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自由の国から来た娘

 女兵士の嗚咽を交えた吐露を沈黙とともに耳を傾けていた俺達だったが、まずは千里が動いた。 

「こんなに冷え切っちゃってさ、まずはお風呂に入ろうよ! いいよねゲンボクちゃん!」

 ああ、風呂に案内してやれ。

 

 アリス達が女兵士の世話をあれやこれやと焼いている間、俺は冬にはこたつになる食卓でウイスキーのストレートを舐めながら、あの女兵士にこれからどうしてやれるのかを考えていた。 一応真面目にな。


 で、しばらくののち、まずは小町が風呂場から戻ってきた。

「ゲンボクちゃん、あのひと、今夜は家に泊めてあげてほしいの」

 構わねえよ小町。お客さん用の布団はエミリアが押し入れにしまってくれているだろうから、それを使うとするか。

 次に風呂場から戻ってきたのはエミリア。

「さてっと、彼女の布団も敷かなきゃね。って、今晩はどういう配置にしようか?」

 うーん……。俺の近くじゃまずいだろうな。かといってリビングというのも申し訳ないだろうし……。

 と、アリスも戻ってきた。

「ゲンボクちゃんに買っていただいたロングTシャツを彼女に着せてあげてもよろしいでしょうか?」

 ああ、お前のだからな。構わねえよ。そんなに気にするな。

 しばらくの後、最後に千里と女兵士が風呂場から姿を現した。

 女兵士はアリスのロングTシャツを頭からかぶり、顔を少し上気させている。うん、十分温まったようだな。

「ゲンボクちゃん、今日はそろそろ消灯といたしませんか?」

 ああ、女兵士も疲れているだろうしな。そうするかアリス。


 で、肝心の女兵士は、寝室に敷かれた布団を見て不思議そうな顔をしている。

「せっかく用意していただいたのに申し訳ないが、もしかしたらここに寝るのか?」

 ん?

「戦場ならば荒地だろうと砂漠だろうと、最小限の睡眠と休息を摂る術は知っている。だがここは君らの家だろう?」

「おっしゃっていることがわかりませんが?」

 兵士の言葉にアリスが何事だろうと疑問の言葉を返した。

 

「だからな、なぜベッドではないのだ? 君達はベッドを使わないのか?」


 ああ、そう言う事ね。

 そりゃ自由の国の人から見れば布団は珍しいものだろうな。床に直に敷いているのだしな。

 

「それに、君達は素足で歩くのが気持ち悪くないのか?」


 これには四人ともきょとんとしている。

「もしかして靴下か何かが必要でしょうか?」

「素足が気持ち悪いの?」

「失礼だね。毎日掃除はしているから大丈夫だよ」

「蒸れると臭っちゃうし、変な病気になっちゃうよ!」

 そうだな。ここはお前らの方が正しい。少なくとも日本ではな。

 

「そういうものなのか。すまん。色々と慣れなくてな」


 へえ、素直なところもあるじゃねえか。

 

 さて、これまで先送りしていた問題をここで解決しなければならない。

 それは『布団の配置』

 まさかいつものように俺が真ん中と言うのはまずいだろうな。

 それじゃ一番入り口側の隅にするかね。

 って、何だよお前ら。

「何をなさっているのですかゲンボクちゃん?」

「隣は小町なの」

「それじゃあ隣に一人しか寝られないじゃないか」

「ボクは狭い方に入っちゃおうかな」


 今度は女兵士がきょとんとする番。


「君達、一体何を言っているのだ?」

 で、追い打ち

「君達はまさかその……、その男と寝所を共にしているのか?」

「悪いですか?」

「そうなの」

「何当たり前の事を言っているのさ」

「当然だよ」


 ……。


「いやその、勝手ばかりで申し訳ないが、私は遠慮したいのだが……」


 はい出ましたごく一般的な反応。

 仕方がねえ。今日はソファで寝るか。

 いいからぶう垂れるんじゃねえよお前ら。お客さん第一だからな。

 ということで、不満げな四人と戸惑っている一人を残して、俺はさっさとリビングに掛け布団を持って移動し、ソファに横になった。

 それじゃお前らも早く寝なさいね。

 

 ……。


 寝室の方からごそごそと声が聞こえる。

 女五人、しかも一人はお客様。いくらでも話すことはあるだろう。まあ、明日の仕事に差しさわりがなければ問題ない。俺も早く寝るとするか。

 

 ……。

 

「言うに事欠いて、貴方は何と言う事をおっしゃるのですか!」

 うわびっくりした! 何だよアリス! って、声は隣の部屋からかよ。

「ゲンボクちゃんを悪く言う人は許さないの!」

 うわ珍しい! 小町が叫んでいるよ!

