第33話ー過去の過ち
これでお話のまとめは最後です。
次からが最新話になります
「…ユウちゃん」
「なにも言っちゃダメ」
ティナが、僕をなんだか悲しそうな目で見る。その目は「さすがにこれはいくらなんでも」とでも言っているみたいだ。僕的には、投げたぬいぐるみをナイフで切り刻む遊びよりは、マシだと思うんだけどな〜。
そもそも、あの状態のドラゴンさんを普通に登場させるのは、無理があるよ。口がないんだよ? 一体どうやって話すのさ。脇役でセリフが短い役だったら、まだ我慢できるけど、主人公的なポジションはちょっと違和感ありすぎて無理だねうん。
「飲み物でも持ってくるね」
「あ、うん」
心の中で、言い訳してると、ティナが立ち上がって、飲み物等が置いてあるドアの向こうに消えていく。
完全にドアが閉まったのを確認したら、テーブルの下に置いといた綺麗なぬいぐるみを取り出す。
それは猫、白い猫のぬいぐるみだ。傷はついてないが、改めて見ると、若干汚れてはいる。傷がないため買ったばかりなのだと思ったけど、どうやら買ってからすでに何日も日が経っているようだった。
どうして、これだけなんの傷もないのだろうか? とか思いながら見てると、ふいにその猫がなんだか悲しそうな顔をしているように感じた。
「...気のせい...だよね?」
これはただのぬいぐるみ。どんなことをされても一切表情を変えることのできないただのぬいぐるみだ。今だって改めて見ると、普通に可愛らしいぬいぐるみだ。
「そうだ!」
少し汚れてはいるが、せっかく傷ひとつない状態なのだから、このまま新品な状態にしてあげよう。
無属性魔法は、魔力があれば誰でも使うことができる。その中で、一番多く使われているのが、清掃という魔法。簡単に言うと、汚れをなくす魔法だ。比較的魔力の消費が少なく、お風呂や水浴びもできない状況の場合に、重宝する。清掃は体の汚れ等も取ることができるためである。
そんな魔法を僕は手に持っているぬいぐるみに使う。そうすると、ぬいぐるみから汚れがどんどん消えていく。
「...うん! 綺麗になった!」
ぎゅっと、ぬいぐるみを胸に抱く。やっぱりぬいぐるみは良い。前世では、男だったため恥ずかしく思いぬいぐるみは持っていなかった。だが、今の僕は女なので、こうやっても変には思われないはずだ。あぁ〜、なんだかんだ女の子も良いかもしれない。
ぼふんっと、近くにあったソファーに座る。
「ねえねえ白猫さん白猫さん。あなたの名前はなんて言うの?」
にこにことぬいぐるみに話ける僕。当然ぬいぐるみは話すことが出来ないため、部屋の中では静寂が訪れる。
「...これはこれでなんか恥ずかしいな」
座ってる状態から、横になり、ぬいぐるみは胸の前に抱く。
「うん。やっぱりぬいぐるみを抱く時はこういう抱き方だよね」
「持ってきたよー」
がちゃり、とドアが開きティナがコップを2つ持ち入ってきた。
「にゅわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
「え? ユウちゃん!? どうしたの!?」
あまりの驚きに変な声を出してしまったが、今はそんなのを気にする余裕はなく、急いでソファーに座った状態に戻り、ぬいぐるみを僕の後ろに隠す。
「なんでもない! なんでもないよ!」
「そ...そう...なの?」
不思議そうに首を傾げながらコップをテーブルの上に置く。そして、そのままソファー、つまり僕の横に座った。
「ぬうわぁ!?」
「うぇ!?今度はなに!?」
急いでぬいぐるみをティナに見えないように反対の僕の横に置く。
「なんでもないよ!」
「ほ、本当に...? ...て、ん? ねえユウちゃん。その横に隠してる白いのってなに?」
「え!? ...な、なんにもないよ〜? えへへ」
ぐいぐいっと、ぬいぐるみを隠しながら、なんとかばれないよう笑ってごまかす。しかし、どうして僕はこんなにもぬいぐるみを隠しているんだろうか。 ...いや、わかってるんだけどね。恥ずかしいってことくらい。前世の時でもそうだったからね。やっぱり、人前で、ぬいぐるみを持ってるのを見られるのは恥ずかしい。
「ユウちゃん。これ見てみて」
「え? なにぃーーー」
そう言われて、ティナの方を見ると、ティナが見えなかった。代わりに見えたのが、この部屋にいくつも置いてある怖いぬいぐるみである。
「ひゃあ!?」
「隙あり!」
そう言って、驚いている僕の横からティナがぬいぐるみの方に向かって、手を出してきた。しまった!? と思うが、もうすでに手が届きそうな場所まで来ているため隠すことができない。
こういう時にこそ、使える物がある。そう。それは、スキル“アイテムボックス”だぁー!
