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第三章―秘宝の力と使い方―

第三章―秘宝の力と使い方―


 夜中に街を出て、山奥を暗闇の中何度も足を取られながら歩いた。けれど、ルーナの体力は既になく、山道の途中で仕方なく野宿をすることになったのである。

 そして現在。時刻は、太陽が真上に昇り辺りを煌煌と照らし出す時間。遅くまで起きていたせいか、ガーツ以外の寝起きは最悪だった。いくら起こしても起きず、結局こんな時間まで、ルーナ、ソラ、シドは寄り添うように広げたマントの上で丸くなっているのだ。

 ただ一匹デリィだけは朝から元気良く起きて、そこら辺の小動物を狩ったり、花と戯れたりして遊んでいた。

 やっと起きたのは、ガーツが火を炊いて昼飯を作る頃だった。昼飯の匂いに釣られて同時に起きた双子が、いつの間にか鍋の前に座っており、二人が抜けたことで寒さを覚えたのだろう、ルーナが眠気眼で起きて来た。


「お前等なぁ……起きるのおせぇぞ。ルーはともかく、お前達はずっと寝てただろうがっ」


 夜中の間、ルーナとガーツは交代で見張りをしていた。野生の動物や夜盗がでるかもしれないからだ。先にガーツが寝て、しばらくしてから交代した。だから、ガーツが一番寝ていない。その割りに彼の動きはきびきびとしている。


「だってぇ、あんな夜遅く起きてないもん」


「眠いときは、眠いんだよー!」


「俺だって眠いわっ!」


 シドがもにょもにょと目を擦りながら抗議する中、ソラは目がぱっちりと覚めたのか、ぎゃいぎゃいと騒ぎ始める。頭にガンガンと響くソラの声に、思わずガーツは怒鳴ったのである。そして、痛みを訴える頭を押さえて、はぁっと深くため息をついた。


「ガーツ、悪かったな。寝たら起きれなかった……少し寝るか?」


 不機嫌そうにできた煮込みスープをかき混ぜているガーツの隣に腰を降ろし、ルーナはかき混ぜているおたまを受け取りながら問いかける。動きは機敏だが、機嫌が悪いのはやはり眠いのだろうと踏んでのことだった。しかし、ガーツは首を横に振る。


「いや、後で寝る。飯食ったら、お前達修行するからな」


 ルーナに短く答えると、ガーツは双子に視線を送りながら言葉を付け加えた。ルーナは、そうか。とだけ相槌を打ち、彼にカップに入れてスープを手渡す。


「修行ー? 何するのー?」


「めんどくさいのやっだなぁ。簡単なのにしてよ、ガーツにい!」


 シド、ソラの順でルーナからお椀を受け取る際にガーツに質問と注文が着いた。ガーツの米神がぴくぴくと小さく動く。


「ソラ、シド。修行ってーのは厳しくなきゃ強くなれねぇんだよっ! いいか、食べながら聞けよ、ここから見える三つ向こうの山に、木がない拓けた場所があんだろ?」


 米神を押さえながらもなんとか冷静を保ち、ガーツはルーナから貰ったスープをがっつく子ども等に話しかける。指差された方向に、口にスプーンを突っ込んだまま双子は顔を向けた。

 全員の視線の先には、三つ向こうの山のてっぺんが森の濃い緑ではなく、薄っすらと草の緑色なのが見えるくらいで、他の山とよくよく見ないと区別がし辛かった。


「あそこがなにー?」


「ガーツにい、これ美味い!」


「ソラ、話を聞け。お前達の第一の修行はあそこまで今日中に行くことだ。俺とルーは先にデリィと一緒に靴の力であそこに行ってるから、後から来ること」


 不思議そうに首を傾げたシドに対して、ソラが料理をまたがっつき始めたので、軽く叱咤する。そして、修行の内容を伝えてから、ガーツは自分のスープを飲み始めた。

 もちろんその提案にシドとソラはえ~? っとぶうたれる。


「きゅうい!」


 全員のやりとりを不思議そうに見ていたデリィが、ぱっと表情を綻ばせたかと思うと、一鳴きしてカツンカツンと靴を鳴らす。人がいる場所、食べ物がある場所、鍋も何も変わっていない。だが、周りの景色は森の中から一変してよく周りが見渡せる草原に近い状態になっていた。

 デリィが誰の心に反応したのか一目瞭然で、ガーツは持っていたカップを落とした。


「デリィ~~っ!」


 低く唸るガーツは立ち上がって、空をパタパタと嬉しそうに飛びまわっている白いドラゴンの首を掴んだ。驚いたデリィが四肢をばたつかせているが、無視だ。ギリギリと手に力を入れだす。


「俺の寝る時間を返せ!」


「きゅーっ!」


 やはり寝たいのか。とルーナはぼんやりと考えつつ、まったく止めようとしなかった。デリィの誰にでも反応してすぐ力を使うのは、ルーナ自身もよくないと思っているからだ。

 しかし、苦しそうな様子に、シドとソラが助けようと、ぽこぽこと首を絞めているガーツを殴っている。


「ガーツ、その辺にしておけ。寝たいなら、寝ててもいいんだぞ? ソラとシドの修行なら私が付き合ってもいいしな」


「……いいや、俺がやる。ルーはルーでその剣の使い方をマスターしないといけないだろう?」


 仕方なくデリィの首を離して、双子の腕をねじ上げながら、ガーツはルーナに答える。しかし、彼の言葉にルーナは目を瞬かせた。そして、ゆっくりと自分の腰につけている剣へと視線を向ける。


「これ……を? 冗談を言うな。これは私のではなくラッシュのだぞ。私などが扱えるものかっ」


「っつったって、ラッシュは死んだんだろ? 他に誰が使うって言うんだ。俺達は全員それぞれ秘宝を持ってるんだぜ?」


「それは……」


 ルーナは言葉に詰まった。

 正論過ぎて、反論ができるはずもない。しかし、だからと言ってこの剣を使う気には到底なれなかった。

 ルーナは視線をさ迷わせて少し考えた後、ガーツ見て口を開く。


「ガーツ、この辺に街はないか?」


「あぁ? っと、街はこの山の麓に一つあるはずだ。結構でかいからすぐわかると思う」


 まったく違う話題だが、ガーツは突っ込むことなく双子の手を離して、街の方角を教えてくれた。無理強いをする気はないらしい。

 ルーナは頷くと、ご飯もそこそこに立ち上がった。そしていまだ団子上に固まっている集団に近寄ると、その中の一匹デリィの首筋を軽く摘んで肩まで引き寄せる。


「私はデリィと街に買い物に言ってくるとしよう。修業に体力は付き物らしいからな、何か美味しい物があれば買ってくる。頑張れ、ソラ、シド」


 三人の顔を順繰りに見ながらルーナは笑みを浮かべ、おとなしく肩に乗ったデリィに目で合図を送る。

 デリィは一声鳴くと、すぐに靴を鳴らしてくれた。ルーナの目には、驚いて止めようとしている青い目の双子と、自分に手を振って見送るガーツの姿が最後に映っていた。

 そして、視界はぱっと変わって整理された道の真ん中にルーナが立っているような風景に変わっていく。案の定、ルーナは国道の真ん中に立っていた。

 馬車が笛を鳴らして威嚇し、慌てて退いたルーナの横を走っていく。


「……確かに、今までの街と比べたらすごい大きさだな」


 馬車が急ぐ方向に目をやると、キフト。という看板の下に街の入り口が存在していた。入り口から見える街の大きさは、ルーナがどんなに目を凝らして遠くを見てみても見えない程だった。だから、ルーナにはこの街がどのくらいの規模になるのか、さっぱりわからなかったのである。

 看板にもう一度ルーナは目をやる。キフトというのがこの街の名前のようだ。煌びやかに飾られた文字に目を細めながらルーナは目を逸らす。

 そして、公道を歩く人達の視線が一点に集まっていることに気がついた。ルーナの隣に明らかに視線が集中しているのだ。

 横を向くと、デリィが小さな羽根を動かしながら飛んでおり、ルーナはうぅんっと小さく唸る。


「デリィ、お前が被れるような服でも買った方が良さそうだな」


 人の視線を追い払いように、ルーナは自分のフードつきマントを脱いで彼に被せた。重さにデリィが下へと沈む。思わず噴出したものの、ルーナは地面にへたり込んでしまったデリィを抱え、フードを頭に被せたまま服を小さく畳むと、抱きかかえたまま街の入り口へ入っていった。





 デリィに子どもようの小さな服を着せ、肩に止まらせながらルーナは街を歩く。やはり、とても大きな街で、賑やかな城下町と言うイメージを受ける。中心には教会が位置しており、その周りを円形状に建物が構築していく町並みだ。

 賑やかな街の中を歩きながら、ルーナはどこか休めるところを探していた。買い物をする目的で来たが、売っている物は豊富で下手をすればすぐに帰れてしまうからだ。そんなすぐには帰りたくなかった。ルーナは未だに剣の所持者について決心ができていなかったからだ。

 人が行き交う中で、頼りは看板だった。服屋、宝石屋、果物屋、すべて屋根についている看板には絵や文字で記載されている。ルーナはその中で酒瓶とお猪口が描かれている看板を見つけた。

 酒場だ。ドアをギィっと音を立てて開く。ルーナが一歩足を踏み入れると、中にいる数人がこちらを見た。既に着直しているフードを深く被り、ルーナはカウンターへと歩く。


「あー……ミルクと、水を貰えないか?」


「承知しました」


 マスターは一礼をするとすぐに注文したものを持ってきてくれた。ルーナの右肩に乗っているもののことも、特に何も言わず、お皿も持ってきてくれる程だ。関心してルーナは彼に礼を言うと丸いテーブルへと移動する。

 座ると、ルーナはデリィを肩から下ろし、テーブルの上へと置いた。そして、貰ったお皿にミルクを開けると、彼に差し出す。

 デリィは小さく鳴くとミルクを舐めるように飲み始めた。ルーナもフードを被ったまま水に口をつけた。

 ちらりと周りに視線を這わせると、物珍しげにデリィを見ている輩や、既に興味を失くしたのか普通に話しだしている人もいる。少しほっとしてルーナはデリィが食事をするのを見守っていた。

 これで、ゆっくりと考え事ができると、ルーナは先程の会話を思い出していた。誰が、この剣を使うのかなど、ルーナは考えたこともなかった。この剣はガッシュの物だ。彼が使うべき剣なのだ。しかし、彼はいない死んだのかもしれない。バークティスの話では星になったかもしれない。ということだ。どちらにしろ、今現在この地上に居ないのならば、この武器を使うことはできないということだ。

 じゃあ、誰が使うべきなのか。恋人の形見と言うなら、やはり自分が持っていた方がいいのだろうとルーナは思う。いや、正直手放すのは嫌だった。

 そうなると、やはりルーナが剣を使うしか道はないのだ。そこまで行き着いてルーナはため息を吐き、テーブルへと伏す。

 ルーナ自身、剣はラッシュに少し教えてもらった程度で、本格的に使ったことはほとんどなかった。この旅でも、ガーツの鞭に助けられあまり使う機会などない。だからこそ、ラッシュの剣をを使う気にはなれなかった。

 使う人物が素人など、剣にも失礼だろう。と小さく口内で呟く。

 一人でループする考えに悶々としていたルーナだが、大きな影に覆われてハタっと思考を止める。フードの中から、目だけを動かして影の正体を探した。


「ようよう、それってもしかして珍しい生き物なんじゃねぇの~?」


 酔っ払った男が三人、酒瓶を持ってテーブルの近くにやってきていた。そして、あからさまに絡むようにデリィを指差しながら話しかけてくる。ルーナは、彼から視線を外して無視を決め込んだ。

 それが気に食わないらしくぎゃいぎゃいと酔っ払い共が騒いでるが無視だ。めんどくさくもあったし、相手にして何かあったのでは自分程度では、正直何もできないからだ。

 デリィが騒いでる連中を顔を上げながら不思議そうに見ている。


「かーっ、ムカつくガキだなっ! こいつ見せろって言ってんのが聞こえねぇのかぁ?」


 一人が業を煮やしてデリィの服の襟を掴んで持ち上げようとする。ルーナは立ち上がり、その手をバシっと音を立てて叩いた。

 男とルーナの視線がバチバチと絡み合う。

 その時、物凄い風が巻き起こり、ルーナの頬を掠めフードを取り去っていく。何事かと思う前に、ルーナの後ろでドン!! っというこれまた物凄い音がした。

 音にその場に居た全員がそちらを見る。

 周りに多少の煙をまとって、店の壁を壊したまま座り込んでいる老人がそこには居た。半ば後ろまで禿げた頭と白髪、そして口元についた長く白い髭が印象的で、彼は起き上がると何事もなかったかのように起き上がって服を叩いている。

 ルーナが呆然としていると、老人は笑いながら歩き出し、ルーナ達の前を通り過ぎていく。そして、どうやら知らないうちに乱闘が始まっていたらしく、ギャラリーが口笛で煽ったり野次を飛ばして老人を見守っていた。

 老人の前には見るからにごろつき風の男達が待ち構えている。老人はそんなごろつきを無視してちらりとルーナを見、首元で親指くっと引き寄せるような動作をしてみせた。はっとしてルーナは慌ててフードを深く被りなおす。

 老人は肩を揺らして小さく笑うと、ごろつき達の方を見た。その場に緊張が走る。


「ぶえっくしょんっ!」


 老人がくしゃみをした。

 辺りが静まり返る。老人はあまり髪のない頭をボリボリと掻いて意に返さない様子だ。

 その様子に目の前のごろつきの顔が真っ赤に染まっていく。


「ふざけやがってこのじじい!」


「なんじゃい、たかがぱいぱい触っただけじゃないかのぉ。」


「もう許さないっ! なんなのこのじじい!」


 怒鳴る男に、茶化すように笑う老人に対して、隣に居た美女と形容して良いだろう女性が食ってかかる。胸元を広げ、豊満な胸を強調するように露出させた服を身にまとっているものの、それ以外は冒険者のものだ。腰に剣も差している。

