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紛争終結

 俺の身体を国境線として発生している『夜のきのこたけのこ紛争』は、小町が寝落ちしたあたりからそれぞれも飽きてきたらしく、続けて千里も寝落ち。で、残るはアリスとエミリアの二人となった。


「おこちゃまの小町は騙せても、私は騙されませんわよ」

「千里の経験が少ないからって、言いくるめられると思っちゃいないだろうね」

 おいおい、まだ続けるつもりか?

「ならば今一度『きのこ』を味わってみますか? エミリア」

「ああ、続けてお前も『たけのこ』を味わってみるがいいさ、アリス」

 なんだよその展開は。

 で、なんで二人して立ち上がるんだよ。俺の両隣りに寄り添うんだよ。

 

「全部聞いていらっしゃいましたよねゲンボクちゃん」

 はい。それはそれは『セクシーナイトトーク』をたっぷりと。

「それなら話が早いよ。ゲンボクちゃん、協力してくれるよね」

 は、任せてください。って、触るなアリス!

「なら、この立派な『きのこ』でエミリアを貫いてくださいな」

「その後、アリスにたっぷりと『たけのこ』を味合わせておくれ」

 はい。頑張ります。だからエミリアも触るな出ちゃうから!

 

 それでは失礼いたします。エミリアさん。

「ひっ……」

 どどーん。

 

 続けてご要望通りいたします。アリスさん。

「あっ……」 

 どどーん。

 

 ……。

 

「『きのこ』も捨てたもんじゃないね……」

 肩で息しながら何を威張ってんだエミリア。

「『たけのこ』も悪くはありませんね……」

 そういう言葉は痙攣を止めてからにしようねアリス。

 それじゃ寝るぞ!

 

 ん、なんだ?

 誰だ俺を揺さぶるのは。

「ねえ、ゲンボクちゃん」

 なんだよ、まだ朝の四時だぞ小町。

「なあ、ゲンボクちゃん」

 お前も起きたのか千里。もうちょっと寝ようよ。

「エミリアがね、『たけのこ』の方がいいっていうの」

「アリスがさ、『きのこ』が最高だっていうんだ」

 お前ら早朝からその議論を再燃させるつもりかよ。わかった、二人ともちょっと来い。


 これが『きのこ』だ千里!

「ひゃっ……」

 どどーん。


 小町よこれが『たけのこ』だ!

「ああん……」

 どどーん。

 

 ……。

 

 これで分かったな。『きのこ』も『たけのこ』も、それぞれいいところがあるんだぞ。

「わかったゲンボクちゃん!」

 小町は素直だな。

「ゲンボクちゃん、良かったよ!」

 千里も可愛いな。

 ならいい。それじゃ、俺はもう少し寝るからな。


 ふわぁ。

 誰かが俺を揺り起こした。

「ゲンボクちゃん、朝ごはんできたの」

 お、そうか。ありがとうな小町。

「洗濯も終わったからね。アリスと千里もさっさと起きな」

 エミリアも毎朝ありがとな。って、身動きが取れないぞ。

 うおっ、いつの間にお前ら俺の隣に来たんだ?

「もうちょっと寝かせて……」

 右の耳元でアリスの甘い声。

「もうちょっとだけ……」

 左の耳元で千里のボーイッシュな声。

 

 ……。

 

 ちょっとキミ達、ここに座りなさい。

「ごめんなさい明日からゲンボクちゃんを起こす役割に回りますからお説教はお許しください……」

 一息で謝ったなアリスは。ちょっと過剰にびびっているかな?

「どうしたんだゲンボクちゃん、何を怒っているのさ?」

 千里は全く分かってねえな。

 キミ達、小町とエミリアに申し訳ないと思わないの?

「……思います」

 アリスは二回目だもんな。

「わかんないよ」

 千里は天然だな。

 

 すると二人の助け舟が入った。

「アリスと千里は、朝は寝ててもいいの」

「こいつらが起きていても邪魔なだけだからね。その代り、昼間にこき使ってやんな」

 そうか。お前らがいいならいいんだ。俺も寝ていたから、ちょっと後ろめたい気持ちもあったからさ。

 ということでアリスと千里は昼間がんばろうな。


 朝食のちゃぶ台では、オレも含めて何事もなかったようにご飯を頂いている。

 どうやら『きのこたけのこ紛争』は終結した模様だ。平和っていいなあ。


 しかし、朝食もお茶碗と汁椀以外は大皿というのも味気ない。小町もメニューに苦慮しているようだし。

 そうだよな。焼き魚や干物は一人一皿で食べたいよな。

 やっぱりこれじゃあ狭いよなあ。

 それじゃ、今日は引っ越しの下見をするか。

 

