きのこたけのこ紛争
「ただいま帰りました」
「ただいまなの」
「帰ったわよ」
「こんばんは」
四人それぞれの挨拶を背に、俺は鍵を開け、家の引き戸を右に寄せる。
「あ、ゲンボクちゃん、車はボクが一旦分解するから、その前に荷物は全部降ろしてくれるかな」
千里の指示に従って、俺たちは荷物を降ろし始めたんだ。
アリスは着替えのバリエーション、小町はたくさんのお菓子、エミリアは高圧洗浄機一式。って、お前、なんでこれを役場に置いてこなかったの。
「土日に試してみたくてさ」
さいですか。向上心があるのはよろしいな。
あ、小町、冷凍庫も降ろすぞ。
「冷凍庫は車に置きたいの」
やっぱり千里の話を聞いていなかったか。千里の車には冷凍庫が標準装備になるから、これは小町が自由に使えってよ。
「車とおうちの両方に置けるの?」
ああそうだ。
キラキラした瞳で俺を見返す合法ロリがたまらねえぜ。
「で、ゲンボクちゃん、これも降ろしていいかい?」
意地悪そうな微笑みはやめろエミリア。それは俺が降ろす。
うーん。さすがに2DKの部屋で五人は狭いな。ちゃぶ台も五人で囲むといっぱいいっぱいだものな。
よし、引っ越しの準備をするか。
といっても、ここはど田舎。物理的な荷物の移動は可能でも、インフラの申請が面倒なんだ。
とりあえず明日明後日でめぼしい物件を見つけて、『信金さんの日』に引っ越しも済ませるとしよう。
「ゲンボクちゃん、今日はお刺身でいいかな。あとね、アラのお味噌汁なの」
いいよいいよ小町。ホント料理も献立も小町に任せておくと安心だ。
おっとアリス、ちょっとキッチンに来い。
「なんですかゲンボクちゃん?」
喧嘩になるといけないからな、これを誰がどれにするのかはアリスが決めなさい。
「私が決めてもよろしいのですか?」
お前が付喪のリーダーだろ。だからお前が決めてやれ。小町も文句ないな?
「文句ないの。ゲンボクちゃん」
よし。
だからこんなことで泣くなアリス。
ただいま小町は夕食の準備中。アリスはそのお手伝い。エミリアと千里は高圧洗浄機を持って外に飛び出していったまま。しっかり延長ケーブルを調達しているのはさすがエミリアというところか。
「ゲンボクちゃん、そろそろご飯なの」
ああわかった。それじゃエミリアと千里を呼びに行くかな。
って、何してんだお前ら……。
「ゲンボクちゃん! これはあたしの期待以上だよ! ごらんよこの外壁がどんどん綺麗になっていく有様をよ!」
そんなに楽しいかエミリア。
一方の千里はなぜかおろおろしている。
「エミリア、それ以上はモーターが焼けちゃうから! マニュアルにも書いてあっただろ! ああ、もうやめてあげてくれー!」
……。
こいつらいいコンビだな。
エミリア、その辺にしとけ。千里も夕食だ。ちゃんと片付けておけよ。
「おう、明日も頑張るからなゲンボクちゃん!」
「ボクもよくわからないけど頑張るよゲンボクちゃん!」
よしよし。
「配膳ができました。本当に私から席を皆に指示してもいいのですか? ゲンボクちゃん」
ああ任せた。
するとアリスが三人に指示を出し、彼女たちをちゃぶ台に座らせていく。
ああ、やっぱり窮屈だな。
「小町はこれが好きだったの」
よかったな。
「ゲンボクちゃん、これって?」
とりあえずお茶碗とお椀と箸だけだ。これから増やしていこうなエミリア。
「これ、使っていいの?」
それは今日からお前のものだ千里。
「皆さん、ゲンボクちゃんに感謝なさいね」
満面の笑顔でアリスがそう宣言する。自身も目の前のお茶碗たちを優しく愛でながら。ホント表情が豊かだよなこいつは。
それじゃいただきます。
小町はちゃぶ台のサイズを考慮したのか、ご飯とお味噌汁以外のおかずは大皿に盛っている。お醤油皿も皆で一つ。
相変わらず幸せそうにご飯を食むアリス。
満足のいく出汁が取れたのだろうか、お味噌汁をすすりながらほっこりしている小町。
刺身にワサビを乗せ、醤油にワサビが触れないように器用に食べるエミリア。
周りをきょろきょろしながら、アリスたちのまねをし、料理を口に運んだ後に幸せそうな表情をする千里。
ああ、天国だなあ。
こうして今日の食事も終了。
あ、酒を出すのを忘れた。まあ、今からでも遅くないか。ビールは明日にして、ウイスキーでも舐めるかな。
夕食後はそれぞれ就寝まで好きなように過ごす。ということにしているのだけれど、洗い物と洗濯をしているエミリア以外は、俺の周りに張り付いている。
俺が開いているのはノートパソコン。
まずは背中におぶさっているアリスがオレに聞いてきた。
「ゲンボクちゃん、今日はショッピングモールのチラシはプリントアウトしませんの?」
アリスよ日付を見ろ。あさってまでチラシの内容は同じだからな。
次の質問は俺のひざの上にもぐりこんでいる小町から。
「何を探しているのゲンボクちゃん」
おう、千里の免許取得について調べているんだ。
「え、ボクの?」
そうだよ千里。お前が免許を持ってくれれば、俺と二人で交互に運転できるから、一泊二日でも遠くまで旅行ができるようになるだろ?