 じじいと呼ばれた老人はそれでもほっほっと笑い声を上げて、女性へと近づいて行く。そしてきりっと表情を引き締めて口を開いた。


「ええ乳しとるのぉ」



 ガッツン



 老人の台詞が聞こえ終わるか否かの時、鈍い音が酒場内に響き渡る。

 ルーナが、先程座っていた椅子で後頭部を。抗議していた女性が顔面に鉄拳を、老人に繰り出していたのだ。

 その場が静まり帰った時、女性と目が合ってルーナははっとした。ぎこちない動きで椅子を下ろして行く。

 正面と後ろからヒットを食らった老人は流石にふらりとよろめき、女性はそれを見てにこりと笑んだ顔をルーナに向けてきた。ルーナは引き攣った表情で笑い帰す。


「どこの誰だか知らないけど、良い攻撃だったわ、ありがと。すっきりした」


「どういたしまして」


 本当にすっきりと爽やかな表情を浮かべる目の前の彼女に、ルーナは目立ったことを気にしながら簡素に答えて後ずさる。


「それじゃあ――っ!」


 立ち去ろうとしたルーナだったが、言葉の途中で声にならない叫びを上げた。

 気持ちの悪い感触に、鳥肌が立ち、未だに持っていた椅子をその原因に振り下ろす。

 再びガツンという音が辺りに響き渡った。


「貴様、触るなっ!」


「尻を撫でただけじゃろう~」


 頭に椅子の直撃を受けながらも、へらへらしている老人に、ルーナは一歩下がる。頭に血が上ってキっと相手を睨み付けた。

 しかし、老人はそんな気迫などどこ吹く風で、頭から椅子を退かすと背筋を伸ばし、ルーナとの距離を詰めてくる。背筋に冷たい物が走って思わず数歩更に退いた。


「ちょっと、こっちの話しも終わってないのに何やってんのよっ!」


 女性が老人を止めようと肩に手を置いた時だ、敏感にルーナの心情をキャッチしたであろうデリィが全員の前に躍り出る。

 そして小さな口を開くと、老人に対してぷすりと小さな炎を吐き出した。小さすぎて届くはずもなく、デリィは目を瞬いてもう一度口を開く。けど、やはり小さく炎が出るだけで、やはり誰にも届かない。

 全員が宙に浮いて小さな炎を吐き出した生き物を凝視して固まっていた。


「あれ、ドラゴンじゃねぇか?」


 誰かが小さく呟いたのを耳が捉えて、固まっていたうちの一人、ルーナがはっとする。慌てて未だに一生懸命煙とともに炎を吐こうとしているデリィの服を掴んだ。

 ずるりと帽子が外れてデリィの白龍の顔が浮かび上がる。目をひん剥いて彼を引き寄せようとルーナが手に力を入れる。が、しかし、白龍の小さな口から、今度は大量の炎がぶわっと吐き出された。炎に包まれて前が見えない状況に、ルーナは驚いて内心が乱れ、考えるよりも先にデリィを引っつかんだまま酒場を飛び出した。

 やばい。その言葉が頭をぐるぐると回る。後ろがどうなったかなんて知りたくもなかった。だから、ただ前に息を切らして走ることしかできない。

 頭の中が混乱したまま、ルーナはいつの間にかガーツ達がいる山の頂上まで来ていた。どこをどう走ったかも覚えていない。ただ、苦しくて非常に息が切れていることから、だいぶ走ったことだけはわかる。足ががくがくと揺れるほどだ。


「何やってんだ。お前」


 ガーツがルーナに気がつくと、訝しげに駆け寄ってきて顔を覗き込む。血の気が引いたような顔なのに、走って来たせいで異様な汗を掻いている。

 どう見ても尋常じゃない様子に、ガーツは眉を潜めた。小さくバタついているデリィの服を力の入った手で握っているルーナの肩を軽く叩く。すると、彼女は一瞬ビクっと身を強張らせて顔を上げる。

 光のない目から、徐々に意識のある瞳に変化して行き、青くなった唇が震えだした。


「落ち着け、何があった?」


「……デリィが炎を吐いて。すごく大きい炎だった。もしかしたら……それに、デリィがドラゴンだって知られて、老人が……」


 ごくっと喉を鳴らしてルーナはぽつぽつと断片的に話をする。断片的過ぎてガーツには理解ができず、仕方なくもがくデリィを離すようにルーナの手を解いてから、彼女の金色の瞳を見つめた。不安げに小さく揺れている。


「デリィが炎を吐いたんだな? ってことは、危険なドラゴンだって街で認知されちまったのか? 老人ってのは?」


「ほっほっほ、わしのことじゃのぉ」


 矢継ぎ早のガーツの質問に、ルーナがもごもごと口を動かして答えられずにいたが、最後の質問に誰かが答えた。

 驚いてルーナとガーツがそちらを見る。デリィがぐるぐると喉を鳴らして威嚇するのが二人の耳に届いた。


「貴様っ!」


「あなたはっ!」


 ルーナが表情を引き締めて目に映る相手に威嚇するように吠える。そして、ガーツは彼女よりも驚いた声でルーナの後ろに立っていた老人に声を掛けた。まるで知っているような反応。ルーナは思わずガーツを見る。


「ほっほっほ、大丈夫じゃよ。炎はわしが処理しておいたし、その子は人形で大道芸と言っておいたから、また行っても何の問題もないじゃろう」


 老人は笑いながら説明をし、ガーツとルーナに軽い足取りで近づいて来た。ガーツは目を瞬いてもう一度彼の存在を確認すると、膝を突いて老人に頭を深々と下げる。ルーナはどういうことなのかと交互に男二人を見た。


「久しぶりじゃな、ガーツ」


師匠シーフー、お久しぶりです。お手数をおかけしました」


 老人がガーツの名前呼び、ガーツは師匠と彼を呼ぶ。その様子にルーナは目を白黒させていたが、自分の視界の隅にふうっと大きく息を吸い込む白いドラゴンの姿を捉えてそちらに意識が集中する。

 警戒していたデリィが今にもガーツの師匠に向かって火を吐こうとしているのだ。ルーナが動くよりも先に白龍の小さな口が開いた。



 ポスリ



 抜けたような音がした。ルーナが思っていたような大きなオレンジ色の光は現れることはなく、代わりに老人の手に頭を両脇から押さえられているデリィが口をぱくぱくと動かしている。


「ほっほ、ドラゴンは耳の下にある穴から空気を取り込んで炎に勢いをつける。そこが塞がれれば見ての通り、不完全燃焼じゃよ」


 ぽかんとしているルーナの方にデリィを向けつつ、老人は面白そうに説明していく。デリィが先程の酒場でも最後以外はどうして炎が上手くでなかったのか、よくわかる。頭をフードで隠していて風が上手く取り込めなかったのだろう。

 老人はギィギィ鳴きながら抵抗しているデリィを押さえつけたまま、顔を上げて立ち上がったガーツへと視線を向ける。


「ところでガーツ。お前はルーナ王女となぜこんなところにいるんじゃ?」


「えー……っと、ですね。いろいろ事情がありまして……」


「ちょっと待て、なぜ私がルーナ王女だと?」


 ガーツが老人の問いに歯切れ悪くを答える声を掻き消すようにルーナが間に入った。いつまでも押さえつけられてるデリィをさりげなく奪いつつ、威嚇するようにルーナは目を細めて目の前の皺だらけの男を凝視する。

 老人もフードの奥から見える金色の目を射った。


「先程顔を拝見したしのぉ。金髪金目のおなごなど、そうそうおらんじゃろうし、ご無沙汰しておりますな」


「ご無沙汰……だと?」


 答えた老人の言葉にルーナは狼狽して一歩下がり、引いた視界の中で彼の顔をマジマジと見る。先程の無礼な行いに、知らない人だと頭から思い込んでいた。傍から改めてじっくりと観察すると、優しそうな目元に、どこか気品のある佇まいを持っている。

 ルーナは確かに彼に会ったことがあった。しかし、それがどこか思い出せずに、首を軽く捻る。


「二、三度会っただけですからなぁ。お忘れかと思いますが、ラッシュが世話になっとったのぉ」


「…………――っ! ラッシュの師匠っ! 」


 恋人の名前を言われれば、ふと過去の断片が顔を出し、口を開いて叫ぶ。ルーナが彼の存在を思い出すと、老人は深深と頭を下げた。


「思い出してもらえて光栄ですなぁ」


「え、しかし、ガーツも貴方を師匠だと……」


 見尻に皺を刻ませ優しげに微笑む老師に、ルーナは目を瞬いて彼とガーツを見遣った。ガーツは困ったように片方だけ眉を上げ、口を開こうともせずに頬を掻いている。ガーツの様子はあからさまに何かを隠していた。


「どういうことだ、ガーツ。私はてっきり貴様はラッシュのことを知らないと思っていたのだが?」


「……知らねぇよ。会ったことはねぇ」


 じと目を向けてガーツに攻め立てるように言葉を投げるルーナに対して、ガーツはぷいっとそっぽを向き、投げやりに答えた。これ以上話さないという頑なな態度だ。

 ルーナは額に皺を寄せながら、今度は白い髭を生やした老人に向き直る。そして、視線で答えを問うた。


「ほっほっほ、わしの弟子はたくさんおりましてなぁ。ガーツはラッシュが出て行った後に来た小僧っこじゃ。ルーナ王女、ラッシュは元気でやっておりますかのぉ?」


「あ……それは……」


 返答を受け取ったものの、その後の質問でルーナは言葉に詰まった。そして、口を結んだまま、眉尻を下げて視線を落とす。


「噂は本当じゃったか……残念な男を失くしたのぉ。どれ、ルーナ王女、少し二人でお話しをしませんかのぉ?」


「ちょっと待って下さい、師匠。何を言うつもりですか?」


 ルーナが顔を上げて答えようとするのを遮るようにガーツが、自分の師匠に食ってかかる。珍しい敬語を使いながらも、表情は引き締まってどこか気迫を感じさせていた。どう見ても威嚇をしている。

 老人はガーツへと体を向けると、彼へつかつかと近づいて行った。


「お前さんの許可がいちいち必要かい? ひよっこは大人しくしておるんじゃ」


 スッと細められた目は、向けられたはずではないルーナの肌にすら鳥肌を立てる威圧感。小さくガーツの身体が震える。


「悪いが、師匠。俺はもうガキじゃないんでね、そいつに俺のことを話すつもりなら、全力で止めさせてもらう」


「ほう、やると、言うのか。お主は、わしの力を知っていると思ったのだがなぁ?」


 一歩引き、ガーツが自分の獲物を腰から抜き取る。老人が機会を伺う様に横へと徐々に足を忍ばせてずれていき、ガーツも正面の視界に師匠が入るように徐々に横へとずれていく。


「知ってますよ、禁忌を犯したヴィーダ。人が使えないと言われている魔術を使える人間でしたよね。そして、武器は触れただけで使いこなす程の天賦の才をお持ちだ」


「しかし、老いぼれだからのぉ? 主でも勝てるかもしれんぞ」


 じりじりと互いの距離を詰めていく二人。もう、喧嘩の発端よりもこの緊迫感が楽しくて仕方がないという表情になり、挑発を互いに繰り返す。

 けれど、まだ二人とも仕掛けない。ルーナは、呆気に取られて二人の行動を見ることしかできなかった。間に入って止められる程の実力はないと、肌で感じていたせいもあるかもしれない。


「ご冗談を、どうせまだまだ元気なんでしょう? ルーを追いかけて来たくせに息も上がってない。俺は、油断なんかしないからな」


 ガーツが声のトーンを落としたのが合図だ。二人とも同時に地面を蹴る。ガーツの鞭が唸った。しかし、老人はいとも容易く風を切りながら向かってくる鞭をいなし、ガーツの懐へと入り込む。

 老人が、両手をガーツの腹部へと突き出した。反射的にガーツは鞭を持った手を下に引き、柄の部分でそれを受け止める。しかし、衝撃は思ったよりも大きかった。

 ぐっと突き出された手に押されて、ガーツの身体が後ろへと飛ぶ。踏ん張る足が地面を削り、数メートル後ろへと後退した。足の引き摺られたような後がくっきりと地面に残っている。


「そうかのぉ? では、わしも全力でお相手しよう」


 すぐに身を構えて対抗しようとガーツに、師匠はにっと口元を歪ませて手をゆっくりと動かして柔らかい動き繰り返す。肩から目、目から胸元、肩へと一巡する動き。手は動きに合わせて力が抜けたように流れていく。

 ガーツは動きにはっとして鞭を力の限り振るった。

 老人が口元に手を戻した時、開いた口から青白い炎が舞った。白龍よりが吐いた炎よりも大きな渦を描いて炎はガーツに襲い掛かる。ルーナの目には、ガーツが炎に飲み込まれたように映り、思わず喉をごくりと鳴らしてしまう。


「ほぉ、少しはできるようになったのぉ」


 炎が切れるように跳んだ。そして、鞭を円形に回しながら立っているガーツが姿を現す。それに、師匠は目を細めて楽しそうに表情を緩める。炎を蹴散らし終わってから、ガーツは鞭を止めて、彼の師匠とそっくりの表情で笑んだ。


「あ、向こうで美女が着替えをっ!」


「なにぃっ!」


 しかし、緊張は一瞬だった。ガーツがばっとあらぬ方向を指差すと、老人は物凄い勢いでそちらへと顔を向ける。その後は本当にあっと言う間だった。

 隙を見つけたガーツが師匠の足へと鞭を絡ませ引くと、どこどこと辺りを見回して隙だらけの老人は前のめりになって地面へと突っ伏した。鞭は容赦なくその転んだ細い体へと蛇のように巻きついて行く。


「あんた、進歩ってもんがないのか……昔から変わらねぇ、エロじじいだな」


 全身をぐるぐる巻きにされて身動きの取れない師匠に、ガーツはじと目を向けながら屈み込んで話しかけた。老人がはっとしてガーツを見、びったんびったんっと魚が跳ねるように縛られた身体を動かす。


