「ウザい、頭おかしい」とサレ妻の私を嘲笑った夫へ〜PTSDになるまで追い詰めてくれたお礼に、お望み通りの狂気(証拠と診断書)で破滅をプレゼントします〜
「ウザい、頭おかしい」とサレ妻の私を嘲笑った夫へ〜PTSDになるまで追い詰めてくれたお礼に、お望み通りの狂気(証拠と診断書)で破滅をプレゼントします〜
「また泣いてんの? マジでウザいんだけど。頭おかしいんじゃないの?」
リビングに響いた夫・直樹の冷え切った声に、私の喉の奥からひゅう、と情けない息が漏れた。
半年前、夫のスマホに届いた「昨日はホテルのベッドで幸せだった♡」という後輩社員・ユリからのメッセージを見て以来、私の世界は粉々に壊れた。
直樹は「一度きりの過ちだ、もう終わった」と口では言った。だが、スマホには肌身離さずロックをかけ、残業と称した外出は減らない。
疑いたくないのに、夫のスーツの匂いを嗅いでしまう。レシートを探して財布を開けてしまう。深夜、少し物音がしただけで心臓が激しく早鐘を打ち、過呼吸で洗面所の床にうずくまる。
そんな私を見て、直樹はため息をつき、周囲に言いふらした。
「うちの嫁、不倫の疑心暗鬼で完全にノイローゼなんだよ。スマホは見張るわ急に叫び出すわで、もう『あたおか(頭がおかしい)』すぎて無理」
義母までもが電話で私を責め立てた。
「男のちょっとした火遊びにいつまでもギャーギャー騒ぎ立てて、鬱陶しいわね。あなたがそんな情緒不安定だから、直樹が外に癒やしを求めるんじゃないの?」
裏切られたのは私なのに。
心が張り裂けそうな恐怖と戦っているだけなのに。
どうして私が「頭がおかしい異常者」として扱われなければならないのか。
――その夜、私は限界を迎えて倒れ、心療内科に駆け込んだ。
下された診断は、重度の急性ストレス反応、およびPTSD(心的外傷後ストレス障害)。
優しく話を聞いてくれた初老の医師は、カルテを見つめながら静かに言った。
「あなたが異常なのではありません。信じていた人に裏切られ、さらに脅かされ続ければ、人間の脳と心は防衛本能としてこうなるんです。あなたは壊れたのではなく、必死に耐えているだけですよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
涙が止まった。
狂っていたのは私じゃない。私を極限まで追い詰め、狂人扱いして安全圏から嘲笑っていたあの男たちだ。
頭が、すうっと氷のように冷えていくのを感じた。
それからの私は、夫のスマホを見るのを一切やめた。夜中に泣くのも、過呼吸になるのもピタリと止まった。
直樹は「やっと正気に戻ったか」と勝ち誇ったように鼻を鳴らし、再び堂々とユリとの密会を重ねるようになった。
――正気に戻ったのは確かだ。
ただし、それは「お前を地獄へ叩き落とすための正気」だけれど。
三ヶ月後。
直樹の三十歳の誕生日。リビングには、直樹の呼びかけで義両親と、直樹の「親しい同僚たち」――もちろん、愛人のユリも含めて集まっていた。
「いやあ、一時は嫁が『あたおか』になっちゃって参ったんだけどさ! 俺の寛大な包容力でようやく落ち着いてくれてさ〜」
酒が入り、上機嫌で武勇伝のように語る直樹に、義母が「本当に直樹はできた夫ねぇ」と相槌を打ち、ユリが「奥さん、情緒不安定で大変でしたね♡」と嘲笑を浮かべてワインを傾ける。
私は穏やかに微笑みながら、リビングの大型テレビの前に立った。
「皆様、今日は直樹さんの記念すべきお誕生日ですので、私から特別なプレゼントを用意いたしました」
「なんだよプレゼントって、サプライズ動画か?」
へらへらと笑う直樹。
私がリモコンの再生ボタンを押すと、画面いっぱいに映し出されたのは――
鮮明なラブホテルの出入り写真。
直樹とユリが交わした「嫁がマジでウザいから早く別れたい」「慰謝料一円も払わずに追い出してやる」という下劣なメッセージ履歴の数々。
そして、直樹がユリへのプレゼント代として横領していた会社の経費伝票の控えだった。
宴席の空気が、一瞬で消し飛んだ。
直樹のグラスが床に落ちて粉々に割れる。ユリの顔は土気色になり、義両親は口をパクパクと金魚のように開閉させた。
「な……な、なんだこれ……!? 消せ! 早く消せえええ!!」
狂乱してリモコンを奪おうとする直樹の前に、あらかじめ呼んでいた私の弁護士が立ちふさがった。
「落ち着いてください、直樹さん。また私が『頭がおかしい』せいで幻覚でも見せているとお思いですか?」
私は冷ややかに笑い、テーブルの上に二枚の書類を叩きつけた。
一枚は、医師が作成した詳細な診断書。「配偶者の不貞行為および精神的虐待による重度PTSD」と明確に記されている。
もう一枚は、離婚届と、慰謝料請求書。
「私が夜中に泣き叫び、貴方の行動を異常なまでに監視していたのは、貴方が植え付けた激しいトラウマのせいでした。それを『あたおか』『うざい』と笑い者にし、裏で不倫を継続していたこと、すべて精神的DVとして法的に立証済みです」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ咲良さん! 家族の恥をこんな人前で晒すなんて、やっぱりあなた頭がおかしいんじゃないの!?」
ヒステリックに叫ぶ義母に、私は冷たい視線を向けた。
「お義母様、ご安心ください。直樹さんの会社のコンプライアンス窓口と役員宛てにも、同じ資料一式を明日の朝一番で届くよう手配済みです。経費の横領も含まれていますので、お二人揃ってただの懲戒解雇では済まないでしょうね」
「ひっ……!」
ユリが短い悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
「さ、咲良、頼む! 悪かった、俺が悪かったから! やり直そう! 俺が悪かったんだよ!!」
直樹が床に這いつくばり、私の足元にすがりついて泣き叫ぶ。鼻水を垂らし、取り乱して喚くその姿は、かつて私を指さして嘲笑っていた男とは到底思えない無様さだった。
私はその手を容赦なく踏みつけ、冷ややかに見下ろした。
「自分の仕掛けた毒で苦しむ人間を『頭がおかしい』と嘲笑い、踏みにじった気分の味はどう? ……安心なさい。これから失う仕事と金と社会的信用で、今度はあなたが『頭がおかしくなるほどの絶望』を、一生味わう番よ」
荷物はすでにすべて運び出してある。
私は喚き散らす男と、青ざめて震える愛人と、頭を抱えて卒倒する義両親を残し、一度も振り返ることなくその家を出た。
夜の冷たい空気が、火照った頬に心地いい。
私の足取りは、半年ぶりに驚くほど軽かった。




