キスって、なぁに? ~1~
「なぁ、なぁ、どっかつれてってやぁ」
暇を持て余したユウリが、ハルトの後ろから声をかけてくる。
ユウリがハルトの部屋に来てから、三か月が過ぎていた。
頃は七月。快晴の青空はどこまでも澄んで、ユウリの好奇心を刺激する。
梅雨に入ってからは一日中家にいなければいけないことが多かったから、やっと晴れた今日、ユウリは朝からずっとワクワクしていた。なのに、もうお昼になろうというのに、朝からずっと家の事ばかりやっているハルトに痺れをきらしていた。
「なぁ、ってばぁ」
言うと同時に「ぐいっ」と腕を引っ張られたハルトが、バランスをくずしてしまう。
「あっ!」
ふたりの声が重なる。
おりしもハルトは、洗いたての洗濯物を両手に抱えてバルコニーに出ようとしていたところだった。せっかく綺麗にしたバスタオルやシーツが、ものの見事に足元に散らばってしまう。
「あぁ、もう」
ハルトのため息交じりのイラついた声音に、さすがのユウリも「しまった!」という表情でぱっと腕を離す。
ハルトだって、どっかに出かけたい気持ちはある。でも、梅雨時期に溜まってしまった洗濯物は山ほどあって、もう限界だった。それに、窓を開け放つことが出来ない雨の日は、掃除も適当になってしまっていた。だから、今日は朝から掃除と洗濯で、てんてこ舞いだった。それでも午前中には片してしまいたくて、ハルトなりに一生懸命頑張っているのに、いかんせん仔猫のように足元にじゃれつくユウリに邪魔ばっかされている。
「これで最後やったんに、やりなおさなあかんやないかい。邪魔すんなや」
なので、ハルトの言い方も雑になる。なのにユウリときたら、しゃがんで洗濯物を拾うハルトの目の前に同じようにしゃがみこんで、
「なぁ、やったら、俺、ひとりで出かけていい?」
なんて言い出すものだから、
「駄目に決まっとるやろ!」
とうとうキツーイ一喝が出てしまう。
ハルトの怒った声が苦手なユウリが「びくっ」と身体を退いて、しゅんと肩を落とす。
「なんでやねん。いいやん。ちょっとくらい……」
ぶつぶつと文句を言いながら、すごすごと部屋の隅に向かって、ちょこんと丸くなる。
部屋の角に背中をあずけて体育座りで小さくなっているユウリを見ると、かわいそうな気もするけれど仕方ない。ユウリは見た目はハルトと同じ年格好だけれど、まだ生まれて三ヶ月ちょっとしかたっていない。言わば生まれたての赤ちゃんと同じなのだ。ひとりでなんて、出せるわけがない。
もちろん、ちょっとした散歩ぐらいは大丈夫かもしれない、とも思っていた。でも、最初のうちは尾行するつもりでいるハルトだった。それは一歩間違えばストーカー行為だとトオルに言われているけれど、それでもいいと思っていた。
ストーカー上等!
だってハルトは、手がかかってしょうがないユウリが、可愛くて大事で心配でしょうがなかった。「もしもユウリになにかあったら」なんて、考えることもしたくないくらいに。