「ぬっ!? ガーツ、お主わしを騙したなっ! 美女などおらんではないかっ!」


「こんな野っ原で着替えてる女がいるかぁっ! 気がつけよ、バカ師匠!」


 口だけでぎゃいぎゃいと喚く相手に、ガーツの米神がぷつりと切れる。先程まで敬語を使っていたはずの相手に怒鳴り散らす始末だ。

 どうやら決着のついた二人の元に、ルーナがおずおずと近づいてくる。


「……何がどうなった?」


「エロじじいが欲望に目がくらんだだけだ」


「そうか」


 短くガーツと会話を交わすと、ルーナはガーツ同様冷たい視線を老人に注いだ。


「ひどいぞ、ルーナちゃん、わしゃ無実じゃ!」


「全部見てたが?」


 慣れなれしくも弁解しようとする老人に、ルーナは冷たく言い放った。その場が凍る。

 ガーツがため息を吐いて、肩を落とした。


「ルー、ちょっと師匠と話をしたいと思うんだが」


「あぁ、わかった。気になることは多々あるが……先に貴様に譲ってやろう。ソラとシドはどうした?」


 ルーナは冷めた目で見ていた老人から視線をガーツに戻すと、にっと笑って答える。そして、いるはずなのにいない子ども二人の名前を聞く。


「あぁ、あいつらはまだ修行中」


「そうか、ならば私は夕飯でもデリィと一緒に作っておく。心置きなく話してくると良い。師弟水入らずでな」


「……あんまりしたくねぇけどな。帰ってきたらよろしくな」


 頭を撫でていたせいか、いつの間にかルーナの腕の中で眠っているデリィを見てから、ルーナはガーツに笑いながら告げる。対してガーツは肩を落として息を吐き、しぶしぶと鞭に包まったままの師匠を引き摺りつつ山を降りていった。

 ルーナ達が見えなくなる場所までやってくると、ガーツは師匠である老人を巻いている鞭を解いた。痛い痛いと喚いていた割りに、鞭を解いて起き上がった師匠の身体に傷はほとんどついていない。


「まったくガーツは手荒いのぉ」


「うるせぇ。だいたいなんであんたが、こんなところにいるんだよ」


「ほぉほぉ、わしが懐かしい場所に居てはいかんかのぉ? ただの偶然」


「にしては出来過ぎてる」


 服を払う真似をする師匠の台詞を引き継ぎ、きっぱりとガーツは言い放った。鋭い黒い瞳が老人の透き通った青い瞳を射る。

 視線を返す老人の表情は、もう笑ってはいなかった。


「お前が言っているのは、ルーナ王女に出会ってからの話しか? それとも、わしのことか?」


「……全部だ。ルーがラッシュと出会っていたことも、俺があんたと出会っていたことも、次々に七星秘宝を使う奴と出会ったのも、ドラゴンが味方になったことも、全部が全部。偶然にしては出来過ぎている」


 ガーツは近くにあった気の根へ腰を降ろし、組んだ手に額を乗せた。師匠からは顔が見えず、表情はわからなかったがガーツの話しに相槌を打つ。彼もまた、ガーツの前に適当に腰を降ろした。


「ガーツ、お前は七星秘宝が一つ、ライカンス・ウィップの使い手じゃ。どうしてか、お前には判ってるいるはずじゃないかのぉ?」


「……師匠。これが星の導きというなら、俺は正直降りようと思う。何もかもが異様だ。まるで、ルーをあのドラゴンと対峙させるために世界が動いているようにしか感じない。」


 一旦そこで言葉を区切り、ガーツは息を吸い込む。そして、まるで自分の気持ち悪い感情を吐き出すように一気に話しだす。


「なぜ、ラッシュはドラゴン退治に出かけた? なぜ、俺はルーとあそこで出会った? 双子はどうしてドラゴンと知り合っていた? しかもそのドラゴンは人をもう恨むのが疲れたという。挙句、ルーが剣のことで悩んでいたら、あんたが出てきた。ルーはそれが普通だと思ってるようだが、俺にはそうは思えない」


 師匠はガーツの言葉を静かに聴いていた。そして、木々に覆われた空を仰ぎ、ふっと息を吐いた。答えを求めるような強い視線に、老人は薄く笑う。


「ふむ、お前が歩いてきた道はなんとなくわかる。星の引力は偉大じゃ、普通ではない。お前がラッシュの噂を聞いてわしに弟子入りに来た時、わしは久しぶりに感じたよ、星の力というモノをな。」


 老人はすっと立ち上がりガーツの横を通り過ぎるようにゆっくりと歩を進ませた。


「主には話したかもしれんが、わしは何代か前の月の王女に会っておる。そして、お前が持っているそのライカンス・ウィップで戦った。そのドラゴンの名は……」


 ガーツの横を通り過ぎ、今度は師匠が言葉を止める。そしてガーツに背中を向けたままゆったりと息を吐きつつ、出会ったドラゴン名を懐かしげに告げた。


「バークティス」


「バークティス……?」


 聞いたことがある名前に、ガーツの頭が一時停止する。どこで聞いたのか、頭がぐるぐると回転して答えを出そうとしている反面、答えを知るのを拒否していた。ガーツは彼女の名前を知っている。


「今は老い、ひっそりと暮らす旧友だが、あの時は気性も荒かった。人間を根絶やしにしたいと燃える瞳を強く光らせておった。お前の言葉を借りるなら出来すぎた偶然だった、バークティスは子どもを全員殺されて頭に血が上っていたんじゃ。その時、丁度月は落ちてきた」


「なにを、言ってるんだ? 師匠、バークティスは、だって」


 師匠の言葉にガーツはうろたえた。バークティス、白龍デリィのひひひひひ祖母だ。ついこの間、ガーツは彼女と出会っている。桃色の鱗を持ち、優しい声色を持つドラゴンだ。

 確かに、彼女は恨むのが疲れた。と言っていた。けど、その前はこの老人と戦っていたというのだ。しかも、話しの内容から多分状況は今のディストラクの位置で。

 それなのに、バークティスは今度はディストラクを止めようとしている。なんともいえない曖昧な感情がガーツの胸の中に噴き出た。


「会ったのじゃろう? あの白龍には見覚えがあったわい。なぁに、心配はいらん。今はもう落ち着いたドラゴンじゃ、子どもが人間に殺されなければ、あいつは怒らんかったじゃろう。元は優しい奴じゃ」


「……ドラゴンさえも、星と月の力の中で踊らされてるって言うんですか?」


「かもしれん。だが、もしかしたら違うかもしれん」


 ガーツの吐き出すような声に、ずっと背中を向けていた師匠はやっと振り返った。そして首を横に振り、ガーツの肩に手を乗せる。


「偶然、運命、星の力、どれをとっても一概にそれだとは言い切れん。ガーツ、お前は気にしすぎなんじゃ。今のお前を生きろ、それはお前にしかできんことじゃからな。」


「でもっ……」


「降りるというならそうするがいい、だが、どうやらルーナ王女はお前を頼りにしてくれているようじゃないか」


 顔を上げて反論しようとガーツに師匠は首を横に振って制した。眉尻が下がり、いつもの表情よりも幼く見えるその表情に、懐かしげに老人は微笑む。

 師匠の言葉に面食らったように目を瞬き、今度はぷいっとそっぽを向いて唇を尖らせるガーツ。


「そんなの……ラッシュと、似てるからですよ」


「確かに顔はそっくりじゃが、性格は違うわい。顔が似てるだけで信用して貰えるほど、ルーナ王女は甘くないぞ。」


 ちらりと見た目に映る鋭い眼光。ガーツは息を吐いて身体の力を抜き、ゆっくりと前に倒れこむ。頭の中で、恐怖と責任感がせめぎ合って爆発しそうだと、ガーツは思った。

 それを見越したように師匠は口元を緩めて笑む。


「優しさは知らず知らずのうちに人に伝わるものじゃ、お前らしく生きてみろ。あの時みたく恐怖に打ち勝ってみるがいい」


「得体の知れない力っていうのは怖いものなんですけどね……師匠はずるいなー。あの時のことを持ち出すなんて」


「ほっほ、お前が小さい頃から知っておるからなぁ。そこは仕方あるまい」


 肩に置かれた手でぽんっと軽く叩かれるとガーツは顔を覆って、愚痴を零した。結局ガーツが心に決めていることは、師匠に筒抜けなのだ。

 それを肌で感じると、あーあとさらに脱力して笑うガーツ。力が抜けた体は軽かった。空を見上げるガーツに、師匠も微笑みながら頷いている。

 穏やかな雰囲気に、視線を老人に戻すとガーツは再び表情を引き締めた。


「……師匠、ルーに俺のこと話す気ですか?」


 真剣な表情に、老人はガーツの肩から手を離すと座っていた位置へとまたゆったりとした足取りで戻る。そして、腰を降ろすと彼同様、真剣な表情で口を開いた。


「時と場合によりけりじゃ、避けては通れんこともある。だが、お前の不利になるようなことは言いはせんよ。師匠を信じることじゃな」


「ったく、どうせ止めても必要だと思ったら言うくせになぁ」


 出てきた言葉はやはりガーツの思いを全て受け止めてくれる言葉ではなかった。わかりきっていたことに、ガーツがガシガシを頭を掻いて息を吐いた。

 もし、本気で頼み込めば、師匠は言わないでくれるのだろう。口では茶化すがそういう人だ。

 けれど、ガーツがもしルーナとこれからまだ一緒に度を続けるつもりなら、彼女も知っておいた方が良い事があるのは理解していた。だから、それ以上師匠を止める気はガーツにはなかった。


「なんじゃ、師匠のことを良くわかっておるではないか」


「俺が小さな頃から見てきた背中ですから、ね……師匠、ルーに剣の使い方と七星秘宝のことを教えてやってください。俺だと……ちょっと難しいんで」


「そりゃ、お前が曖昧に接しとるからじゃろうて。しっかりせい」


 師匠に叱咤されるも、ガーツは苦笑するだけだった。自分が彼女への接し方に距離を取ってることぐらいガーツ自身もよくわかっていたからだ。それが、どこから来るのかさえも。

 ガーツは立ち上がると、師匠に手を差し出した。


「師匠、戻りましょうか」


「そうじゃのぉ。美味しい夕飯が楽しみじゃて」


 ほっほっほっとひとしきり笑うと、老人はガーツの手を取って立ち上がった。そして、ゆっくりと二人は元来た道を戻るのである。





 時刻は少し戻って、ルーナ達がいる山よりも一つ分離れた山に、子ども二人は地面に突っ伏していた。


「いったぁい!」


「酷いよな、ガーツにい!」


 地面から顔上げてパタパタと払いながら抗議する同じ顔の子どもは、自分達が飛ばされた山を見た。

 実は、ルーナが白龍のデリィと一緒に買い物に行った後、ガーツは双子に切れた。何を言ったのかはもう忘れている双子だが、とにかくガーツが怒って鞭を二人に巻きつけ、遠心力を利用して飛ばしたことは覚えている。

 そして、飛ばされた先がこの山一つ挟んだ山の中で、木々にズタズタと引っかかりながら落ちた。そのおかげで擦り傷程度で済んでいるのは、ガーツの手腕なのか、双子の運なのか定かではない。


「ねぇ、ソラ。どうするー?」


「どうするってあそこまで帰るしかないだろーっ! オレ達が持ってるのって言ったら……」


 不安そうに自分の服を引っ張る弟に、ソラは唇を尖らして反論した。そして、唯一身に着けているものへと視線を落とす。首元からかけてある、二つに割れた七星秘宝、レプラ・ボーンだ。

 小さな角笛をソラが手に取ると、シドも真似して自分の角笛を掴む。小さな角笛は二人の手の中で揺れるだけ。心もとなかった。


「ねぇねぇ、ソラー。ガーツにい、ボク等を投げる時、なんか言ってなかった?」


「んー、言ってたような言ってなかったような」


 眉を下げているソラに、シドがあっと小さく顔を上げて、思い出したように話す。

 ソラもシドに言われたことを思い出そうと、ガーツに投げられることを思い出す。怒り任せに二人を投げながら、ガーツは確かに何か叫んでいた。二人とも同じ方向に首を捻る。


「七星秘宝を使って、帰ってこいー! とかなんとか」


 先に思い出したのはシドだった。ガールの口真似をしながら大声でがなってみせる。それに、ソラも釣られて思い出したのか、額に皺を寄せ、ものすごく嫌そうな顔つきをしてげんなりとした。


「マジで~? ゲロゲロ~。超めんどくさいじゃん!」


「でもー、またガーツにい怒るよ? きっと」


「怒るったって、どうやって使えばいいか教えてくれてねぇじゃんかよー」


「だよねー」


 あーあっと肩を落とすソラに、ちぇっと唇を尖らせるシド。


「……どうっすか」


「どうしよっかー」


 その場にへたり込んだ二人は顔を見合わせてため息を吐く。シドはもう一度角笛を手にとって眺めた。一度、その力を使ったことはあるものの、それは人を操る力であって、周りに人がいないのならば効果はない。

 どうにもこうにも今使える程の物ではない。とシドは首を横に振った。

 ソラもまじまじと自分の胸元に掛かっている七星秘宝を見遣る。そして、期待していない口調でぽつりと呟く。


「使ってみるしかねぇのか?」


「どうやって?」


「どうやってって……お前も考えろよな!」


「え~? ソラも考えてよ~」


 結局ソラとシドではそのループに陥ってしまうのが関の山だ。

 むぅっと口をへの字に曲げながら、ソラは頬付けをつく。シドも真似して頬杖をついた。

 しばらく考えて、ソラは徐に自分の口へと角笛を付ける。ピウっと音が鳴り、ゆっくりと息を吸い込んでからソラは頭に音楽を思い浮かべる。懐かしい、母親が洗濯する時によく口ずさんでいた明るい曲だ。

