トオルの受難 ~7~
「ほなら、今度、試してみ」
きょとんと見上げてくるユウリに、にっこりと笑って続ける。
「ぎゅーってされたら、ユウリもぎゅーってしてみ?」
それはかなり面白い思いつきだった。
「でな、ハルトの耳元で、「もう一回、して」って、そーっと、言うてみ?」
動揺しまくるハルトがありありと目に浮かんで、今度はトオルがにやけてしまう。
「もう一回?」
「うん。そーっとやで。内緒話するみたいに、耳元で、そーっと言うんよ」
ここが肝心とばかりに念押しするトオルを、ユウリが不思議そうに見上げてくる。
「……したら、どうなるん?」
「多分、ハルト、喜ぶんちゃうかな?」
「ほんまに?」
「うん」
「やったら俺、試してみる!」
ユウリが、ずいぶんと真剣な表情で言う。
「俺な、ハルトのこと喜ばせたいって、いっつも思うんやけど、上手いこといかへんねん。でも、それやったら、俺にも出来そうやもん」
―― ユウリにしか、出来へんよ。
心で呟いて、トオルが頷く。
「なら試してみ。んで今度、結果教えて」
「うん。わかった。ありがとな、トオル」
嬉しそうにうなずいて、ユウリが部屋を出ていく。
誰もいなくなった書庫部屋で、トオルがくすくすと笑う。
きっとハルトは、喜ぶどころのさわぎじゃないだろう。突然のことに目を白黒させて、ひとりもんもんと悩むに違いない。
でも、それくらい、当然の罰だとトオルは思う。
陰に隠れてこそこそと、何も知らないユウリに「キス」なんて教えて、あまつさえそれがハルト専用だなんて、聞かされるこっちの身にもなってみろ! なんて腹立たしくなる。
……でも、
―― ……ユウリも、ハルトのこと、めっちゃ好きなんやなぁ……
なんてことも、思ってしまう。
これがインプリンティングというものなんだと理解しながら、時々、ほんとうにたまーにだけど、苛めたくなってしまうトオルだった。
だって、あんなに仲良くされると、ちょっと寂しい。
もともとロボットが好きなのは自分の方だし、ハルトとの付き合いだって自分の方が長い。だからトオルはハルトとユウリ、両方共に妬けてしまうという面倒くさいことになってしまっていた。
それでも、ふたりのことが好きなことに変わりはない。だから、とりあえずは気長に見守ることに決めて、トオルはマンションを後にした。今度来る日を、楽しみにしながら。