ちなみに千里は遠慮がちに、俺の左に座っている。
「素晴らしいわねゲンボクちゃん! 特に旅行って響きが!」
ど阿呆正面からいきなりキスをしてくんじゃねえエミリア。どうすんだよ、この一気に冷え切った雰囲気を!
「ごめんよゲンボクちゃん……」
まあいい、後で個別に謝っておけ。あと、俺のキノコが反応したのは内緒だ。
あ、そうだ。
「どうなさいましたか、ゲンボクちゃん」
いえね。ちょっとね。 おいエミリア手伝え。
「あれを出すんだね!」
またそういう表現をする。エミリアの分もあるんだから、あんまり軽口をたたくんじゃないよ。
はい、それじゃ注目。皆さんに『就職祝い』です。
まずはアリスにはトートバッグだ。きっとアリスはこの使いこなすだろう。できるよな、アリス。
次は小町。ランドセルタイプのカジュアルバックパックだ。お前はあぶなっかしいから両手を空けておけ。
エミリアにはボストンバッグ。どうせエミリアのことだ、色々と持ち歩くんだろうからさ。お前が一番大きいバッグだ。
千里にはメッセンジャーバッグな。急遽選んだやつだけれど、お前に似合うと思うよ。
それに荷物を入れて月曜から仕事に励めよ。お前ら。
トートバッグを肩にかけ、嬉しそうにステップを踏む娘。
ランドセル型のバックパックをしょって、楽しそうに踊る娘。
ボストンバッグを手に持ち、優雅にしなってみせる娘。
メッセンジャーバッグをクロスにかけて、自慢げに胸を張ってくる娘。
うん、大正解だったな。
お前ら、ものすごくうれしいのはわかったから、そろそろ順番に風呂に入って寝る支度をしろよ
そしたらアリスが大胆な発言。
「ゲンボクちゃん、私たち、もう我慢できませんの……」
じゃあどうするの?
「お風呂で……、お待ちください」
え?
わかった、とりあえず一番風呂は世帯主の責任だからな。それじゃあ行ってくる。
と、すぐにアリスが追いかけてきた。
「ゲンボクちゃんのお世話をするのが私のお務めですから……」
ああ、気持ちいいぞ。ホント、体を洗われるって、性的な意味以外でも気持ちいいよな
「それでは、お情けをいただきます。ちなみに私はキノコ派です……。
なんだかよくわかんねえけど、俺のキノコは準備完了です。
どどーん。
「ああ、やっぱり私はゲンボクちゃんのキノコ派ですわ……」
すると賢者タイムも許さぬといった表情で小町が風呂場に現れた。
「ゲンボクちゃん、欲しいの」
ホントお前はストレートだよな。
まあ、ロリに性的表現は色々とまずいけれどな。
それじゃ早速。
どどーん。
「小町もキノコ派に転向するの……」
そうか。頑張れよ。
って、間をおかずにエミリアかよ。
「なあゲンボクちゃん、あたしの中で大きくなってくれないかい?」
賢者モード中の俺だから冷静に聞くけれど、よそでその発言は絶対にするなよ。
でもやる。やります。やらせてください。
「ああ、ゲンボクちゃんのがだんだんに大きくなっていくのが最高だよ!」
どどーん。
「やっぱりたけのこに限るね」
オレもそう思っちゃったかも。すげえよエミリアは。
で、そうだよな。お前も来なきゃならないよな。
「ゲンボクちゃん、ボク、初めてなんだ」
わかった。優しくするからな。ゆっくりゆっくりとな。
「あ、ああ……」
どどーん。
「エミリア姉さまが言っていた通りだったよ。たけのこ最高だよ!」
あっそう。
……。
うう、のぼせちまった。
ん? 何だその布団は。
俺の布団を挟むように、左右に布団が縦に二組ずつ敷かれている。
「まずはゲンボクちゃんが横になってくださいな」
ああ、よくわからねえけど、とりあえず寝てみるな。
そしたら右側にアリスと小町。左側にエミリアと千里がそれぞれ布団に横たわったんだ。
頭を向き合うように。
四人の頭は俺の胸から腹のあたりの位置でオレをはさんでいる。
え。なにこれ。もしかしたら究極の5Pとか? ええ、心の準備ができていない俺、困っちゃうな。って?
「それじゃ、始めましょうか」
「素人に真実を教えてあげるの」
「どっちが素人なのか覚悟しておきな」
「ボクもエミリア姉さんが正しいと思うよ」
その晩俺の身体は、『きのこたけのこ紛争』の国境地帯となったんだ。
ああ、急いで引っ越ししなきゃ。