 ソラが頭に曲を思い浮かべると、角笛は反応して、その曲を奏でていく。今日の笛の音は優しくて、曲にマッチしていた。


「わぁ、懐かしいなぁ。なんだか、元気出てきた~!」


 知っている曲にシドが表情を綻ばせて手を叩く。そして、自分もソラと同じ曲を思い描き、笛を鳴らす。

 二人の笛の音が綺麗に折り重なって辺りを包んでいく。


「そっか! 笛吹くと元気になるし~、吹きながら帰って来いよ、ってことだったんだよ!」


「なるほど! ガーツにいも怒りながら、オレ達のこと心配してたんだなぁ」


「さっすがガーツにい!」


 元から音楽が好きな二人は上機嫌になって笛の音を鳴らし、半ば良い方向にガーツの言葉を解釈する。そして、悠々と元の場所に戻るべく、足を進めたのだった。

 笛の音の不思議な力に助けられて、二人は疲れることもなく目的の山へと行くことができた。道中、まったく何にも出会わなかったことも、笛のおかげだと、双子は思っている。

 そろそろ日が沈みかける頃に、やっと投げられた場所へと到着すると、そこにガーツの姿はなかった。代わりに、見たことのある背中が赤い炎の前に座り込んで何やら行っているのが目に入る。


「ルーねぇっ!」


「なになに、何してるの~?」


 まだまだ元気いっぱいの双子は、すぐさま金髪の女性ルーナへと駆け寄って、手元を覗き込んだ。

 驚いたルーナがびくっと身を跳ねさせて、真ん丸い目をソラとシド、交互に向ける。二人が知っている人物だと気がつくと、張った肩を降ろして、ルーナは笑みを浮かべた。


「ソラとシドか、おかえり。今夕飯を作ってたんだ」


「わーい、ご飯ご飯ー!」


「そういえば、お腹ぺっこぺっこだ!」


 ご飯の言葉にはしゃぎ立てるソラとシド。ルーナもそんな二人を微笑ましげに見遣り、手元で作っていたどろっとした物をお椀についでいく。そして、それをソラとシドに手渡した。

 お椀の中身は、どろっとして黒っぽい。けれど、ルーナが作ったのだから大丈夫。という概念で、双子は疑いもせずに、いただきまーす! っとそれに口を付けた。



 ポトリ



 お椀が落ちる音が二つ。その後にバッタンっという倒れる音が二つ。双子はぐるぐると回る視界で、徐々に紫色になる空を見上げていた。


「ど、どうした、二人とも!」


 倒れた二人見て慌てたのはルーナだ。立ち上がって二人の顔を覗き込む。ソラとシドの顔はどちらも顔面蒼白で、空に向かってぎこちなく両手を動かしてうなされていた。

 ルーナが不安そうに額に皺を寄せながら、二人の頬を交互に叩く。すると、悪夢から覚めたようにはっと目を見開く。


「……ルーねぇ、何入れたの……?」


「すっごいまずい」


 シドが起き上がって弱弱しく呟き、ソラが吐く真似をしながら零す。ルーナは困ったようにソラとシドが背負って来たリュックを目で指した。


「買い物に行ったが、結局買い物できずに終わってな。お前達の鞄の中から食べ物を拝借して……」


 立ち上がったシドがふらふらとリュックに近づいて行く。開けっぱなしになったままのリュックを覗き込み、中をごそごそと手を突っ込んで確かめているようだ。


「ルーねぇちゃん、なんで乾物とかなくなってるの~?」


「え、出汁とかそういうので取るんじゃないのか?」


「干物とかもないじゃん」


 おろおろしているルーナを置いて、ソラも自分のリュックへと急ぎ、中身をチェックした。ルーナの言葉に子ども二人はじと目である。


「ルーねぇちゃんって、ご飯作ったことないの?」


「うっ……」


「ご飯は、何でもかんでも入れれば良いってもんじゃないよ」


「ううっ……」


 双子の言葉に衝撃を受けて胸元を押さえるルーナ。双子は同時に息を吐いて、手を肩横に持ってくると、やれやれと首を横に振る。その場の空気が彼女にとっては重かった。

 しかし、そこへ影が二つ。


「何やってんだ、お前ら」


「そ、それが……」


 やってきたのは、話を終えたガーツとその師匠だった。ルーナがどもる横で、ソラとシドは顔を見合わせてにまっと笑い合う。


「ガーツにい、ルーねぇがご飯作ってくれたんだってぇ! 食べようよ!」


「あ、あぁ。なんだ。できてたのか。」


「それは楽しみよのぉ」


 突如ぱっとした笑顔を浮かべて、双子は後から来た二人に席を勧め始めた。呆気に取られたルーナがとめる間もなくお椀にどろどろの物体が注ぎ込まれ、二人に振舞われていく。その双子の手際の良さといったらない。


「いただきます」


「あ、ちょ」


 待て。とルーナが言葉を発する前に、口をつけた二人がお椀を



 ポトリ



 そして、二人はひっくり返った。先程のソラとシドの様子をまるっきり再現しているようだ。口をつけないで見ていた空とシドは腹を抱えて笑いながら、ガーツ達を指差していた。

 ルーナは握った拳をふるふると震わせる。


「いい加減にしろーっ!!」


 虚しく叫び声が響くのであった。

 結局、ふざけたソラとシドの頭には大きなたんこぶが一つずつでき、食事はガーツが作り直すこととなった。作り直しているうちに日もとっぷりと暮れ、森の木々の囁きが耳につく。

 全員が唯一の灯りである炎を囲み、ガーツに割り当てられた食事を手に持つ。米類と野菜を炒めたものに、焼き魚がついたものが皿の上に乗っている。

 いただきます、と子ども二人が食べ始めたのをきっかけに全員がゆったりと食べ始めた。


「しっかし、ルーが飯作れなかったとはな」


「音楽や読書はやらされたが、料理はやったことがなくてな。適当にやればできるものだと思っていた」


 笑うガーツに、ぶっきらぼうにむっとしながらルーナは答える。料理は出来上がったものしか出てこなかったのだから、当たり前だろうと小さく付け足して、料理を口に運んだ。小さく美味いとルーナの口から言葉が漏れた。


「それより、デリィが未だに起きないんだが……」


 こほんっと咳払いをして、料理のことから話をずらし、円から少し外れた場所で自分の脱いだフードに包まって未だに動かない白龍へと目をやった。

 ソラとシドは会話など無視して料理を貪っている。それをよそに、老人がルーナへと視線を向けた。


「ほっほ、当たり前じゃよ。ドラゴンは炎を生成する身体をもっとるが、こんな小さな身体に溜め込める炎はほんのわずかじゃ。昼間ので使い切り、身体がもたんのじゃろうて」


「そう……なのか。貴方は詳しいのだな、いろいろと。ヴィーダ、だったか」


「そうですじゃ、ルーナ王女。ヴィーダと申しますぞ」


 老人の自己紹介に更に顔を引っ付けそうな状態だったソラの動きがぴたりと止まった。そして、もうほとんど何も残っていない皿から顔を上げて顔に米粒をつけながらマジマジと老人ヴィーダを見つめる。


「オレ、聞いたことある! 魔法が使えるって、絵本で読んだ!」


 目を輝かせて、大きな声を出すソラに対して、まんざら悪い気もしないのか、ヴィーダはほっほっと声を上げて笑う。ガーツは師匠の様子に若干不安げに眉尻を避けた。


「そういえば、ガーツもそんなこと言っていたな。貴方はいったい……」


「ほっほ、なぁに。ちょこーっと星の力に詳しいだけじゃよ。わしには離れていても七星秘宝が力を貸してくれるんじゃ」


「え、これ?」


 ヴィーダは、ソラが首から掛けている角笛を目で指した。空がそれを摘んで首を傾げる。


「そうじゃ。正確には星の力、月の力を知ることによって、他の生命の力を知ることが出来、その力を借りる方法がわかった。と言った方が良いかのう」


「へぇ、よくわかんない」


 老人の言葉に目をきらきらとさせていたソラだが、言い換えられた説明にきっぱりと己の感情を告げた。老人は目を瞬いてから、ぷっと口元を押さえて笑う。


「これは感じんとわからんことじゃ。見たところお前達は七星秘宝を何もわかっとらんようじゃからな。ガーツ含めて」


「俺もかよ……」


「ほっほ、自覚していないと言うのじゃ。七星秘宝を持つお主達は自ずと感じているはずじゃが、それの自覚がない。七星秘宝はいわばこの地上に存在する星。空の星と同じじゃ」


 ガーツのため息に笑いながら言葉を溢すと、老人は空を見上げた。満天の星が、夜空に輝いている。それから、ゆっくりと視線を七星秘宝の鞭、角笛、靴へと走らせた。


「星は、星同士の力と、月の力で自分達の力を保っている。わし達の目には見えないが、空気中には星達の力がところどころに散らばっているのじゃ。星達から少しずつ放出した力は空から夜に一番降ってくる。昼間も残った力が浮遊しておるがな。ガーツ」


「はい、なんでしょう?」


 老人の真剣な声色に、ガーツもかしこまって返事をする。ヴィーダは、彼が持つ鞭を渡すように手を差し出して示唆した。ガーツは黙って自分の腰から獲物を引き抜き、師匠であるヴィーダにライカンス・ウィップを差し出す。


「このライカンス・ウィップの特性を言ってみろ、ガーツ」


「長さが自在に変えられることです」


「なぜ、長くなると思う?」


「それは……」


 受け取った鞭を誰もいない方向に一振りして、足元に蛇のように徐々に伸ばしていくヴィーダ。彼の質問に、ガーツの瞳が揺れた。

 答えに詰まったからだ。ライカンス・ウィップは使う物の意思を汲み取って、長さや太さを変化させる。その質量が増えたり減ったりすることをどう説明していいのか、ガーツにはわからなかった。ただ、思ったからそうなる。という意識だ。

 ヴィーダは炎に照らされた顔をにっと歪ませる。


「だからわかっとらん。と言うのじゃ。星は回りにある星と月の力を吸収してそこに物質、目に見え触れる物を作りだしておる。その性質を変化させる方向は各々の星によって能力がちがくなるがの。」


「じゃあ、これは~?」


 やっとご飯を綺麗に平らげたシドが、自分の首にかけてあるレブラ・ポーンを浮かせて見せる。


「レブラ・ポーンの特性は音じゃな。ライカン・スィップが触れる物質であるのに対して、レブラ・ポーンは目には見えんし触れることはできないが、耳に聞こえる物へと変化させる。この音、というのは振動として伝わる故に、いろんなことができるはずじゃ」


「ほんと? 例えば?」


「人の動きを止めたり、操れたり、傍は振動でガラスを割ることなどもできるじゃろうて。ただし、レブラ・ポーンには、もう一つ特性がある」


「封印の力だろ?」


 シドの追撃にもあっさりと答えたヴィーダだったが、ルーナから出た言葉には目を白黒させて驚いている。彼の様子に不思議そうにルーナは首を捻った。

 肩を竦めてやれやれとヴァーダは首を横に振る。


「なんじゃ、知らんのかい。いいわい、話もそろそろ飽きてくるころじゃろうて、実践してみせようじゃないかのぉ。今宵、楽しき宴に釣られてやってきた珍客に対してな」


 ヴィーダはそう言うと、双子の首元から、角笛を奪った。まるで意図的に首から提げた糸がぷつりと切れて彼の手中に収まる。

 炎の灯りがなければ、わからなかっただろう。ヴィーダの後ろに、何か大きな塊が潜んでいることに。

 緊張感にガーツとルーナがガタリと立ち上がり、そちらを凝視する。双子は状況が掴めずにきょろきょろと立ち上がった大人達を見ている。


「いつの間にっ」


「先程な、ほれ、見つかったから突進してくるぞ。逃げろ逃げろ」


 ルーナが苦虫を潰したように言い放つも、ヴィーダは楽しそうに全員に指示を出す。ガーツはヴィーダが投げて寄越した鞭を使い、双子を別方向に投げ飛ばす。そして、師匠の声に従って横に飛んだ。ルーナもガーツに習って反対方向へと飛ぶ。

 ただ一人、声を掛けた老人だけが、いきり立ち駆け込んでくる大きな物体から逃げなかった。二つの別れた笛を手にまとめて持ち、口元に近づける。すると、笛が形を変えた。二つの笛が連なり、一つの笛へと変化していく。


「ほほお、封印してあるのはスライムか。なるほど」


 突進してきた物体が炎に近づいてその姿を現す。鋭く大きな牙が空を仰ぎ、大きな鼻が特徴的だ。全身を茶色毛で覆われて、背中に一際濃くて剛毛な毛が生えている。野生の獣だ。

 その獣の姿を細めた目で見、ヴィーダは形の変わった笛を勢い良く吹いた。けれど、音はまったく聞こえない。

 変わりに片方の笛の出口から、黄色い液体のような物が吹き出る。走る獣の足元をあっと言う間に埋め尽くしたかと思うと、獣が前に進まなくなった。よく見ると、前へ行こうとする足が滑って後ろへと送られていく。数分と持たないうちに獣は音を立てて横へとすっ転んだ。

 そして、ヴィーダは息もつかぬまに、もう一度笛を吹く。今度も音は出なかった。反対側の笛から、丸い形をしたシャボン玉のようなものが出て、空中に浮く。それをヴィーダは手で掴み未だに転がって身じろぎしている獣へ叩きつける。

 横に避けた全員がぽかんっと口を開けてヴィーダの様子を見る中、彼はぴったりと手にくっついた獣、多分猪の部類であろうそれを軽々と持ち上げて見せた。その巨体はヴィーダの三倍か四倍はある大きさのはずなのに、一向にヴィーダの手から離れない。