「あんたがそう思うんならそれでいいさ。それじゃあな!」

 何でエミリアも怒ってるの?

「今日はここで一人で寝ていいからね。こっちに来ないでね!」

 千里も丁寧ながら声を荒げているし……。


 で、お前ら何なの?

「私も今晩はここで休ませていただきます!」

「ゲンボクちゃんの上で寝るの!」

「千里、小町、テーブルをどけな!」

「ああもうむかつく! ゲンボクちゃんすっきりさせてよ!」


 なんだかわかんねえよ。

 何でお前ら四人とも怒ってんだよ。

 で、なんでなし崩し的に5P突入なのよお前らおかしいぞ!

 って

「愛しておりますわ!」

 どどーん!

「好きなの!」

 どどーん!

「早く来ておくれ!」

 どどーん!

「絶対離れないからね!」

 どどーん。

 

 ……。

 

 やばいよ俺脅威の四連発だよすごいぞ俺。

 で、スッキリしたかお前ら?

 って、こいつら既に熟睡してるじゃねえか。

 小町と千里が俺の上、アリスとエミリアはソファにもたれかかるようにして爆睡中。

 俺、身動きとれねえよ。

 

 後な、そんなところで唖然としながら覗いていないで、あんたも早く寝ろ。




 そして翌朝。

 相変わらず小町とエミリアの朝は早い。って、いつの間にか小町の代わりにアリスが俺の上に乗っかっているし。

 俺の首元を容赦なく蹂躙するアリスと千里の寝息がこそばゆいぜ。


「朝ご飯できたの」

「洗濯も終わったよ。そろそろ三人とも起きな」

 ということで、俺達もソファから起き出した。

 お、女兵士のねーちゃんも姿を現しているじゃねえか。ん、どうした?

「おはようございますご主人。昨日は皆さんを怒らせてしまい申し訳なかった」

 いえいえ。どうってことないですよ。怒らせた理由もなんとなくわかるし。

「だが、君達の関係はモラル上問題があるのではないか?」

 そういうことを言うからこいつらを怒らせるんだよ。

 

 で、食卓。

 正面に俺。その左右にアリスとエミリア。さらにその隣に小町と千里。で、俺の向かいに女兵士が座る。

 って、正座もできねえのかこいつは。片膝立てているとか行儀が悪いぞ自由の国の人よ。

「すまない、日本の食事に慣れていなくてな。ところでこれは何と言う食べ物だ? というより、これは食べ物なのか?」

 そりゃイカの塩辛だ。

 何だよその嫌そうな顔は。知らねえぞ小町を怒らせても。

「兵隊さんは文句を言わずに何でも食べるの。嫌ならその辺の芋虫でもおかずにご飯を食べればいいの」

 ほら怒った。

 

「ところで、君達はなんでこんな田舎で共同生活を送っているのだ?」

 田舎で悪かったな。

「昨晩も申し上げたとおり、私どもはゲンボクちゃんの『付喪』ですから」

 代表してアリスが答える。

「それがわからないのだ。『付喪』とは一体何なんだ?」

 そこからかよ。


 するとアリスが一転して納得したような表情になった。

「そういえばあなたは『ゲンボクちゃんとの絆』が無の状態で『付喪』になったのですものね。ならばご自身の存在が何者かわからなくても仕方がないですわ」

 そういうもんなのか?

「ご主人にこの身体と分身を与えていただいたことは理解しているし感謝もしている。だが、それと『同居』が何故つながるのかが正直わからない。それに、昨晩のその……、ああした関係とか……」

「なんだい、ごつい身体をしてまだおこちゃまだったのかい」

「ゲンボクちゃんのはね、とっても気持ちいいんだよ! きのこもたけのこも最高さ!」


 エミリアと千里はちょっと黙っていような。いよいよ女兵士の表情が信じられないモノを見る目つきに代わってきたからな。

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