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引っ越し計画発動

 千里に出してもらった車に乗ってまずは役場へ。

 その間小町は、千里がオプション装備に取り込んだ冷凍庫を嬉しそうに覗き込んでいる。

「千里、もう一個できないの?」

 そりゃ無理だ小町。確かこの車は車載コンセント千ワット以下。冷凍庫は確か七百ワットだったからな。二台だと容量オーバーだ。

 

「できるよ」

 って、できるのか千里。

「ゲンボクちゃん、この車はガソリンじゃなくて胞子力エネルギーで動いているからね。ゲンボクちゃんが僕にエネルギーをくれる限りいくらでも出力可能だよ」

 そうなのか。ホント究極のエコエネルギーだな胞子力は。

 

「でも小町。車の中に冷凍庫をもう一台置いて、どうするんだい?」

 エミリアの問いに小町は胸を張って答えた。

「片方を『冷凍庫』もう片方を『氷温庫』で使うの」

 ああそうか。こないだの買い物ではチルドの『氷温庫』として使ったけれど、冷凍庫があれば冷凍食品やアイスを家まで買って帰れるな。

 

「でも、冷凍庫を二台置くとなると、荷物を置くスペースが限られてしまいますわ」

 そりゃ正論だアリス。小町もこれは盲点だったと、唖然とした表情になる。

 と、そこに千里がアイデアを出してきた。

「僕の本体にも荷物を積みこめばいいじゃないか。あっちはシートを全部つぶせば、かなり荷物を積めると思うよ」

 さすがだ千里。それじゃ小町、次の買い物のときには千里に冷凍庫を二台出してもらおうな。


 さて、話を元に戻そうか。

 まずは役所で、先日アリスと整理した固定資産台帳を改めて調べるんだ。

 村保有の資産には、すべて写真と間取りを添付してあるから、これでいくつかの引っ越し先候補を見つけてみよう。

 

 ところでお前ら、自分の部屋って欲しいか?

 ん、なんで全員無言なの?

 皆の表情を見る限り、欲しそうな欲しそうでないような様子。どうしたんだろ。


「あの、ゲンボクちゃん。私たちにお部屋ができると、ゲンボクちゃんもお部屋を持つのですか?」

 そりゃそうだよアリス。

「なら小町はいらないの」

 そうなの?

「あたしも必要ないね」

 プライバシー無しでいいのかエミリアよ。

「ボクはゲンボクちゃんと一緒にいられる方がいいな」

 あー、そういうことか四人とも。ちょっと照れちまったよお兄さんは。


 そしたら、ここにしようか。

 俺が選んだのは、ダム工事の際に、中継事務所兼宿泊所として作られた建物。

 入口を入ると事務所として使われていたスペース。ここは床敷き。間仕切りされた裏には台所がある。

 その奥は二十畳ほどの畳の部屋があり、当時は更衣室や応接室、ロッカーとして使われていた三畳ほどの小部屋がいくつか併設されている。ちなみにそれなりのトイレと広い浴場付き。トイレはともかく浴場はポイント高い。