「ほっほ、これがレブラ・ポーンの力じゃ。封印した魔物の力をコントロールし、使用できるようにする。スライムには滑る属性とくっつく属性の能力があるようだの」


「すっげぇっ!」


「わぁ、ボクもやってみたーい!」


 自慢げに獣を地面にたたきつけて気絶させるヴィーダに、ガーツに飛ばされたもののすぐに立ち直ったソラとシドが目を輝かせて賛辞を述べる。

 ルーナは、肩を竦めてちらりと自分の腰に下がっている剣を見た。眉尻を下げて、一瞬視線を下げる。


「そうじゃのぉ、ガーツに教えてもらうと良いじゃろうて。今日は肉をたらふく食べて、力をつけることじゃ。ガーツ、後は頼んでも良いかのぉ?」


「え、あ、はい。焼けばいいんですよね」


「そうじゃそうじゃ、わしはルーナ王女とちょっとばかし話してくるからの」


 先程の騒動はどこへやら、静まり返った中で、ヴィーダはまた笛を一吹きさせて滑る液体を出す。それをくっついている箇所に流しいれると、ぱっと巨体はヴィーダの手から離れた。一緒になっていた笛は、ソラとシドに返すときにはすでに元の二つの角笛に戻っており、不思議そうに双子が受け取っている。

 それを済ますと、ヴィーダはルーナの方へと歩いて来た。


「遅くなって悪かったのぉ。これから、ゆっくり話しでもせんか?」


「喜んで」


 にっと笑っていつの間にか持っていた酒を、ヴィーダはルーナに掲げてみせた。ガーツに夕飯前に邪魔された話し、ということだろう。ルーナには断る理由がなかったため、少しはにかんで頷いてみせた。

 ルーナの返答に、ヴィーダは肩を揺らして笑い、ゆっくりと炎から離れていく。ルーナもその後を追った。

 木々を分けて入り、人気がない小さな拓けた場所に出た。他の場所なら木々でソラはまったく見えないだろうが、ここはよく空を見ることができる場所だった。倒れた大木に、向かい合わせで座る。

 ヴィーダは用意周到で、コップまで用意しておりルーナは驚きながらもそれを受け取った。そして、並々と赤黒い液体が注ぎ込まれる。匂いを嗅ぐと、うっすらとした葡萄の香りと、強いアルコールの臭いが鼻につく。ワインだと、すぐにわかった。


「どこから持ってきたんだ、こんなの?」


「なぁに、天からの恵みじゃよ。ルーナ王女、それよりラッシュの話を聞かせてはくれんかのぉ。わしはあれからあいつとは会ってないんじゃ」


「話とは、そのことか?」


 うそぶく老人に、目を細めてルーナは慎重に問いかけた。それ以外にもっと、彼には何かあるのかと思っていたからだ。


「他にもいろいろですじゃ。わしが話したいこともたくさんありますしなぁ。ガーツのことや、七星秘宝の剣レジャー・シャープのことも詳しく話そうと思っておる。それとも、ラッシュの昔話がええかのぉ?」


「貴方は……本当に得たいの知れない人だ。そうだな、それなら先に貴方のことを教えてくれないか? ソラやシド、ガーツは貴方のことを知っているようだが、私にはラッシュの師匠でしかない。そうしたら、ラッシュの話を……貴方にしよう」


 順番だ。と小さく肩を竦めてルーナが笑うと、目の前の老人は大きく頷いてよく見える空を見上げた。


「よろしい。では、魔法についてもご一緒に説明しましょう、きっとそれもルーナ王女は気になっておられると思うからのぉ」


「ルーでいい、ヴィーダ師匠。よろしくお願いします」


「ほっほ、ルーのことも後で聞かねばならぬなぁ」


「ラッシュのこととともにお話しますよ」


 笑うものの、どこか懐かしげに表情を緩める様は、昔を思い出しているようだった。短い会話の後、ヴィーダはやっと重い口を開く。彼が話しだしたのは、ずっと昔の出来事だった。


「わしがまだ若い時、三、四百年も前の話しになりますじゃ……」


 ヴィーダが七星秘宝に出会ったのは、まだ家を飛び出して間もない若者の頃だった。

 海が大好きだったヴィーダが、丁度月の夜から太陽の昼に変わる様を眺めていた時、偶然、箱が流れてきたのだ。惹かれるようにヴィーダ少年はその箱を海から引き上げた。

 その中から出てきたのは、古びた鞭で、けれどヴィーダにとっては胸を鷲掴みにされる程興味をそそるものだった。

 それが、ヴィーダと七星秘宝ライカンス・ウィップとの出会いだったのだ。

 鞭には説明書という物が一緒についてあり、ヴィーダはすぐにその鞭を使いこなすことができた。思ったとおりに伸び縮み、動く、まるで魔法だった。

 ヴィーダは鞭の魅力に徐々に溺れて行き、来る日も来る日も鞭を振るっていた。そんなある日、ヴィーダの元に一人の少女がやってきた。

 長い金髪に光り輝く金色の瞳。まさしく昔話で歌われた月の王女そのものがヴィーダの目の前にいた。その後は、昔話さながら、ドラゴンと対決し、月を守ったのである。


「しかし、月を守った後は昔話のようには行かなかったのじゃ」


 そこで、老人はふっと息を吐いて言葉を止めた。神妙な顔つきに、ルーナは生唾を飲み込んで喉を鳴らす。

 老人は辛そうに目を閉じた。ふっと寒くなってきた夜風の中に息を吐く。そして、ヴィーダはぽつぽつと話しの続きを話し始めた。


「わしは、月を食ろうていたドラゴンを庇った」


 それは、自然な成り行きだった。ドラゴンと戦ううちに、そのドラゴンの感情に晒された。当時ヴィーダは鞭を使うのに、秘密があることを見出していた。神経を集中させ、相手の心に溶け込むような感覚を生み出すと、ライカンス・ウィップと話ができたのだ。それは、鞭だけではなかった。

 ドラゴンの意識しない感情に、ヴィーダは飲み込まれてしまったのだ。人間が憎い。子どもを殺した人間が憎い。また奪うというのか、私の子どもを。もう許さない。奪うと言うならば私が人間から全てを奪う。感情が波のように押し寄せてきて、仲間がドラゴンに傷を負わせ、月を吐き出させてから止めを刺す頃には、ヴィーダはドラゴンへの気持ちが変化していた。

 同情したと言っていいのかは定かではないが、このドラゴンを殺してはいけない。とそう思った。だから、ヴィーダは仲間が止めを刺そうとする前に立ちはだかっていた。

 その時は、守りたくて必死で、ヴィーダの頭の中は真っ白だった。仲間との死闘の末、手に入れたのは息絶えそうなドラゴンの命。

 仲間は、ドラゴンを倒したと、ドラゴンの牙を持ち帰り英雄となった。逆にヴィーダは反逆者、禁忌を犯した者として語り継がれるようになる。

 助けたドラゴンと共に、ヴィーダは人に見つからないように隠れた。そして、傷ついたドラゴンの傷の手当や世話を始めたのだ。ドラゴンは言う。


「なぜ、私は助けた?」


 と。ヴィーダはドラゴンの問いに答えた。自分が気持ちにドラゴンの気持ちに同調したこと、そして同時にその能力で仲間の心のうちも見えてしまったことを。仲間は英雄になることで地位と金を欲していた。唯一、憎しみだが肉親を失った悲しみを持つドラゴンの心情の方が純真だった。

 その話をすると、ドラゴンはそれ以上聞かず、ヴィーダを傍に置いてくれた。ドラゴンの様々な知識を教えてくれるようになり、ヴィーダの能力を更に開花させてくれたのは彼女だ。

 ヴィーダは星と同じ力を手に入れたのだ。その場にある星や月の力を感じ、それを形や他の力に変換できる。七星秘宝と何ら変わらない能力は異端とされ、禁忌を犯して手に入れた魔法。魔術使いヴィーダと呼ばれるようになった。


「これが、禁忌を犯した魔術使い、魔法使いのわしができあがったわけじゃ」


 話を終えると、優しい微笑みを浮かべヴィーダはルーナを見た。ルーナは、どういう表情をしていいのかわからずに、ただ表情を固まらせていた。それでも、瞳はどこか共感したように悲しげだ。


「ありがとう。ヴィーダ、貴方のことはよくわかった。今度は私から、貴方の弟子、ラッシュについてお話しよう」


 約束だ。っとルーナは頷いて息を吐き、思い出すように目を閉じた。目の裏に昔懐かしい風景が広がる。

 いつもより高い声色、凛とした口調でルーナは語りだす。度に出る前は、それがルーナの声だった。


「ラッシュと出会った時、貴方は一緒にいましたね。私は、父と共に貴方方を迎えました」


 ルーナがまだ髪を切る前、ラッシュっと出会ったのは物心がついた時だ。思い返してヴィーダは大きく頷いてみせる。


「あの時、私とラッシュは互いに恋に落ちました。人から見れば笑われるかもしれない。けど、私には彼しかいない。と思ったのです。ラッシュはその日から、私に秘密で会いに来てくれました。彼は、多分その日から何一つ変わっていません」


 ルーナそこで息を止めて深い深呼吸をする。


「貴方が、会っていたラッシュのまま、彼は……ドラゴンに挑みました。貴方なら分かるはずです。ラッシュは決して表で言われてるような英雄ではないのだと。だから、最強と歌われた、挑発的なドラゴンに戦いを挑んで……敗北したのです」


「やはり、そうじゃったか。奴は、力が全ての人間だからのぉ」


「止めたんですっ! 行かないで欲しいと、戦って欲しくなかったっ! 力の差は歴然なのに、剣の力を過信してっ……」


 堰が切れたように言葉が吐き出されていく。同時に目頭が熱くなって、感情の波が止まらない。ルーナは打ち震えて口元を押さえ、下を向く。


「それでも、私はあの人を愛していました。二人でいる時だけは、優しかった……それに、もし帰って来れたら、結婚しようって約束をしたんです。私を宥める口実だったのかもしれない、でも、あの人の目はとても真摯だった」


 息を吐いて目元を拭うと、ルーナは顔を上げてくしゃっと表情を崩しながら、悲しげに笑った。

 ヴィーダは、目の前の彼女の表情を見つめつつ、ワインのボトルに口をつけて煽る。そして、口を開いた。


「ルー、実を言うとな、わしはラッシュと会っておる。ドラゴンと戦う前に、奴はわしに会いに来てくれた。びっくりしたがな、まさか奴がわしのところに来るとは思わなんだ」


「ラッシュが、貴方のところに?」


「そうじゃ、ラッシュは力さえ手に入れば、わしのことなどどうでも良いという考え方だったはずじゃ。しかし、お主と会ってから、変わったようじゃな。ラッシュはわしに言ったよ。今、手にあるものを失うのが怖い、と。お主や、国の人を失うのが怖いのだと」


「ラッシュ……」


 ルーナの恋人を呼ぶ感極まった声。震えている声に、ヴィーダは目元を緩めて微笑みを浮かべる。


「力に惹かれたことは事実だ。しかし、奴にはあの時、背負うべきものが存在し、それを守りたいと感じていたことも確かなんじゃ。きっとお前さんには恥ずかしくて言えなかったんじゃろうて」


 ルーナはただ頷くことしかできなかった。少なくとも感じていた部分が明確になった今、胸の奥から熱い物がこみ上げてくる。


「ありがとうございます、ヴィーダ師匠」


「なに、お主がラッシュのことを忘れていたなら、話すつもりはなかったわい」


「いえ、これで胸のつっかえが取れました。私は、やはりラッシュが守りたかったものを守るために、彼の意思を告ぎ、英雄になります。ヴィーダ師匠、お願いがある」


 それまで溢れる涙を拭っていた女性が、意思のある凛々しい表情へと変化していく。そして、腰に差して居た英雄の剣を抜き、目の前に掲げるようにしっかりと持つ。


「私にこの剣の使い方を伝授してくれ」


 少し低くなった凛とした声が森に響き渡り、ヴィーダはその光る瞳の奥に存在する意思を目を細めて凝視した。それから、ゆっくりと頷く。


「すまない、ありがとう」


「お安い御用ですとも、今日はゆっくりと寝て、明日ビシバシと扱きましょうかのぉ」


 頭を下げるルーナに、ヴィーダはほっほっと肩を揺らして笑い、立ち上がった。そして二人で残したガーツ達のところへ戻り、既に満腹で寝入っているソラとシドと遭遇したのであった。

 夜はゆっくりとふけて行く。










 周りが明るくなった頃、朝食を済ませた元気な子どもが二人、老人にまとわりついていた。


「ねぇねぇ、何教えてくれるの~、じいちゃん!」


「やっぱかっくいい魔法とかだよなっ!」


 シドとソラがぐいぐいと老人の服を引っ張ってねだっているのを、ガーツはため息を吐いて引っぺがす。何するんだよ! っと文句の声も出たがそこは無視だ。ガーツは少しかがんで二人の目へと視線を合わせる。


「あのな、お前たちの修行は俺がやるんだよっ」


「えぇー、やだぁ! 昨日みたいに投げられるだけとか、ちょーやだぁ!」


「魔法使いのヴィーダさんがいい!」


 二人の文句に頬が引きつるガーツ。笑ってヴィーダが彼の肩を叩く。


「途中までは一緒にやってみてはどうかのぉ? ガーツ。その後にルーの指導と分かれれば良かろうて」


「……仕方ありません、そうしましょう。昨夜聞いた話では、やはりこの二人は無意識下で七星秘宝の力を引き出しているようです。一つ向こうの山から笛を吹いて帰ってきたらしいんですが、元気いっぱいで、野山の動物や、住まう魔物には出会わなかったようで」


「ふむ、それは興味深いのぉ。すごい使い手になるかもしれん」


 仕方なくガーツが二人の状況を話すと、お世辞なのか笑いながら零す支障の言葉に双子が飛び跳ねて喜んだ。

 師匠ヴィーダは、ルーナ、ソラ、シドの順番で一列に並ぶよう指示をした。三人はそれに従う。


「そうしたらまず、己の武器を持ちなさい」


 三人が自分に集中していることを確認すると、ヴィーダは全員に自分が所有する獲物を持つように示唆した。それぞれが胸元の笛と、腰に刺さっている剣を抜いて手に持つ。

 シドとソラは自然に口元に笛を近づけて、ルーナは目の前に剣を掲げていた。


「次に、ゆっくりと目を閉じて、息を吐き、手に持っている秘宝に意識を集中するのじゃ。七星秘宝は意思を持つ、その意思に話しかけるような、寄り添うような感覚で」


 ヴァーダの声がゆっくりと、どこか不思議な響きを持ってルーナの耳に届く。目を閉じたルーナの視界は真っ暗で、手に握っている剣の感触と、時折肌を掠める風、そしてヴィーダの不思議な声が耳に響くだけだ。

