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初めての雪 ~2~

 ハルトがスーパーから帰ると、すでに帰っていたユウリは小さな電気ヒーターに両足をくっつけて、暖をとっていた。「行儀が悪い」と叱れば「やって寒かったんやもん」なんて言う。

 ロボットのくせに、寒さに弱いなんてなんだか笑える。「こんなんいらん機能やないの?」と父に問えば、「人と暮らすんだから、人と同じ感覚がなきゃ困るでしょ」なんてもっともなことを言う。それでも、こんなに人間に近くては扱いが面倒になるんじゃないだろうかと、いらない心配までしてしまう。


 だってユウリは、すぐに拗ねてしまう。

 今だって、なにかが気に合わないらしく不機嫌になっている。横を向いたまま、ぶっきらぼうな応えしか返ってこない。

 多分、自分が部屋に戻って来た時に、誰もいなかったことが面白くなかったんだろうと察しは付くけれど、こういうときはほっとくに限るとばかりに、ハルトは買ってきた食材をカウンターの上に置いて、羽織っていたコートをハンガーに掛ける。すると、今までそっぽを向いていたユウリが、じーっとコートを見つめていた。

 コートから視線を外さないまま立ち上がったユウリがコートに近づいて、そうっと指先を伸ばす。コートの肩口に消え残っていた雪が気になったんだなとわかって黙って見ていると、指先で触れた雪の結晶はあっという間に溶けてしまって、ユウリが寂しそうな表情をする。


「どうやった? 屋上」

 しゅんと肩を落とすユウリに優しく問えば、

「真っ白で、……綺麗やったよ。ハルトも来ればよかったんに」

 残念そうに言って、ハルトを見つめる。そして、

「でもなぁ、めっちゃ寒かった」

 ハルトの首にすっと両手を伸ばして、ぎゅっと抱きついてくる。


 ドキンと、ハルトの鼓動が跳ねる。しがみつかれた肩や胸元に、小さく小さく熱が宿る。


「やけど、今はあったかい。ハルト、体温たかいんやなぁ」

 ちょうど同じくらいの背丈のユウリが、ハルトの肩にコトンと頭をのせて、ハルトの耳元で呟く。


 とかとかとかとか……。


 ハルトの心臓が、優しく逸る。けれど、腕の中のユウリは外から帰ったばかりのハルトを、ふんわりと温めてくれる。冷えた頬や指先が、ゆっくりと(ぬく)もっていく。

「あっ、そうや。ハルトは、どこ行ってたん?」

 ほんわかぁと気持ちよくなっていたハルトだったけれど、仔猫の目のようにくるくると気分を変えてしまうユウリの興味はすでにハルトを離れ、買って来たばかりのビニール袋に移っている。良いように手玉に取られている気がしないでもないけれど、それでも、かさこそと真剣な眼をしてビニール袋の中を覗いているユウリに優しく応える。


「買い物やよ。昼と、夜のぶん。今日はおまえも食うか?」

 食べられると知ったから。一人の食卓は、どうにも寂しいものがあるから。

「えっ?」

 もしかしたら、ユウリにとってその一言は待ちに待ったものだったのかもしれない。驚いて振り向いた顔が、なんとも嬉しそうに弾けた。

「俺、俺……、一緒にテーブル座って良いん? ヒューマノイドなのに、一緒にご飯食べて良いん?」

 栄養にならない食事は、ただの無駄にしかならない。だから、ヒューマノイドが食事するなんて、一般常識からはかけ離れている。でも、ユウリは雪を「あまそう」だと言った。きっとそれなりに味覚もあって、食事は楽しいものになるに違いない。


「ええよ。その代り、食事作るときは、手伝ってや」

「やる! やるッ! 俺、絶対ひとりで作れるようになって、ハルトにめっちゃ美味(うま)いもん食わせたる!」

 ハルトが忙しいときは、俺、後片付けまで、全部やったるよ! わぁ、楽しみやぁ。なぁなぁ、もう、昼飯時(ひるめしどき)やん。何つくるん? はよ準備せな!


 興奮して喋りまくるユウリの声が、ビニール袋の中でハタと止まった。

「あれ? これ、何なん?」

 がさごそと、ビニールの奥の方から取り出したのは白い小さなカップ。

「なんや……? 雪に、似とる……」

 ユウリが手にしたのは、真っ白な「しろくまくん」だった。

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