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またも昼食は大騒ぎ

 さて、何を食べようか。こないだみたいに喧嘩になるのは勘弁だぞ。

「お任せいたします」

「同じの食べるの」

「ゲンボクちゃんが選んでおくれよ」

「よくわかんないや」

 わかった。とりあえず何でもありそうなファミリーレストランに入ろうな。

 

 昼時よりも時間が多少早かったからか、並ばないで店内に入れたのはラッキーだったな。

 それじゃあメニューを見ようかね。

「ゲンボクちゃんは何を食べるの?」

「同じのにするの」

「早く決めておくれよ」

「色々あるなあ」

 お前ら、自分で決めなさい。ん? 本当に食べたいものを食べていいのかって? 任せなさいアリス。貯金はまだ何とかなっているからさ。

 

 とたんに四人はメニューとにらめっこ。

 ……。

 三分経過。

 決まったか?

 返事無し。

 ……。

 五分経過。

 決まったか?

 ……。

 キミ達、入口を見てごらん。そろそろお店も混んできたしさ。店員さんのマークも厳しくなってきたしさ。迷ったらそこはパーンと注文しちゃうんだよキミ達。そうだ、よい笑顔だアリス。

 

「それではゲンボクちゃん、私はハンバーグセットと和風ハンバーグセットとチーズハンバーグセットにいたしますわ」

 マジですかアリスさん? え? 決め切れなかったから全部頼むって?

「私は鯖の味噌煮御膳(さばのみそにごぜん)なの」

 小町は渋いなあ。

「とりあえず枝豆と生ビールをもらうよ」

 エミリア、お前真昼間から何言ってんの?

「フルーツパフェとチョコレートパフェとマロンパフェにしようっと」

 千里よ、お前もか……。

 まあ、何を頼んでもいいって言っちまったしな。仕方がねえ。俺はドリアでも食べるか。

 

「ハンバーグセットをお持ちしました」

「はい、私です」

「和風ハンバーグセットをお持ちしました」

「はい、私です」

「え?」

「チーズハンバーグセットをお持ちしました」

「はい、私です」

「え?」


 そりゃあ店員さんもこの少女がハンバーグ三人前、しかも全てセットを注文するとは思わないよなあ。

 鯖の味噌煮御膳をエミリアの前に置いて小町に怒られているし。

 あとな、俺の前にビールを置かないでくれ。俺は運転手だからさ。

 千里はパフェを三人前並べて幸せそうに食べ始めたしさ。

 まあ、みんな幸せならそれでいいんだけれどな。

 

 って、俺は甘かった……。

 

「ゲンボクちゃん……。もうお腹に入りません……。苦しい……。どうか助けて下さいまし……」

 アリス、お前見事にライスだけ残したな。俺にライスだけ手伝えって言うのかよ。

「お姉さん生ビールおかわりだよ!」

 エミリアお前それ何杯目だ! お前、目つきが既におかしいぞ!

「ゲンボクちゃん、このお魚、不味いの。お魚が可哀そうなの。ちょっとシェフに文句を言いたいの」

 お前は食に厳しいな小町。でもな、ファミレスにシェフはいないからな。

「ゲンボクちゃん……。頭とお腹が痛い……」

 そりゃそうだろ千里。それだけ冷たいものを食べたらよ。とりあえずトイレに行ってこい。


 ダメだこいつら……。

 

 結局俺達は入口で並ぶ家族連れの刺すような目線を受けながら、一時間ほどファミレスに居座ってしまったのである。

 

「ああ、やっと動けるようになりましたわ」

 よかったなアリス。トイレから戻ったお前のさわやかな表情が眩しいぞ。

「耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、文句を言うのは我慢するの」

 そうだな小町。耐えて忍んでお前が美味しく魚を料理してやれよな。

「ゲンボクちゃん、トイレに行ったらスッキリしたよ!」

 千里、お前は女の子なんだからもう少し言葉を選びなさい。

 

 で、ダメなのが一人。

「ねえ、ゲンボクちゃあん……。お姉さんといいことしないかい?」

 べろべろですよエミリアさん。参ったなこりゃ。

 そしたらアリスと小町はそれぞれ好きなものを買いに行ってくれるかい。

 なんだよその不満そうな顔は。それじゃお前らがエミリアの面倒を見てくれるのかよ。

 二人とも思いっきり顔を左右に振らなくていい。それじゃあ行っといで。

 

「ゲンボクちゃん、ボクは?」

 おう千里、お前は俺と本屋に行こう。

「あたしわぁ?」

 お前は頼むから黙っていてくれエミリア。

 

 で、酔っぱらいを引きずりながら千里と向かったのは、書店の資格コーナー。

 千里は学科も大丈夫だと言っているが、一応仮免と本免の問題集をこなして、一発合格を確実にするため。

 千里は、ぱらぱらと問題集をめくると、大したこと無いような表情を見せた。

「これなら大丈夫だよ」

 そうか。さすが『車の付喪』だな。

 って、エミリアがいねえじゃねえか。どこ行った、あの娘は!