そう思い、すぐさまぬいぐるみをアイテムボックスの中に入れようとした。ーーーが
「はい...ら...ない?」
ーーーどうして?
そう思った瞬間、ぬいぐるみがティナの手により取られた。
「...え? これ...は?」
ティナがぬいぐるみを見て、驚きの声を上げる。今の僕はそんなことよりも、ぬいぐるみがアイテムボックスに入らなかったことに疑問を持った。
アイテムボックスにだって、入れられない物もあるにはある。あるん…だけど、それは生きている生物だけだ。
「なん...で?」
ティナが持っているぬいぐるみを見ながら問う。
「なんで、そのぬいぐるみはアイテムボックスに入らないの...?」
「あ、アイテムボックス...?」
ティナは僕の言葉に驚いたように声を出す。
そういえばティナは僕がアイテムボックスを使えることは知らなかったような気がする。最近毎日一緒にいるけど、使うときがないから忘れてた。
「えっと...その......」
ティナは、何かを話そうとするが、うまく言葉が見つからないのか、ぬいぐるみを抱きながら顔をうつむかせてしまった。
「それって、生き物? とかそんなのじゃないよね? ただのぬいぐるみだよね?」
「...」
僕の言葉に何の反応も示さないティナ。ただ、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめているだけだ。
「...まぁいいや」
「...え?」
ティナは目を丸くし、「なんで?」と言いたげな表情で僕を見る。
僕だって気にならないといえば嘘になる。ていうか普通に気になる。でも、ティナが言いたくないならそれでいいじゃないか。僕だって言ってないことたくさんあるし。それに、冷静になって考えてみれば、ティナが僕がどんなスキルを持っているかわからないように、僕だってティナがどんなスキルを持っているのかわからないから。もしかしたら、このぬいぐるみがスキルによる何か、かもしれないし。
「いいんだよ。言いたくないならそれはそれで。私だって、言ってないことたくさんあるんだから」
僕が言ってないこと。僕が転生者だということ。元は男だっていうこと。チビ神様によって、チート能力を与えられたこと。他にもまだたくさんある。
僕がこんなにも隠し事をしてるのに、ティナの秘密だけを知ろうとするのはおかしいと思うから。
だから、僕は聞かない。
「...うん! それじゃティナ! 次は何で遊ぼうか! 今日は、寝るまで一緒に遊ぼうね!」
にっこりと、ティナに笑顔を向けながら僕はそういった。
「......ダメ...だ...よ......」
ぬいぐるみを抱きながら、ふるふると首を振り、絞り出したように声を出したティナ。ほんの僅かだが、抱きしめる力が強くなっている気がする。
「ティナ?」
何がダメなのか。僕には、ティナのいう「ダメ」が、なんなのか最初はわからなかった。遊ぶのがダメなのか...? いや、それはないだろう。逆にティナなら喜んで遊んでくれると思う。
「なん...で? ねえ、なんでなの? どうして、何も...言わないの?」
ティナは、顔をうつむかせながら、弱々しく言う。
なんで...か。僕は、この言葉になんて返せばいいのだろうか? なんて返せばティナはいつも見たいな感じに戻ってくれるのか? ...わからない。僕には荷が重すぎる。地球では、こんな展開にはなったことはないし、どう返せばいいかなんて思いつくはずがない。
だから、だからこそ、僕は、今自分が思っていることを素直に正直に話そう。
「ねえティナ。そのぬいぐるみはなに? ーーーううん。誰?」
ビクッと、ティナの肩が震えた。そして、恐る恐る両手で抱きしめていたぬいぐるみを僕の方に持ってくる。
「この子は...この子もーーー私、だよ」
「...ティナ?」
...どういうことなのだろうか? ぬいぐるみがティナ? じゃあ、今目の前にいるティナは、誰ってことになる。
「正確にはね、私のスキルによって生み出されたもう一人の私。本物の私は、今ユウちゃんの目の前にいる私だけど、この子も私なの」
二重人格みたいなもの...なのかな? 人とぬいぐるみっていうのもおかしいけど。スキルで作ったから大丈夫なのかな。
「だけど、ね。少し前に...嫌われちゃったの」
悲しそうに目を伏せる。
「私が、他の子を作っちゃったから」
そう言いつつ、周りを見渡すティナ。他の子というのは、どうやらこの部屋にある他のぬいぐるみ達らしい。
「少し、昔の話をするね」
☆★☆★
今では、そうでもないらしいが、僕が来る何ヶ月か前までは、エリスは色々と忙しく、なかなかティナと遊ぶ時間が取れなかったらしい。だから、ティナは毎日が暇で暇で、ずっと自室に困って、ゴロゴロと暇を持て余してた。
