初めての雪 ~3~
「雪、食いたいんやろ?」
「えっ?」
「本物の雪はな、外に降るもんやからバイキンがいっぱいやけど、これは平気なんよ」
言いながら、ユウリが手にした「しろくまくん」を受け取ってパカッと蓋を開けてやる。
「ぅわぁ……」
黄色やオレンジのフルーツに飾られたちっちゃな雪景色に、ユウリが感嘆の声をあげる。
「外の雪、まんまやん……」
うっとりと呟くユウリの目の前で、ハルトは薄い木のスプーンを使って、サク、サクッと崩すとユウリの口元に運んでやる。
「……食べて、ええのん?」
「食べてみ?」
言われるままに薄く開かれる唇の隙間に、そろりとスプーンを差し入れてやると、パッと両手で口元をおさえる。
「つめた、」
コクン。
「あまーい! 甘い! うっまーいっ!」
嬉しそうに繰り返すユウリに、自分で食べるようにとスプーンを渡せば、カウンター席に腰掛けてザクザクと不器用そうに雪を崩し始める。そして、とんでもなく良いことを思いついたとばかりに、クリンとハルトを見上げてくる。
「ハルト?」
甘く呼びかけて、
「はい」
満面の笑みで、ハルトがさっきユウリにやったように、スプーンをハルトの口元に差し出してくる。ビックリして目を瞠るハルトに、当然といった顔で言う。
「ハルトも食べてみ?」
その優しい手つきは、まるで「あーん」と言っているようで、高校生にもなって「あーん」なんてものすごく恥ずかしくて、ハルトの頬がカーッと熱くなる。
「ハぁルトぉー」
それでも、焦れたように呼ぶユウリに負けてそっと口を開けば、食べなれたはずのクマさんが、今まで食べたことがないくらい甘くとろける。
「美味いやろぉ」
得意げに言うユウリに、「俺が買って来たもんやで」なんて心で突っ込みつつ、現実のハルトはもう「こくこく」と頷くことしか出来なかった。なのにユウリときたら、
「やったら、もっと食べさせたるなぁ」
なんて言いながら、サクサクともう一度氷を崩し始めるものだから、
「ちょ、ユウリ、もう十分や。それは、ユウリに買ってきたんやから、おまえが食べぇ」
ハルトは逃げるようにカウンターを離れる。
「えぇ、そんなんあかん。俺ばっか食べとったら、ハルトに悪いやんかぁ」
不満げに言うユウリに背中を向けて、食材を整理するふりをしながらそわそわと視線を外すのに、ユウリはその視線を追いかけてくる。
「ハぁルト?」
「なんやの、もー」
甘えたように呼ぶユウリにこれ以上近づかれたら、何かがあふれてしまいそうだった。それが何なのかはわからないけれど、あふれたらきっと困ってしまう。だから仕方なく応えれば、
「今度いっしょに、屋上行こう。んで、ふたりで、これ、食べよう」
幸せそうに呟くから、
「寒かったんやないんかい?」
ちょっと意地悪く切り返せば、
「うん。やけどそれは、ひとりぼっちやったからや」
ユウリは思いもかけない答えを持ってきた。そして、
「ふたりやったら、きっと、ただただ綺麗なだけやったと思う」
そんなことを、小さく小さく呟いたのだった。