「ゲンボクちゃーん!」


 店内に響くエミリアのセクシーボイス。とっても嫌な予感がする。

 

「早くぅ! ゲンボクちゃーん!」


 ダメだあいつ、さっさと黙らせないと。

 なんだよエミリア。

「これを買っておくれよ!」

 お前、これをどうすんの?

「ゲンボクちゃんとの参考にするのさ!」

 あっそう。もうね俺。周りの目線が痛すぎて麻痺してきたよ。

 お前、しらふに戻っても同じことが言えるな?

「当たり前じゃないか!」

 そうか、なら買ってやる。

 

「あー、エミリアばっかずるいよ! それならボクにもこれを買ってよ!」

 ん? 何か欲しい本でもあったのか?

 ……。

 お前、本当にそれが欲しいのか?

「これを買ってくれたらもう何もいらないよ!」

 そこまで言うなら買ってやる。

 

 レジのお姉さんもたまげている。

 そりゃそうだよな。女性二人連れの男が差し出した本が、『夜の四十八手指南』と『暴走族のための車両改造』だもんな。


「ああん、もう歩けないよ」

 いよいよダメだなエミリアは

「エミリアは僕の分身で休ませておけばいいよ」

 そうだな千里。で、お前も買い物に行ってくるのか? そうか、行っといで。


 屋上の駐車場までやっとこさエミリアをひきずり、駐車場の自販機でペットボトルの水を買ってやる。脱水症状だけは怖いからな。

 ほら、ちょっとお前は横になって休んでろ。

 って、引きずり込むな阿呆!

 真昼間のショッピングモールでお前は何をしようとしているんだ!

「その本に書いてあるようなことさ……」


 俺、あっけなく陥落。

 

 そして

 

 どどーん。

 

 ちっ。スッキリしたように眠りに入りやがって。俺もすっきりしたけどさ。


 すると突然放送が響いたんだ。

 

「キノコ・ゲンボクさま キノコ・ゲンボクさま お連れ様が一階カウンターでお待ちです」


 嫌な予感第二弾だな。

 

 慌てて一階カウンターに向かうと、カウンターの裏には紫がかった黒のおかっぱ頭。こりゃ小町だよ。

 受付のお姉さんが困ったような顔で俺に言う。

「当モールでも、未成年の方にお酒はお売りできないものですから……」

 え?

「なので、そのように申し上げましたら、突然泣き出されてしまいまして。それでこちらにご案内させていただいたのです」

「小町は成人なの!」

 小町の泣きながらの抗議に受付のお姉さんも困り顔。そりゃそうだよな。どこからどう見ても小町は未成年だもんな。

「意地でもお酒買うの!」

「ですから、未成年の方にお酒はお売りできないのです」

 あーあ、また泣き出しちゃったよ。あ、そうだ。

 

「すいません、この娘の言うとおりなんです。これが証明です」

 俺はかばんから小町の『住民基本台帳カード』略して『住基カード』を取り出して、小町に渡してやった。

 とりあえず全員分作っておいてよかったぜ。

 小町、それをお姉さんに見せてやりなさい。

 すると、写真付きのカードに一瞬驚くも、小町はカードを受付のお姉さんに差し出したんだ。

 で、今度はお姉さんが驚く方。

「こ、これは、失礼いたしました」

 いえいえ、お姉さんの対応が正しいのですよ。

 それじゃあ小町、お酒を買いに行こうか。って、お前が呑むの?

「ゲンボクちゃんのお酒を買うの」

 小町はやさしいなあ。


 お、アリスも色々買い込んできたな。何を買ったの?

「内緒ですわ」

 ふふ。可愛い奴め。

 お、今度は千里か。

「ゲンボクちゃん、家のプリンターにこれを使えるかな?」

 どれどれ。ああ、大丈夫だよ。って、ああそうか。あれを作るつもりだな。

 

 よし、それじゃあ帰ろうか。

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