知ってる。……だけど
今日も、何ら変わりなく通学する。
ただひとつ変わったことと言えば、この町に住んで10年以上経つのにひとりで通うことに慣れないことだけだ。
いつもよりも早く家を出て学校に向かう。
退屈な日でも、いちにち一日を楽しもうって決めたから。
どんなに辛くても、マサキとは関わらないし。もう泣かない。
決めたんだ。
*
「マリー!おはよ」
「ナツホ!おはよー」
「てかさ、宿題やった?あの数学意味わかんない」
「やったよ、教えよっか?」
「まじで?マリ神感謝」
「何それー」
笑いながらこの門を潜るのは、いつぶりだろう。
いつも通りに接してくれるナツホに支えられて、今のあたしがいる。
「あ、拓也!おはよ」
「おはよ、てか二人仲直りしたんじゃん。良かったね」
「ふふーん!ウチら親友だもん」
だけど、こうして3人集まるとやっぱり目で探してしまう。
馬鹿だね、決めたばっかなのに。
「で、マサキのこと考えてんでしょ」
拓也君の視線はあたしに向けられていて、動揺を隠させまいとする。
そんな彼のおでこに素早くデコピン咬ますナツホはもう笑ってない。
「拓也、放課後空いてる?
マサキ君抜きで話あるから」
「いいけど……、アイツなんかしたわけ?」
「いいから、後で話すし」
気づいたらチャイムは鳴り終わって、青い青春が始まろうとしてた。
*
「4人とも遅刻よー!
……てあれ?マサキ君は?休みかしら。
めったく喧嘩でもしてるのか」
サナサナ先生、サナ先生。
思わず本音が飛び出てます。注意しましょう。
マサキは勿論チキンではない。それは見た目からも性格からも分かる。
だから喧嘩が疑われるのはしょっちゅうの事。
だけど……その原因はいつも、あたしに関わってた。
あたしがからかわれた時、いじめられた時。
どれも全部、あたしが知らない所であとあと聞いた話で聞く話。
「そいえば、ショウ君もいないのよねー。
ズル休みかしら。学級崩壊ね、ニシシ」
サナサナ先生、サナ先生。
ニシシとは何でしょう。ショウ君はズルしません。
真っ直ぐな人です。
……ああ、こんなにもふたりのこと知ってるのに。
ほんとうのことは何も知らない。




