明日はくるよ。
白い白い壁。
繋げられた何十本のコード。
弱々しくて、ひとりじゃなにもできないあたし。
堅い堅いベッドに横になってた。
「ここは……びょういん?」
ひびきわたる声、右手に感じた違和感の先に……ナツホがいた。
ずっとずっと、ナツホが握ってくれていた右手。
あのとき、意識を失う直前に感じた手とおなじ。
寝息を立てながら、きれいな透明なしずくを流す彼女をとても愛おしいと思った。
「……ん………マ、リ………?」
握られていた右手は彼女の両手に包まれる。
良かった、良かった、そう笑いながら彼女は病院を走り回って、お医者さんらしき人を探す。
あのとき感じたあたしの身体を貫く痛みは、完全には消えない。
あたしの身体はもう、このコードの先にある透明で……涙が固まったような薬がなきゃ壊れてしまうんだ。
「田村さん?目が覚めました?いま、ご両親がこちらに向かっているそうよ」
ピンクの服に清潔そうな優しそうな声の持ち主は、あの薬のパックを取り替える。
ひとりじゃ何もできないあたし。
ひとりじゃ何もできない、邪魔なあたし。
「危ないところだったそうよ?油断はできないけれど、とりあえず一命は取り留めたようね」
「あの……ッ」
「ん?」
「あたしに明日はありますか?」
*
頭痛がひどい、吐き気がする。
お医者さんからは何も言われなかった。
ただ、目を逸らされた。
それを見たナツホはお医者さんの胸倉を掴んだけれど。
すぐに意味のないことだと分かって、泣き出した。
お母さんからは今の医学では治療法がない、と泣かれた。
お父さんからは心配するな、と慰められた。
……ああ、あたしは……一体何をしているんだろう。
看護婦さんに、明日はありますかと聞いたとき。
看護婦さんは黙って笑った。
それから、信じればくるわ。そう言った。
最初聞いたときは青臭いと思った。
だけど、ずっと考えていると。本当にその通りだと思う。
なみだなんか、苦しくて流れなくなるまえに流してしまえ。
いつだって笑って、えくぼが消えるまでずっと笑っていればいい。
だって、明日はくるんでしょ?




