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20年の思いをあなたに  作者: のん
希望が欲しかった、ただそれだけなのに
31/31

明日はくるよ。




白い白い壁。



繋げられた何十本のコード。



弱々しくて、ひとりじゃなにもできないあたし。



堅い堅いベッドに横になってた。




「ここは……びょういん?」




ひびきわたる声、右手に感じた違和感の先に……ナツホがいた。




ずっとずっと、ナツホが握ってくれていた右手。



あのとき、意識を失う直前に感じた手とおなじ。





寝息を立てながら、きれいな透明なしずくを流す彼女をとても愛おしいと思った。






「……ん………マ、リ………?」






握られていた右手は彼女の両手に包まれる。



良かった、良かった、そう笑いながら彼女は病院を走り回って、お医者さんらしき人を探す。







あのとき感じたあたしの身体を貫く痛みは、完全には消えない。





あたしの身体はもう、このコードの先にある透明で……涙が固まったような薬がなきゃ壊れてしまうんだ。







「田村さん?目が覚めました?いま、ご両親がこちらに向かっているそうよ」




ピンクの服に清潔そうな優しそうな声の持ち主は、あの薬のパックを取り替える。



ひとりじゃ何もできないあたし。



ひとりじゃ何もできない、邪魔なあたし。




「危ないところだったそうよ?油断はできないけれど、とりあえず一命は取り留めたようね」



「あの……ッ」



「ん?」



「あたしに明日はありますか?」





   *




頭痛がひどい、吐き気がする。



お医者さんからは何も言われなかった。



ただ、目を逸らされた。




それを見たナツホはお医者さんの胸倉を掴んだけれど。



すぐに意味のないことだと分かって、泣き出した。



お母さんからは今の医学では治療法がない、と泣かれた。



お父さんからは心配するな、と慰められた。






……ああ、あたしは……一体何をしているんだろう。





看護婦さんに、明日はありますかと聞いたとき。



看護婦さんは黙って笑った。



それから、信じればくるわ。そう言った。




最初聞いたときは青臭いと思った。




だけど、ずっと考えていると。本当にその通りだと思う。





なみだなんか、苦しくて流れなくなるまえに流してしまえ。



いつだって笑って、えくぼが消えるまでずっと笑っていればいい。




だって、明日はくるんでしょ?







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