 手元にある剣に意識を集中していく。剣、ラッシュの剣だ。ヴィーダの声に呑まれる様に、ルーナの意識は剣の中に吸い込まれるような感覚を感じる。

 瞬間、ぱっと視界が開けた。ルーナが目を開けたわけではない。けれど、瞼の暗い世界に映し出されるのだ、いくつのも映像が。走馬灯、とでも言うのか、ルーナの瞼の裏には次々と場面が展開していく。時折、声も聞こえてくるような錯覚を覚えた。

 その中で、ルーナは見たことのある若者が居ることに気がついた。ラッシュ、っと呟くと同時に目を見開いた。

 ルーナの視界に映る世界には、老人と、先程見た映像に映る若者と似ているようで違うガッシュが立っている。ヴィーダがルーナへと視線を向けた。


「見えたようじゃのぉ。今のは、七星秘宝が今まで見てきた記憶じゃ。出会った者や、戦った者、そして戦い方の記憶を七星秘宝は持っておる」


「すっごーい! じゃあ、やり方すぐわかるんだね!」


 口を開きかけたルーナをよそに、シドが大きな声を上げてくりっとした青い目を輝かしていた。

 ソラはうんうん唸りながら、まだ目を閉じており、ヴィーダは笑いながらシドの頭を撫でると、ルーナの方へと歩み寄ってくる。


「これは序の口じゃよ。しっかりとシンクロできなければ、真似の使い方になるだけじゃ。もっとよく心を通わせることが重要じゃぞ、七星秘宝と話ができるくらいにな」


「話ができるくらい……」


 ヴィーダの言葉にシドは口を尖らせてちぇっと拗ねた。その横でルーナは剣を見つめながら呟く。


「わっ!!」


 剣にルーナが意識を集中しようとした時、ソラが叫びに近い声を上げてしりもちをついた。全員の目が彼に向けられる。ソラは額から汗を流して心臓を押さえながら大きく息をしていた。


「ほっほ、星と話しをしたようじゃなぁ。レブラ・ポーンが騒がしいわい。兄貴の方が上のようじゃぞ?」


 ヴィーダには全て見えているようで、茶化すようにシドを見る。からかうような口調にむっとしてシドが角笛を握り締める。悔しかったのだろう、目を閉じて先程のソラと同様うんうん唸りだした。

 それを確認してから、ヴィーダはガーツと目配せをして、ルーナに向き直る。


「ルーはちょっとこっちへ行くぞ」


 声を掛けてから、ヴィータは歩き出した。従ってルーナも彼の後についていく。

 少し離れたところで脚を止め、ヴィーダはルーナへと向き直る。そして、彼を不思議そうに見るルーナの周りをゆっくりと回り始めた。


「良いか、ソラとシドは既にレブラ・ポーンに受け入れられておる。使い手として認めておるのじゃ。じゃから、無意識下の感情をレブラ・ポーンが読み取り力が作用しておるし、先程のソラのようにすぐに話もできるようになる。しかしじゃ」


 ゆっくりと一周回りながらヴィーダは淡々と話し続け、ルーナの前へ戻ると彼女の顔をじっと見つめた。


「お主はまだ認められておらん。その剣レジャー・シャープがラッシュの時の形のまま。というのが良い証拠じゃ」


「この形が……?」


「そうじゃ、わしがレブラ・ポーンを使った時の形を見たじゃろ? ソラとシドが持って居た時とは違う形に変化した。七星秘宝は、認めた使い手が一番使いやすい形へと変化する。じゃから、お主のレジャー・シャープもまた、お主を認めれば、お主が使いやすいお主だけの剣へと変化する」


 言い終わると、いつの間にかヴィーダは杖をその手に納めていた。ゆっくりと杖を動かしながら、ぶつぶつと何かを唱えている。

 ルーナは剣を見た。自分の手より大きく、両手でないと落としてしまいそうな重さ。がっしりとした刃が鈍い輝きを放っている。ラッシュと出会った時から見ていた剣、そのままだ。


「今から、全てを遮断する」


 重く深い声が耳に響き、キーンという耳鳴りがしたかと思うと、ルーナの視界が遮られたように真っ暗になる。眼は瞑っていないのに、完全な暗闇だ。それだけではない、さっきまで頬に感じていた風も、鳥の嘶きもない。感覚をどんなに研ぎ澄ましても何も感じなかった。

 ただ残るのは自分の心臓の音と体温、手に握られた剣の感触だけだ。


「お主の周りに漂っていた力に全て干渉を拒否するように頼んだ。わしの声も時期に聞こえなくなるじゃろう」


 静かな空間に時折響いたヴィーダの声。ルーナは驚いて辺りを見回すが、暗闇が改善されることはない。


「剣に集中するのじゃ、この空間にはお主と剣しかおら……」


 だんだんと遠ざかる声は、最後まで発する前に途絶えた。静寂が支配する。剣と自分しかいない感覚。

 ルーナはふっと大きく息を吐くと、ヴァーダが言った通り、目の前にあるであろう剣に意識を集中させた。眼は開いている。

 目を閉じていた時とは違う感覚だった。風景が周りに現れて、まるでルーナ自身がそこに立っているような感覚。

 風景は、少し年季の入った小屋といった印象を受ける部屋の中。ところどころに皹が入っており、下手したら崩れてしまいそうだ。


「あー、あー」


 耳に呼ぶような、赤ん坊の声が響く。

 声の方を向くと、布に包まれて石の上に寝かされている子どもが居て、その横にキラリと光る剣が横たわっている。ドキっとルーナの胸が脈打つ。

 黒い髪が薄っすらと生え、ぱっと開いた瞳は黒。彼が誰なのか、察することは難しいことではない。


「私たちの子じゃないわ、髪と瞳の色が違う。しかも見て、産まれて間もなく気味の悪い剣が傍に出てくるの。どかしてもどかしても……おかしいわよ、気味が悪い」


 突如後ろから聞こえた声は、苦しそうにぽつぽつと言葉を紡ぐ。女性特有の高い声で、語尾は胸がぎゅっと捕まれるように憎しみの篭ったものだった。振り返っていいものか迷ったルーナだったが、最後の言葉には我慢ができずに振り返った。

 目の前は、真っ赤に染まった夕焼け。木々が立ち並ぶ森、地面が斜めで斜面になっているから、山なのだろうと推測できる。場所が一気に変わったことに、ルーナは目を見開いて固まってしまう。

 後ろを振り返っても、日が沈む様子が木々の間から覗くだけだ。先程の部屋の風景など微塵も感じさせない。視線を元に戻すと、ルーナは大木の下に何かがいるのを見つけた。木の葉に包まっており、ぱっと見わからなかったが、どうやら人のようだ。

 近づいてよく見ると、彼は黒い髪を持っていた。閉じた瞳の色はわからないが、先程の赤ん坊の姿からずいぶんと大きく成長している。年の頃は五、六歳か、ルーナはそっと眠っている彼に手を伸ばした。

 しかし、触れることは適わなかった。まるで存在しないように手が食い込んで触れた感触もない。ルーナは確信した。この映像は剣がラッシュと居た時に見たり感じたりしていた記憶なのだと。いや、剣だけではなく、周りの星の力が見ていた映像なのかもしれない。


「私に、何を見せたいと言うんだ? レジャー・シャープ」


 呟きに反応するようにぱっとルーナの目に映る風景画変わった。雨が降っている、先程と変わったのはそれだけだ。それだけで別の日なのだと、わかる。

 何かを探すように視界を右往左往させ、一点で止まった。何かが駆けてくる。身構えたその時、思ったよりも早くルーナの目の前に、大きな獣が姿を現し、大きな口を開いて鋭い牙を目の前でちらつかせた。


「うわあああ!」


 ルーナの声じゃない声が口から発せられる。目が白黒して牙を剥き出しの獣がなんだかわからない。頭の中が真っ白になって、無意識にそれに背中を向ける。それは駄目だ、っとルーナは内心で叫んだ。それでも、脚はそれに背中を向けたまま走った。

 背中に衝撃が走った。動かしていた足がもつれて、その場に転ぶ。慌てて身体を反転させると、牙と赤黒い口内が目いっぱいに映し出された。もう駄目だっ! そう感じた。それと同時に、ルーナの心の中に黒い渦が巻き起こる。

 こんなところで、死んでたまるか。誰の助けもない、いらない。俺が、俺が生きるには強さしかないんだっ! 感情が吹き出て、腰に刺さっていた剣を抜いた。

 剣に引き摺られるように腕が動く。一瞬何が起こったかわからなかった。目の前を真っ赤な血飛沫が染め、何もかもわからなかった。

 ルーナは呆然としている中で、強く、強くなる。その感情だけを冷静に読み取っていた。


「……これは」


 はっと意識を取り戻すと、それまで赤かった視界が真っ暗闇に戻される。感情が、剣から伝わってきていたような気がする。自分以外の感情がそこにあった。ルーナは、ゆっくりと目を閉じて息を吐く。

 目を開くと、今度はまた違う風景が映し出された。ごつごつとした岩場、そこにひっそりと佇む黒い穴。しかし、禍々しいほどのオーラが肌を突き刺す。ルーナは直感した。ここは、西の岩場。ディストラクが住む場所だ。


「ここに、あいつがいるんだな」


 強い奴だ。嬉々とした感情が手を伝ってルーナに流れ込んでくる。隣に立つのは紛れもなく、ラッシュだった。別れを告げた、あの日と変わらないラッシュに、ルーナは瞠目する。

 ラッシュはルーナを見た。正確には、ルーナではなく己の手に持ったレジャー・シャープに向けられたものだ。嬉々とした感情から、複雑な感情が混ざって行く。ラッシュの感情がルーナに流れてきているのだ。

 ラッシュは、混沌とした不安を抱いていた。強い相手と戦える臨場感に喜ぶ一方、負けたら死んだらという不安が頭を擡げている。


「勝てたら、きっとルーナも喜んでくれるんだろうな」


 ふっと崩した表情に、大きく胸が高鳴った。不安の中に垣間見えたのは、ルーナへの想いで、ルーナの頬に素敵が流れ落ちる。


「ラッシュっ……」


 一人じゃない。誰かが居てくれるんだ。そういう彼の気持ちが伝わってきて、ルーナから感極まった声が出た。思わず手を伸ばしたけれど、曖昧な笑みを浮かべるラッシュに触れることはできない。


「帰ったら、結婚しよう、ルーナ」


 ルーナに誓った言葉を再び口にしたラッシュの目の輝きは強かった。ルーナが見たラッシュの目と同じ、意思の強さが見える。触れられない彼は、だんだんと暗くなる視界に溶け込んで、最後には見えなくなった。

 最後の言葉が耳に響いて頭の中に浸透すると、堪えていた感情が決壊し、目から涙が零れ落ちる。ルーナは胸元に下げた首飾りを吹くの上から握った。しかし、感情の波に飲まれて足が振るえ、結局は立っていられなくなりその場に座り込んでしまう。


「どうして、どうしてこんな物を私に見せるんだっ」


 声が上擦って、上手く出せてるのかもわからない。けれど、訴えずにはいられなかった。忘れていた、心の奥にしまいこんだ物が、こじ開けられたかのような感覚。ルーナは打ち震えていた。


「我が主ラッシュの愛した人だからだ」


 返答がないと思っていた中、透き通るような、けれど鋭い声が耳に響く。はっとしてルーナは顔を覆っていた手を離し、辺りを見渡した。

 目の前にぼうっとした白い、黄色みがかった光が浮かんでいる。


「貴様は……」


「貴方方がレジャー・シャープと呼ぶ物。主は幼い頃、誰も信じられなかった。親にも見離され、ただ私と共に居た。力無き物の無力さを知ってから、力を求め、次第に強い力を持つ者に引かれて行き、けれど、最後は貴方を危険を遠ざけようとして戦い、そして力強き者の前に敗れ去ってしまったのだ」


「そんなの、見せて貰わなくても知っている……知っていたとも」


 淡々とした口調に嫌気が差し、苦々しげにルーナは吐き出しながらその淡い光を睨み付ける。

 表情が無い光小さく揺れ動くいた。少し赤みが増したような、それでいて青みがかったような色に変化する。


「なら、なぜあの頃の貴方ではない? ラッシュは、貴方に危険に立ち向かって欲しくなどない。私はまだ、主ラッシュの剣だ。だから、危険に近づけさせたくはない」


「それが、お前が私を拒否する理由か?」


「そうだ。主の意思を貫く」


 答えは端的で、判りやすい物だったが、その反面わかり安すぎてルーナの胸に深く突き刺さった。まだ収まらない涙を花をすすりながら止めようとする。


「……戻れるものかっ。戻ってもラッシュは居ないんだぞ? あの頃の弱い私に戻って、どうしろというのだ。あの頃の私に戻れば、私は……私は壊れてしまう。必死に生きなければ、生きる目的がなければ、あの人が居ない世界で、わたしとして生きるなんて……むり……」


 か細くなっていく声。徐々に高くなり、くしゃりと顔を歪めるとルーナは顔を両手で覆った。溢れた涙が止まらない、嗚咽が暗闇に飲まれていく。


「駄目なんて言うな、私にはあの人の後を追うことしかできないんだ」


 搾り出した声に、光は一瞬黙する。


「……それがラッシュの思い描く希望と違っても?」


「たとえ、ラッシュが望まぬとも……私にはそうすることしかっ。そうすることしか正気を保てはしない」


 ルーナはふっと息を吐いて、手で覆っていた顔を拭い顔を上げる。眼は充血し、頬と鼻は赤く染まってありありと泣いていたことを示していた。けれど、顔を拭ったルーナの表情は眉を吊り上げて唇を噛み、必死に引き締めている。


「あの人との思い出だけを抱いて、あの人が居たはずの場所に居るよりは……あの人に近づきたいと、そう思うだけでまだなんとかこの場に立っていることができる……お願いだ。あの人と同じように私の街を、故郷を守らせてくれ」


