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千里ちゃんは法令遵守

 やあやあ、かわいいボクっこちゃんだなあ。

 って、ここで一人増えたってことは色々足りないってことだよな。

 それじゃ小町、一万円渡すからさ、これで食料を買い足してくれるかい。 

「わかった、ゲンボクちゃん」

 エミリアは申し訳ないけど、荷物をこの娘の分身に積んでおいてくれるかな。

「まかしときな、ゲンボクちゃん」

 それじゃアリスはこの娘の服を大至急買いに行くぞ!

「お任せくださいゲンボクちゃん」


 ということで、急遽『付喪(つくも)』となり、きょとんとしているボクっこちゃんの手を引いて、俺とアリスは衣料量販店に逆戻り、うおお、時間がないぜ。

「とにかく下着とアウターの上下、ソックスとサンダルまでを揃えます」

頼んだアリス。

 オレはちょっと別の買い物に行ってくるからな!

 

 ということで、無事買い物も終了。小町もちゃんと食料を買い足し、冷凍庫を嬉しそうに『氷温設定』にして使っている。

「ねえ、ゲンボクちゃん、この荷物なんだけどさ……」

 それについては皆には内緒だエミリア。できるな。

「二人だけの秘密ということかい!」

 そんなんがうれしいのか。でもまあ、まだ内緒にしておいてくれよ。あと、これも追加で積んでおいてな。


 ということで、今度こそ買い物は無事終了。

 さあ、助手席争奪戦を始めようか。って、もうセカンドシートとサードシートに、四人とも乗り込んじゃっているのね。

 このペースだと十五時半に村役場に到着できる。そこから伝票ごとの仕分けが三十分、配達が三十分。うん、閉庁前に作業を終わらせることができるな。まずまずのペースだ。人数が多いと仕分けが楽だよなあ。


「ところでゲンボクちゃん、この付喪のお名前はどういたしますか?」

 そうか。ボクっこちゃんの名前を付けなきゃね。さすがに『ハイ子』とか『エース子』じゃあまずいよなあ。

「全部聞こえてるのゲンボクちゃん」

「ゲンボクちゃん、娘が引きつっているから、その名前はやめてやれ」

 つい口に出してしまったか。気を使わせて申し訳ない小町、エミリア。でも、ボクっこのひきつった表情も拝みたいぜ。

 

 すると娘が口を開いたんだ。

「速そうな名前だとうれしいな」 

 そうか、ボクっこは自動車の付喪だもんな。うーん、速そうな名前ねえ……。

『自動車子』とか? 

「それはそのまんまですゲンボクちゃん……」

 アリスに怒られちゃった。ボクっこの泣きそうな顔がミラーに映りこんできたし。ちょっと反省。

『飛行機子』とか『新幹線子』はもっとダメだろうなあ。

「全部聞こえてるのゲンボクちゃん」

 すまん小町。

 ん? ボクっこが席を立ったぞ。運転中の席の移動は危険ですからおやめいただきたいところだけどな。 

 へえ、自ら助手席に乗り込むか。


「あの、ご主人様。もっとまじめにボクの名前を考えてほしい」

 十分真面目だよ。あと、ちゃんとシートベルトをつけろよって、すでに装着済みか。さすが自動車の付喪だ。

 うーん。

 おや、その記事は。

 運転席と助手席の間には、オレの買い物を乗せてある。で、その中の食器は新聞紙で梱包されているんだ。

 ここで、目に飛び込んだのはスポーツ欄。

 おう、これなら可愛いかな。

 

 そんじゃ『千里ちさと』でどうかな。

 そしたらツボにはまったのか、ボクっこは目をキラキラとさせながらこっちに身を寄せてきたんだ。といってもこの車、運転席と助手席の間が異常に広いのが難点なんだけれどな。

「うれしいよご主人様!」

 そうか、本人がうれしいのが一番だ。

「小町とおそろいなの」

 そういやこれで、カタカナ名と漢字名が二人ずつだな。アリスとエミリアからも文句は出ないし、よし、千里にしよう。

 

 ドライブは進む。

 アリスは小町を膝枕。小町はお昼寝中。エミリアは高圧洗浄機の説明書を熟読している。

 ところで千里の特技は?

「ご主人様との夜の部かなあ」

 ああ、今すぐにでもしたいよ千里。

 そしたら後ろからアリスの、ちょっととがった声が響いた。

「あのね、千里。ゲンボクちゃんは、付喪として何ができるのか質問なさっているのよ。勘違いしてゲンボクちゃんに迷惑をかけてはいけません!」

 助手席をチラ見すると、アリスの剣幕に押されたのか、すっかり千里は小さくなってしまっている。

 それじゃ、助け舟を出すかね。


 千里は車の運転とか修理ができるんじゃないのか?

