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魔法と打率と日曜日

「エロエロエッサ、エムエムレイム!」

 呪文を唱える。魔法生物ミーちゃんと契約をしたワタシは魔法が使える。

 ニャー。

 地球上で最も警戒されない姿に変身した魔法生物は変身しているのだ。

「明日は私の魔法でホームランを打たせてあげるからね、恭介クン」

 私のダイスキな恭介クン。野球部の彼は最近スランプでまったく打てていない。だから私が打たせてアゲル。ガツンとイッパツ打たせてアゲル。

 窓からグラウンドを見ると恭介クンが打席に立っている。

そう今日は野球部の練習試合。そしてワタシはマジカル研究会。不言実行、粉骨砕身、石の上にも三年、魔法にまじめなワタシは休みも部室で研究作業。グラウンドにいる恭介クンのため、物体操作の魔法を修練習得。

「ツーアウトー!」

「あと一人あと一人!」

 相手から飛ぶ罵詈雑言。愛しの恭介クン大ピンチ。

 でも、ツーアウト満塁。

一打逆転サヨナラの大チャンス。スコアが見えるのも魔法力による視力強化のおかげ。

 ピッチャーがボールを投げる。ワタシはボールを操作して恭介クンのバットにぶつかるように調節した。刹那の魔法力の運用、しかも長距離での精密作業。私の精神が擦り切れる。

フルスイングした恭介クン。

 ――カキン!

 白球が曇天を切り裂くように飛んでいく。ホームランだ。響く歓声、阿鼻叫喚、ちょっと違うか。

「ふぅ……やった、術式成功」

 ワタシは小さくガッツポーズ。物体操作が成功したのと恭介クンの笑顔、どっちもワタシが作ったもの。私の大切なアイデンティティ。


翌日、月曜日。

「恭介、昨日の試合は大活躍だったな! 最近ダメダメだったのにこれで帳消しだ!」

 野球部キャプテン山田が恭介クンに肩を組ませて笑っている。

「るっせ! まぁあれが俺の実力だよ! フッフッフ!」

 恭介クンは可愛く笑う。あぁその笑顔、今すぐ私の物にしたい。ワタシが打たせてあげたことを伝えたら、恭介クンはワタシにベタ惚れハッピーエンドにならないかしら。

「いやぁ、でも本当に毎日素振り千回やったかいがあったよ」

 恭介クンが言う。

 イヤ、違うんだよ恭介クン。「私がボールを操作して打たせてアゲたんだよ」そう言ってしまいたい。でも恭介クンの笑顔を見ていると……どうしてだろう。ワタシは動くことができなかった。


 週末。

今日も野球部は練習試合。今日もワタシは自主魔法。自主魔法ってなんだろう。自分の思考が分からない。隠忍自重、謹厳実直、今日もワタシは恭介クンのために魔法のオ勉強。

「ツーアウト!」

「あと一人、あと一人!」

 窓から入ってくる大きな既視感。

 バッターボックスには恭介クン。構える姿がカッコイイ。

 ツーアウト満塁の現在の状況は、驚くほどに先週通り。

 ニャー。

 ミーちゃんの腹具合も先週通り。

「また、打たせてあげる」

 私は恭介クンのためにまた呪文を唱える。彼は自分の努力のおかげだと思ってたけど、ワタシがいなくちゃダメなの。

 ピッチャーが投げる。

 ワタシはまたボールを操作する。

 恭介クンはフルスイング。

 彼のバッティングに歓声が鳴り響――かない。

それもそのはず、彼のバットは空を切っていた。残念無念また来週。

「あー、失敗か」

 一人ごちる。私の魔法力は安定していないのだ。失敗することもあるのだ。

 壁に貼り付けた紙にバツを記す。マルが十個でバツが三十四個。私の魔法の成功回数。

「これで恭介クンの打率は三割を切っちゃったな」

 私の魔法の成功率も三割無いってことか。なぜ安定して魔法が使えないのだろう。


「昨日は打てなかったな、しっかりしてくれよ」

 野球部キャプテン山田が恭介クンの肩にアゴを乗せながら嫌味を言う。

「悪い、今度は打つからさ、また素振りも増やすつもりだし」

 にこやかに答える恭介クン。

 恭介クンは努力家だ。

 そんな彼を見ていると私は魔法を使わずにはいられない。

 恭介クンが素振りを増やすたびに、魔法の成功率は上がっていく。あぁ。これこそ愛の力、ラブパワー。

彼だけのためにしか魔法を使わない私、あぁ彼の努力を踏みにじる。

私はなんてワルイ魔法使いなんだろう。

「エロエロエッサ、エムエムレイム」

今日もワタシは魔法を使う。


チャンピオンロードのお題で書いてみました。

オチが弱いですね。

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