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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

SELECT PUZZLE

作者: 弥雨 林

初めて書き上げたオリジナル小説です。

起きたら雲の上にいた。

「………………」

呆然と、言葉も無く周りを見回してみる。

はるか下に遠く地上が見える。

ここは確かに雲の上だった。

太陽がいつもより眩しい。

何が起こったんだ。ただ一つ、嫌という程見覚えのある毛布を手の中で抱きしめている。

僕は確かに布団で寝ていたハズだ。

いつもと同じ様な時間をいつもと同じ様に過ごしていつもと同じ様に一日を終えたはずだった。

「ユメか。そうか。ユメなんだ。うん、絶対に。」

そう決めつけて、とりあえず僕は立ち上がった。

昔夢に見ていた、雲の上に立つ事。

本当に今ユメで見ているんだ。

歩いてみる。でも、やっぱりユメは所詮夢らしい。

感覚が何もない。

硬さも柔らかさも暑さも寒さも感じない。

なんとなくつまらなくなって、僕はゴロンと転がった。

「早く起きないかな…」

ユメから覚めたい。夢がユメだと実感を持つのも初めての事だったらそう思うのも初めてだった。

覚めたいのに覚められない。

僕は本当に生きているのだろうか。

このまま覚めなかったらどうしよう。

焦る。

もしかしてこの雲から飛び降りたら覚めるかもしれない。

僕は立ち上がって走った。

雲の切れ目まで。

僕は下を見た。少し、怖い。

けど深呼吸して僕は飛び降りた。


また、雲の上にいた。

「…降りたはずなのに……」

これが永遠に続く様な気がして、僕はぞっとした。

出口を見付けなきゃ。

見付けなきゃいけない。

焦りと恐怖が、今僕の精一杯の感情だった。

「見つからないよ」

不意に後ろからかけられた声に、僕は振り返った。

中性的で、男とも女ともとれないルックスの人間。

その人間は優しげにほほえんでいる。

「君は………誰?」

「そうだね…。じゃあ、ナッツって呼んでよ」

ナッツと名のったその人間は微笑した。

「ナッツ……なぁ、君はここから出る方法を知ってる?」

「ここから?うん知ってるよ。それを君に教える為に私はここに来たんだからね」

「教える為に…?ど、どういう意味だ?」

「………。まずはここの説明からしようか。座ろうよ」

ナッツはそう言うと、静かに腰を下ろした。


「この世界は、察しの通り君のユメの中なんだ。ただし………永遠に彷徨い続けるかもしれない」

「え…。な、なんでだよ」

僕は少し聞くのが怖くなってきた。

でも聞かなきゃいけない。

ここから出たい。

現実に戻りたい。

例え、同じ様な事を毎日繰り返す様なつまらない日々でも、僕はそこにいたかったんだ。

「いいかい、ちゃんと気を持って聞いてよ?」

ナッツは始終浮かべていた笑みをかき消し、真剣な面もちでこう言った。

「君は………死んだんだ」

「!!!」

ショックを隠せない僕を見て、しかしナッツは言葉を続ける。

「正しくは…生死の境にいる。死ぬ事っていうのは永遠に覚めない夢の中にいること。

現実に帰れない。ただ…君の場合はちょっと勝手が違ってね」

「ど、どういう…こと?」

声が震えている。自分でもわかる。悲しみと、淡々と語るナッツに対する苛立ちが僕の中を支配する。

「簡単に言うと君は殺されたんだ。寝てる間にね。そして、殺された人間にはチャンスが与えられる」

「チャンス?なんだよそれ、僕は死んだんだろ?」

皮肉に笑いながら僕は言った。

人を思いやる様な余裕が、今の僕にはなかったのだ。

「人に生を奪われた人は、生き返るチャンスが与えられるんだ。私はその方法の案内人……」

「死神ってとこか?まぁいいや。…どうすればいいんだ?」

すがる様な目線を投げかける僕に、ナッツは微笑を取り戻し、こう言った。

「その前に一つ聞くよ。……どんなことがあっても生き返りたいかい?」

僕は少し考えてきっぱりと言った。

「生き返りたい」


その後ナッツから聞いたその方法とは、こういう物だった。

まず、人間というのは生を受けると同時に、限りある運を持っているそうだ。その量は人それぞれ。

多い人もいれば少ない人もいる。その運が尽きた時、その人間に死が訪れる。そして案内人に会い転生させてもらうのだ。

