表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/51

新しいスイッチ ~5~

 誰もいない処置室で、ハルトは眠り続けるユウリをじっと見つめていた。


 ユウリと初めて「キス」した時、それはもちろんドキドキして、これから先どうしたらいいんだろうと本気で悩んだ。けれど今は、その時とはちょっと違っている。

 今、ふたりにとって「キス」は、特別なものではなくなっていた。

 もちろん、ちょんと触れるだけの、挨拶の域を出ないかる~いキスだ。でもそれが、ハルトの心にふわふわと降り積もって、時々思いっきり抱きしめたくなってしまう。実際何度か、抱きしめてしまったことも、あったけれど……。

 でも、だからと言って、ユウリとこれから恋人同士になりたいのかと問われたら素直に「うん」とは言えない。仮に、セクスレスのユウリが女性になったとしても、この気持ちは変わらないような気がする。


 自分はいったい、ユウリに何を求めているんだろう?


 そこまで考えて、ふぅっと息を吐きだしたとき、ベッドに横たわったユウリの瞼がぴくりと動いた。

「ユウリ」

 呼びかけると、静かに瞼が開く。磨かれた翠玉(すいぎょく)の瞳が、ハルトを見つめる。

 一時前の無機質な鏡とは全く違う、深く澄んだ瞳がハルトをとらえ、じんわりと滲んでいく。

「……ハルト」

「……うん」

 応えると、ユウリの顔がくしゃりとゆがむ。

「ハルト、……ごめんなぁ」

 ズキンと、ハルトの胸が痛む。今にも泣きそうなユウリの手を握って、その場に膝をついてユウリの瞳を見つめる。


「なんで、謝るん?」

「やって、俺……、目、さめてもうたやん?」

 すっとそらされる瞳が、涙で潤んでいる。

「ハルトは、俺のこと、もう「いらん」言うたんに、俺……」

「ユウリ」

 ユウリの言葉をさえぎって静かに呼びかけると、濡れた瞳がハルトを映す。

「ごめん。俺が悪かった。言い過ぎた」

 こくんと、ユウリの喉がなる。


「人はな、思ってもいないことを口にすることもあるんよ。本気やなくても、頭にきて、言ったらあかんことまで、言ってしまうことがあんねん。それを、俺はユウリに教えとかんかった。ごめんな」

 全ての言葉を直接受け容れることしかできないユウリに、言うべき言葉ではなかった。


「……ごめんな。「行ってまえ」なんて嘘や。ただ、なんかむかついてたんよ」

「なんに?」

「……おまえが、トオルとキスなんかするからや」

 すると「ぁっ」と小さく声をあげて、ユウリがすっと視線を逸らした。悪いことをした自覚はあるのかと、そっと問いかけてみる。


「なんで、あんなこと、したん?」

 ハルトの優しい声音にちろりと視線を向けて、ユウリが話しだす。

「……怖くなったんよ。ハルトが……」

「は?」


 それは本当に、想像もしていない言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