光を求めて
この物語は現代を生き抜く1人の少女が、実際に体験した事をフィクションとして、書いたものです。なかには少しグロテスクな描写などがあります。また心の病も描かれていきます。偏見のある方や、苦手な方などは閲覧をご遠慮ください。
始まりは何時だったんだろう…。気が付けば深い闇のなかに居た。沙由里は光を失って居た。生きる気力も、希望も全て失って居た。泣く事さえ忘れてしまった。悲しいはずなのに、苦しいはずなのに、気が付けば何時も笑っていた。人前では明るく振舞っていた。それが例え親の前であっても。
皆川沙由里はごく平凡な普通の女の子の様にみえた。4人姉弟の3番目で、姉が2人、弟1人。性格は明るくて元気。近所の人にはしっかりと挨拶し、家事の手伝いをする15歳の女の子。父親は幼い頃に亡くなった為、母親1人しかいなかったが、はたから見れば雰囲気が明るくごく普通の家庭に見えた。しかし、実際は全く真逆の悲惨な家庭だった。
彼女が小学生の頃にはもう始まっていたのかもしれない。彼女の記憶の断片には、母親への恐怖が植えつけられていた。甦ってくるのは「今すぐ殺してやろうか」「何でこんなこともできないんだ」「だからいじめられるんで」の三つのセリフ。沙由里の記憶には鬼の形相をした母の顔と、弟の前で見出る優しい母の顔、二つの顔だけが残っていた。それは今も変わらない。むしろ母が心の病に罹ってからは、鬼の形相が増えた気がする。あの日もそうだった。
ちょうど彼女が中学三年に上がる時期のことだった。二番目の姉が母の異変を察知し、精神科に受診させて、治療が開始された。母は一ヶ月間仕事を休み、休養しなければ死んでしまうそんなところまで行っていた。しばらくして、一人で病院に通えるようになった、そんなある日のことだった。彼女は自分の部屋を部活の忙しさもあって、掃除していなかった。病院に行こうとした母は、彼女の部屋に向かった。マンションに住んでいた為、構造上、彼女の部屋は玄関のすぐそばにあった。母は彼女の部屋を見るなり、表情を変えた。そして叱りだした。ここまでなら、どこにでもある家庭の風景にしか過ぎないが、その日はまったく違った。いきなり彼女に腹蹴りを食らわせ、持っていた鞄で罵倒しながらめちゃくちゃに殴り始めた。
「なんであんたはこんなんなの」
「なんでそんなに迷惑をかけるの」
「なんであんたは私をイライラさせる事ばかりするの」
「どうぢてそうわがままなの」
と、矢継ぎ早に言われ、殴られ、さらには
「お前が憎くて憎くて仕方が無い」
と、罵倒された。瞬間的に殺される、そう感じた彼女は、必死に洗面所まで逃げた。ところが、母に捕まり、また罵倒が始まった。
「だからあんたはいつもいじめられて・・・」
罵倒されているうちに、彼女の中で何かか崩れるような音がして、なおかつ意識が遠のいていくような感じがした。そこからの記憶は彼女には残っていなかった。気がつけば、母は病院に行った後で、彼女は血まみれだった。裁ちバサミでリストカットしていたのだ。そのとき、彼女の中で響いてたのは、「自分は悪い子なんだ、生まれちゃいけなかったんだ」という言葉だけだった。
その日から、彼女に本当の笑顔が消えた。そして、涙も消えた。作り笑いをするようになった。いい子でいるために、みんなに気づかれないようにするために。泣けなくなった代わりにリストカットを繰り返していった。ここから闇に沈んでいくのはそう早くなかった。転がり落ちていくビー玉のように。
気がつけば学校でも問題が生じるようになっていた。周りから浮くようになっていた。そんな中で唯一心を開いていけそうだったのは、担任のT先生だった。優しくて、綺麗で、人気者。憧れの存在だった。けれど、現実はそんなに優しくは無かった。
ある放課後のこと、掃除当番だった彼女は、泣いていた。それは、スクールカウンセラーから、精神科の受診を勧める手紙が来たからだった。前日から一睡もできていなかった彼女を思ってのことだった。
ただ、彼女にとっては恐怖でしかなかった。この手紙が届けば、母はまた半狂乱しながら「どうしてお前は・・・」と、恐怖の説教が待っているからだった。彼女は必死に、涙を止めようとしたが、恐怖だけには勝てなかった。すると担任のT先生は、
「なにないてんの。悲劇のヒロインじゃないんだから。馬鹿じゃないの」
と、冷たく言われた。その瞬間耳を疑った。T先生はさっきまで別の子が泣いているのを優しく慰めていたのに、彼女には理由一つ聞かずに怒鳴ってきたのだった。その瞬間に沙由里の心は凍りついた。そして、泣くのを我慢した。そして、大人を信じることを辞めた。結果的に後になって事情を聞かれ、話すことになったが、先生に対して心を開かずに話した。
そして、一年が過ぎ、高校に入り、相変わらずの作り笑いで友達もでき、高校生活を満喫していた。親にはいい子を演じながら、裏では援交やタバコなど非行に走っていた。高3になってからは、部活から開放されたこともあり、バイトも初め、さらに援交の人数も増えていった。おじさんに股を開き、好きなように挿れて、あたかも感じてるように見せては、お金をもらい。なんとなく友達と遊んだりした。とにかく荒れた。けれど、そんな彼女にも転機が訪れた。進学だった。彼女は将来看護師になりたい、という夢があった。なので看護専門学校に進学した。そこで3人の先生と出会い、沙由里はどんどん変わっていくのだった。