

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