第28話ー手がいっぱいだよ!
遅くなりました。
本編になります。あれから1年たってます
この日、僕は…絶対絶命の危機に陥っていた。
場所は、エリスのお城の何処かの廊下。もう何階かもわからない。僕は、とにかく逃げなきゃという勢いで、後ろから追いかけてくる無数の黒い腕から逃げていた。
本当朝っぱらからなんでこんなことしてるんだろう僕は。
そんなことを思いながら、今の状態の全速力で逃げまくる。スピードは、だいたい50キロくらい。
お城の端から端まで走り、階段を上がったり下りたり、時には、何処かの部屋に入ったりと、それはもう色々と逃げていた。
うぅ〜、もうやだー! 疲れた! 疲れたよ! なんで朝っぱらから、こんなことしなくちゃいけないんだよー!
僕は心の中で唸りながら、この未知の生物なのか物体なのか攻撃なのか考えた。考えて考えて考えた結果、多分攻撃と予想した。
まず、生物の場合、“ステータス鑑定”が効かないのがおかしい。たとえ、何かしらの対抗スキルがあったとしても、さすがにこの鑑定結果おかしすぎる。
〈鑑定不能〉
ね? おかしいでしょ? 前にエリスに聞いたんだけど、この世界の人たちが持っている鑑定スキルは、“鑑定”なんだよ。でも、僕の鑑定スキルは“ステータス鑑定”。この違いは何? と思い、聞いてみたんだよ。そしたらさ、
『“ステータス鑑定”? …確か、私達が使ってる“鑑定”の上位版だったと思うわよ?』
って言ってたんだよ? 上位版だよ? なのに、鑑定出来ないなんておかしくない? …たぶん。
とーゆわけで、生物は除外。次に物体なんだけど、“ステータス鑑定”って、実は物体にも効くんだよ。効かなかったってことは、物体じゃないってことになったんだよ。
で、最後に攻撃が残ったわけだよ! …でも、一体誰が僕に?しかもこんなにも的確に僕だけを追いかけて…!
この無数の黒い手たちは、何がどうなってるか知らないんだけど、廊下に置いてある壺とか花とかを全然傷つけてないんだよ。どうみても、隙間とかないほどにいるのに。
おまけに、魔法が効かないときた。なんか、当たる直前に蒸発するんだよね。はっきり言おう。
もう無理(∀`*ゞ)テヘッ
「ふあぁぁ…あ、ユウ?」
「ん? …リラ!」
一つの廊下のいくつもの部屋が並んでいるんだけど、その一つのドアから寝間着姿のリラがあくびをしながら出てきた。
「ねえ―――え?」
リラが何か言おうとしていたけど、とりあえずガシッと手を掴み、みちづ…じゃなくて一緒に逃げる。
「ちょ、ちょっと、一体なんなの!?」
体に身体強化の魔法を付与させながら、リラが講義の目を向けてくる。
さすがリラ。1年の修行の成果だね。とっさに魔法を発動するなんて。
「いやいや、後ろから来てるでしょ!? あれが!?」
「…?」
…え? 後ろ見たよね? なのに、なんでそんな不思議そうな顔してるの? もしかして僕がおかしいの?
「いや、だから後ろのあの無数の黒い手だよ! 見えるでしょ!?」
僕は横にいるリラにそう言い、再び後ろを振り向くリラ。
「? いないよ?」
「…え?」
リラがそういうので、僕も振り向いてみると、確かにさっきまで追いかけていたあの無数の黒い手がいなくなっていた。
えぇ~…なにそれ。
「ユウ…?」
リラがいかにも不機嫌ですみたいな表情で僕を見てくる。怒ってる。ものすごく怒ってる。リラにとってはいきなり僕に連れ去られたような感じだもんね。分かるよ、うん。僕だって同じ目に合ったら怒りはしないけど、少し説明を要求するもんね。
「いや、あのね…? 本当にいたんだよ? 本当だ―――」
リラは両手を腰に当てて、僕を見ていた。僕は、もう何もいなくなった廊下から、視線をリラに向けて、気がついた。
さっきまで僕を追いかけていた無数の黒い手の一つがリラの肩の後ろから覗かせていたのを…
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 転移! 転移! どこでもいいから転移ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
そして僕はリラの腕を掴み、その場から転移して逃げたのであった。




