思い知らせてみた
ぱちり。
王手。
……。
「あの、ご主人殿、それはちょっと『待った』にしてもらえないか?」
ダメだな。俺の勝ちだ。どうだ、俺の強さがわかったかい?
「素晴らしいですわゲンボクちゃん! 圧勝ですわ!」
ほめてもらえてうれしいよアリス。で、これでいいのか?
「いや、私が望む強さとは少々異なるようなのだが……」
面倒くせえな。
びよーん。
ほら、あんたの負けだ。
「兵隊さんが剣を刺したら、おじさんが樽から飛び出しちゃったの。だから兵隊さんの負けなの」
そうだな小町。で、どうだこんなもんで?
「何というかその、そもそも、これは強さを判断するものなのか?」
面倒くせえな。
はい、最後の二枚もペアになりましたので場に捨てますね。
どうだい、お婆さんのカードだけが手元に残る切なさは。
「これもゲンボクちゃんの圧勝だねえ。兵士さん、これでわかったかい?」
我ながら会心の勝負だったよエミリア。
「あの、確かにこの切なさというか、やるせない敗北感は感じるのだが……」
面倒くせえな。
ぱちり。
司令部に突入だ。千里、見てくれ。
「はーい。さてっとどうかな。あ、ゲンボクちゃんの勝ちだよ!」
ほい、これで司令部占領だな。しかし弱いな女兵士よ。ちょっとキミの出身国の国防が心配になるレベルだったぞ。
うわ、涙目になってきたよこのお姉さん……。
「ご主人よ、どこまで私を愚弄するのか? もうこんな茶番はたくさんだ!」
崇高なゲームを茶番と申すか。それにはちょっと俺もむかついちゃったな。それじゃ、あんたの言う勝負を受けてやるよ。
「ご主人よ、『レスリングフリースタイル』で勝負してくれ!」
……。
はあ?
マジですか?
「大真面目だ」
その格好で?
「恰好など問題ない。隣の寝室の布団を片付けていただければ、『ジュードーマット』が敷いてあるだろう」
ありゃ畳だ。『ジュードーマット』とか聞いたことねえぞ。
うーん。
どうしようかな。俺、レスリングは素人だし。そもそもルールがわかんねえ。
なあ姉さん、フォールかギブアップでの決着でもいいかい?
「構わぬ。その方が審判もいらぬしな」
なんか姉さん、本気になっているみたいね。目が血走ってきたよこの人は。
「布団は片付けましたから。思うぞんぶん戦ってくださいませ」
やけに楽しそうだなアリス。エミリアも小町も千里もすっかり観戦モードかよ。
「それでは参る」
はい。どうぞ。
まずはお姉さんの先手。定番のタックルが俺の下半身を襲う。
が、毎日の四十八手でアクロバチックな体位に鍛えられた俺の体幹は、正直女性のタックルなどでは崩れやしない。
よっと。
お姉さんのタックルを受け止めた俺は、そのままお姉さんの上から腹に手を回し、垂直に持ち上げる。
「うわ!」
うわ!
お姉さんと俺の叫びが重なった。
お姉さんは多分逆さに持ち上げられたことに対して、一方の俺はロングTシャツの下に下着を身に着けていないお姉さんのお尻がモロに目の前に登場したことに対して。
「隙あり!」
するとお姉さんは逆さにつられた状態で、俺の首を両膝で挟み込んだんだ。
やべえ、これって『ウラカン・ラナ』の態勢じゃねえかよ!
このままお姉さんに体重をコントロールされると、俺はそのまま頭から投げ捨てられてしまう。しかもその後に待つのはフォールだよ!