「…………」


 必死な表情で訴えるルーナに星は尚も押し黙った。ルーナの引き締めていた表情がぐにゃりと崩れる。再び泣きそうになる波を抑えて、額に皺を寄せながら彼女は尚も薄く輝く星を見つけて口を開いた。


「お願い、お前の力が必要なんだ、レジャー・シャープ」


「わかった。そうと決めたなら、貴方を守るのも主の願い。新たな主として認め、その身を誠心誠意守り抜こうぞ」


 瞬いた光は、一際大きく輝き周りを照らしていく。真っ暗闇だった視界が徐々に晴れ、色鮮やかな緑や青を映し出す。

 その中に、老人がにこにことした笑顔で立っているのを確認し、現実に戻ってきたのだと、ルーナは安堵した。立ち上がって、ヴィーダへと近寄る。


「どうやら、レジャー・シャープと分かり合えたようじゃのぉ」


「……これは」


 笑いながらヴィーダはルーナの手元を視線で指す。つられてそちらを見ると、剣は今までの形とはまったく違っていた。よく見ようと、レジャー・シャープを目の前に掲げてみる。


「重くない。まるで何も持っていないかのように軽いぞ」


「それが、ルーの剣じゃ」


 剣の刃は薄く細く、けれどきらりと光って切れ味の良さそうな印象だ。柄は、月と星装飾が掘られ、色とりどりに散りばめられた色が瞬き、ルーナの手に吸い付くようにフィットする。


「ルーは強いのぉ」


「……ヴィーダ、私は強いんじゃない。強がって、逃げているだけだ」


 ラッシュの死に。そう口内だけで呟くと、ルーナは剣を腰元の鞘に戻した。ヴィーダは軽くルーナの肩を叩くだけで、それ以上何も言っては来ない。そして、目で合図を送ってくる。あちらの様子を見てこようと言うのだ。


「どれくらいの時間が経ったんだ?」


「そうじゃのぉ、2,3時間。といったところかのぉ。お主にとってはもっと長い時間に感じられたかもしれんが、な」


 歩いている間、ルーナはヴィーダに問いかけ、ヴィーダは笑いながら答えた。そのうちに、ソラとシド、ガーツがいる場所へと到着する。

 三人は既に何体かの獣を倒して、火を起こし、料理している最中だった。よく食べる。と、ルーナは呆れ顔で頭を抱えた。


「よく食べるのぉ。ソラとシドもだいぶ使い方は覚えてきたようじゃな、どれ、ガーツ。ルーと戦ってみんか? ルーも強くなったぞ」


 焼けた肉を貪り食っている双子を見て、ヴィーダは目を細めながら感じ取ったことを呟く。そして、その二人の世話をしているガーツへと視線をずらして、面白そうな声色で言い放つ。

 ガーツは師匠をちらっと見ると自分の皿を置いてすくっと立ち上がった。


「承知しました」


「ちょ、ちょっと待て! 私はまだ剣の修行などしていないぞっ」


「大丈夫じゃ、七星秘宝と心を通い合わせたなら、剣がお主に戦い方を教授してくれるぞ。七星秘宝は使う者の意識や望みを読み取るだけではない、読み取らせることもできるのだ。ルーもやってみなさい」


 慌てて一歩退くルーナに対し、ヴィーダは笑いながらルーナの背中を軽く押した。その間にガーツが歩み寄り、対峙する形となった。

 距離は、剣の方が鞭より不利だ。詰めるしかない。ガーツの鋭い視線に、ルーナも飲まれた。いつの間にか、間合いをゆっくりと詰め戦闘体制に入っている。

 緊迫した雰囲気が辺りを支配する。ソラとシドも食べるのを止めて二人の方を見ていた。

 ヴィーダが手を開き、そしてパンっと短く手を叩く。それが合図だった。ルーナとガーツが同時に地面を蹴る。ガーツの鞭が舞った。ルーナを捉えようと横に薙ぐ。

 ルーナはそれを身軽に飛んで交わした。しかし、表情は驚いたように目を白黒させ、地面に到着すると同時に間合いを詰めてガーツに剣を突く。しかし、飛んでいる間に戻したガーツの鞭が剣を絡め取って勢いを止めた。

 剣を伝うように鞭が這い、ルーナ剣を勢い良く引いて、後ろへと飛びのいた。その際に切れたのだろう、鞭がバラバラと地面に落ちた。

 次の攻撃。っとルーナが身構えたところで、ヴィーダが再び手を打ち鳴らした。構えていた格好から力を抜き、ガーツが獲物を腰元へしまった。緊張が胡散されてルーナも身を起こして身体の力を抜く。


「どうじゃ? まるで動きが違うじゃろ?」


 ヴィーダがそう聞いたのはルーナにだった。ルーナは目を瞬かせながら握っている剣を見つめる。


「そうだな、とても身体が軽かった。思うより先に身体が反応して動くというか……ただ、慣れないせいで戸惑いもあったが」


 ふっと頬を綻ばせてルーナは笑いながら答え、ゆっくりと剣を鞘へ戻していく。そして、ヴィーダと共にソラとシドの所まで足を運ぶ。遅れてガーツも元の席へと戻った。


「すげぇな、ルーねぇ! 今のかっこよかったぜ!」


「うんうん、すごい格好良かったぁ!」


 ソラとシドが目を輝かせながらルーナに賛辞を述べるので、ルーナははにかみながら礼を述べる。

 それからは腹ごしらえをして、午後は各々ヴィーダとガーツに課せられた修行をこなして行く時間となった。




 修行をしていれば、夜はすぐにやってくる。今日こそ街へ買い物に行ってガーツが夕飯を作り、全員に振舞った。料理の数々に双子がまたしても物凄い勢いで食べたかと思うと、今日は疲れてるらしくすぐに寝入ってしまったりする。

 ヴィーダも夜の散歩とか言いながら、夕食後にどこかへ歩いて行ってしまい、結局日が落ちた中で残されたのはルーナとガーツだけだった。


「今日は、お疲れ」


「お前もなー、あーあ、ったく言うこと聞かねぇ奴等のお守りとか心底疲れる」


「ソラもシドも元気だからな……今日はいろいろあった」


 火に薪をくべてから、ガーツ頭の後ろに手を置いて後ろに大きく伸びをする。ルーナは笑いながら頷き、そっと腰に差していたレジャー・シャープを抜いて眺めた。今日の出来事を思い出し、ふっとルーナの顔に影が落ちる。

 炎の灯りに照らされるルーナの表情をちらりと横目で見て、ガーツは元の体勢へと戻り、焚き火を見つめた。


「なぁ、ルー。お前……ラッシュのためなのか? この旅をしてるのは」


「ラッシュのため……というよりは私のためだ。初めは漠然とした物だったが、バークティスは言った。月を助ければ、ラッシュと会えるかもしれない。と」


「どうやって? 相手は死んでるんだぞ? 見ただろ、ディストラクのあの洞窟で……」


 手を組み、そこに顎を乗せながらガーツは淡々と聞いてくる。ルーナは彼の意図が読み取れずに額に皺を寄せて彼を見た。

 洞窟で見た戦慄の映像。それは、まだ瞼の裏に焼きついて離れない。すぐに思い出すことができた。だから、よりいっそうルーナの表情は険しくなる。


「……それは、わかってるつもりだ。この世界にラッシュはもういない。けど、バークティスは言った。空に浮かぶ月の回りを回る星がラッシュなのだと。月と一緒に空に行けば……ラッシュはそこで待っていてくれる」


「それって……おまっ、わかってんのか? 死ぬってことと同義語だって、わかって言ってんのか?」


 ぽつぽつと話せば、今まで炎を見つめていたガーツが驚いたようにルーナを見つめる。同じ顔、けれど表情は違う相手に苦笑しながらルーナは頷く。


「わかっている。星は古来より死んだ人がなるものだと、そう聞いている。そして流れ星の降る夜、星は新たな生命へと生まれ変わるのだ。即ち、月と星は死と生を司るモノ」


「わかってるなら、なんで……なんで月と一緒に行こうと思うんだ!?」


 ガーツはいきなりルーナの肩を掴んできた。

 淡々と答えたはずだった。挑発をしたつもりもない。けれど、ガーツは明らかにルーナに対して怒りを露にしていた。肩を掴む手に若干力が入っていて痛みを覚える。


「なんだ、貴様には関係ないだろっ」


「――っ……はっ、ラッシュラッシュってうるせぇ女だな、関係ねぇと思うならもう少し口噤んだらどうだ?」


「なんだとっ!」


 肩から手を離させようとガーツの腕を掴んでいたが、すぐに手は外れて肩を竦めながら嫌味を言われる。カっと頭に血が上った。


「いつまでも死んだ奴のことばっかで、死んだこと認めてないんじゃねぇのか?」


 更に図星をつかれて、ルーナの顔はみるみると赤くなる。そして、叫び返した。


「ラッシュと同じ顔して、そういうことを言うんだな、貴様はっ!」


「お前、知ってるくせにっ!」


 瞬間、パシっと言う音とと頬に衝撃を覚えた。痛みにルーナは自分の頬を押さえた。血は出てない、けれどすぐに蚯蚓腫れのように長い傷が頬に薄く出てきているの気づく。

 ぶたれた何かに気がつくと、衝撃で横を向いた顔を戻して目を見開きながらガーツを見た。ガーツも驚いたように目を白黒させて、ルーナと同じ表情をしている。


「これこれ、目を離した隙に何をしとるんじゃ……」


 どちらとも口を開かずに呆然としている中、横からしわがれた声が入ってきた。二人ともそちらを見る。

 いつの間にか帰ってきたヴィーダが近寄ってきてルーナの手を掴む。


「ルー、ちょいと話したいことがあるからいいかのぉ?」


 放心状態のまま、ルーナは何度かヴィーダの問いに頷いて答える。ゆっくりと腕を引かれてガーツから引き離された。


「ガーツ。七星秘宝はお前の意識に反応するんじゃ。それが無意識だろうとな、そういうところはしっかりしろといつも言っているはずじゃ」


「す、すいません」


 ヴィーダは厳しい口調でガーツに言い放ち、それに萎縮したようにガーツが頭を下げる。ルーナは空いてる手でもう一度頬を押さえた。先程よりもくっきりと後が浮き出てきている。これは、ガーツの武器、ライカンス・ウィップがガーツの激情に反応してルーナに攻撃してきたのだ。それ程、ガーツは怒っていた。

 ルーナは一度ガーツを見る。しかし、ガーツは頭を下げたままあげようとはせず、顔も見えずにルーナはヴィーダに手を引かれてその場を離れていった。

 修行をしてもらった場所より更に奥、小さな開けた空間に案内され、ルーナは切り株へと腰を降ろす。ヴィーダも彼女の目の前へと座った。


「悪かった。ガーツのことを責めんでくれ、わしがお主に話しておけばこんなことには……」


「師匠、どういうこと……ですか?」


「ふむ。実はお主にガーツの過去を話すつもりじゃったんじゃ。ラッシュを思うお前さんには、話しておかなければいけなかった。だが、わしもガーツに頼まれてのぉ、どうにも昨日は言い出せなかったんじゃ」


 ヴィーダはすまなそうに頭を下げながら説明した。

 昨日言い出せなかったガーツの過去。それが、ガーツが心底怒った理由になるのだろう。ルーナはじっと師匠を見つめた。


「大丈夫です。ガーツの過去……私が知るべきこと、なのでしょうか?」


「お主は、ラッシュとガーツは似ていると思うか?」


「え……顔や体格などはそっくりだと思いますが、表情や性格はまったく違うと……思います。」


 質問に質問で返されて、あからさまにルーナの表情が歪む。

 ヴィーダはしぶしぶと言った感じで答えたルーナの答えにふむっと何か考えるように顎鬚を擦る。そして、顔を上げると、ルーナの金色の瞳をじっと凝視した。


「間違えたことはないのか?」


「それは……あります。初めと、気が動転した時の二回です」


 念を押すような問いに、ルーナは目を上にして思い出しながら答えた。初めは、ラッシュが蘇ったのかと思った。二回目は、ディストラクにあって、ラッシュではないのをわかっていたのに、ラッシュに思えた。その二回だけだ。


「それならば、やはり話しておかなければいかんのぉ。ガーツの過去を」


 ヴィーダは顎から手を離すと、大きく息を吐いて地面を見る。そして、ゆっくりとした声色で話し始めた。


「奴が来たのは、ラッシュがわしから旅立った数ヵ月後じゃった。見送った奴が帰ってきたかと思ったよ……」


 当時、現在いる街にヴィーダは住んでいた。そこにやってきたのは、見送ったはずの弟子、ラッシュと瓜二つの顔を持った少年だった。ラッシュよりも幼い顔つきだったが、その顔は本当にそっくりで、一瞬子どもかともヴィーダは思った程。

