新しいスイッチ ~2~
ユウリの「とんでもキス事件」翌日。
しれーっとした空気が漂う寒々しい夜を超えて目覚めた朝、もやもやと晴れない気分のハルトとは裏腹に、空は綺麗に晴れ渡っている。
洗濯籠を持ってベランダに出たハルトは、罪のない晴天が恨めしく思えるほど落ち込んでいた。「はぁ」と大きく息を吐き出して、やる気のなさそうな手つきで洗濯物を干し始める。するとベランダの硝子戸がからからと開いて、寝ぼけ眼のユウリが顔を出した。
「ハルトぉ、俺の枕カバーも洗ってぇ」
「干す段階で言われても、遅いっちゅーねん」
思わず、あからさまに不機嫌な声で、ぶっきらぼうに言ってしまう。
コントロールしきれない自分に苛つきながらも、ひとつ大きく深呼吸して振り返る。視線の先には、所在なさげにたたずむユウリがいる。ユウリは黙ったまま申し訳なさそうに、じーっとハルトを見つめている。
少し潤んだ碧の瞳に、心が動かされてしまうのはいつものことだった。
「しゃあないな。今回だけやで」
「うん。堪忍な。次はちゃんと、前の日に言うようにする」
すると、ユウリが珍しく素直にそんなことを言うものだから、ハルトの胸がチリッと痛む。それは多分、冷たい態度をとってしまったことへの罪悪感。もとはと言えばユウリのせい、なのだけれど、ユウリにその自覚はきっとない。それはもちろん、「キス」の本当の意味を教えていないハルトのせいであって、まわりまわったボールはハルトの頭にカーンと当たって、ぽんぽんと弾んで消える。
そう、すべては「キス」の意味をあいまいなままにしてしまった、自分のせい。
そう言い聞かせて、干しかけていた洗濯物に手を伸ばす。その視界の端に、一向に立ち去る気配のないユウリが映って、ハルトが問いかける。
「どぉしたん?」
「……俺、起きたんやで」
ぽそりと呟くユウリに、「あぁ、そやな」と応えて、ハンガー片手に洗濯物を干す作業を続ける。すると、
「なぁ、ハルト。俺、起きた」
その手を止めようとするようにユウリが言うものだから、ハルトはため息してしまう。
そんな「起きた起きた」と繰り返されても、「そうだね。起きたね」くらいしか応えようがないではないかと、抑えたはずのイライラが復活してしまう。というか、そもそも睡眠なんて必要ないくせに、お昼近くまでベッドにいるようなだらしなさは、ちょっと許せない。