仕方がねえ。ちょっと荒っぽいけれど決めさせてもらうぞ。
次の瞬間、俺は身体をのけぞらせ、お姉さんの上半身を宙に浮かせたんだ。
続けてそのままお姉さんの頭と両肩を、『パワーボム』の要領で畳に押し付ける。さすがに叩きつけたら無事では済まないからな。
ワン・ツー……。
お、うまいこと身体をひねりやがったな姉さん。姉さんはもがきながら俺の下から脱出しようとしている。
「まだまだだ、私は負けぬぞ!」
やべえ俺、負けず嫌いのお姉さんのおかげで、変なスイッチが入っちゃったかも……。
だって俺の顔、あられもないお姉さんの下半身に、上から埋まっちゃっているんだもの。
それじゃ、あんなことやこんなことや、痛いこととか恥ずかしいことなんかをたっぷり味あわせて差し上げますね。
「ひっ……」
その表情が俺に火をつけるんだよお姉さん。
……。
「あの……、ゲンボクちゃん。その辺にしておいて差し上げたらいかがでしょうか」
あえぐようにアリスが俺に懇願してきた。
「ゲンボクちゃん! 怖いの! ダメなの!」
小町も泣きそうな声で俺に叫ぶ。
「ああ、たまらないねえ……。あんなのもあるんだねえ……」
エミリアは既に自分の世界に入り込んでいる。
「ゲンボクちゃん! もうお姉さんは息していないかも!」
そりゃオーバーだ。千里。
で、どうする? まだやるかい?
肩で息をしているみたいだし、全身に力も入っていないようだけれどさ。
「くっ……、殺せ……」
殺しはしないけどさ。これでやめてもいい?
なんだその当てが外れたような表情は姉さん。
……。
「やめ……」
聞こえねえよ。
「や……ない…」
ああもう面倒くせえ。それじゃ終わりにすっか?
「やめないでえ!」
はいよ、それじゃ遠慮なくいただきますね。
どどーん。
こうして我が家の家族は、本日から一人増えることになった。
その後はお風呂。
今日はいつもよりも一人一人のお時間が長かったです。
本日の大人気四十八手は『理非知らず』
自前の紐や帯をそれぞれ持ち込みです。中には他のプレイで紐は経験済みの娘もいるけれどな。
ということで、めでたく我が家にもSMプレイが導入されることになりました。
真性のマゾだったお姉さんに触発されちゃってな。
身体のほてりを取るために、俺とエミリアはビール。アリスは冷やしておいた白ワイン。小町と千里はとっておきの果汁入り炭酸飲料を食卓でたしなむ。お姉さんにもビールを一缶差し出してやる。
「今日からお世話になります。ご主人殿……」
あらまあ。すっかり従順になっちゃったよ。こちらこそよろしくな。
「ご主人殿ではありませんわ! ゲンボクちゃんです。間違えないようにね!」
「違う呼び方はズルなの!」
そうだったんだ。そういう取り決めだったのね。
「それじゃゲンボクちゃん、この娘にも名前を付けておやり」
わかったエミリア。考えてみるか。
「ちなみに『ヘリコプター子』は無しだからね」
う、千里に読まれてしまった。
って、姉さんも露骨に嫌な顔をするなよ。
『黒子』とか『鷹子』もダメだよな? いや『鷹子』はありかも……。
「銀髪ショートに青い瞳の『鷹子』さんというのもシュールですわね」
それじゃあアリスもそう言っているし、それにするか。
って、他の三人は反対なのね。
「さすがにそれはどうかと思うの。アリスはちょっと意地悪なの」
そうか小町。それじゃ他に考えるか。姉さんもなんだかほっとしたような表情をしているしな。
舌打ちしてんじゃねえよアリス。
うーん。
女兵士ねえ……。
銀髪ショートと言えば『オルガ』さんとか『ジェーン』さんとかだけれど、二人とも『お母さん』だしなあ。
銀髪にこだわらなきゃいいか。
鷹ねえ……。
あ、思いついた。これをパクろう。
『リザ』はどうだい?
お、気に入ったようだな。それじゃあ女兵士さん。今日から君は『リザ』だ。
「よろしくお願いしますわ、リザ」
「好き嫌いを言っちゃダメなの。リザ」
「リザはまず正座の練習からだねえ」
「リザの着替えも用意しないとね」
そうだな千里。
「あの、素敵な名前をありがとう。ごしゅ……。ゲンボクちゃん……」
慣れるまでは適当でいいぞリザ。
それじゃあ思い切って明日は千里の免許を取りに行きがてら、普通のショッピングモールに出かけるとするか。
小町とエミリアは留守番を頼むよ。