因みに自殺の場合、自分の運ごと殺してしまい、このユメの中で、案内人にも逢うことが出来ず、永遠に彷徨う。

だが、殺された人間はその運を使い果たさずに死んでしまう。その運を、使うのだ。

要するに、生き返ったところで運が残り少なかったり、生き返る事で全ての運を使い果たしてしまったりすると、

生き返った瞬間に死んでしまう事も十分あり得る。

どれくらい運が残っているかは、教えてもらえないらしい。

ナッツが、わざわざ「どんなことがあっても生き返りたいか?」と言ったのは

いつ死ぬかわからずにビクビクしながら生きることが出来るか、という意味も含んでいたのだ。

そして、もう一つ意味があるらしいのだが、それは生き返ってからのお楽しみ、だそうだ。

「その前に聞きたい事があるんだ。僕は…なんで、誰に殺されたの」

「………。生き返るつもりなら聞かない方がいい」

「………………」

僕の、当然といえば当然の疑問。少し自嘲気味の笑みを浮かべ答えたナッツに、僕は何も言わなかった。

「じゃぁ……生き返らせるよ。いいんだね?」

生き返るって大変なことなのにこんな簡単でいいんだろうか。

マンガや小説等架空の話じゃ、ゼッタイ試練とかがあるのに。

「うん…宜しくお願いするよ」

そんな小さな心の引っかかりを気にしたまま、僕はナッツにそう言った。

「じゃあ……目を閉じて。…暫く、お別れだね」

「え?……そっか。また…死ぬ時にってのも変だけど」

少し淋しそうに言うナッツに笑いながら僕は手を差し出した。

「あ…うん。また君の人生が終わった時に逢えるといいね」

ナッツと僕は固く握手をし、そして、僕は目を閉じた。




起きたら布団の上だった。

「夢………」

半ば無意識に虚空に呼びかける。

夢じゃない。

何の証拠がある訳でもないけど、僕は確信した。

そう思うと、妙に嬉しい気分になった。

「生きてる、生きてるんだ!!!!」

僕は叫んで、隣りのリビングにいるはずの親たちに妙に逢いたくなって布団を飛び出した。

今の時間だったら、まだきっと父さんもいる。

「母さん!父さん!僕……」



扉を思いっきり開け放って一番最初に目に入ったのは、血まみれの親だったはずの肉塊だった。

「かあ…さ…ん?と…さ………」

僕はその場にへたりこんだ。思考回路が動けない。

「うわああああああああああああああっっっっっっ!!!!」

僕は叫んだ。信じたくなかった。

涙がぼろぼろと流れ落ちる。

何もわからない。

何も考えられない。

考えたくもない。



警察が来た。

野次馬が来た。

僕は病院で事情聴取を受けた。

親を殺した犯人は、強盗殺人犯として捕まった。

その犯人の供述は、僕がいるのに気が付かず一家全員殺したつもりだった、というものだった。

「お気持ち察します」

警察のおっさんが言った。

わかるはずがない。

時間は、イヤでも僕に冷静さを取り戻させた。

そんな僕が考えついたのは、こんな考えだった。


ユメの中でナッツが言っていたこと。

『どんな事があっても生き返りたいか?』という言葉の中にあるもう一つの隠された意味。

『生き返るつもりなら聞かない方がいい』

この言葉の本当の意味。

もしかして、本当は僕が殺されていたんじゃないだろうか。

そして僕が運をつかって運命を変えた。

本当は僕一人だったのかもしれない。

両親は生きていたのかもしれない。

全て推測、思いこみといえばそれまでだが、この考えを思いついた時僕は自分を嘲笑した。

僕さえ死んでいれば。

そう思うともう止まらなかった。

ナッツは、この事を予測していて『生き返ってもいいのか』と聞いたのだろう。

ナッツ、ごめんな。約束、守れない。

                  






今、僕は永遠のユメの中を彷徨っている。     終

拙いですが、楽しんでいただけたら光栄です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  最初は、ありがちなフワフワした話かと思いきや、ちゃんと(現実の)重さのある話で、引っ張られました。  ただし、自殺においてキリスト教的な観念を暗示的に使っている点は、甚だ不快でした。 が…
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