それが、何日も続きティナは何かを一人で暇をつぶせるものを考えようと思った。
そして思いついたのが、ティナが持っている唯一無二の固有スキル。
そのスキルを使い、ティナは自分が一番お気に入りだった白猫のぬいぐるみに使った。
そして、そのぬいぐるみは、声を出して話すことは出来なかったが、頭の中に直接話すことができるようになった。念話みたいなものだ。
ティナは、心から喜んだ。今日から、この子と話すことが出来るようになったから、お姉ちゃんの邪魔をしなくてすみ、心配させるようにしなくてすむ。
それから、その子といろんな話をした。もう思い出せないらしいが、本当に楽しい時間だったらしい。その子といろんな話をして何日か経った後、ティナは考えた。
もっと、数を増やせば、もっともっと色々な話がみんなと出来るではないかと。話だけではない。大勢で、何か出来るようにもなる。
そう考えたティナは、すぐに行動に移した。
部屋の中にあったぬいぐるみ達に片っ端からスキルをかけ、どんどん、友達を増やしていった。
ーーー白猫のぬいぐるみとはなにも相談せずに。
そして、数を増やしたティナは、話すことだけじゃなく、もっと体を使った遊びもたくさんやった。
だが、ティナは知らなかった。スキルの代償という存在を。
それに気づいたのが、数を増やしてから、また何日か経った後である。
ティナの記憶が、なにやらおかしくなっていたのだ。昔のことがよく思い出せなくなったり、自分が身に覚えのない事が記憶として頭の中に入っており、それが自分がやったと思うようになってきている。でも、自分はやってない。だが、やっている。
ティナは、さすがにまずいと思った。これは何かがおかしい。
そして、すぐに原因は思いついた。自分が使ったスキルの事だ。ていうか、これしか思いつかなかったらしい。
ティナは、このスキルの効果を断片的な事しか知らない。
ティナの固有スキル名”人格付与“
ティナは、これの意味をただ何かに人格を付与するということしかわからなかった。
すぐにティナは、詳しく調べるために無断で宝物庫に侵入した。なぜなら、宝物庫には、自身のステータスを確認できる魔道具があるからだ。ティナはもちろんエリスですら、解析スキルは持っていない。必要とすら感じなかったため、とかそういう意味らしい。
ティナは、魔道具を使い自分のスキルを確認し、そして...絶句した。
スキル:人格付与
自分の記憶を犠牲に対象に人格を付与することが出来る。付与された物は、話すことが出来、対象によっては動くこともできるようになる。付与された物が何かをしたりするとその何かを稀に自分の記憶として共有する。ただし、生き物には使用できない。
自分の記憶を犠牲に...
この経った一文にティナは、絶望を感じた。
こんなのエリスに相談する事なんて出来ない。ただでさえ忙しいのにこれ以上は...。
そして、ティナはこの事を隠すことにした。そして、もうこれ以上、作らないようにもした。
このスキルは一度使ったら解除は出来ない。
もうティナは、一生このままで過ごしていくしかないのだ。
話し終えたティナは、抱いていたぬいぐるみをテーブルの上に置く。
「この子はね、あれから一回も動かないし話をしてくれないの」
ティナはぬいぐるみを軽く撫でながら話す。
「代わりにあの子達が活発に動き回って、色々とやってるみたい。...本当いやになっちゃうくらいに...嫌なことをたくさん......」
近くにあったボロボロのぬいぐるみを持って、適当に投げ捨てる。
「もうわかったでしょ? あの子達はボロボロな理由が。ちょっとしたお返しみたいな物だよ」
「だけど、あの子達はそれを気にしないかのように、いつも通り過ごしてる。ここにね、いるのは全部じゃないの。何体かは外にいて何かをやっている。そして、たまに記憶として自分の中に入ってくる」
「もう...いろんなことをしちゃった。魔物もたくさん殺したし、何の害もない動物も殺した。人間も殺したし...魔族も、殺しちゃった」
ティナは、両手で自分の体を抱きしめる。体も震え、声も震えている。
「もう...無理だよ。どうして私はこんなことになってるの?どうしてこんな目にあわなきゃいけないの?......私はただ...」
そう言って顔を少しあげる。
「ごめんね。ユウちゃん。...もう......我慢出来ないみたい」
ティナが優しく、それでいて悲しいそうに微笑んだ。目の端に涙を浮かべ...。
その瞬間、僕の視界がーーー
ーー黒く染まった。
ユウ「ティナパートも終盤に近づいてきたね」
リリィ「そうね。…ところで私はいつになったら出るの? もう1年たつけど」
エリス「私の攻略パートは?」
リラ「私のところもきてない」
ティナ「ニコニコ」←終始笑顔




