表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/24

トオルの受難 ~5~

「人間の赤ちゃんてな、お母さんのお腹ん中で、ずっと水につかってるんよ」

「知っとる! 羊水(ようすい)って言うんやろ?」

「正解。そっ、だから人間は、水ん中で育つんよ」


 きときとと磨かれる瞳が、陽光に透けてきらきらと翠に煌めく。

 それは本当に綺麗で、ユウリが明らかに人ではないものだと見せつけるような美しさだった。けれど、

「やからな、人間はな、水がたくさんの風景は、それだけで懐かしいような気持ちになるんよ。きっと、生まれる前のこと思い出すんやろ」

 トオルはユウリに、多分ユウリが喜ぶだろう一言を告げる。

「ユウリが、海を懐かしいって思うのは、そういうことなんやないの?」


 すると、トオルの思惑とは裏腹に、ユウリは急に覚束(おぼつか)ないような表情になって、

「……でも俺、ママさん、おらんし、……腹ん中から出てきたわけやないで」

 寂しそうに言うから、

「でも、海見ると、懐かしい思うんやろ?」

「うん」

「やったらそれは、「生れる」って感覚が、機械も人間も同じってことなんやないの?」

 と、まだ少し心配そうなユウリに笑ってつけたした。


「そういうことに、なんのかなぁ?」

 うかがうように問いかけるユウリに、トオルが深く頷く。

「うん。きっとそうだよ」

 そこで初めてユウリが、安心したようにほんわりと笑った。


「ま、この写真の中に行くのは難儀(なんぎ)かもやけど、なにも此処行かんでも、綺麗な海は日本にもいっぱいあるよ」

「ほんま?」

「うん。今度ハルトに言ってみ。きっと連れてってくれるよ」

 なんの気なしに言ったトオルに、ユウリはちょっと心配そうな顔をする。

「なん? まだ機嫌直っとらんの?」

「そういうんやなくて……」

 また少し迷うような素振(そぶ)りのあとじーっと、それはそれは真剣な表情でトオルを見る。


「あんなぁ、「キス」って言う挨拶、トオル知っとる?」

「はぁっ?」

 あまりの唐突(とうとつ)さに、トオルが絶句する。


「トオルは、「キス」、誰かとしてるん?」

 けれど、たどたどしく問いかけるユウリはなんだか心細げで、茶化(ちゃか)すことも出来なくて真面目に問い返す。

「なんで、そんなこと聞くん?」

 目の前に膝をついて座るユウリが、視線を泳がせながら応える。


「あんな、なんか変なんよ。トオル、ロボットのことくわしいんやろ?」

「いや、そんなくわしいわけや、ないけど」

 自信無さげに言うトオルに、ユウリがぐいっと身を乗り出してくる。

「あんな、「キス」って、なんか変やないか?」

「変って……、どんなふうに?」

「挨拶なん、あれ? どっか壊れるんちゃうの?」

「は?」


「最初はな、俺も「キス」好きやってんけど……、最近、ハルトがおかしいねん」

 おかしい? ハルトが?

「ちょんって、さわるだけやなくて、なんや? ぎゅーってしてくんねん」

 ぎゅーっ? ハルトが?

「俺、そうされると、なんか、かーって頭とか身体とか熱くなるん。熱くなってな、ぼーっとなるん。やから、俺、ショートしてまうんやないかって、怖くなるんよ」


 ちゃんと聞いてやろうと身構(みがま)えたものの、トオルは頭の中がぐるんぐるんしてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