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めいさく劇場 金の斧銀の斧

作者: まちゃ

 昔々、あるところに正直者な木こりがいました。

ある日のことです。木こりはいつものように泉の近くの森で木を切っていました。

この切った木を薪や木材にして街で売る。それが、木こりの生業でした。

トントントン、ドスン。どんどん木が倒されていきます。

そんな中、なかなか切り倒せない木がありました。

木こりは焦って、斧を握る手にさらに力を込めました。

その時です。木こりの手から斧がすぽっと抜け落ちそのまま近くの泉へと……


ボッチャン。


落ちてしまったのです。

この泉は思ったよりも深く、どんどんと斧の姿が見えなくなっていきました。


「ああ、どうしよう。この斧は父から受け継いだ大事な斧だというのに」


木こりは嘆きましたが、嘆いたところで斧がビューンと泉の底から戻ってくるはずなどないのは理の当然です。

いずれなくす運命だったんだ、と諦め木こりが泉から立ち去ろうとした時。

泉がまばゆく光り出し、ゆっくりと美しい女性が現れました。

きらきらと輝くブロンドの長い髪、白い肌、そして碧い瞳。思わず見惚れてしまいそうです。

しかし、木こりはといえば見惚れるよりも先にすっかり腰が抜けて目がまんまるになっていました。


「あ、あ、あ、あ、あ」


このあと「あなたは一体」と続くはずなのですが予想外の展開に木こりは続きの言葉が出てきません。


「大丈夫、恐がることはありませんよ。私はこの泉の精霊です」


ますます木こりの目が丸くなりました。

そんな木こりに、泉の精霊は言います。


「あなた、お困りのようですね。どうしたんですか?」

「はい、実は……この泉に斧を落としてしまったんです。

とても大事な斧で……でももう、泉の底まで落ちてしまったので……」

「木こりさん、私を誰だと思っているんですか?泉の精霊ですよ、泉の精霊。

ここに落としたものを探すことなんて、わけがないですよ……」


そういうと、泉の精霊はいったん泉の中へと引き上げていきました。

『物探しはわけがない』と本人は言っていましたが木こりは少し、不安げな表情です。

しばらくして、泉の精霊が先程と同じように現れました。


「ただ今戻りました。あなたの斧は……この斧ですね?」

そうして、懐から取り出し木こりに見せたのは昼間の空を明るく照らす、太陽のような金の斧でした。

一方の木こりは少し、残念そうな顔をしています。

「いえ、これではありません……」

「そうですか……」

再び、泉の精霊は泉の中へと戻りました。

そしてまたしばらくして、精霊が湖面に出てきました。

「今度こそ、大丈夫なはずです。あなたの斧は……これですね」

続いて、精霊が手に携えていたのは夜空に優しくきらめく月のような銀の斧でした。

また、がっかりしたように木こりは言います。

「それでもないです。私の斧は」

と、木こりが言い終えるよりも先に泉の精霊は泉の底へと消えて行きました。


はてさて、今度は先程よりも少しばかり時間がかかりました。


「あなたの斧は……」


泉の精霊はそういいながら、懐からどんどん斧を出していきます。


「このチタニウム合金の斧ですか?それともこのセラミックの斧ですか?

でなければ、このアルミの斧ですか?いやむしろこの銅の斧ですか?

というかこのステンレスの斧ですか?じゃなきゃこのジュラルミンの斧ですか?

それでもなければこのプラチナの斧ですか?違うならこの有田焼の斧ですか?それとも……」


彼女はどれだけこの変な斧を持っているのでしょうか。

ご丁寧にも、泉の精霊は斧を入れるためのケースまで首に下げています。

流石にしびれを切らした、木こりが大声で言いました。


「私の斧は!なんてこともない!鉄の!斧!です!!

この時代に存在するはずもない変な素材でできている奴じゃない!

ちゃんとした!斧!です!!」


ちょうどそのタイミングで、泉の精霊はその斧を懐から出していました。

金や銀のような輝きや謎の新素材のような不思議な光沢はありませんが、

木こりの仕事には十分ぴったりなしっかりとした斧が泉の精霊の手に握られています。

「……」

少しの間の後、泉の精霊は満面の笑みで言いました。

「あなたは正直者です。斧をお返ししましょう、今度は落とさないよう気を付けてくださいね」

そういって、泉の精霊は木こりの大事な斧を手渡しました。

「ありがとうございます!ありがとうございます!ああ、何度お礼を言えばいいか!」

木こりは嬉し泣きです。大事なものが手元に戻ってきた時ほど、うれしいことはありませんからね。


「正直のご褒美に、こちらの金の斧と銀の斧もどうぞ」


泉の精霊が指パッチンすると、木こりの足元に金の斧と銀の斧がそれぞれ一挺ずつ現れました。

「ああ、何とお礼を言えばいいのか!」

木こりは何度も何度も泉の精霊に頭を下げました。


しかし、これで話は終わりません。


「んじゃ、せっかくなんでこれらも!」

そう言って、泉の精霊は先程持ってきた大量の『変な素材でできた斧』が入ったケースをドスンと置きました。

「では、またいずれ……」

そう言って泉の精霊は泉の底へと帰って行きました。

一方の、木こりはといえば眼前に泉の精霊が現れたとき以上にぽかーんとしていました。


ところが、まだまだ話は終わりません。


ひらひらひら、と紙が1枚斧の山の上に落ちてきたのです。


紙を見ると、こんなことが書いてありました。


『請求書         木こり殿


斧捜索費     5000000×3 

斧買い取り費用  10000000×10 


計  1,15000000円也』


「おー、のー」


あまりの出来事にショックを受け、木こりは泡を吹いて昏倒しましたとさ。


教訓:正直者はバカを見る


めいさく劇場、もといめいわく劇場 金の斧銀の斧 終


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