 しかし、それにしてはラッシュと十も離れていない子どもで、その子どもは黙ったままヴィーダの住む家の中に入り、彼の目の前へと歩み寄ってきた。

 釣り上がった眉をそのままに、黒い瞳でヴィーダを射抜く。


「ラッシュはどこ?」


「ラッシュならだいぶ前にわしから巣立って行ったわい。お主こそなんじゃ?」


 不躾に弟子の詳細を聞いてくる子どもに、ヴィーダは動じもせずにお茶を出した。

 その時、ラッシュが東のグリフィンという鳥の魔物を倒してから、師匠であるヴィーダのところにはラッシュについて知りたい。という者がよくやってきていた。

 だから、その時彼は何も気にせずに椅子に座ってから、目の前の椅子に座るように促したのだ。


「……あんたがヴィーダ? ラッシュを育てたっていう……それなら、俺の、俺の身に起こった事も説明できるよな!?」


 警戒してか、少年は座りはしなかった。そして、老人の顔をじっと見つめたまま少し息荒く言い放ってくる。よく見ると、強く握りこんだ拳が小さく震えていた。


「わしがヴィーダじゃが、お主の身に、何が起こったと言うのじゃ?」


「この姿に見覚えはないっていうのか?」


 刺激しないようにゆっくりとヴィーダが彼に問いかけると、少年は苦々しげに歯軋りをして押し殺した声を零す。

 ヴィーダはもう一度まじまじと少年の頭から足まで視線を向ける。やはり、ラッシュによく似ていた。


「弟子によく似ているようじゃが……兄弟か何かかのぉ?」


「違う!!」


 緩やかな口調で言ったつもりだったヴィーダだが、大きな声で否定されて小さな目をしぱしぱと瞬かせる。

 反対に少年の黒い瞳は燃えるように強く光を放ち、苛立ちが垣間見えた。

 ヴィーダは話を聞くからと、再度彼に椅子を勧め、少年を椅子へと導いた。向かい合う二人。少年の顔は近くで見ると妙に頬がこけていた。


「落ち着いて話してみぃ。お主はいったい、誰なんじゃ?」


「俺は、ガーツ」


 お茶を勧めると、一気に飲み干してカタンっと音を立てながら湯飲みをテーブルに置き、少年はガーツと名乗った。

 そして、自分の出身は小さな村で、そこで平凡な生活を送っていたと簡潔に話す。しかし、その後肩が上がり、彼の身体全体に力が入った。明らかに異様な反応にヴィーダはどうしたのか? と彼に問いかけた。


「ガーツにそう問いかけた時、あいつは、思いもよらない言葉をわしにつっかえながら零したんじゃ。子どもじゃった奴は泣いておった……ルーナ、奴が零した言葉が判るか?」


 話をガーツの答えの前で止め、師匠はルーナへと視線を向ける。問いかけに一瞬考える素振りを見せてから、ルーナは短く首を横に振った。

 ヴィーダは息を飲んで喉を鳴らし、緩やかな、しかし強張った声でルーナに告げた。


「ガーツは言った。平凡に過ごしていた自分と、今の自分はまったく別物になった。のだと」


「別物?」


「わしも初め奴が何を言ってるのかわからなかった。じゃが、別物になったのは性格や魂、記憶などではない」


 口を一度噤んで、ヴィーダは耐え切れなくなったように視線を落とす。次に出た彼の声は暗く重かった。


「外見じゃ」


 一言に衝撃を受けた。一瞬ヴィーダが何を言ってるのかわからずに、ルーナは目を白黒させる。いや、今も彼が言った一言がルーナの頭の中に浸透してこない。衝撃に膝に置いた手が揺れた。


「ガーツは泣きながら、自分のこのラッシュによく似た外見は自分の物ではない。とわしに訴えてきおった」


「……ガーツの今の外見は、本来のガーツの物ではない。だと?」


 繰り返してみても、動悸が激しいだけで、ルーナの頭は理解できていない。人は産まれ持った姿を変えられるというのか? いや、変えられた。というのか? 彼女の頭の中で考えが交錯する。


「ガーツはな、わしのところに来る少し前、突如高熱を出したそうだ。自分を看病して居た者が言うには、ガーツは徐々に変化していったらしい。茶色い髪が徐々に黒く、肌も、骨格さえも、徐々に変化を続け、熱が引く頃にはまったくの別人になっていたそうだ。自分も、一緒に居た人たちも信じられないくらいの変化だったようじゃ」


 ふうっと息を吐き、ヴィーダはガーツがその後、その村に居た誰かが英雄ラッシュにそっくりだと言った言葉を頼りに、ヴィーダの所にやってきたことを説明した。

 下を向いていた顔を上げ、師匠はどこか遠くを見つめた。まるで、昔を思い出しているように額に皺が刻まれる。


「鏡を見てまったくの別人が映る。それまでの自分がどこにも存在せんとは……子どもながらに耐え切れんかったんじゃろうなぁ……」


「そんな……ガーツは何でそんなっ」


 突如、自分が自分ではなくなったら。足場が崩れてしまうような、今までの人生を否定されるような気持ちを生むに違いない。そんな恐怖をガーツは体験したのかと思うと、ルーナの背中に寒気が走った。同時に胸がカっと熱くなる。

 彼女の問いかけに、ヴィーダは意識を遠くに行かせたまま淡々と答えた。


「わしが原因を調べるべく、周りの力を借りて視た時、ガーツの身体の周りには星のエネルギーがまとわりついておった。ぴったりと張り付き、離れない星の力、それがガーツを今の形へと形成している力じゃ」


「星……が? どうしてそんなことをっ!」


 ヴィーダがやっとルーナを見た。彼の目の奥には、怒りと悲しみがちらちらと揺れ動き、ルーナに訴えかける。叫びに近くなっていた声をごくりと飲み込む。彼に圧倒されたのだ。


「力全てが良い方向に傾くとは限らん。そして、なぜガーツがそうなったのか、ヒントをやろう。わしが三百年前に共に戦ったレーヌ・ルーナとその騎士もお前やガーツと同じ顔、髪、声をしとった。もう一つ、ガーツがそうなったのはラッシュとお主が出会った数ヵ月後になる」


「まさか……予備……」


 ルーナの顔が引きつる。ヒントからパッと頭に浮かんだことを呟いたものの、そんなことがあるはずがない。と、頭を振る。しかし、ヴィーダは悲しそうに曇った瞳でルーナを見つめた。


「そうじゃろうな。わしから視ればお主もラッシュも月と星の力に満ちておる。ラッシュの代わり、もしくはお主が月を助け出せなかった場合の予備として星に魅入られたんじゃ。産まれる前ではなく、産まれた後、にな」


 絶句した。ルーナはちらつく瞳を下へと落とす。

 ヴィーダが言うことは、本当だろう。昔話でのドラゴンとの対決は、必ず同じ人物だ。それが月や星の意思で産まれる前から決められているのだろう。しかし、ガーツは突如、代理のような形で月や星の影響を受けた。

 ある日突然別人になった少年の心情を解るわけではない。けれど、察することはできるはずだ。それと同時に、なぜガーツがあの時怒ったのかもルーナは理解した。


「……ガーツは、ラッシュと同じ顔というのが……嫌なんだな」


「嫌悪しておる。もし、ラッシュが死ぬ運命になければ……ガーツは星の力と関わることはなかったかもしれん」


 もし。それはきっとガーツの希望だ。ヴィーダは彼の代わりに口にしているのだ。しかし、そこでルーナの頭に引っかかる物があった。

 ガーツが、ラッシュや星の力、月の力を仮に恨むというなら、なぜ月を助け出そうとするルーナを助けてくれるのか。


「それなのになぜ……ガーツは私と一緒に月を助け出そうとしてくれるんだ? あいつに聞いても、きっと雇われたからだ。と、答えそうだが」


「ふむ。それは、月の力が唯一ガーツの姿を元に戻せるからじゃと、わしは思っておる」


「戻せるのか?」


「もちろんじゃ。予備と言うただろう? 月を助け出せれば、ガーツは役割を果たすことになる。そうなれば星の力もガーツから離れ、元の姿に戻れるはずじゃ」


「だから……ガーツはずっと着いてきてくれているのか」


 戻せるというヴィーダの答えに、ガーツの過去を聞いてからずっと胸に刺さっていた痛みが和らぎ、ルーナは少し表情を綻ばせた。

 そんな表情のルーナを見て、頭を掻いてからヴィーダは表情を引き締めて背を伸ばし、深々と彼女に頭を下げる。


「なぁ、ルー。ガーツは複雑な事情を持っておる。ライカンス・ウィップを上手くコントロールできなかったのも、わしがお前に奴の過去を話していた。と思い込んでのこと、この老いぼれに免じて、許してはくれんかのぉ?」


「なにを、私がガーツに対して失礼なことを言ったのだ。傷を抉るようなことをして……許して貰わないといけないのは私の方だ」


 慌ててルーナは両手を左右に振り、老人に頭を上げるようにと声をかけた。師匠はルーナの言葉に顔を上げて、苦笑しながら頭の後ろを掻く。表情は苦虫を潰したような顔だ。


「すまぬ。ガーツにはよく言うておく」


「いや、これは私とガーツの問題だ」


 ふっとルーナは笑みを零し、目の前の相手の言葉を遮った。過去を知った今、やらなければいけないことがルーナにはある。


「ガーツは最後までついてきてくれるだろう。それなら、ここは私が自分で解決するべきだ。一緒に進む仲間としてな」


「それなら、ガーツのことを頼んだぞ、ルー」


「貴方は……本当に、弟子に弱いな」


 納得してくれた、昔馴染みの顔に今度こそルーナは笑みを返した。ラッシュの時もそうだったと、懐かしく思う。

 彼女の笑みにつられて、ヴィーダも皺だらけの顔を綻ばせた。そして、立ち上がるとルーナに手を差し出す。

 ルーナが彼の手を取って立ち上がると、来た道をゆっくりと二人で戻って行った。

 炎を上げている場所まで来ると、人影がなかった。驚いて駆け寄る二人だが、珍しくガーツが横になっている。炎を焚いていれば、大概の動物や魔物は近寄って来ないが、真面目なガーツが見張りをしていないのは違和感の塊だった。


「……ヴィーダ、今日は私が先に見張りをしよう。寝てくれ」


 寝息も立てていない彼に慌ててかけたようなタオル、なんとなく状況を把握して、ルーナはガーツのことは突っ込まずに一緒に帰ってきた師匠へと、見張りの頃を伝える。ヴィーダも頷いて、それ以上言わずに少し離れた双子の近くへと陣取りに向かった。

 気をつかってのことだと、すぐに分かり、ルーナは彼を視線だけで見送ってから炎へと目を移動させた。


「ガーツ……起きてるか?」


 炎を見つめたままごく小さな声で横になっている相手に話しかけた。しかし、やはり返事はない。ルーナは横目でちらりとガーツを見る。ぴくりともしない様子に、もう一度口を開いた。


「さっきは……すまなかった」


 しかしやはり視界の片隅にある身体は一向に動く気配を見せない。寝ているのか判断はできないが、これ以上話しかけても返答はないだろうと確信した。だから、ルーナはため息一つ付き、火の番をするしかなかったのだ。







 夜のうちにヴィーダと交代して、眠っていたルーナが目を覚ますと、ガーツが起きて見張りをしていた。挨拶を交わして、まだはっきりしない頭を起こしながら、ルーナは手渡された荷物を受け取った。


「修行は終わり、後は実践あるのみだ。ソラとシドには先に準備させておいた」


 荷物をのそのそと背負うルーナに対して、ガーツは普段通り話しかけてくる。それに思わずきょとんっと目を丸くしてルーナは彼を見た。


「他の秘宝も探さなきゃいけないわけだし、ここを発とうと思うんだが、どうだ、ルー」


「あ、あぁ。そうだな」


 しかし、普段の表情で言葉を続け、なお自分に意見を求めてくる。けれど、一瞬目を逸らすのが早いようにも感じた。判別ができずに戸惑うルーナをよそに、自分の荷物を持ったソラとシドが、ルーナの横へとやってきた。


「おはよ、ルーねぇ! 今度どこ行くのぉ?」


「オレ達、絶対役に立つからどこでも平気だぜ!」


 ルーナの服を掴み、双子は口々に急かすように言葉を述べる。

 ルーナが双子の対応に追われている間にガーツは一人四人から距離を置いている師匠に向かってお辞儀をした。


「師匠、お世話になりました」


「ほっほ、なぁに。久しぶりに元気な弟子に会えたうえに、新しい弟子が三人も増えて楽しかったのぉ。これが終わったらまたおいで、楽しみにしておるよ」


「恩に来ます」


 ヴィーダは弟子のガーツに近寄ると、肩を叩いて見送りの台詞を送った。深々とガーツは頭を下げる。会話に気がついてルーナもヴィーダへと何か言おうと口を開く。


「ねぇ、ルーねぇ! デリィはぁ?」


「そういえば修行中見てない!」


 しかし、双子の声に阻まれてしまった。デリィという名前に一瞬誰のことかと思案する。すっかり忘れていたがそうだ、に白いドラゴンだ。そのことをルーナは思い出し、あわてて辺りを見回す。


「きゅーい、きゅい!」


 いきなり鳴き声が頭の上から降ってきて、全員が上を見上げる。すると飛んできた。というよりは落下してきた小さな白龍がルーナの顔に飛びつく。視界が遮られてあたふたと両手を振るルーナにデリィはがっしりと顔をホールドしている。


「デリィ、どこ行ってたんだよ~!」


「きゅーいきゅいきゅい!」


 シドが両手を広げて彼を呼ぶと、デリィはルーナを離して彼の腕の中へと飛び込む。ホールドから解放されたルーナはぜぇはぁと付かれきった様子で胸元を押さえていた。


「えー、狩りしてたのぉ? すっごいなぁ。いろんなとこ行ってたんだぁ」


 にこにこしながらシドが緩やかな口調でデリィと会話している。それを見守って、ルーナはほっと胸を撫で下ろした。そして改めてヴィーダの方へと向き直る。

 その時、カツンカツンっという何かを打ち鳴らす音が全員の耳に届いた。

 ルーナははっとした。その音がすぐにデリィが鳴らしたものだと気が付いたからだ。エルメス・タップを二回打ち鳴らすと、デリィの判断で数人が移動する。そういえば、ふらふらとどこかへ行ったデリィには、七星秘宝の使い方や、必要な時に使うタイミングなど誰が教えられようか。


「ちょっと待て、デリィ! まだ師匠にあいさ――……」


 しまった!っとルーナが口走った時には遅かった。ヴィーダの目の前から四人と一匹は姿を忽然と消していたのだ。

 残されたのはヴィーダ一人、誰も居なくなった場所を眺めて、一人小さく笑った。


「ほっほ、せっかちじゃのぉ。仲直りもせずに行ってしもうた……心配じゃが、ルー、頼んだぞ」


 空を見上げ一人ごちに呟く。

 七星秘宝を持つもの達は発ったのだ、仲間を集め宿敵を倒すために。師匠の役割は終わりとばかりに、老人も開けたその場所に背中を向けた。

 ただ、彼らの無事と弟子二人の仲直りを祈って。




第三章―秘宝の力と使い方― 完


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