出会い ~4~
そんなことを思い返してちょっと拗ねてしまっているハルトの前に、またもや「ロボット」らしき物が置かれたのだから不機嫌になって当然だった。
「そんな顔しないで、まずはちょっと、見てくださいよ」
不満も口に出来ずにむーっと唇を尖らせるハルトの前で、父はいそいそと箱の蓋を開ける。
―― ドラキュラが出てきそうな箱やんなぁ……。
白い「お棺」はちょっと古風なデザインで、縁の部分が金色に装飾されている。これで色が黒だったら、まんまオカルト映画の備品になるだろう。
けれど、そんなハルトの頭の中を知る由もない父は、幾重にも包まれた白い布を丁寧に開きながら、
「これは、今までの試作品とは違いますよ。なんてったって、最先端のヒューマノイドなんですから」
なんて、うきうきとした声で言う。
ロボット工学にはまったく興味のないハルトでも、ヒューマノイドがアンドロイドに比べてより人間に近い存在だということぐらいは知っていた。でも、「そんなん言っても、大差ないやろ」なんて斜に構えていたハルトだったけれど、ぴらりと最後の一枚がめくられた瞬間、ハルトの身体は「ずいっ」と前のめりになっていた。
「生活に必要な最低限の事はインプット済みですから、安心してくださいね」
シミひとつない乳白色の肌、すっと通った鼻筋、あどけなく開いた小さめの唇はふっくらと桜桃色に染まっている。身長が自分と同じくらいだから、年齢はハルトとだいたい同じ設定なんだろうと思う。けれど、ちょっと長めの前髪からのぞく広いおでこが、なんとも幼い印象をハルトに持たせる。
「名前はユウリ。可愛い名前でしょう?」
「これ、ほんまに、ロボットなん?」
「そうですよ。すごいでしょう?」
自作を褒められてご満悦な父を無視して、ハルトがそぉっと眠るヒューマノイドの頬に触れる。ふんわりと柔らかな感触と微かなぬくもりは、まるで人間そのものだった。まぁ、こんなふうに、誰かの頬に触れた経験はハルトにはないわけだから、一概には言えないけれど。
「この子に必要なのは、あとは実体験だけなんですけど、私たちと一緒にいたら若年寄みたいになっちゃいますからね。同い年のハルトに育ててもらうのが一番良いと思ったんですよ」
「育てる?」
「そう。経験値ゼロですから、ちょっとしたミスや誤作動があるかもしれないんですけど……、面倒みて頂けますか?」
最初はプレゼントなんて言ってたくせに、ちょっと雲行きが怪しい。そう言えばさっきも、どさくさに紛れて「試作品」なんて、一番聞きたくない一言が聞こえたような気がした。
「試作品とは違うって、言わんかった?」
「う~ん、ほぼ、ほぼ、完成なんですけど……、ね?」
ねっ? 「ねっ」ってなんやねん!
「まっ、でも、一緒に生活しているうちに、すぐに馴染んできますよ。順応性は高いし、覚えも早いですから」
そりゃぁ、機械なんやから、覚えは良いに決まってるやろう!
「とりあえず、一か月。その時メンテナンスも兼ねて迎えに来ますから、それまでだけでも、お願い出来ませんか?」
プレゼントやないんかい?
心の中だけで暴れる文句は、当然、父には届かない。
それでも、
……もう、聞くまい。
最終的には、そんな諦めの言葉が浮かんだ。
どうやら父の目的は、このヒューマノイドの生活データなんだろうと察しがついた。そのことに不満がないわけじゃないけれど、ハルトは口を噤んだ。
だって、ちょっと中性的で、端正な顔立ちのユウリを、ハルトは一目で気に入ってしまっていたから……。
最初の出会いは、部屋が朱鷺色に染まる夕まぐれ。
父が、ユウリの背中に手を添えてそっと抱き起こした後、目の前にハルトを座らせて初めてスイッチが入れられた。
静かな部屋に、パチンと響く機械音。ゆっくりと桃色の瞼が開いて、ユウリはうっすらと碧がかった瞳でじっとハルトを見つめた。さらっさらな亜麻色の髪がちょこんと傾げた頬に揺れて、ユウリのまわりがぽぅっと金色に包まれたように明るくなった。
―― おまえが、俺のパートナーになるんやな ――
インプリントは正確に、滞りなく行われた。