 四人とも物件には納得した様子。それじゃあ実際に現地を見てみようかね。

 俺は役場のキーボックスからこの物件のカギを取り出して、四人と一緒に建物に向かったんだ。


 建物は役場のすぐ近くにある。当時は一等地だったらしい。今は何もないので、村のどこが一等地なのかよくわからないが。

 外壁に異常は見られない。構造も鉄筋コンクリート造なので、そうそう簡単には壊れないはずだ。

 さすがに建物の中は埃っぽいが、意外としっかりした状態で残っている。


 まずは台所を覗いた小町の要望。

「大きいガスコンロが欲しいの。それからこの壁はいらないの」

 そうだな。目隠しはいらないか。これは単なるパーテーションだからすぐに外せるだろう。

「床張りの部屋をリビング、畳の部屋を寝室とすればいいかしら」

 これはアリスの提案。

「こりゃ掃除のし甲斐があるね」

 エミリアが楽しそうにほほ笑む。


「エアコンも取り換えなきゃならないよ」

 エアコンは家主、つまり村役場負担だから、ばんばんリストアップしなさい。電気、電話、ガスの引き直しも必要だな。

 四人は興味深そうに建物を調べていく。

「あら、応接セットが残っているわ。エミリア、これってきれいになるのかしら」

 小部屋の一つに置かれていたのは革製のソファセット。そいつは埃をかぶって真っ白になっている。こりゃダメだろうなあ。

「こんなのは簡単さ。ただ、皮革ワックスが欲しいかねえ」

 さすがだエミリア。

 

「エアコンも道具さえあればボクが取り付けできるけど、そうする?」

 いや、千里の申し出はありがたいが、ここは取り付け費込みで村に負担してもらおう。リビングと寝室の二台が必要だしな。

「ゲンボクちゃん、お布団を新調しませんか?」

 ああ、それは考えていたよ。お前らの夜着もいつまでもTシャツにハーフパンツとばかりにはいかないだろうからな。

 

 結果、事務所スペースはリビング兼ダイニングとして使用することにする。床にはカーペットを敷き、五人掛けのテーブルと椅子を新調する。ソファも清掃が終わったら、こちらに移動してリビングとして使用することにした。


 キッチンには小町の要望で三口コンロを新規に購入する、冷蔵庫も思い切って新調することにした。

 洗濯機はエミリアがこれまでのモノで十分だというので、こちらに移動する。

 浴場は洗面器などの消耗品だけ新調する。トイレは最新のものに交換。

 電気代がえらいことになりそうだが、五人分の給料があれば問題ないだろうな。月曜日から俺は課長さんに役職任命される予定だし。

 

 畳部屋は寝室として使用する。布団は思い切って五人分新調し、オレが今まで使用していたのは廃棄。その他は引き続き来客用でとっておく。

 

 各部屋はそれぞれに任せ、自由に使ってもらうとしよう。

 これで、俺のプライバシーがまったくない、アリスがいうところの『新生ゲンボクハウス』のプランが完了。

 後は月曜日に発注しておけば、『信金さんの日』にまでには全部揃うだろう。つまり引っ越しはその翌日となる。

 エミリア、それまでに掃除は終わるかい?

「任せておきな」

 ああ、姉御肌は頼りになるなあ。ちなみに掃除は村役場の仕事だからちゃんと給料は支払われるから安心しろよ。


 それじゃあ帰ろうか。

 

 家に戻ってお昼を食べた後は、コピーをしてきた建物の見取り図を真ん中に置いて、四人であれやこれやと楽しそうに細かい計画を立てている。

 そんな彼女たちの様子を眺めているのも何となく楽しい。


 ちょっと眠くなってきちゃったかな……。

 

 ……。

 

 遠くから秋を感じさせる虫の音。

 頬にそよぐ優しい風が心地よい。

 頭を包む柔らかな感触が温かい。

 

 ……。

 

 そっと目を開けてみると、そこにはお腹にタオルケットを掛けた小町の姿。その向こうにはエミリアの豊満な胸が盛り上がっているのが見える。

 ああ、でけえなあ。

 横からは多分千里が立てているであろう、かわいい寝息が聞こえる。


 あれ?

 

 目線を上に上げてみる。と、そこには穏やかな笑顔で、俺をうちわで扇いでくれているアリスの姿。

 俺の頭はアリスの膝の上。そう、彼女は俺に膝枕をしてくれていた。

「あら、お目覚めですか? まだまだ日は高いですよ、ゲンボクちゃん」

 ってアリス、お前、一人で起きていたのか?

「ゲンボクちゃんをお世話するのが私の役目ですから。それにこうして寝顔を楽しむ役得もございますし」


 ……。

 

「もう少しお休みなさいませ」

 そうさせてもらうよ、アリス。ありがとな。

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