 すると千里の表情はぱっと明るくなったんだ。

「そんなんでいいんだご主人さ……。ゲンボクちゃん。 ボクは自動車の運転と修理、修理は機械なら大抵のものはできるよ!」

 おお、いきなりハイスペック仕様が来ましたよ。さすがですね。

「でも、ボクは免許を持っていないから、公道での運転はできないんだ」

 いきなり現実的な話だな。というか、道路交通法を気にする付喪ってのも変わってるな。

 ふーん。

 千里お前、学科は大丈夫なのか?

「交通法規のことだよね! 任せてよ。実はさっき、ゲンボクちゃんが横断歩道で、おばあちゃんが渡り切る前にスタートしたから、指導しようと思ったところなんだ」

 うわ、見られていたか。そうだね、安全運転第一だよね。

 

 そうか。それなら免許を取得できる可能性は高いな。犯罪行為は俺の『公文書偽造』だけにしておきたいし。

 調べることが増えて楽しいぜ。


 それにしてもこの自動車は非常に運転しやすい。エンジン音も静かだしな。

「この分身は胞子力エネルギーで動いているから、エンジンも静かだよ。それに作り出すたびに新たに構成するから、消耗品の補充や交換部品のことも考えなくていいからね。あと、おかっぱの子が大事にしている冷凍庫の情報も『オプション装備』として読み込んだから、次からは再生できるよ!」

 聞いたか小町! 朗報だ! って、まだ寝ているか。ということは、冷凍庫は家に設置できるな。

 それにガソリン代がかからないのもでかい。

 千里が免許を取れば、交代運転で遠出も可能か。夢が広がりんぐだな。

 

 と、ここで一人退屈しているアリスが千里に話しかけてきたんだ。

「千里、ゲンボクハウスのルールを教えて差し上げますから、一旦エミリアの隣に戻りなさいな」

 うわ、ちょっとご機嫌斜めモードかな。こりゃ、早く帰らなきゃ。

 

 そんなこんなでドライブは順調。千里の分身である自動車は農道の登りも苦も無く駆けあがる。

 ミラーで後ろを覗くと、一通り千里にお説教をして満足したのか、アリスも小町と一緒にうたたねを始めている。その後ろではエミリアと千里が楽しそうに高圧洗浄機のアタッチメントを取り出しては、あれやこれやと言葉を交わしている。

 千里もすぐになじんでよかったぜ。

 

 ということで無事村役場に到着。時計は予定通りの十五時半を指している。

 それじゃアリス、小町、起きてくれ。エミリアも高圧洗浄機の続きは明日にしよう。

 

 御用聞きの荷物は一旦商品別に多目的ホールの机上に商品ごとにまとめて並べていく。

 で、俺を含めた五人が伝票に従って、そこから順番に品物を袋に入れていくんだ。

 これを数回繰り返せば、戸別仕分けも終了。この作業ばかりは人数が多ければ多いほどいいんだ。実際十五分で終わったし。

 さすがにこれらを抱えて村中を回るわけにはいかないから、それぞれの袋をもう一度車に積んで、村を一周する。

 ちなみにアリスは爺さんたちに見せるため、今日買った衣装に着替え、それぞれの家を回っている。

「写真だけというのも申し訳ないですから」

 そうだな、お前の言うとおりだアリス。

 小町は箱買いしたピーナッツやキャラメルやいちごやきのこやたけのこを個包装に取り出し、自分が担当する袋に、一箱ずつ足している。

「おすそ分けなの。中身はランダムなの」

 そういう気配りは大事だよ。いい子だ小町。


 それじゃエミリア、俺たちも回っちまうか。千里は車で待っていてくれ。

「わかったよゲンボクちゃん」

「わかった。待ってるねゲンボクちゃん」

 

 ああ、みんな素直でいい娘たちだ。

 

 こうして御用聞き業務も無事終了。時計の針は十六時半。よし、千里も今日中に村役場に就職させてしまおう。

 俺は書類を用意し、千里の手を引っ張りながら議員さんと村長のハンコをもらいに行ったんだ。そしたら村長がうれしいことを言ってくれた。


「人数も増えたことだし、ゲンボクを課長に昇進させてあげるから、月曜日にわしの名前で稟議をこしらえてきな」


 よっしゃ、出世もゲットだぜ。

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