 と、その前にお前らにこの村の歴史について教えておかなきゃな。

 うなずく四人に、俺はこの村の特殊な事情を説明してやることにする。


 この村は元々それなりの人口がいた、いわゆる自給自足の村だったんだ。由来は落武者の集落から。

 江戸時代は一応どこかの藩に組み込まれてはいたのだが、なんせこんな山奥なので、ほぼ放置状態で三百年を過ごした。

 その時代は、村の血が濃くなりすぎないように、行き倒れの旅人を介抱してそのまま住まわせたり、遠くから娘をさらってきて、そのまま若い衆に嫁がせるなど、結構えぐいこともやっていたらしい。


 そして明治時代。

 県となった役所から役人がこの村を訪れ、山林の所有権確認を行ったのだが、役人もこんな山奥を県で面倒見る気はなかったらしく、周辺の山林はそれこそ一戸に一山単位で個人所有となったんだ。

 

 次の転機は『大型ダムの開発』

 村を通るある河川に、大型ダムが建設されることになった。

 工事現場からほど近いこの村にも、町から多くの作業員が訪れ、仮設住宅もたくさん建設された。

 町から村までの道路が整備されたのもこの頃。ただし名目上は『農道』となっている。

 この時に村の電気と電話も整備されたんだ。ちなみに水道は湧水が豊富にあるので、それを各戸に引き込んでいる。ガスについてはプロパンで対応している。

 

 その頃が村のピークだったらしい。村の者はダムの作業員と結婚したり、逆に作業員の家族と結婚した例も多かったというんだ。

 で、数年をかけてダムが完成。

 実はダム建設地は全て村民の土地だったため、村民は多額の売却金や補償金を手にしたんだ。

 そして、建設作業員が村を出ていくのに合わせるかのように、村民たちの多くも街に引っ越していったんだ。

 ちなみに残された土地建物は全て村に『寄付』された。主に税金対策として。

 そんな中、頑なに村に残った連中が、今の爺さんや婆さんたちなんだ。


 なお、ダムと村を結ぶ道は数年後の大豪雨で埋まってしまった。

 ダムの方は反対側の町につながる道が生きており、村側も別にダムなんぞに用事はないので、道路はそのまま放置され、荒れ放題となっている。

 

 で、転機は三度みたび訪れた。

 村の地下を、超高速鉄道が通ることになったんだ。

 村は再び工事の対象となったけれど、今度は作業員はほとんど来なかった。その代り、電線と電話線が最新のものにリニューアルされ、施設保全機器に接続されたんだ。

 なのでこの村は超限界集落なのに、光回線が通じている。

 ちなみにここでも『地上権』などの補償金が発生したので、村に残った爺さん婆さんは再び大金を手にすることになった。

 

 これが爺さん婆さんが金を持っている理由。

 で、『信金さん』が月一回この村を訪れるという大サービスを行う理由でもある。

 ちなみに信金さんはこの村に支店やATMも設置したことがあるが、ほとんどだれも利用しないということで、すぐに撤収されたんだ。

 村の税収もダムを所有する電力会社や、保全機器を所有する鉄道会社からの税金で十分すぎるほど潤っている。なのでこの村は地方交付金の不交付団体となっている。

 ならば、なぜもっと積極的に村の規模を大きくしないのか。

 答えはただ一つ。


 村民の爺さんと婆さんが基本『自給自足民』で、開発にまったく興味がないから。


 せめてインフラをと、村の負担で町との定期バスを運行する計画も出たが、誰が片道三時間もかけて出かけるんだということで中止。

 せめて医者をもという話も出たが、来る医者来る医者すべてヤブなうえに態度がでかいのが気に入らないということで村民全員でたたき返して終了。


 話は長くなったけれど、これが村の歴史。

 そして『村有の建物』がたくさん残されている理由。

 ちなみに今俺が住んでいる平屋も村有なんだ。だから家賃は無料同然。

 まあ、残された建物は廃墟同然だけれど、手入れすりゃ何とかなるだろ。

「あたしに任せなよゲンボクちゃん!」

 エミリア、心強いぜ。


 それじゃ、みんなで空き家を見立てに行くとしようか。

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